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森の中の村

もうすぐ村という距離になって木々が密集しはじめて、真っ直ぐに行くことは出来なくなっていた。

右へ左へと曲がりながら進み、もう少しで着くという頃にはおやつの時間になっていた。

昼食もまだなので、早く村でご飯を食べたい。

もうすぐそこに村があるというトコロまで来た。やっと休める、ご飯が食べれると思うと気持ちが軽くなる。

森が開けると、そこ大きな村が眼下に広がっていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



切り立った崖が、眼下に広がる平野を囲うように続いている。

首をぐるりと回すと、30m程の高さの崖が壁のように続き、右側で大きく湾曲して数キロ先に見える崖へと続き左側へとのびている。

そのまま崖と崖の距離が縮まり、村が雫型になっているのが分かる。さらにすぼまった先に際大きな木が村を覆いかぶさるように枝葉を広げ、そして高く伸びている。

その木が数本生えていて、崖がその巨木で隠れてしまってどこまで続いているのか分からない。

見渡せる限りでは、平野が全部村のようだった。この規模なら町といったほうがいいかも知れない。



「どこから村に入るのかしら?」



下りれそうなところが無い。

やっと休めると思ったのに。

あ、ガッカリしたら余計に疲れがきた。








「村人の何人かが俺たちに気付いたな」



よく見ると確かに何人かがこちらを見ている。

手を振ってみようか?

なんとなくそう思って振ってみたら、一人だけ振りかえしてくれて、こちらへ走って来る。

走る、走る、走るほどにスピードを上げて走って来る。



わー、走るの速い。

すごい速い。

・・・・・

速すぎじゃない!?

速すぎでしょっ



距離があるから小さく見えていた人の、姿かたちがハッキリと見えてくるのに時間はかからず、その人が崖の真下まで来たかと思えば、一気に駆け上がってきた。

地面を走るかのように軽々と駆け上がって来る姿に緊張が走った。



グイっと後ろへ引かれ、3人は私を隠すように前に立つ。



「私達の後ろに隠れていなさい」



声が強張っている。

つられて、ミルカも体に力が入る。魔物ってこと?

タンっと軽い着地音をたて、その人が目の前に現れた。


目をきらきらと輝かせて話しかけてくる。



「こんにちは! もしかして荷運び兼雑用係って人たち?」



170cmくらいの身長に黒い髪と金の瞳をした童顔の男が立っていた。

ミルカも子供に間違えられることがあるが、この男も少年に見える。



「そうだ、この森を抜ける途中だ」



平静を装ってはいるが3人はかなり警戒していて話す声がいつもより低い。

答えているヴェルデも剣に手をかけている。

この男、手を振っていた位置から崖の上までをわずか1、2分で、しかも息を切らせずに走ってきた。

人の身体能力を超えている。

魔物・魔人かと疑っている。



「この時間でこんなトコにいるんじゃ、夜になっても抜けれないよ。よかったら僕んちに泊まって行かない? なんか話を聞かせて欲しいな。いいだろ? ご飯もあるし、風呂もあるよ。なっなっ、泊まってよ」



会えたのがとても嬉しいらしく、泊まって欲しいとせがみ、見た目だけでなく仕草も子供じみている。

と、3人の後ろにいるミルカに気づいた。

目が合ってしまった。

ミルカをまじまじと見てくる。

視線を遮るようにアソラルが立ち、男がまたヴェルデに向きなおる。



「お姉ちゃんもいるんだったら、よけいに泊まらなきゃダメだよ。女の人は弱いから守ってあげないとすぐに死んじゃうんだって父さんが言ってた」



「ラドー、喋ってないで客人を案内しろ」



崖下から呼ばわる声がする。

ラドと呼ばれた目の前の男が、わかったー。返事をかえし、

じゃあ、僕んちを案内するからついてきて。と当たり前のように崖からジャンプして降りた。

警戒しているこちらと無防備といっていいラドとの温度差が気なる。



「・・・どうする? 悪意も殺意を感じられないし本当にああ言ってるみたいなんだが」



「好戦的ではないようですが、得体が知れませんし、上手く断れたらその方がいいかと。逃げるのは無理でしょう」



そっと崖下を覗くと、声をかけてきた男とラドが何か話している。

男がおもむろにラドを掴み、砲丸投げの要領でこちらへ投げた。

うわぁぁぁぁぁぁぁ・・・・

ラドの悲鳴は崖下から聞こえ、ミルカより上の方へ移動した。



うそ!? 投げた!? 人を投げた!!



驚いて声にならないまま3人を振り返れば、ミルカと同じに驚いている。

重力に従い上昇が止まり、弧を描きこちらへ落ちてくる。



「おわっ、っとっと。あぶなー」



着地でよろめき、躓きかけたよ、みたいな軽い口調のラド。

投げられ、落ちて、なんで平気?


無意識にポケットに手をいれると、触れる掌にカンキツはうつ伏せに寝そべり、手首に両腕を巻きつけてきた。寛ぎまくってる。



「魔物なの?」



3人があえて言わなかった言葉をミルカが口にした。

同時に3人がラドから少し距離をあける。

ラドはキョトンとした顔をして何を言われたのか分かっていないようだった。

代わりに別の声が答えた。



「いや、人だよ」



振り向くと崖下にいた男が登ってきていた。

人らしい登り方で──人外なスピードで登ってきた事を除けばだが。

その男の身長は250cmはあるだろう、ゆったりとしたシャツを着ているが、その鍛えられた体は隠せていない。その彼がこちらを見て、次にラドを睨む。



「やっぱり、警戒されてるじゃないか。こんな崖を駆け登れる人も飛び降りれる人もほとんどいないんだから。俺みたいに登れば不必要に警戒させることもないんだ。憶えとけ」



あり得ないスピードで登ってきて警戒されないと思っているのだろうか?

ラドを叱り、こちらへ向きなおる、



「こいつも驚かせるつもりは無かったんだ、許してやってくれ。あと、俺達は人だ。魔物とか魔人とかって言われる事があるけどな」



彼はヴェルデ、トーゴ、アソラルと視線を交わし、

まだ3人の後ろにいるミルカとも視線を交わす。

・・・・ラドと同じでじっと見つめてくる。

その視線は上から下へ、ポケットで止まる。

顔をあげ、今度はアソラル、またミルカと交互に見やる。



なに?



「へえ、これは、客が来ること自体が珍しいんだが・・・・さらに珍しいこともあるもんだ」



ドキッとすることを言われた。

ポケットの中で、カンキツの体を包むように軽くにぎると、頬を摺り寄せてくる。

バレてないよね・・・

女の人が珍しいってことよね。きっと。

 


「俺はネフトラ。こっちはラドだ。そちらの名前を聞いてもいいかな?」



逡巡する。

迷っているのが分かる。

警戒を解けないでいるのだ。

でも、とミルカは思う。


カンキツがいまだに、私の手首を抱きしめて寛いでいる。

きっと大丈夫ってことなんだと思う。



心が決まり、ネフトラの目を見て名乗る。



「ミルカよ。こちらの3人は、リーダーの、うーん・・・と赤髪ヴェルデさんと魔法が凄い銀髪アソラルさんと、ごっ・・・えーと、ゴ・・・・・ゴー、藍髪トーゴさんよ」



ミルカ本人は精一杯の紹介をしたのだろうけど酷すぎた。

グダグダだ。

3人は、名乗ったミルカに驚きはしたが、それに続く言葉の方が衝撃だった。まともな人物紹介が一人も出来てない。憶えさせていたトーゴの名前すらも。

しかし構わず、話を進めようとしている。



「この村の人は怖い人達ではないと思うの。休ませてもらいましょうよ」



「うんうん!お姉ちゃん一緒にご飯たべよう。それから何か話を聞かせて」



やったぁ♪とミルカに抱きついて、高い高いしてまた抱きつく。



「キャーッ!キャーッ!キャーッ!」



突然のことに悲鳴を上げるがどうすることも出来ない。

160cmに届かないミルカでは、身長170cmからの勢いのある高い高いはマジ高い。

しかも回転のおまけが付いている。

体が浮き上がり遠心力で水平近くまで踵があがる。


アソラルが、慌ててミルカをラドから引きはがし、抱きつかれないよう片腕にミルカを座らせるように抱える。よほどコワかったのか涙目でプルプル震えている。

唇をぎゅっと富士山の形にして、泣くもんかっ!と堪えているのがわかる。


ゴン!



「いきなり抱きつくヤツがあるか!」



「~~~~~~っ」



ラドの頭頂部から鈍い音がして、地面に転がり悶えている。



「バカですまない。後できつく叱っておく、ほらお前も謝れ」



転がるラドを片手で持ち上げミルカの正面に突き出し謝らせる。

地面を転がっていたせいで、涙と鼻水が砂と混じってとんでもない顔になっている。



「う、う。 ごめ・・なさい~・・・」



「案内は俺がやるから、ラドは荷馬車を村へ入れろ」



頷いて荷馬車へ向かうラド。

ネフトラが


「それじゃ、ミルカと、あかがみさんと?ぎん・・・・」



「「「違う!」」」



「俺はヴェルデ。ミルカは少々バカなところがあるから、そこは忘れてくれ」



「トーゴだ。名前を憶えるのが苦手なミルカだから勘弁してやってくれ」



「アソラルです。道を間違るのが得意なミルカですので村でご迷惑をかけるかも知れません」



ひど!!

名乗るついでにミルカの紹介──注意事項のような?──をされた。



「やっぱり名前じゃなかったか。ヴェルデ、トーゴ、アソラル、ミルカ、よろしくな。早速、村へ案内したいんだが、あんたたちはこの崖おりれるか? 村の入口はあるんだが、ここからだと遠くてな。村へ入るころには夕方になってしまうんだ」



アソラルがそっとミルカを降ろし、浮遊の魔法を使えるかと聞いてきた。

ミルカは魔法が使えないわけではない。

「冒険者の人気魔法ランキング」の中位~上位、攻撃。治癒、結界、付与、などがへなちょこなだけで、家庭魔法程度なら使える。

ちなみにランキング下位が出来たところで冒険者としてはあまり役に立たない。

浮遊がどんなものか分からないがの魔力消費が家庭魔法くらいなら使えるはずだ


「浮遊自体を知らないんですね。難しくはない魔法なのでミルカでもすぐ覚えられますが、いきなり崖を降りるのは危険ですね。今はやめておきましょう」



「どんな魔法なの? 浮く?」



「浮くというよりゆっくり落ちてく魔法です。使い道があまり無いので魔法として人気が無くて、覚える人は少ないのですが、この崖のように高い所から降りるのに便利な魔法です」



なんだ浮くって飛べるのユルイ版かと思った。

ちょっとは中空を動けるのかと期待しちゃったわ。

落ちるだけなのか・・・・教えてもらうけど、残念。


一番魔法に長けたアソラルと一緒に降りることになった。









ネフトラが先に下へ降り、続いてヴェルデとトーゴが浮遊魔法を使って降りていく。

ゆっくりと、鳥の羽が落ちてくのに似ている。

気持ちよさそう、私も覚えよう。


二人が着地したのを確認してからアソラルが浮遊魔法をかける。

先に降りたのは、もしミルカが落ちてきても受け止めれるようにだ。

ミルカをお姫様さま抱っこして崖っぷちへ歩き、地面が無いところへ一歩足が前へ出た瞬間、その高さから恐怖がせり上がる。

崖下を覗いても平気だったのに、足元に地面が無くなると途端に怖くなった。


ゆっくりと落ちていく慣れない感覚に肌が粟立つ。

アソラルにギュッとしがみ付き目を瞑る。



「こ、怖い。高いっ」



「っちょ、苦しい。 ミルカ・・・」



首が絞まるほど強く抱きつくミルカの腕を外そうと、アソラルが動くと余計に怖がってさらに首を絞めつけてくる。



「こわい、動かないで。落ちる、落ちるー こわいー」



「離したり、しません・・・からっ 落ち着て」



苦しさに顔を歪ませながら、なんとか落ち着かせよとするが腕が緩む気配がない。

先に降りた3人もアソラルの首を絞めているのに気づき声をかける。



「ミルカー大丈夫だから落ちつけ。アソラルの首が締まってるぞー」



「ミルカ、下を見なければいいんだ」



降り立つにはまだ高い位置にいる。

アソラルがミルカを落すことは無いだろうが、ミルカがアソラルを落としそうだ



「おいおい、アソラルの顔が赤くなってるぞ」



「ここへ降りる前に窒息するな。俺が二人を降ろしてくるわ」



ネフトラが言うが早いか、駆けあがり二人まとめて片腕に抱える。

アソラルの浮遊魔法が効いている状態だから、ネフトラも影響を受けて浮遊してしまう。

空いている手で岩を掴み崖に体を引き寄せ足をかけ、お姫様抱っこしているアソラルごと後ろから両腕で抱きかかえ体勢を整える。

あとは崖を床のように使い速足で降りてくる。

浮遊を利用し、けれど、浮遊落下よりも速く降り立った。


ベリッとミルカを引き剝がし地面に立たせる。


ヒュッ、ゴホッゴホ、・・・ゴホッ・・ゲホゲホっ・・・・


首を絞めつけていた腕が消え、空気が一気に流れ込み咳き込む。

座り込み咳を繰り返すアソラルの背中をヴェルデがさすり、トーゴがミルカを窘める。



「もう少しで殺すところだったぞ。仲間内で殺人は勘弁してくれ」



「ごめんさない」



降りれた事で落ち着いたミルカはアソラルのそばに寄りひたすら謝る。

こんなに苦しめるつもりなど無かった。

ひどく咳き込むため言葉がでないがその大丈夫だと仕草で伝えてくる。



「ごめんさい、ごめんさない。銀髪アソラルさんごめんなさい」



「わー・・・本当に名前を憶えていないのか。おい、謝るならちゃんと名前を呼べ。アソラルだろ」



「アソラルさんごめんなさい。ごめんさない、ごめんさい」



はぁーーー、

やっと咳が落ち着き長く息を吐く。

立ち上がり謝り続けるミルカの頭を撫でる。



「もう大丈夫です。でも、次からは加減してくださいね」



「はい、本当にごめんなさい」



腰に腕をまわしギュッと抱きつき謝る。声が涙で震えている。

悪気があっての事ではないのでアソラルも怒ったりしないが、謝り続けるミルカに困ってしまった。

196cmのアソラルとミルカでは子供が親に泣いて謝っているようにしか見えない。

こういう時の子供の扱いが分からなくて──成人してる事をつい忘れて──助けを求めて視線を送ればヴェルデは顔を背け、トーゴは顔の前で手を振りムリムリと。


──私もムリです。何とかしてください。


口だけ動かして言うも、ヴェルデは右手をあげスマンと軽く頭を下げる。

トーゴは両手を握り脇を締めガンバレ!っと口だけ動かして声援を送ってくる。

そのやり取りを見ていたネフトラが、しゃーねぇな。といった顔してミルカの肩に手をかける。



「アソラルが困ってんぞ。もう泣きやんで俺んちに来て顔を洗え。」



ミルカが頷くのを見て、よし。と頭を撫でてやると、両脇に手をいれ抱き上げて歩き出す。

片腕に座るように乗せ、ゴツゴツした大きな手で涙を拭ってやる。大人しくされるままの、項垂れる後姿は子供のそれだ。

ネフトラがお父さんにみえる。










「ここが俺んちだ。荷馬車が到着するまで時間があるから寛いでくれ。客人を連れてきたぞー」



家の中へ声をかけると中から返事が返ってきた。

ヴェルデたちは珍しい作りの家に壁、天井と、キョロキョロと見回している。

ネフトラの家は、ちょっとした石垣が積まれその上に木造の家が建てられていた。

家屋の様式が複数あるようで趣の異なる家々がある。

これはほかの村では見られないもので、どこも大きさや高さは違っても同じ様式の家しかなかったのだ。

とても興味深い。



「お帰り。やっぱりアンタがお客を連れてきたか」



「俺の奥さんのエポだ。で、やっぱりって?」



「ラドが崖上にいる人たちに向かって突っ込んで行ったって班長が言ってたからね」



玄関まで顔をだして言って目を見開く。

ネフトラに抱えてられたミルカをみて驚いている。



「・・・・・ちょっと子供を泣かしたんじゃないでしょうね?」



エポの声がちょっと低くなる。



「そんなわけないだろ。ミルカ、ヴェルデ、トーゴ、アソラルだ」



ミルカを降ろし顔を洗わせてやってくれ。とエポにミルカを渡す。

4人に軽く挨拶をしてエポは奥へと行き、思い出したようにネフトラに声をかける。



「ネフトラー、3人にお茶を出しててー」



「おう、3人は座っててくれ。茶を淹れてくる」



「ああ、ありがとう」



勧められたテーブルは全体的に大きかった。それに合わせて椅子も座面の位置が高い。

エポもトーゴと同じくらいの身長だったし、ネフトラの家に着くまでにすれ違った人達も2m、3mくらいはあったから、村人たちは随分と背の高い人達なのだろう。

魔物と言われる事があると言っていたがその体の大きさが誤解を招いているのではないだろうか?

座ってみると椅子もテーブルも高くて変な感じだ。



「エポのように上手く淹れられないんだが」



「いや、気を遣わせて・・・・」



湯呑の大きさに驚いて言葉が途切れてしまった。

彼らにはちょうどいいサイズなのだろうが2倍はある・・・・当然お茶の量も多い。



「やっぱり大きすぎたか? 残してくれてかまわんよ」



「くっくっ、すげーデカイな」



肩を揺らして笑うトーゴ。

子供になった気分だと楽し気に湯呑を持ちあげ、


「やっぱり重いな分厚いし。皿とかフォークとか見せてもらってもいいかな? あ、そうだ!ちょっと靴脱いでみて」


完全に楽しんでいた。







カポーン。

いい音が響く。

空になった桶にもう一度湯を汲み下に置く。

顔を洗わせてもらうだけだったのに何故か風呂に浸かっている。



「もういっそ風呂に入っちゃいなさい。着替えを用意するから服も洗ってしまいましょう。遠慮しなくていいわよ、お客なんて数年ぶりでね。誰かが村に来てくれるのが嬉しいのよ、さあ入って入って」



エポの勢いになにも出来なかった。


ふぅ。

明るいうちに入るお風呂って気持ちイイのね。

初めて知ったわ。

明かり取りから見える青い空。

夜にはランプで照らすが、昼の自然の明るさとは違う。

昼間の風呂にハマりそう。


湯船の隅に猫ほどの大きさの石が数個沈んでいる。


この村では水が湧く泉に魔法をかけ、専用の魔法具の水筒に連結させている。

その水筒をキッチンが風呂、トイレに設置して各家で水を使えるようにしている。

風呂の水筒は直径がミルカの頭が入ってしまうくらい大きい。

壁に埋められていたから、長さはどれくらいかな~?と腕を突っ込んでみたが奥に届かなかった。


出てきた水は水圧がすごくて、空っぽだった湯船が水で満たされるのはあっという間だった。

そして風呂に置かれていた石を火のない熱の魔法で赤くなるまで焼き、湯船に漬け水を湯に変える。

熱すぎれば水を足し温いなら石を焼く。



こんな湯の沸かし方があるなんて知らなかったわ。

見てて楽しかった。実家に帰ったらやってみようかな。


明り取りから空を見上げていたが、湯をいれた桶に視線を移す。

桶の傍でカンキツが泡に埋もれて体を洗っている。

雪だるまに手足がついたような体形。

全身オレンジ色の体毛は毛が短くて触ると柔らかくて気持ちがいい。

体毛の色より少し濃いオレンジ色のローブのような服は裾が少し広がっていてフード付ワンピースに見えなくもない。

ローブなのか、ワンピースなのか、中途半端すぎていつも気になっていたのだがそれが解決した。

服が形を変え蝙蝠のような羽になり、短い腕を伸ばしそれを一生懸命に洗っている。

まさか体の一部だったとは・・・・・




洗い終わったカンキツは羽を器用に使って桶の湯を掬い、頭からかぶり泡を流している。

桶の湯を使い切り湯船に入ってこようと縁までジャンプしてきた。

飛ばないんだ。


「ちょっと待って。」


カンキツの体を擦ってみたら泡が出てきた。


「やっぱり、残ってるじゃない。しっかり流さなきゃ」



桶に湯を汲み、カンキツを入れジャブジャブと洗う。

かなり泡が出てもう一度すすいでから湯船に入れた。

気持ちがいいようで目を細め、羽を広げて水面に浮かんでいる。


エポさんが服を全部洗うと言って持って行ってしまうから、カンキツを隠すのにお風呂に入れるしか無かったんだけど、このあとどうしよう。

貸してくれる服にポケットがあればいいんだけど・・・・なかったら・・・・

うん?

ポケット・・・・?



「カンキツ、あんたのポケットはどうしたの?非常食とか鉈とか入ってたでしょ」



キュッと一声鳴いて、浮かんだまま両手でお腹を掴み、前へ引っ張ったらベロっと捲れた。



「ええええっ有袋類!?」



カンキツが片手をあげる。

はっ大声出しちゃた。

服にポケットじゃなくてお腹についてたのか。

魔法具のような袋が体にあるってどうなの?

カンキツの種族名すら知らないけど、知ろうとも思ってなかったけど、気になりだしたわ。



風呂からでて用意された服を着た。

シャツが膝上のワンピースになった。

巻きスカートは丈が足首まである巻き過ぎスカートになった。

ポケットはなかった。


どうしようかとカンキツを見れば、タオルに転がり体を拭いている。

楽しそうだ。

巻きスカートの重なった部分に隠れるか、外に出て身を潜めてもらうか・・・・・

体を光らせないように言ってあるから、外でも茂みに隠れたら人に見つからないと思うんだけど。

うーん

タオルごとカンキツを掴みわしゃわしゃと拭きながら、もうしばらく考えるのだった。





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