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「弘田…」
長原は茫然と俺を見ていた。
「オマエが、どうして、ここにいる?」
長原はきっと、動揺していた。
まあ、そう言いたくなるよな、とは思う。
俺に聞かれたくないこと、夏希に知られたくないことを長原は神立に全てぶちまけていたから。
「一息つこうと思ってここに来て、昼寝してたらお前らが来て、どくにどけなくなったんだよ」
俺は、息継ぎする。
「だから成り行きでほとんど話聞いちまった。悪ィ」
まぁ、しゃーねぇな、気づかなかった俺らが悪い。と、言うのは神立だ。
神立が言うならきっとそうなのだろう、と、長原も無理やり自分を納得させようとしている。
「俺、お前に聞いてみたかったんだけど。」
神立はそのまま俺に話しかける。
「なんだ」
「弘田から見て、井上さんって、どうだったの。」
俺は、しばらく固まる。神立は俺が話すのを嫌がっているのだと思ったようで、口を開く。
「不本意とはいえ、浩介の考えとか柔いとことか、聞いちまったんだしさ、ちょっと位話してくれないとアンフェアじゃねぇ?」
フェアとか正直よくわからんのだけれど、話せと言うなら、話す。隠し立てするようなものではない。
「夏希は間違いなく、長原のことが好きだったよ。」
「嘘だ!」
長原は叫ぶ。いやだ、認めたくない。きっとそう思っている。
好きな子と付き合う機会を自分の勘違いでうしなったのだから。
「嘘じゃねぇよ。俺と話してる時も半分以上はお前の話だし、何より表情がお前のこと話してる時とその他のことを話してる時でまるで違う。俺は異性として認識すらされてなかったよ」
ため息をつきたい。
どうして俺は今、こんな事を長原に言ってるんだろう。
こんな、惨めにしかならないようなことを。
「だから、俺はあんたには勝てないと思った。」
お前が俺に勝てないと思ってたのと同様にな、
と、内心付け加えた。
「できることなら、あんたになりたいとさえ思ったよ。そしたら、夏希に、好きになってもらえたのかなって。」
「弘田、お前まさか…」
「俺は、お前と一緒で、夏希が好きだ。見向きもされなかったけど」
長原は自分の勘違いがどんどん崩れていって、顔面蒼白になっている。
俺は、その場から離れた。
あの2人に対して、これ以上言うことはなかった。