就職します。
ミルカの心の中
冒険者に憧れて本気で冒険者になろうと努力して → 結果 → 一般人にしかなれなかった → 普通に働いて普通に暮らして普通に誰かの嫁になろう・・・成人を迎えたミルカは気持ちを切り替えて無難な仕事を探す。
「成績は上のほう。体力は並み。手先は普通から不器用の中間くらいでしょうか。
今まで家業の手伝いをしていましたので授業以外の活動はしていません。
特技は短期間で覚えてそれらを短期間で忘れることです。買い物のときに便利です。」
面接官からの質問に淡々と答える私。わかっているんですよ、こんな受け答えでいいわけがない。受かるはずもない。だけど自分を過大評価することはできない。あとでバレてがっかりされるほうが辛いですから。
そしてなにもよりも受かりたくない。
いやそもそも競争率の高い職だから無理なの決定なんだどね。
数年ぶりに聖域での求人があり世界中から面接に来ている。しかも身分関係なし!
あまりの人の多さにかけて面接を終わらせるのに何か月もかかるとか。さすが聖域。そこで働けるなんて名誉なことだしね。
親にダメもとで受けとけ!と無理やり面接に行くように言われて今こうしているわけで・・・・
そして今、この職を選んだ一番の理由(選んでないけど用意しておいた理由)を答えた。
「給料が一番いい職なので選びました」
満面の笑みで言ったわ!こんな理由で働こうなんていう人はまず採用されないわ。特にここではね。
ここは家から遠くて徒歩2時間はかかるのよ。往復で4時間!辻馬車を使えば早いけどそんな余裕はないし歩くしかない。歩くこと自体は平気だけど一日4時間も歩くだけなんて時間がもったいない。私はもっと家の近くで働きたい。近所には宿兼飯屋のホール募集の張り紙があったし、辻馬車の厩舎の掃除と馬の世話、雑穀屋の配達人などなど、求人はけっこうある。
「家業があるのになぜ職探しをしているのですか?」
おっと、もう下がれと言われると思ったのにまた質問されたわ。
「我が家では子供のうちは家業の手伝いをしますが、家業を職とするにはその前に他の仕事をして経験をつむのが決まりなんです。」
嘘です。そんな決まりはありません。
これが面接の最後の質問だった。面接室を出ておもいっきり体をのばす。
順番待ちで椅子にずーっと座り続けて、さらに面接官が4人もいて(一応)緊張していたのとで体が痛い。
面接は朝はやくから始まったのにもう昼を過ぎている。
まだ面接待ちの人に同情する。面接官にも同情するわ。
採用者にだけ連絡がいくことになっている。けど、面接自体が終わるのって何か月先よ?
まあ、私には関係ないわ。
「おなかすいた~。帰りながらなんか食べ物買おう」
2時間かけて我が家に帰ると、慣れない一日に疲れた私は夕食もとらずに寝てしまった。
明日から本気で職探しです。
職探し一日目であっさりと決まりました。宿屋兼飯屋マーサで雇ってもらえました。
この職場は家から一番ちかくてしかも宿屋の主人マッカさんはうちのお得意さんでもある。
この宿屋の食堂は安くておいしいと評判で繁盛している。その料理に使ってるのが、うちで扱っている香辛料ってことでほかの料理屋からも贔屓にしてもらっている。
この店の常連客は血の気がおおそうなゴツイ人たちが多い。冒険者とかかな。とにかく客はほぼ男。
喧嘩もよくあるんだけど、元冒険者のマッカさんは強い。喧嘩両成敗という必殺技で喧嘩を止める。私はこの必殺技を回避した客を見たことがない。
前まで働いていた人が自分の夢だったパン屋を開きたいといって辞めてしまって代わりの人が見つからずにいたところを私がやってきたのだけど私としてはラッキーだったわ。
「ミルカ、裏でジャガイモの皮むいてくれ。忙しくなったらホールにでてくれ」
「ハイ」
ホール募集だったのに雑用も当たり前になってしまってる。仕事にはすっかり慣れて料理と力仕事以外ならできるようになったわ。
ん~んんー♪ん~んんんー♪ジャガイモの皮をむきながら歌っていたらマッカさんに呼ばれてホールへ。
「よーミルカ、ご機嫌でジャガイモの皮むいてたな」
「なんで知ってるのよ!?」
店の裏に人なんていなかったはず。だから歌ってたのに。
「あいからずデタラメな歌なんだろ?」
「鼻歌だった。デタラメ歌をごまかしてたな」
私の癖、気分がよくなるとなんでも歌にしてしまうこと。しかも無意識に口ずさんでしまうことが多い。
この店の常連にバレてからは言葉にないでごまかしてたのに。店の中で歌わないように気を付けてたのにからかわれると結構はずかしい。
「デルフさん、もう聞かないで。聞こえても聞かない!」
テーブルに肉料理を置きながら怒ったふりで恥ずかしかをごまかす。
とたんに店内は爆笑!
「俺をよんだか?ミルカ」
違うテーブルから返事が来る。向こうの人がデルフさんだったか・・・
「相変わらず名前を覚えねーなぁ」
「名前だけでなく顔も覚えてないって」
またやってしまった。名前覚えたと思ったのにっ!じゃあ目の前にいるこの人はだれよ!?
自分で自分が嫌になる。なんでこうも顔と名前を一致して覚えられないのか・・・・
安くてうまい飯屋で通っている「宿屋マーサ」なのに、私のコレが名物になりつつあるとかヤメテ。涙目になるわ。
「うぅ~~~~~常連さんなのは覚えてるわ。顔も覚えたのよ。名前だって覚えたんだから。思い出すから思い出すからっ」
客たちは完全に楽しんでこっちを見ている。なにかを期待した目でみている。マッカさんと女将さんのポワノさんまでも楽し気な視線をこちらに向けている。何を期待しているのかを私は知っているわ。私はそれを裏切りたいのよ。記憶から常連さんたちの名前を引き出して、コレだ!とおもう名前を出す。
「サザカルさん!」
爆笑再び。
「ミルカにしたら頑張った感はあるな!」
「誰だよサザカルさんって」
「自己紹介やるかぁ?」
「俺はカザールだ」
「ごめんなさい・・・カザールさん」
普通、名前間違えるとか失礼なことなのに笑って許してくれる(遊ばれてる?)のはありがたいと思うわ。
やさしさだよね(と思いたい)
常連客の名前と顔を覚えられなくて、その客たちが私が覚えるまで何度も自己紹介してくれる。いや、自己紹介という遊びが始まる。遊び方というのが
・ちゃんと覚えている人の名前を本人の前に立っていう。
・それ以外、覚えている名前を言ってみる。本人がいるぞ!って言われた場合はだれがその人なのかを当てる。
・当てられず、覚えられていない人がいたらその人に自己紹介してもらう。
こんな感じ。ものすごく失礼な遊びだ。覚えられなくてごめんなさい。この遊びができなくなるよう頑張ります。
夜の食事時の忙しさが落ち着いたら私の仕事は終わり。
「じゃあ、私はあがりますねー」
「おう、お疲れさん」
「ミルカ、明日は香辛料を持ってきてちょうだい。リスト渡しておくわ」
「毎度あり~♪挽きたてを持ってきますね」
帰宅してすぐ、リストを父さんに渡す。
明日、仕事へ行くときに持っていくから配達はいらないと伝える。
「なんだ、注文なんだから配達だってするぜ。宿屋で働いてるからってお前が持っていく必要はない。」
「いいのよ。これも宿屋マーサでの仕事よ。お使いもするんだから。」
「いいじゃないか、お前の自己紹介ゲーム見てみたいぞ」
「見られたくないからお使いしてんのよ!」
「あら、成人して初めての仕事でたった数か月で名物を作るなんてすごいじゃい。女将さんも常連さんが増えたって喜んでたわよ。母さんもみてみたいわぁ」
「来ないでっ!来たら父さんと母さんの名前を間違えてやるんだから」
「それいいな。父さんと母さんに新しい名前をつけてやれよ」
「ミナ兄ちゃん、ふざけたこと言ってんじゃないわよ、ナミ兄ちゃん」
「なっ・・・ここで間違えなくてもいいだろ!?」
兄ちゃんの顎を下からグリグリと突上げる。本当はこめかみグリグリをしたいけど身長差がありすぎて出来ない。ミナ兄ちゃんは背が高くて2mはあるんじゃないかと思う。私は靴によっては160cmに届くわ。
子供のころはミナ兄ちゃんのこめかみをグリグリしてたのにいつの間にか手が届かなくなった。
顎をグリグリされながら私の頭をなでてくる兄。
「まぁ、あそこはよく利用する飯屋だしな。そのうちお前の働いてるところも見れるだろ。これでも心配してるんだよ。ミルカは方向音痴だからなー。そっちまで名物になってくれるなよ?」
「!」
殴ってやろう拳を振り上げると、撫でていたその手で私の頭をがっしとつかみ腕をつっぱらせて余裕で回避した。
店にきたら激辛の飯を出してやるっ。
誤字脱字や言葉の使い方がおかしかったらすみません。