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トーゴ 遺跡調査


──────────────


さらっと爆弾発言されて、出会った頃のことが走馬灯のように思い出されては消えて行くトーゴ。


 待て待て待て。マジか。アソラルとパーティー組んだのっていつだっけ?

えーっと思い出せ俺。

Bランクになって暫くしてだった気がする。

たしか遺跡調査の依頼で、複数の冒険者たちと合同で行った時に初めて会ったんだ。

拠点が同じこともあって、それぞれのパーティーの中に顔見知りが一人か二人はいた。

そんな中で、唯一ソロがいて見たことのないヤツがいた。それがアソラルだった。

拠点を一ヶ所にとどめず世界を回っているのだとか。


興味津々。周囲の警戒も忘れてアソラルの横に並び歩く。

トーゴの困った癖が発動。深く興味を惹かれるモノに出会うと周りが見えなくなってしまう。



「へえ、世界ねぇ。全部の国を行ったのか?」



「いえ、大山脈の向こう側へは行く気がないので、この大陸で行ってないのは聖域周辺の国ですね。」



この世界では3つの大陸があり、聖域のある大陸と中央大陸と呼び、西にある大陸は西大陸、南にある大陸は南大陸と、そのまま簡単に呼んでいる。

造船技術が発達し、航路が増え始めた頃に呼んでいた仮称がそのまま大陸名になったのだ。

大陸を発見した人が、大陸名をつけるという発想がなかったのだろう。

 この二つの大陸が発見されてから、この世界の中心にあるのが聖域という認識から、中央大陸と呼ぶようになった。

大小さまざまな島もあり、国もあるとは聞いていたが感心などなかった。



「大山脈の向こうって魔物だらけの大地だろ?行きたい奴なんて頭がお菓子で出来てるか、めちゃくちゃ強い脳筋なヤツじゃね」



依頼を出した領主が3台も荷馬車を用意してくれて、十分な荷物を積むことができ楽に移動できて快適だ。

アソラルが行った国々のことを全部聞き出す勢いで質問攻めにしているトーゴ。

周囲にいる冒険者も気になっているので、警戒を忘れて話に没頭するトーゴを誰も咎めない。



 冒険者が拠点を変えることはあるがそれでも国々を変えていくことは珍しい。

遠く島国にも行ったというアソラルの話は、珍しく面白く、酒の肴になる。そう、本音をいえば酒を飲みながら聞きたい!

そこだけが残念に思うトーゴなのだが、夜まで待てない。しかも行き先は平原だし。酒は持ってるけど酒盛りを楽しむことはできない。だから聞いちゃう。町へ帰るまで我慢ムリ!


アソラルの身なりは異国情緒あふれ、それだけで遠い国から来たのだと分かる。もう、めちゃくちゃ興味がわいて止まらない。

服の作りはこちらとあまり変わらないが、シャツの丈は長く膝上まであり、その生地には細かな模様が染め抜かれている。

そのカラフルな色使い。腰にあるベルトは細い紐同士を幾つも組み、一本のベルトに仕上げている。



「その服ってどこの国のなんだ?」



「シルクムという島国ですね。雨季と乾季の国です。約300年間戦争をしていない平和な国で、そのため文化は栄え、このような手の込んだ服も国民たちの普段着です。」



「これが普段着! ステキね、シルクムって初めて聞いたわ。こっちの国々と貿易はしていないのかしら?その服欲しいわ」



「それって男性用よね?女性用の服はどんな感じになるの?」



 話に入ってきたのは女性陣。パーティーは違っても、女性は女性。ほぼすべての女性冒険者が、その服装が気になっていたらしい。

キャッキャと異国のおしゃれ事情に花が咲く。

女性陣の勢いに押されちょっと後退りしてるアソラル。

並んで歩いていたトーゴは弾き出され、こうなると俺たちは黙っているしかない。

冒険者でホコリまみれになろうともオシャレ大好きさんはいるんだ。

うちのメンバーの一人もそう。

以前、いつおしゃれするんだ?って言ったら表情が消えてコワかった。

一方で興味のない女性もいるみたいだけど。

まあ、頑張れアソラル。

見晴らしのいい平原だがここは魔獣はでる。

警戒は俺達がやっておくさ。






 平原に見つかった遺跡は、入口が半分ほど地中に埋まっている状態だった。

領主が周辺の村から人を雇い、土を掘り起こし、地下へ続くがあることが確認できた。

あとは領主が冒険者を雇い調べるだけ。一人の村人が自分の村へ帰る途中、遺跡の入口と同じ模様を付けた大きな石を見つけたのをきっかけに、数キロの範囲で複数の遺跡の入口と思われる模様が彫られた石柱や石垣が7か所でみつかった。

計8つの遺跡はどれも土に埋もれたり、低木に絡まっていたりと、遺跡を意識していなければ見逃してしまうほど見えずらい状態だった。


それらをすべて掘り起こすと、空洞が現れやはり入口であった。

遺跡に詳しい冒険者に依頼したが、彼らが言うには、これら8つの入口が地下で繋がり一つの遺跡である可能性が高いと結論を出したため、急遽、冒険者を多数集め調査を行うことになった。



集められた冒険者は4パーティーとソロのアソラル。

初めに依頼されたパーティーの6人の他は、12人のパーティーと、トーゴたち4人のパーティーと、5人のパーティ。


優れたパーティーだと、周囲から勝手にパーティー名を付けられてしまうことがあるが、この場にはそんな有名なパーティーはいない。

自分達で付ける場合もあるがここにはいなかった。

ただ、今回は呼ぶのに面倒なので。



「よし、面倒だからパーティーメンバーがそのまま調査チームとして、チーム名はそのパーティーのリーダーの名前な!」



初めに依頼された冒険者の誰かが言った。

異論はなく、リーダーだけがチーム名としてサクッと紹介。


 チームリオ。6人。

遺跡には詳しい。領主の依頼でこの調査の指揮をとらせてもらう。


 チームべギ。12人。

俺たちが一番多い、場合によっては二手に分かれてもいい。


 チームゾレス。4人。

斥候能力に長けたのがウチにいるからこき使ってくれ。


 チームシュナ。5人。

遺跡調査は初めてなので指揮をとるチームリオに従うわ。なんでも言ってね。

女たちだけのパーティーだと思て舐めないでよ。


 チームアソラル?

ソロなのでチームではありません。




最初に見つけた遺跡の入口を1として時計回りに8までの番号で呼ぶことにし、一通り全員で遺跡を見て今は1の遺跡入口周辺で野営の準備をしている。

リーダーたちが遺跡の入口前で話をしている間に他のパーティーメンバーは黙々と準備を整えていく。

ソロのアソラルは野営の準備も出来ず、リーダー達と話をしている。


一人だとこういう時に大変だなー。

こっちが終わったら手伝ってやるか。


薪になりそうな低木の枯れ木を集めながら、俺は絶対ソロ無理だわ。どうでもいい事を確信して一人頷くトーゴ。

軽く偵察に行ったヤツが魔素が多いと言っていた。

調査に数日かかるのは分かっていたが、さらに長期の可能性もある。

こんなんをソロで参加ってすげー自信あんのかな。

協力し合う仲間がいないと厳しいと思うぞ。

大丈夫か?


ちょっとお節介が沸きあがってくるトーゴ。

やりすぎて怒られることもあるのに・・・・なのに懲りずにアソラルに構ってしまいそうな気配を出し始める。




うーん、遺跡調査って初めてだから興味本位で受けたけど、魔素が濃いと強そうな魔獣がいるよな。俺達で片付けられる程度でありますように。

アソラルから感じる魔力がすごいからきっと魔法得意だよな、治癒魔法使えるか聞いておこう。

俺んとこはポーション頼りだからなー。

補充が出来ないから節約したい。






「とにかく分かれ道が多いんだよ。どうも網の目のように道が繋がっているようなんだが、死角も多く魔素も濃い。とても広い道へ出たんだが、元は部屋だったような、空洞を壁で仕切ったようなのが並んでいる場所があった。視界が悪く奥へ行くのは危険と判断して引き返してきた」



チームリオのダグが斥候として入って持って帰ってきた情報だ。

中の様子を話すが、顔色が悪い。入口付近から少し進むと途端に魔素が濃くなるという。極端な変化に警告を鳴らす。



「こんな遺跡は初めてだな。分かれ道をチーム別に調査しよう。ただし入口周辺にも人を置きたい。一度の調査時間を短くして、一日でに数回の調査をしよう。戻って互いの情報を交換。徐々に調査範囲を広げようと思う。発見や危険があればすぐに撤退。情報を皆に伝えるのを最優先で。ほかに何かあるか?」



リオが調査方法を決め、他のリーダーたちに意見を求める。

特に異論はなくリオの決めた通りに進めることを確認したのだが、ここでアソラルが情報を一つ。



「異論はありません、ただ、8つの入口の石に彫られた模様に見覚えがあります。全く同じ模様を施した遺跡を2つ知っていますが、どちらも複数の入口があり、地下2階~3階はある広い遺跡でした」



「同じような遺跡に入った事があるのか!?では、この1から8の遺跡は一つなのだな?」



一つの遺跡だろうと予想は立てていたがアソラルの情報でほぼ決定だ。

しかし地下2階3階があるとは・・・



「2階~3階って、どちらかが地下2階でどちらかが地下3階ってことか?」



「いえ、両方ともです。どちらも広範囲で崩れている場所が多々あり、土を掘り起こすと地下階がありました。ですが地図を完成させる前に撤退し入口を塞ぎました。もう一つの遺跡は地下水が流れ、長い年月をかけて土を抉りハッキリと判別できない状態でした。ムリに掘っても崩落の危険がありましたので。確実なのはどちらも地下2階があった事。3階もあったが探査を断念しなければならなかった事。強い魔獣がいました。単体なら勝てたのですが数が多すぎて」



「・・・・・最後の情報は嬉しくないな。多かったのか」



ベギが嫌な顔をする。

彼のチームは、レベルが少々低い者もいる。実力が離れすぎている訳ではないから、遺跡調査に参加しても大丈夫と判断した。

だが、魔獣が多すぎるなら中へは連れていけない。



「二つには共通点がありました。この遺跡に入ってもし同じ共通点があるのなら少しは案内が出来るかも知れません。が、夢はないと思ったほうがいいかと」



「お宝は無しって?」



「ありませんでしたね。ですが魔獣からはいい素材がたくさん取れますよ。貴重な素材がとれる魔獣が多かったので」



「貴重って、こっちが死んじゃうくらい強い魔獣なんて会いたくないわ」



貴重な素材なんてどれも強力な魔獣がドロップするもの。強すぎて戦いたくない。

単体なら勝てるが、魔素が濃いなら複数で襲われる可能性もある。

シュナはそんな状況にならないよう絶対に避けて通るのだが、今回は指揮をとるリオの指示に従うしかない。

ここでゴネても信用を失うだけ。

時に大規模な討伐など多くの冒険者と行動を共にすることがあるが、信用がなければ参加が認められないこともある。互いの命を預けるのだから当然そうなる。



「私が入った遺跡と同じレベルの魔獣だけなら、ここにいる冒険者は皆さん強いので気を抜かなけれは大丈夫でしょう。冒険者Bランク以上が多い」



アソラルの言葉に過少も過大もない。

強さを窺うのは冒険者の癖のようなもの。

誰もそれに嫌な顔をすることは無い。

お互い様なのだから。


アソラルが知る遺跡は蜘蛛の巣状に広がるタイプと長方形に長く続くタイプ。

形状は違うが、複数の入口を持ち、中にも共通の特徴があると言う事。

まずはこの遺跡がどちらなのか調べることになった。



先ほどは斥候一人だったが、もう一度、斥候を増やして行ってもらうことにした。

深入りはしないが分かれ道の情報をより多く持って帰ってもらうためだ


斥候は4人。

先ほどのチームリオのダグと、チームゾレスのトーゴ、チームベギのジアンが行くことに。

そしてアソラルも行く。






遺跡の中へ行くと、先に入ったダグのいう通りだった。

入口は地下へと階段があり、だが、大して深く地下へ続く訳でもなく地下1階へ着いたのだが、そこから20歩くらい前進したとき、突然魔素が濃くなった。思わず足を止め3人が互いに顔を見合わせる。

たった20歩。その距離で世界が変わるような錯覚を覚える。



「な、いきなりだろ。この先は広場のようになってて道が5つに分かれている。一つは行ったから省くとして。そこで二手に分かれるか、バラバラの道を行くか。どちらにしても分かれた先でまた分かれ道になるだろう」



「いやな遺跡だなぁ。構造が蜘蛛の巣状か、長方形かを調べるんだろ。だったらバラバラで行った方が形も分かるだろ」



トーゴはため息交じりだ。

魔素の濃さに体力をごっそり奪われたような気分だ。

これは4人ともが感じていることなのだが。




真っ暗な闇の中、家庭魔法で灯りを作る。

どこから魔獣が襲ってくるか分からない。

人が一人通れるだけの細い別れ道まであり、魔獣が隠れられる場所が多すぎて神経が磨り減る。


思った以上に魔素が濃いな。

元々斥候で短時間しか調べない予定つっても、出来るだけ早く出たい。

これは斥候だけでうろうろしていい場所じゃないな。



進むごとに壁に印をつけ、帰り道を間違えないようにする。だが、それでも迷うのではないかと思うほど道が分かれる。

細い道が幅のある道を繋ぎ、別の通りらしき場所へ繋がる。

これは深部へ行くには地図をしっかり作り込まないと外へ出られないかも知れない。


ふいに手首に付けたリボンが光だした。

リボンには丸の中に三角の模様が入ったのが3つ並んでいる。

これは遺跡へ入る前に4人に渡されたアイテムで、光で決められた時間を知らし、三角の模様があらかじめ登録した人物の位置を示す。

チームリオが遺跡調査でよく使うアイテムだと言っていた。



「時間か。ふうん、人の方向が分かるって面白いな。行違うこともないんだ」



トーゴは3つの三角の向きが少しずつ動いているのを眺める。

よそ見をしていい場所ではないのだが興味を惹かれてしまう。



「これ、売ってんのかな?ちょっと欲しいな」



入口へたどり着くまで魔獣の気配もなくたどり着いた。

4人が行った道を地図に起こしてみるが、やはり道が分かれすぎて蜘蛛の巣状なのか、長方形なのか判断できない。

奥に行かずとも幅の端にくれば壁があり行き止まりがある。なのに、誰も行き止まりまで行きつかなかったのだ。

リーダーの4人と斥候に行ったダグ、トーゴ、ジアン、そしてアソラル。

空気が重い。



「4人ともご苦労さま。で、広大であることが確認されたのね」



「予定では長くても一週間で調査が終わると思っていたんだが・・・・」



リオも難しい顔をする。

濃い魔素に、地下2階、さらに3階とあるかも知れないのだ。

魔獣も間違いなくいるだろう。



「あ、そうだ、壁には模様が所々にあったぞ。あと金属のレリーフを壁に埋め込んでたり、金属で補強したような柱も」



それは斥候全員が見ていた。

地図に模様と金属があった場所に印をつけていく。



「私が知っている遺跡と同じです。今はまだ形状が分かりませんが」



さらにアソラルが斥候の3人に質問をする。

崩れていたか、もしくは崩れかけていた場所があったか?

天井が他よりも高い場所や、不自然に柵がある場所はあったか?



「柵かどうかは分からないけど、朽ちて元の形は分からない棒が何本も突き刺さっていた場所ならあったよ。」



地図にその位置を指さす。



「リオ、地下1階の地図を完璧に作成することを勧めます。8つの入口全部から入って地図を作れば早く完成すると思います。地下2階へ続く階段も複数あるはずです」



「分かった。まずはチームごとに1から4の入口から入ろう。人数の多いチームベギは4つの入口に待機する人を出してくれ。遺跡へ入るメーンバーは異常回復、治癒が出来る者を必ずチームに入れるとして、アソラルはチームのどれかに」



「私ならソロで5つ目の入口へ向かってもいいのですが。得意ではありませんが治癒魔法と付与が使えま・・」



「俺んとこと一緒に行動しようぜ!っな!」



言い終わらないうちにトーゴがアソラルの肩を掴み強引に誘う。

治癒と付与が使えるとはラッキー。

コイツを他所へやってたまるか!

うちは魔法は攻撃しか使えないからな。

苦手だろうと無いよりあった方がいい。

確保だ確保!


チームゾレスの残りのメンバー全員がそっと拳を握った。

グッジョブ!トーゴ!



シュナとリオがッチ!っと小さく舌打ちしたのは気づかないフリをした。



─────────────


翌日、快晴。

なぜ暗い地下へ行かなくちゃならないんだろう・・・・

こんなに気持ちのいい風が吹いているじゃないか。



「はいはい、遠い目してないで。昼ごはんは平原で食べさせてあげるわ。行くわよトーゴ」



「地下へ行く気分じゃないー。地上で周囲を警戒しとくからさー」



平原に寝ころび、降り注ぐ太陽の光を浴びながらやる気のない声をだしている。

みんなが思っている事だ。

こんないい天気なのに湿気た地下へ行くのか。と、ため息がでる。

それほどいい天気だ。何度でも言いたくなる。いい天気だ。

トーゴ一人だけ残してくれるはずも無く、ゾレスに首を掴まれ地下へと入っていく。





チームゾレスは3の入口から入ることになった。

他のチームはそれぞれ1の入口がチームリオ。2の入口がチームシュナ、4の入口がチームベギとなった。


3の入口は、天井だった部分が地面から少し飛び出しいている状態で、完全に地面にめり込んでいる。

しかも低木の根が壁に張り付いてイヤな雰囲気がでていた。低木は切り落とされていて根だけになっているが、もとは完全に入口を隠していたとわかる。

よく、こんな状態の入口を見つけられたものだと感心せずにはいられない。


階段を降りて数歩先で魔素が急激に濃くなる。昨日と同じだ。

トーゴとアソラル以外はその瞬間動きが止まる。



「魔獣の傍にいるような気分だ。最悪だな」



「魔獣の気配はありません。大丈夫です」



道はすぐに左右に分かれている。正面の壁には金属のレリーフが埋め込まれていた。

壁の表面が剥がれ落ちてレリーフの四隅は壁との間に隙間ができ、今にも落ちそうになっている。

辛うじて留め金が落下を防いでいる。



「アソラル、経験者としてどっちへ行くのがいい?」



ゾレスの問いに迷わず左と答える。

向きからして、1と2の入口がそっち側にあるはずだからだ。



「地図を作るのに、まず全部の入口を繋げたほうが後が楽なんです。なので、まずは2の入口へ行きましょう」




アソラルは光を6つ灯し、一人一人の傍に灯りを固定し、残りの一つは進行方向へ5mほど先で固定する。

条件を付けた灯りは、人の歩みに合わせてゆっくりと動く。

通常、松明やランプを使う。

魔法で灯りをだして、万が一の時に魔力が不足してしまっては最悪命を落とすことになりかねない。


それをまるで気にも留めず6つも灯りを出してしまうアソラルは、魔力量には自信があるらしく問題ないそうだ。

灯りそのものは魔力消費の少ない簡単な家庭魔法なのだが、アソラルが灯したコレは性能が高かった。

通常、固定したらその場所から動ないもので、人に固定したとしてもそれが肩の高さならその高さを維持するだけ。

しかし、アソラルのは、見たい方向へ灯りが動く。人を中心にしてある程度の距離を動かすことができるのだ。足元を見れば合わせて足元をよく照らしてくれる。試しに後ろを振り向いてみると、灯りはちゃんと後ろに周り背後を照らしてくれた。固定した人の意思を汲んで動いているのだ。

わざわざ一人にひとつずつ灯りを持たせなくてもいいと思うのだが、万が一バラバラになった時のためにという事だった。



「ちょとなにこの灯り。凄いんだけど!普通の家庭魔法じゃないわよね?」



魔獣を警戒していても、この性能の高さに無言ではいられない。

魔法が得意なルルナがどこで覚えたのか聞いている。

どこかの国の家庭魔法だと思ったのだ。しかし返事は意外なもので。



「ありがとうございます。自分の魔法を褒めてくれると嬉しいものですね。これは私が新しく作製した魔法なんです。こういうのがあったら便利だなと思いまして。実際、使ってみてとても良くて気に入ってます」



「「「「えっ!?」」」」



「え?」



4人ともが驚愕の声を出す。

意味が分からず首を傾げるアソラル。


新しい魔法を作製するのは簡単な事ではない。

魔力操作が非常に優れていなければできないのだ。

天才と呼んでいいほどの魔力操作が求められるので、新しく作製できる人が現れれば国に報告することが義務付けられている国もある。

作る魔法がしょぼくても、魔力使用量が少ない魔法でも、作製は困難。

完成すると何故か発動の仕方を教えるだけで誰でも使うことが出来るのだが、そこまでの過程は超難関。

つまり、魔法作製が出来る人は国宝級。


アソラルは自覚がないらしい。

わからない。といった顔をしている



「ま、まあいいわ。この魔法、後で教えてね」






 地下は道幅が広い道があったり、一人がやっと通れるくらいの狭い道があったりとバラバラだった。出発地点から詳細に作り込んだ地図が欲しいと言って、アソラルはグルグルと同じ道を行ったり来たりしている。方向感覚がヤラれる・・・・

実際には少しずつ2の入口に近づいているのだが、幅広道と細道と。分かれ道を行ったり来たり。

道に目印も殆どなく、あっても金属のプレートや模様のみ。それも似たようなものだから、同じ道をグルグルと歩いていると錯覚してしまう。

アソラルだけは位置を把握しているようなのだが、初めはゆっくりと警戒しつつだったのだが、次第にキョロキョロしつつも速足になっている。

魔道具の地図はアソラルの胸の前辺りで弱弱しい光を放ち、歩いてきた道が自動で書き込まれていく。

ルルナの地図も同じく書き込まれていく。



「おい、ちょっと待て。歩くのが速すぎだろ」



ゾレスが止めに入るが、大丈夫ですの一言で先へ行こうとする。



「待てって。魔獣が出たらどうする。無防備すぎだろ」



「あ、つい一人の時と同じ感覚でいました。この階に魔獣はいないので、陥没や崩落などに気をつけていれば大丈夫です」



遺跡に入る前に自己紹介をしたとき、トーゴが敵策に長けているとゾレスか言っていたので大した警戒もせず歩いていた。

もちろん、アソラルも全く魔獣の事を気にしていない訳ではないのだが。



「いない?なぜ分かる?」



「入口からここまでに2か所、地下2階へ続く階段がありましたが、どれも塞がっていました。誰かが故意に塞いだんです。強い魔獣は下に閉じ込めたんでしょう」



地下2階へ続く階段があった!?

うっそどこに?

それらしいのは無かったぞ。

来た道を思い出す。

・・・・・なかった。

ゾレスがいち早く思考から浮上した。



「階段って、何処にあった?なんでそれを言わなんだ!」



「言ったら立ち止まるでしょう。今は地図の作成が先です。地下2階への階段が3つのハズはないですし」



確かに階段があると分かれば、少し下に行ってみたいと思うだろう。

留まって様子をみようとするのは間違いない。



「・・・・・ここと似た遺跡に入ったことがあるんだったな。詳しく話してくれないか?あと階段があれば言ってくれ。立ち止まったりしない」



「わかりました。では歩きながら話しましょう」






1つめの遺跡───初めて探索した遺跡は蜘蛛の巣状で当初、地下2階があるとは誰も思いませんでした。その可能性すら考えることは無かったと思います。

複雑で広く、壁が崩れ落ちて道が塞がっている場所が多かったのですが、構造上、迂回すればどれも反対側へ行けました。

ここと同じく魔素は濃く、小さなスライムがたまに出るくらいでした。複雑で広い割には地図作製は早く終わったと思います。

そこまでが私達冒険者が受けた依頼だったので、最後に見落としが無いか見て回り、本当に偶然だったと思います。冒険者の一人が見つけたんです。少し陥没した部分に長方形の石ばかりがあり、それが階段のように見えると。

掘りだしたら階段と下へ続く空洞が現れまして地下2階があるこを発見したんです。

そしてぽつりと



「17人いた冒険者は5人に減りました。」



周りを警戒しながら聞いていた4人共がアソラルを凝視した。

魔獣が多いと言っていた。

彼らのレベルは知らないが減りすぎだろう。

撤退もできなかったのか?

アソラルの話は続く。



───地下2階への階段が故意に塞がれていたことに気づいた時はもう手遅れでした。

残り8人になった時、3人が魔獣を足止めして、私を含む5人を助けてくれました。どうしても誰かが生き残らなければいけなかったんです。地下2階へ続く階段を塞ぐために。町へ知らせにいくために。生き残ったとはいえ、五体満足の者などおらず酷い怪我だらけでした。

何とか町へ知らせにいき、急ぎ対策を取るよう伝えました。既に殺されているだろう助けてくれた3人の事も伝えましたが・・・・・

調査で分かったのは、強い魔獣の数が多く、しかし遺跡の状態が悪くて、これから先、長くは持たずに崩落してしまうだろう事。放置するのは危険と判断したので対策を取るようにと。

私達を雇った貴族は早馬を出し、国王へ伝えられ、すぐさま国を挙げての大規模な討伐が行でわれました。





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