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聖域の冒険者3

「ご迷惑をおかけしました。」



深々と頭を下げる。



「どうやったらこの距離で迷えるんだ」



赤髪ヴェルデさんが呆れている。

赤髪ヴェルデさん、銀髪アソラルさん、藍髪トーゴさん、村長代理ダルエスさんが私を探してくれて、銀髪アソラルさんが見つけてくれた。

今は村長宅に集まっている。



「どこで見つけたんだ?」



「工房の前で見つけたました」



銀髪アソラルさんは頭が痛いと言わんばかりに眉を寄せて続ける。



「工房を探している様子で、工房の向かいを見ながら通り過ぎていました」



「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」



藍髪トーゴさんが無言で頬をつねる。

目は口程に物を言う。



「いっ!」



痛い、藍髪トーゴさん痛いっ。



「・・・・・・・・・そうだな」



ぼそりと呟いてもう片方の頬を赤髪ヴェルデさんがつねる。



「~~~っいひゃい、いひゃい」



「私の分までしっかりつねって下さい」



「あ、俺の分も頼むわ」



「ごぇんなふぁい、ごぇんなふぁい、ごぇんなふぁい」



ミルカの手で払いのけられるはずも無く、両頬がしっかり赤くなるまでつねられた。


もう二度と一人になるな。

俺たちの誰かの傍にいるんだぞ。

私達が離れる場合は留守番して下さい。あとお使いはやめてください。

この村にいる間は嬢ちゃんに誰か付けた方がいいか?


何も反論できません。

大人しくしています。

村長代理ダルエスさん、明日出発するので誰も付けなくていいです。
















っはーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ



長い息を吐きながら温泉につかる。

みっちり怒られた後、村長さんたちと一緒に夕食を食べ、温泉にきている。

もちろん赤髪ヴェルデさんたちも一緒に来ているが、男女別だからと、村長代理ダルエスさんがこの温泉に行くためだけに村の事務クーニャさんを付けてくれた。

彼女は村長宅に住み、村での事務をしている人で、雑務が多くて自分の事を「何でも屋」だと言って笑っていた。

温泉まで赤髪ヴェルデさん達と一緒に行くし、入口が隣合わせなだけなので迷子になるはずもないのに「いや、油断禁物!」と村長代理ダルエスさんに断言された。




混む時間を避けて連れて来てくれたから、人はまばらで空いていた。

露天風呂サイコー。

夜風が頬にあたって気持ちいい。

なんか今日は疲れちゃったけど、最後に癒されたわー。

あー、ダラダラ浸かっていたい。



「長いのにミルカの髪は傷んでないわねぇ。何か手入れしてるの?」



「なにもしてないわ。いつも後ろで束ねているだけだし」



「ふぅん。そうだ、上がったら家に来ない? 村長宅だし知ってるでしょ?」



「え、でも」



「大丈夫よ、送っていくし。なんなら泊まっていきなさいよ。朝に送っていくから。あの家は男ばっかりでつまらないのよね。お菓子を用意して女同士でおしゃべりしたいのよ。ね?」



男ばっかりか。それはたまには女同士でって思うわね。

うちも兄ちゃんしかいなくて、姉か妹のいる友達が羨ましかったわ。

でも、今日は迷惑かけちゃったし、赤髪ヴェルデさん達と帰ったほうがいいわ。

また怒られそう。



「ダルエスー、今夜はミルカが私の部屋に泊まるからー。朝、送っていくわ」



風呂の衝立の向こう側、男湯に向かって事務クーニャさんが声をかける。



「ええっ!? まだ何も言ってない」



慌てて事務員クーニャさんを止めにはいる。



「おー、わかった。俺も出発ん時は見送るつもりだし、構わないだろ」



いいの!?

返事が早かったけど、そこにいる3人を無視して返事したわよね?



「いいなー、クーニャ、私もまぜて」



「楽しそうね、私も行きたいわ」



え? え?



「私もー。つまめる物もっていくわ」



え?



温泉に入っていた他の女性たちがワラワラと寄ってきた。

村人とは皆が顔見知りなもの。

どの村でも町でも娯楽は少ない。


そしてミルカは娯楽になった。




ほっこほっこで温泉をでると赤髪ヴェルデさん達も上がっていた。

知らない人達と話をしている。あの人たちがもう一組の荷運び兼雑用係なのだろう。



「クーニャ、俺達は酒盛りするから帰ったらつまみを作ってくれないか?」



「は? まさか村長宅うちでするんじゃないでしょうね!?」



「ダメよ、村長宅は今日は私たちの貸し切りよ」



「そちらが使ってる空き家でやんなさいよ」



「なんだよ、俺だって村長宅に住んでるんだぞ」



「つまみなら、私たちが持ち寄るのを分けてあげるから他所へ行きなさい」



「えー、ひどくないか?」



「つまみは要らないのね?」



「いる」



こういう時は女のほうが強い。

村長代理ダルエスさん対女達では、村長代理ダルエスさんが不利。

娯楽がない分、飯は美味しい物が食べたいと、女たちが作る料理はどれも美味い。

男でも料理はするが大雑把な料理になってしまうのだ。

この村の男たちは女に胃袋を掴まれているので、食べ物のことになると逆らえないようで。

うまい酒には美味いつまみが欲しいもの。















事務員クーニャさんがキッチンでつまみを手際よく作っている。

居間で出来上がるのを大人しく待っている村長代理ダルエスさんに話しかけた。



「私たちは事務クーニャさんの部屋でするから、居間で酒盛り出来ると思うんだけど」



「俺達も盛り上がると五月蠅いからなー。たまに怒られるんだ」



「こっちも盛り上がるから今日はお互い様になると思うよ?」



「こっちで酒盛りしても、つまみ作ってくれないんじゃしょうがないよ。クーニャの作るつまみは美味いんだぜ、せっかく村に来たんだし、あいつらにも食わしてやりたいんだよな」



良い笑顔でつまみを褒める。

ぷふっ、

そんな村長代理ダルエスさんがご飯を待つワンコみたいで思わず笑ってしまった。

逆らえないほど美味しいんだ。

それは楽しみだわ。





程なくして出来上がったつまみと酒と、女たちがそれぞれに作ってきたつまみを少しずつ貰って、赤髪ヴェルデさん達のいる空き家へ持って行った。

そしてこちらも女子会が始まった。







「かわいい! これって髪が長くないと出来ないのよね。」



「このリボンをつけたらどうかしら?」



「次、私にも結わせて」



ミルカが玩具になっていた。よく言えばモデル。

背の低いミルカは子供に見えるらしく、子供に似あう髪型にして遊んでいる。

ミルカも綺麗に結いあげてくれるのが嬉しくて鏡の前でじっとしている。



「この髪型いい! これ好き」



「ふふ、力作よ」



「ちょっといつの間にそんな結い方覚えたのよ」



「髪結いにかけては誰にも負けないわよ」



結ってはほどき、ほどいては結うを繰り返し、それぞれが知る結い方を披露している。

持ち寄った菓子もつまみも酒もあまり食べないうちに隅に追いやられ、キャッキャウフフと盛り上がり夜もふけっていった。







────────────




瞼を閉じていても眩しい。

部屋に朝日が射していた。

眠い。いつ寝たのか覚えてないわ。

ああ、起きなきゃ・・・・・・・・・・・スー・・・スー・・・・



「ミルカご飯ができたわよ。ほら起きて」



被っていた布団を剥がされ、思わず膝を抱え丸くなる。



「うーん、眠い」



「ほらほら、早くしないと仲間に置いて行かれちゃうわよ」



・・・それは嫌だ。



まだ眠っていたいと体が訴えているが、何とか、ノロノロと起き上がり部屋を見回す。

他の女達がいない。

彼女達も泊まるのだと思っていたが仕事があるから帰ったという。

村の仕事は朝が早い。暗いうちからもあれば夜を徹しての仕事となることもよくある。

きっと、昨日の女子会のように集まって遊ぶなんて滅多にないことなのだろう。



大きな欠伸をしながら、ぐちゃぐちゃになっている髪を手梳きで整えていく。



「私が梳いてあげるわ」



事務クーニャさんが櫛で絡まった髪をゆっくりと梳いてゆく。

ミルカの髪は背中を隠してしまうほど長い。


いつも伸ばしては髪を売って小遣いにしていた。

こげ茶色のミルカの髪は、かつらを作るときに明るい色のかつらの差し色に使うことが多いらしい。

裕福な人の中にはそういうかつらをお洒落として好む人が一定数いるのだと。

もう売りにいってもいい長さなのだが、聖域にはそういう店など無く、前の休みの時に売りに行くつもりだったのだが、すっかり忘れてしまっていた。



「は~。やっぱり綺麗な髪ね。今日は私が結ってもいいかしら? ただ後ろで束ねるだけじゃなくてさ」



「いいけど、昨日みたいなのじゃなければ」



みんなが結い上げたものは、どれも裕福なお嬢様がおしゃれしてそうな結い方で仕事には向かない。



「仕事の邪魔になるような結い方はしないわよ。まかせて」



「任せた」















赤髪ヴェルデさん達がいる空き家まで事務クーニャさんに連れていってもらうと、玄関先で村長代理ダルエスさんが荷馬車の準備をいてくれていた。

3人はというと、防具を身に着けて支度を整えていた。

おはよう~っと近づいたら、



「酒くさ!」



家の中を覗いてみたら、酔い潰れているもう一組の荷運び兼雑用係の5人と大量の酒瓶が転がっていた。

どれだけ飲んだの・・・・



「この大量のお酒は何処から?」



「この収納カバンにまだまだ入ってますよ。飲みますか?」



銀髪アソラルさんの荷物からショルダーバッグサイズの収納カバンがでてきた。



「遠慮するわ。収納カバン、持ってるだろうとは思ってのだけどすごい量がはいるのね。」



角ウサギの大量の肉とか摘んだ野草とかがいつの間に消えてたから、持っているとは思ってたけど、酒まで大量に入るなんてどれだけの容量なのかしら。


支度の終わった銀髪アソラルさんが空になった酒瓶を片付けている。といっても無造作に収納カバンに放り込んでいるだけなのだが。


このピクリとも動かない5人はどうするのかしら。

この人達だって今日出発するのよね?



「リボンの付いたお団子になってるじゃないか、やってもらったのか? 似合ってるな可愛いぞ」



洗った顔を拭きながら、藍髪トーゴさんがポンとミルカの頭に手をのせる。

撫でずにのせるだけ。乱れないように気を使ってくれている。

似合うと褒められて嬉しいミルカと、似合うように結った髪を褒められた事務クーニャさんがニコーっと笑顔になる。










「準備ができたぞ、ダルエス世話になったな」



「いや、世話ってほどのことはしてないし。珍しい酒が飲めて楽しかったよ」



「本当に村長に挨拶しなくていいんですか?」



「ああ、いいって。村長も挨拶はいらんから次もいい毛皮を持ってきてくれってさ」



「挨拶なら私がしてきたわよ。泊まってたし」



「ちゃんと挨拶ができるのか、嬢ちゃんはえらいな」



「子供じゃない!」



「うんうん、凄まじい迷子っぷりが治ったら大人になれるよ」



ミルカとダルエスのやり取りに3人は視線を交わす。

互いに、それだけじゃ大人になるのは無理だよなって顔をして。



別れの挨拶を交わし荷馬車に乗り村をあとにする。

酔い潰れてた5人はもう一泊するだろうな。

皆同じように飲んでたって言ってたけど、この3人と村長代理ダルエスさんはめちゃくちゃ酒が強いのね。平然としているわ。


遠ざかる村を眺めると山羊が牧羊犬に追われている。

次に来るときは、自分で狩った毛皮を持ってきたいなぁ。



「ミルカ、おまえの分だ。落とさないよう気をつけるんだぞ」



言ってこちらに小さな袋を投げてきた。

受け取ると金が入っている。

なんの金か分からず首を傾げると、投げた藍髪トーゴさんを銀髪アソラルさんが窘める。



「投げるのものではありませんよ。それは魔獣の毛皮を売ってできた金です」



後に続く言葉はミルカへ向けらたものだ。



「私の分って、何もしてないのに」



「一緒に仕事をしているんだ、俺たちは手に入った金は山分けすることにしている」



「そういう事だ。遠慮なく受け取れ。それに、ミルカが最初に魔獣に気付いて教えてくれただろ」



「あ、」



あれは、カンキツが教えてくれたから。

私じゃないんだけどな。

なんか、こんなに貰うのは・・・・・



「私たちは自分が出来ることをして支え合う仲間です。ミルカが遠慮することはないんですよ」



にっこり笑ってバッグに仕舞いなさいと促される。

後ろめたい気もするが、ありがたく受け取ることにした。



「ありがとう、貰っておくわ」














──────────────


空は青く澄み渡り、少し汗ばむ陽気。

ひんやりと冷たい風が吹くと心地いい。

とても良い天気だ。

そこへ轟々と響き渡る凄まじい音。


目の前に荒々しく流れる濁った川があり、行く手を遮っている。

上流で大雨が降ったらしい。

橋があったのだが流されてしまっている。



「うーん、参った。迂回しようにも、この水量だと架かっている橋は全滅だろうなぁ」



「上流へ行って山を登っていくか。下流の森まで行って迂回するかですね」



地図を広げながら唸る。

上流にある山の中腹あたりから川が出来ていて、麓でいくつかの川が合流している。

山を登れは川も小さくなって渡れるようになる。

反対に下流は、森の中で川が途切れている。

これと同じようになっている地図を見たことがある。

川の途切れたところで地下へ落ちる滝になっているのだ。

そこまで行けば川を渡らずに向こうへ行ける。



「山はだめだ、下流へ迂回しよう」



「この距離じゃ森で野宿だなぁ」



そういえば、初日に最速で3日って言ってたのだった。

聞き流してたわ。

寄り道したとはいえ、目的のアリエナ村まで数日はかかりそうだ。

町から遠く離れると仕事も順調に行かなくなるものなのね。

次の村までこれ以上問題が起こりませんように。



「さて、時間が増えたことだし、ミルカ、俺の名前はなーんだ?」



ミルカが固まった。

えええっ今? 朝、何も言ってこなかったから油断したわ。



「俺らは互いに名前を呼び合ってるんだぞ、聞いてたらわかるよな? ほら俺の名前いってみ?」



ほらほら、っとニヤニヤと催促してくる。

答えられないの前提で聞いるのが在り在りと伝わってくる。

私は覚えられる人なのよ。

ちょと時間がかかるけど、今は既に何となく覚えてきてるんだからね。



「・・・・・・ご、ゴ・・・・ゴー・・・・・・・ゴ?」



「うん、そうだな。俺の名前にゴは入ってるぞ。もう少しだ、がんばれ」



あら?思ったより名前が出てこないわ、変ね。

セリフが棒読みはやだわ。

ぬるい目でみるのヤメテ。

ゴはあってるのね、えーと何だっけ? なんだっけかー・・・



「うーん、うーんと、ゴ・・・・ゴなんとか・・」



「アウト」



まさかの銀髪アソラルさんからダメ判定きた。

もう少し頑張らせて欲しかった。



「残念だったな。トーゴだ、言ってみ?」



「ごめんさい、トーゴさん」



「もう一回、トーゴ」



「トーゴさん」



「あと3回言ってみようか」



「トーゴさん、トーゴさん、トーゴさん」



「よし、早く覚えてくれよ」



頷いて、座りなおし、ぶつぶつとトーゴさんと繰り返しているミルカ。

そんな彼女に気付かれないように、まるで喋りはじめた赤子に言葉を教えているみたいだと、ヴェルデとアソラルは静かに笑っていた。










御者台で手綱を握る赤髪ヴェルデさんの横に座り、轟々と激しい音を立てて流れる川が見えないように反対側を眺めている。

見渡すと密集した黄色い花があちこちに点在している。

澄み渡る青い空と相まってピクニックしたくなる景色だ。


そこから視線を前方に向けると、赤茶けた土が剥き出しになり、花などどこにも見えない荒涼とした景色に変わっている。


突然景色が変わる。

こういう変化は、聖域のどこでも見られるとヴェルデさんが教えてくれた。


黄色い花が咲く地から赤茶けた地へと進むと、その境目は線を引いたようにガラリと変わる。

同時に空気がひどく乾燥した。



「この程度の変化ならマシなほうだ。穏やかな陽気から嵐へ変わることもある。だから、行き先が知っている村でも、同じ道を通れるかわからない」



そうなんだ。最速で3日ってこういう事だったのか。

魔獣とか、天候とかだと思ってた。

聖域で起こる異常現象に気をつけなくちゃいけないんだ。



「村が突然潰れちゃったりもするの?」



「俺が知る限りじゃ村の周囲は安定している。突然氷の池が現れたりはしないな」



「なにそれ、例えが笑えない」



「まあ、そのうち経験するだろ。変化するときは、説明が難しいが異常を感じとれるな」



「ホントの例えだったの!? ・・・・よくわかんないけど分かったわ」



それがどういう状況なのか、赤髪ヴェルデさんもどう表現したらいいか分からないらしい。

なんだか怖いわ、ホント聖域って予想外のさらに上をいくよね。













シュッ! 


パシ!


シュッ!


パシ!



荷馬車を止め、馬に水を与え休ませている。

ミルカは藍髪トーゴさんの掌をめがけて小石を真剣に本気で投げている。

藍髪トーゴさんの掌を的にして、その掌を上下に動かしミルカのコントロール具合みているのだ。



「うん、いい腕だ。投擲に向いてるな。弓があればそれも試してみたいとこだが」



肩で息をしているミルカとは対照的に平然としている。全力の投擲は全くダメージを与えていない。



「ありがとう、でも師匠に投擲も弓も剣も基本は良いって言われたの。だけど、手合せになると全然だめで」



「そうなのですか?少なくとも投擲は筋がいいですし、経験を積めば良くなってくると思いますよ」



「そうだな、自分を守れるようになった方がいいだろう。投擲武器を持っていないなら、この仕事が終わったら自分に合うのを買うといい」



見ていた二人も、それほど悪くないと評価してくれている。

ただ、剣や体術は攻撃が軽くてダメージを与えられないでいた。

それでも鍛錬を積めば、合った戦い方があると思うがミルカにその器用さがあるか疑問だった。



「大丈夫だろ、これから嫌でも経験を積んでいくわけだし。こうやって俺達3人が鍛えてやるから何とかなるって。」



ポンポンとミルカの頭に手をのせ、問題ないぞっていい顔して笑う。

切らした息が整っていくと、ジワリと心の奥に閉ざしてしまった希望が滲みでるのを感じてしまう。

冒険者を目指していたときの気持ちを。

あんなに怖い思いをしたのに・・・・




そこから森まであまり時間はかからずに着いた。

乾燥した赤茶けた大地の荒野とは逆に湿度が高い。

木々をよく見ると、小動物がそこかしこにいる。

とても豊かな森なのだろう。



こんなに豊かだと魔獣もいそうだわ。



進みながら良い場所はないかと見回す。

出来れば開けた場所で荷馬車を止め、昼飯を取りたいのだが適当な場所が見つからない。

こうなると早めに野宿場所を見つけたほうがいいかも知れない。


縮尺の小さい地図で森の開けた場所を探す。

だが、村と違い [森の中の開けた場所] を地図に反映させようとしても、うまく絞り込めないようで、現在地を中心に、幹の太い木の位置があるだけで、それがない場所へ行っても低木があったりして開けていないことが多い。もしくは広さが足りない。

もう何度もそれを繰り返している。



「こうなると、目星をつけた場所へ先に行って、確認してから荷馬車を動かしたほうがいいですね。ちょうど、ここから近い場所に2か所ありますから、私が見てきましょう」



「なら、俺がもう一つの方に行こう。早く見つけて休みたい。ヴェルデ、留守番とミルカを頼むな」



「ああ、何かあれば知らせてくれ」



「気をつけてね」



二人の姿が木々で見えなくなり、私はさっきまで銀髪アソラルさんが見ていた地図を手に取る。

もし、見に行った場所がダメだった時のために他の場所を見つけておきたい。

私って3人について行ってるだけで全く役にたっていないから、何か出来ることをしたいの。


地図上でその図がゆっくりと動き、近くから徐々に遠くへと移動していく。

見たいのは休める場所。

じっと眺めていたら、森の地図なのに相応しくない四角や台形といった人工物のような形が密集している場所があった。それも広い。



「これって村?」



御者台に座っている赤髪ヴェルデさんが反応する。



「この森に村があるのか?」



「ここ、村っぽいわよね?」



地図上の村らしき場所に指をさす。

現在地から少し離れているが行けない距離でもない。



「確かに、これは村だな。二人を呼び戻してくれ」



「わかった。これを使うのね。初めて使うわ」



自分のバッグから支給されたビー玉サイズの通信玉を出す。離れた場所にいる相手と会話ができる道具で、同時に複数と会話が可能な素晴らしい魔法具で、魔力の少ないミルカでも使える。ただし使い捨て。


握りしめ僅かな魔力をそそぎ発動する。



藍髪トーゴさん、銀髪アソラルさん聞こえるかしら?


──ミルカ!?


──どうした、何かあったか?


良かった、通じた。初めてだから発動させるのに緊張したわ。


──試しただけかよ・・・・驚かすな


違うわよ、村を見つけたの。二人とも戻ってきて。


──村ですか!?


少し離れてるけど、行ける距離だからそこへ向かうって。


──わかりました戻ります。


──了解だ!





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