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酒盛りという情報交換

ヴェルデ視点です

久しぶりの風呂に疲れがとれる。

しかも露天温泉だ。

夜空は雲一つなく満天の星空に月。

いい気分だ。



「やっぱ、この村に来たら温泉だよなー」



「私もこの村に寄ると決まった時から温泉を楽しみにしてました」



まだ混む時間ではないから、静かで気持ちがいい。

このまま月見酒といきたいものだ。








 新人が一人、俺たちと一緒に仕事をすることになった。

聖域で荷運び兼雑用係というのは、その名称に反して危険と死が付きまとう。

新人は必ずベテランの荷運び兼雑用係について、2年間行動を共にする。

仕事を学ぶというより、聖域という環境を知るための期間を与えられているのだと俺は思っている。



俺自身、聖域の常識の通じなさに驚いたものだ。

魔獣や魔物が当たり前に聖域にいるのに驚いたが、何よりも未知の魔獣や魔物が多く存在していたことだ。

遺跡らしきものまである。


そして極めつけが、異なる環境がハッキリと分かる境目で繋がっていることだ。

涼しい風が吹いていたのに、境目を超えた途端に寒く、空気さえ薄くなることもあった。



新人期間の2年を過ぎた頃には、冒険者の俺としては、ここは最高の地となった。

仕事をこなしていけば、聖域を自由に冒険できる時間が手にはいるのもいい。

これは冒険者のみの特権らしい。

そうでない者は、自由にできる時間など休息日しかない。


何より、例外を除いて冒険者以外の者が、長距離の荷運び兼雑用係になることはまずない。

魔獣や魔物がいることすら知らない者の方が多い。



共に荷運び兼雑用係をする2人は現役の冒険者で、せっかくなのでパーティーを組んで冒険に出かけている。

長距離を移動する荷運び兼雑用係は、元冒険者か現役冒険者。たまにそれ以外の腕に覚えのある者がなる。







それなのに、女の子が俺たちの前に現れた。

聖域に子供はいないから成人していると分かっているのだが。

ミルカという名の─少女にしか見えない─が長距離の荷運び兼雑用係になるという。


顔には出さなかったが心底驚いた。


俺たちが面倒を見ることは事前に聞かされていたし、その時に女性だとも聞いた。

女性がこの仕事に就くのは珍しい。いるとは聞いたことがあるが実際に会ったことは無い。

それなりの実力を持った人なのだろうと会うのを楽しみにしていたのだが、仕事に出た途端に即、魔獣に食われてしまいそうな子供に見えた。


何処にでもいる、鍛えていない庶民。そんなイメージが合う。


この話を持ってきたカラという男は、彼女は適任だと言っていた。

とてもそうは思えないのだが・・・・・




今日は聞いていた彼女のスキル?を発揮してくれたが、魔獣を相手にするより精神的に疲れた。

子守りをしたことは無いが、これがそれにあたる気がした。






「ダルエスー、今夜はミルカが私の部屋に泊まるからー。朝、送っていくわ」



声にハッとする。

思考の中に沈んでいた。

ダルエスは、こちらの了解も得ずにクーニャに返事をしている。



「おー、わかった。俺も出発ん時は見送るつもりだし、構わないだろ」



「ダルエス、まずは俺たちに聞こうな? お前らしいけどさ」



「トーゴ、分かっているなら言っても仕方ないですよ」



村に来ているもう一組の荷運び兼雑用係5人が後から温泉に入ってきた。

自然と互いの行程の話になる。


温泉に浸かりながら話してたら茹で上がってしまうだろ、どうせなら酒盛りしながらでどうだ?

ダルエスの提案で、情報交換を兼ねて酒盛りをすることになった。

もちろんダルエスも参加だ。


村の娯楽のなさを舐めえるなよ。外からやって来る人から色んな話を聞く。それがこの村の娯楽だ。

あと、酒盛りな。


と、力説していた。












「魔獣が移動している?」



「かもしれない。そこに生息していないはずの魔獣に出くわすってのを何回か経験している」



酒を飲みながら、美味いつまみを食べながら、静かに話す。

あまりいい情報ではないが聞き流すことは出来ない。

手放しで酔うのは情報を交換し終わってからだ。



「俺達も、見たことがない魔獣に襲われたな。あと、よく行く土地の状態が、変わり果ててしまった場所があった」



魔獣の活動が活発になっているようで、安全だと思われていた場所が危険な場所へ変わっているようだ。

そして不可解な変化。



「山を越えてこの村へ来たんだが、何度も通ってきた山だし慣れてはいたんだが・・・・・道が無くなっていたんだ。」



神妙な顔で5人のリーダーのケレンが言う。

山の景色は変わりやすい。

道も誰も通らなければ草木に埋もれて消えてしまう。

だが、



「道が途切れていたんだ。深い崖に道が断たれていてな、だがそこは一本道だから道を間違えるはずも無い」



「それは変だな。崖ができる程のことが起こったなら、この村にいても異変は感じるはずなのだがなぁ」



「渡れる幅でもなかったから来た道を戻り麓を通ってきたんだが、そのとき遠目にだが飛竜をみた」



「あの山は魔獣がいないはずだが住み着いたのか、面倒な」



平野で旅がしやすくても魔獣がいれば困難になる。

逆に山道が険しくても魔獣がいないだけでずいぶん楽になる。

そんな貴重な山に魔獣が住みついた。

全員が眉間に皺を寄せる。



「地図で具体的な場所を確認しながら話そう。聖域は森や山に名前が無いのが多くて話しづらい」



ヴェルデが地図を取り出し広げる。

知っている限りをすべて伝えあい、縮尺の大きいものから小さいものまでを使い、地図でその場所を示す。

移動に使う道は、荷運び兼雑用係なら似通る。だが、それが冒険者となると危険回避のために独自に別ルートを開拓している場合がある。

それらも地図で道をたどり正確に教えあう。










「で?」



「ん?」



話が一段落して本格的に酒盛りがはじまり皆が気持ち良く酔い始めたとき、おもむろにケレンがヴェルデに詰め寄る。



「ん? じゃないだろ。なんで少女を連れているんだ? ここに子供はいないはずだが」



「彼女は成人しているよ。新人の荷運び兼雑用係で、俺達と共に2年間共に仕事をすることになった。」



「はぁ!?」


笑えないんだが・・・・

冗談だろ!?

実は強いとか?

すぐに魔獣にやられそうだが。



どの反応も納得できる。

あの時の俺も内心ではそうだった。



「子供にしか見えなかったが、そうだな子供が居るはずも無い。だが俺達と同じ仕事が出来るとは思えないな」



「同意見だが、とにかく仲介者が俺たちを指名してミルカを連れてきたんだ。従うさ」



「仲介者って誰だ?」



そんなヤツは聞いたことがないとケレンの顔が言っている。



「ああ、俺たちが勝手にそう呼んでるだけだ。あんたたちも聖域での仕事を持ちかけてきたヤツがいただろ?あいつらの事だ。」



「ああ・・・・・仲介者か。っはは、合ってるな俺もそう呼ぶか。で、その仲介者が連れてきたからって一般庶民の面倒をみるのか、俺なら断るがな」



「・・・・本当に一般庶民なのでしょうか、私は違和感を感じる事があるのですが」



皆の視線がアソラルに集まる。

自信がないのか少し困ったような顔をしながら、話を続ける。



「漠然と霧を掴むような、そんな小さな違和感を覚えるんです。ミルカは一般庶民という雰囲気で実際にそうなのだろうと思います。ですが、ふとした時にミルカの気配が揺れるような・・・・悪い感じはしないのですけれど・・・・常には心地よいというか安心する気配というか」



「要領を得ないな」



「ですよね。すみません、自分でもどう受け止めていいのか分からなくて」



「アソラルが言ってるのとは違うかもだけど、俺もミルカは何かあるんじゃないかって思ったな」



トーゴとアソラルの目があう。



「俺、索敵は得意だし自分でもそっち方面は結構優れていると思ってたんだどさ、川で野宿した時俺よりも早く魔獣を感知してたろ。なのに魔獣に怯えてて・・・・変だろ? 索敵が優れているのに真っ青になって震えて。だから、何と言ったらいいのか、ちぐはぐ? な感じがしたし、ミルカには何かあるんじゃないかな」



・・・・・・・・・・・



沈黙が降りる。

そういえば、と、あの時の事をヴェルデが思い出した。



「ミルカは荷馬車を降りてトーゴとは反対の方向へ行ったな。ミルカとトーゴの間には馬車があって見えないハズだ。なのにその先の川を越えた場所に何かがいると言っていた。あとアソラルが、何か見たのかと聞いたとき答えなかったな」



・・・・・・・・・・



また沈黙が降りる。

一口、酒を飲みトーゴがさらに続ける。



「あのさ、まだあるんだけど。林を抜けたところで、ミルカが野草を取ってただろ。あの時、なんか引っかかてさ。遠くにいるミルカと一緒に違うのが混ざってるっていうか。でだ、気配を消して近づいたんだが、かえって何も感じなくなってだな。ミルカは俺がいきなり背後にいるのに驚いて・・・・」



トーゴが言葉を切る。アソラルと同じでやっぱり容量を得ない、掴み処のない話をしていると自覚してしまう。



「あの後一緒に野草を取ってたんだが、ミルカに不自然な感じがあった。何か─野草ではなくて─を探している素振りがあった。あと、幽かな気配だが、ミルカに纏わりつくような。探ろうとすると消えるんだ・・・・・・気のせいだったかな?て思うほど幽かなんだが・・・・・えーと、・・・・うあーーー、だめだ、自分で言ってて分からなくなってきた」



髪を搔きむしりながら頭を振る。



「要するに、嬢ちゃんは、よく分からない不思議な雰囲気を纏ってるってことだな。別にいいんじゃないか? 村に来る連中のなかには得体の知れないヤツもくるし、聖域ってところは人の枠で考えない方がいい。でないと剥げるぞ。それに一緒にいれば慣れてくるだろうし、徐々にお互いを知っていけば分かることもあるだろ」



ダルエスがつまみを食べながらさらに続ける。



「今日あったばかりだが、嬢ちゃんが類稀なるスキルを持ってるのを知った。だからって警戒する必要は無かったし。不思議、不可解、得体が知れない、なんてのは悪い事ばかりじゃないさ。それが聖域らしい事なんだよ。それにミルカは、たぶんだけど、この村の娯楽になる予感がする。正直、迷子探しは子供とかくれんぼしてるみたいで楽しかった」



「かくれんぼ?」



静かに会話を聞いていたのだが。

5人の中では、なぜ少女を連れているのか?から、何か得体の知れない人物という認識を持ち、そこから迷子でかくれんぼ。

言っている意味が分からない。

ケレンたち5人の頭の上に?マークが浮かんでいるような顔をしている。

無理もない。



最後にダルエスが酒を注ぎながら締めくくる。



「俺は嬢ちゃんが危険な人物には見えないな。人外だったっとしても、嬢ちゃんは嬢ちゃんのまま変わらない気がする。あの迷子っぷりが別の意味で危険なことは認めるが」




ふむ、確かにそうだ。

俺達はミルカに対して危険を感じたことは無い。

仲介者が現れる時は大抵、知らないところで何かが動いている時だ。


魔獣の移動や大地の大きな変化という重大事の前では、忘れてしまいそうな些細な事だ。








そうだな、真面目な話はここまでだ。

せっかく互いに貴重な酒を出しているんだ楽しまなければ。



ダルエスが村外の話を催促し、珍しい場所、景色、モノなど、知る限り、体験した限りを話し、夜が更けっていく。

話題はミルカにうつり、最初とは違い、話す内容は昼間の出来事。

村からすれば珍事件。

ダルエスがコレは語り継ぐ!と力説していた。





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