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森の中の村3


脱線していきそうな会話を軌道修正してヴェルデが本題に入った。

もちろん、挨拶も目的の一つではあったが、外出していた村長に森の状況を教えて欲しかったのだ。



「川を越えたいのか。森にも橋が架かっていたんだが川が氾濫して橋が浸かってしまっているのよ。滝んとこまで行くしかないけど、今はねぇ」


迂回して森を出るのに一日では無理だ、どうしても野宿になる。

この時期はタイミングが悪すぎるのだという。



「あんたちパーティーが強いといってもこの辺りの魔獣はさらに強い。厄介なことに月の影響を受けやすくて満月の夜には極端に強く狂暴になるんだよ。あと2日で満月になる危険極まりない時期だ、あんた達の実力は分かるが村でやり過ごすのが無難だね」


俺たちの実力を認めてくれる発言だ。素直に嬉しいが、単体で強い者たちばかりの彼らですら危険だと言う。ならば村長の助言に従い村で満月が過ぎるのを待つのがいい。



「村の住人でも勝てないほど強くなるのですか?」



村人たちの実力がランクB~Sに相当すると感じているアソラルが尋ねる。が、──ムリ!──即答だった。



「私達は魔獣の間引きを仕事として、数人で班を組んでやっている。それでも満月が近づけば狩りには出ない、もともと地力のある魔獣がさらにパワーアップするんだ。相手によってはこっちが全滅になることもあるからね。侮っちゃいけないよ」



「満月を過ぎれば魔獣は大人しくなくなるのか?」



「徐々にだね。新月だと魔獣も力が弱くなるのを分かっているからねぐらで大人しくしているからそれまで待つのが一番なんだけどね。そうなると17日後になるんだけど・・・・」



「森に入ってから魔獣には1匹も出くわさず村までたどり着いたのだが、魔獣の数は少ないのか?ならば、新月まで待たずに森を抜けたい」



「言うと思ったよ。少なくないし種類が多い。縄張りが被ってるけど上手く棲み分けている魔獣もいてね複数で襲われると厄介だよ。行くなら下弦まで待つことをお勧めするよ。出発までは村で依頼を受けてくれると助かるんだがね」



にーっこりと屈託なく笑う村長さん。

危険を承知で村を出るなら文句は言わないが、滞在するなら仕事を受けてほしいというわけだ。

今日から下弦まで10日。

こちらとしても収入があるに越したことはない。



「簡単な依頼さ。荷運び兼雑用係らしい仕事を頼みたい。まず一つは村周辺で採れる薬草の採取。森との境界線辺りに魔獣が近寄る事はないから安心して。二つは果樹園で収穫の手伝い。三つは村人が何か頼みごとをしてきたら出来るだけ聞いてやってほしい。四つは、手合わせ─試合─を申し込んできたら全部応じて欲しい。この最後の依頼が一番重要な仕事だね」



一番重要な仕事が、一番雑用係から外れているわ。

荷運びをしながら行く先々で雑用をこなすのが私達の仕事だから一つから三つは分かるんだけど。

手合わせ?試合?それって雑事ちがう。



「私も手合せを申し込むからね。4人別々でと、4人一組での両方で!」



「カンキツも入ってるの?」



ミルカの頭頂に腹這いで乗って小さい手で拳が落ちた部分を撫でているカンキツ。

撫でている部分は実は痛くなくて、乗ってるまさにソコに拳が落ちたのは言わないでおく。

カンキツなりに手当?をしてるし、そこじゃないと言うのは面倒くさ・・・じゃなくてその気持ちだけ頂くことにした。



「ミルカは一般人です。寵愛の事も昨日知ったばかりで手合わせは無理かと」



「そうなの?こんなに戦いに特化した寵愛なのに勿体ない。じゃあ、練習するのはどう?村に居る間に寵愛に慣れて、少しでもカンキツを使いこなせるようになった方がいいだろう。私が面倒みてあげるよ!」



キラキラ、村長さんキラキラッ。笑顔が眩しいわ。

すごく嬉しそうなのは何故かしら?

練習ってどんな事をするのか不安なんだけど、いきなり手合せってなりそうだし。

もしもの時は助けが入るのかしら?

チラッと3人を見上げてみたら表情が諦めろと言っている

トーゴが口だけを動かして、死ぬことはないさ。

村人に対する3人の評価が、相手にすると死ぬレベル?いや、その手前!?

そんな事になったら死ななくても死ぬわ!一般人を舐めないでよ。





 通常、荷運び兼雑用係は聖域から給料として支払われるので、村で仕事を依頼されても報酬をもらうことはしない。だが、ナナシ村は地図にも載らない秘境で聖域の中にありながら一線を画す。その為、冒険者として彼らに依頼し、その報酬は村から支払う。

ミルカは冒険者ではないので村の依頼を受ける必要はないのだが、「下限まで村に留まることになるのでお手伝いをする」ことになった。もちろんカンキツとの練習も。





依頼を受け、果樹園の午後からの作業を手伝うことにしたのだが、行ってみると木が低くて果実が生っている枝も垂れ下がり収穫自体は簡単にできそうだった。

ただしミルカ以外。

彼女は身長が足らず実に手が届かない。

籠に入れて運ぶにしても重たすぎて担げない。

量を減らせばはかどらない。

役に立たないので、依頼は手分けしてこなすことになった。

ヴェルデとアソラルが果樹園で収穫の手伝いを。

トーゴとミルカは薬草採取をすることになり、ラドが薬草の生えている場所までの案内を買って出てくれた。

場所は崖の上になるが、数か所、階段が造られていてどの階段も薬草がよく生えている場所の近くにある。

村人の大人たちには階段など不要なのだが、未熟な子供たちが真似をして、崖をよじ登って飛び下りてたまに怪我をしてを繰り返すので階段が造られたのだ。

 やるなと言っても大人がすれば、それに倣ってしまうものだから止められないよね。







「ん~んん~、ふーんふんふー・・・」



超ご機嫌。

薬草がこれでもか!ってくらい沢山生えてて採るのが楽しい。

果樹園では手が届かずコンプレックスを刺激され悔しい思いをしていたのが嘘のよう。

鼻歌が止まらない。上手とか下手とかも関係ない。機嫌がいいと無意識に歌ってしまう。

しかもデタラメ。たまにいい感じでメロディーができても二度と再現できない。

ミルカは絶妙の鼻歌と呼んで自画自賛しているのだが、聞いた人はたぶんいない。



「ふーん、ルルルル~うーううんう~~」



カンキツを隠すこともしなくなり、一緒に薬草を採っているのだが、よく見ると5回に1回は摘んだ薬草を自分のポケットに仕舞い込んでいる。さらに薬草以外の花やキノコも採って食べている。

昼食はちゃんと一緒に食べたのに足りなかったのだろうか?


持ってきた籠が薬草で一杯になったのでラドの方はどうかな?


見回すとラドがいない。藍髪トーゴさんも。

摘むのが楽しくて、いなくなった事に気がつかなかった。

ミルカは前回の失敗をちゃんと覚えていてその場を動かない。


こういう時は来るのを待つ!

もう3人に怒られるのはゴメンだもの。

あのときは4人だったけど。あ、名前はなんだっけ・・・村長代理の人。まあいいか。


キョロキョロしていると森の中からラドが飛び出してきた。



「あ、おねえちゃん摘み終わった?」



ラドが背負う籠には薬草が山盛り入っていて、それよりも小さい籠を手に持ち、それには食べられる野草に、キノコに、鳥が入っていた。しかもまだ生きてる。

鳥?

生きたままなら、捕まえる時は森が騒がしくなって気づいてもいいはずなのに。

分からなかったわ。

鳥は暴れないように体を布で包むように縛られ、鳴かないと思ったら、嘴に輪切りにした芋を差して固定している。

用意周到な。初めから狩るつもりだったわね。

ラドが満面の笑みを見せて立ち上がる。

分かってるけど見上げるほど背が高い。

年は私よりずっとチビなのに。



「籠いっぱい採れたし村長さんちに戻らない?」



「うん、おねえちゃん見て、鳥も捕れた」



小さな籠の中から鳥を出して見せる。

うん、見た見た。狩ってるのをちっとも気づかなかったわ。

腕を突っ込んだ籠の中からごそっと3羽出てきた。

キノコに埋もれていたのか・・・・



「1羽だけじゃなかったの!?」



しかも1羽は大きくて立派な鳥だった。

これは一番美味しく頂けるサイズ。

・・・いいわね。

見た途端にお腹が空いてしまうミルカだった。


あれ?そういえば藍髪トーゴさんはどこに行ったのかしら?

辺りを見回しても姿がない。森の中へ行ってしまったのだろうか。

一度戻りたいのだけど・・・



藍髪トーゴさーん、どこ~? 戻りましょーよ~」



「お姉ちゃん、藍髪って・・・トーゴお兄ちゃんだよ。もしかして僕の名前も覚えてなかったりする?」



「だ、大丈夫よ!ちゃんと覚えてるわ、ラドでしょ」



うん、名前言えたわ。いきなり聞かれてビビった。

一応確認してみよう。

ラドでしょ、お母さんのエポでしょ、お父さんのネフトラ!完璧じゃない。


・・・・・あれ? 完璧??なんで覚えてられているのかしら?


自分で言うのもなんだけど、聞いた次の瞬間に名前を忘れてしまうのが私。

私の兄たちが言う「ミルカのガッカリ才能」は生半可なもんじゃないのよ、残念なことだけどさ!

だから自分で変って思った。


私がこんな短期間で名前覚えてるっておかしくない?



「なーんーで、トーゴさんより先にラドの名前を覚えるのかなぁ?傷つくぞ~」



ですよねー・・・・・

どこから現れたのか、トーゴにガシっと頭を掴まれギリギリとちょっと痛い。



「今、私も同じことを思ったの。変よね?どうしたのかしら」



顔を顰め、うーんと唸り本気で悩むミルカ。

本人に肯定されるとは思わなかったトーゴは掴んだ頭を撫でることにした。



おまえは・・・・・こんな事で悩むって不憫すぎじゃね?

ん?

・・・・・・・・

・・・・・・・・

確かに、おかしいよな?

ラドを覚えられて、彼より長く一緒にいる俺の名前が覚えられないなんて。

あ、違った、逆だ。

長く一緒にいても覚えられないのが普通なのに、短期間でラドを覚えてしまったのはおかしいよな。

俺たちは互いに名前を呼び合っているのに、それでもミルカは名前を覚えられずにいたんだから。


・・・・・・なんだろう、変・・か?


村に入った時の第一印象はのどかなで特に何も感じなかったけど。

・・・・・・あれ? 何も? 感じなかった?

・・・・・・・・・

体がデカイのと、ラドくらいの子供でも冒険者で例えたらBクラス前後の実力があって、訓練広場でヴェルデが相手してた人にSクラスだろってヤツが何人かいたくらいだな。

んで、秘境の村で地図に載らなくてワガキミに村を任された村長が600歳。

それを除けば至って普通の村な。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「って全然普通じゃねぇ!なんで簡単に受け入れてんだ俺!?」



待て待て!

ひょっとして、村を守る結界って魔獣除けと地図から村を隠す以外に効果があるのか?

ワガキミってのが、俺達が来るのを予知してたようだし。

気づかないうちに術中にハマったか?

ラド家族も村長も気持ちのいい人達だと思っているんだが。

こんな風に疑いたくはないけど、冒険者やってると警戒心を無くすと命取りになる事が多い。

知恵のある魔物は騙すのが上手いから。


───俺達は人だ。魔物とか、魔人とかって言われる事があるけどな。


う、初対面の時のネフトラの言葉を思い出してしまった。

それが本当ならネフトラ達は迫害を受けていたのかも知れない。

だが、今、気が付いてしまった。

普段なら隠された村をあっさりと受け入れて信じるなんて無かった。

───────以前に似たような村で魔物のエサ場だったことがあったからな。

警戒を怠らず信じていいかを見極めようとしていたハズだ。

俺の直感が警告してるんだ。

正直、この村を疑うのは良心が痛むがヴェルデとアソラルに話しておこう。

出来るだけ早い方がいいな。

あと、

うーん・・・・ミルカは、二人に話してからでいいか。

経験のないこいつに話しても疑うことを迷うだろうから。


ああああ、ここを気に入っちゃてる自分がいるんだよな。

子供たちと手合せしたせいかな、みんな無邪気で純粋な笑顔だった。

ただの杞憂で終わってくれたらいいなぁ。



─────希望的な気持ちとそれを否定する警告がトーゴの心の中でせめぎ合っているのだった。





「いきなり叫んでどうしたの? 普通じゃないって何が?」



突然、頭を抱えて空へ向かって叫ぶ藍髪トーゴに驚いて、ミルカもラドも目を丸くしている。



「ん? 驚かせてしまったか。わりーな。思い出したことがあって、悪いがコレもって先に村長んとこへ行っててくれ」



ぎっしり薬草が詰まった籠をミルカに押し付けて、浮遊魔法で崖を降りていく。

こうと決まったトーゴの動きは素早い。



「ラドー、ミルカを村長んちへ連れて行ってくれ。頼んだぞ。ミルカ!ラドから離れるんじゃないぞー」



降りていきながら大声でラドと私に指示を出す。

俺が違和感を感じたからと言って、途端にミルカに危険が迫ることはないだろう。



ギリィ!

噛み締めすぎた歯が鳴った。

ラドよりも子供扱いされたのが悔しいっ。

おまけに薬草を押し込んで入れたようで重い。

なんの用事があるのか知らないけど、籠も一緒に浮遊落下すればいいじゃない!

どうせ下へ降りるんだからっ置いていかないでよね。

重いわ!






トーゴはゆっくりと落下しながら昨日の事を思い出していた。


そうだよ、村を見つけてラドが目の前に現れた時は疑っていたじゃないか。

警戒していたじゃないか。

普段なら村に入っても平静を装って警戒し続けていたぞ。

なんであんなに安心していたんだろう。

美味い酒飲んですげー楽しかった。



降りているとはいえ、まだ高い位置で村が良く見える。

果樹園の方を見ると、荷車が通るための道が果樹園の中に碁盤目状に延びていた。

その交差点の一つに人が群がっているのが見える。

ヴェルデが誰かと手合せしているようだ。


遠目にも楽しんでいるような雰囲気が伝わってくる。

俺だって、村人と手合せして自分を鍛えたいと思っていた。

それを楽しみにしていたんだ。

でも、今は、見極める事が先決だ。

二人は何か気づいているだろうか?









──────────────


「って訳で、ミルカが俺の名前より先にラドの名前を憶えたのを知った時にアレ?って思ったんだ。どうよ?」



「そう言われると、いつの間にか警戒心が薄れていたな。村に入ってから見かける人達の強さを感じても危機感も何も意識していなかった。普段ならそんな事は無いのだった。俺たちはどうかしていたのか?」



「私もです。手合わせをしたあたりから当たり前のように馴染んでいったような・・・」



果樹園で手合せしていた二人を適当な嘘で連れ出し、ゆっくりと村を歩いてる。

人の気配を気にしながら、表情は至ってリラックスした、楽し気に会話しているように見せかけている。

もちろん小声だ。

ぶらぶらと歩きながら人気のない道を選んで行く。


 軽い会話をしているように表情と口調を保ちつつ、しかし、トーゴの指摘に動揺している。顔に出さないように二人とも内心では必死だ。



「・・・・・たぶんネフトラと会った辺りからだな」



「それって即効じゃね?やっぱ術にハマったか・・・・アソラルは何も感じなかったか?」



「いえ、私は何も。ただ、初めは強く警戒していました。魔法も使っていないのにラドの身体能力の高さをみて魔物かと疑いましたし。実際は魔物とは違うようですが」



「俺も魔物ではないと思う。だが、こんな事に気づいてしまうとな・・・得体が知れない」



「カンキツは大人しかったですよね。危害を加えるような村だったら近づいただけで警告しているでしょうし、ミルカを村へ入らせないようにしていたはずです」



「なんだぁ?カンキツのこと随分信用してるな。仲良くなってたのか?」



「仲良くなってません・・・・・・・」



少し、迷う素振りを見せ何かを決心したようにヴェルデとトーゴを見据える。



「ミルカがエポと買い物へいている間に家の中を掃除していたでしょう。もし、ここが危険な場所だったらミルカの傍を離れません。主人の命令でも従うはずがないんです」



「断言する根拠は?」



「寵愛ですよ。大事なのはミルカですから命令に従うと言っても彼女に危険が迫れば別です。守り大事にし傍に居ようとします。しかもカンキツはかなり強いですからこの村が危険なら気づかないはずがありません。惹かれるんですよ、傍にいるだけで心地よく癒されます」



「詳しいな。知らなかったんじゃなかったのか?」



すらすらと述べることに首を傾げてしまう。



「少しですが私には魔族の血が流れていますからね。不思議と理解している自分がいます」



「「は?」」



「秘密にしていたのですが、聖域に来てから普通の人のフリして魔獣を相手にするのがキツイ場面が多くて。本当に強い魔獣が多ですよね、カミングアウトして全力出したいという気持ちと、知られるとこれまでの関係が崩れるのではという恐れとで葛藤していたんです。それがこの村の結界の件で、通れたのは私かミルカだろうと言っていたでしょう? 迷いはしましたがいい機会だと、思い切って言えてすっきりしました」



すっきり顔のアソラル。

ヴェルデとトーゴは絶句。

外見は至って平静だが、若干俯き加減になってしまってるのでそっとしておく。

それから暫く会話もなく歩いて二人が落ち着くのを待った。






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