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おひさしぶりです
夏希の失恋から数日後のある昼下がり。
俺は、長原の本心を知ることになった。
俺は日差しが柔らかく暖かい場所で、寝っ転がっていた。
そこは、植木の後ろということもあり、中庭にいる人から見えづらい位置で、穴場なのである。
暫くボーッとしていて、ほとんど寝かかっていると、長原と、その友達の神立が来た。
神立というのは、夏希いわく、文武両道の秀才、だそうである。
ヤバイ、出るに出られない。
いっそ、この場に残るという選択肢しか、俺には残されていなかった。
「んで、話ってなんだよ、浩介。」
と、そう言ったのは神立である。ここで俺は初めて、長原の名前がコウスケであったことを知った。
「……井上さんに、告白されたんだ」
井上というのは、夏希の苗字だ。
夏希に告白されて、この男は振ったのだろう?何を話すことがあるんだ、と思う。
「あー。浩介、彼女のこと好きだったもんなー。」
好きだった?何をいってるんだ?彼は夏希を振ったのだろう?
「で。愚痴りたいってことは、やっぱ」
そんな俺の混乱なんて露知らず、神立は長原に続きを促す。
「告白されたときは嬉しかった。嬉しくて舞い上がるような気分だった。何も知らなければソッコー付き合ってた。でも、OKなんて出来るわけないよ……だって振られる未来しか見えねぇもん。」
でも、惜しいことしたなと思ってるよ、と、長原は言う。
「やっぱ、俺、まだ、井上さんの事好きだったんだなぁ」
言っている長原も泣きそうだ。
俺は、それを聞いて、分かった。わかってしまった。
長原がどれだけ、夏希を好きなのかということを。
俺は知っていた。夏希が長原を心から好きだということを。
両片想い状態なのに、どうしてこんなにも。悲しいすれ違いをしているのだろう。
どうして、長原はよくわからない勘違いをしたんだろう。
「俺、やっぱ思ったんだよ。弘田には勝てねえって。」
俺?てか何に?
「あぁ、弘田って、いろんな女の子と噂あるよな」
えっ?
「最近、我が学園のマドンナ、白井絢香と噂になってたな」
えっ、何でっ!?
「弘田ってキャラのわりに噂多いし…もてるんだろうな。」
「そう。だからさ、きっと俺は弘田のかわりなんだよ。」
それは違う。それだけは絶対に違うんだ。
「弘田が誰かを好きだから、俺は…」
長原は拳を握りしめていた。
「悲しいな、悲しいよな」
神立は、優しい声色で、長原に語りかける。
長原は、頷いた。
そうか…夏希は、長原の勘違いで振られたのか。
そっと、その場を離れようとした。
長原の話を聞いていたくなかった。
ガサッ
「誰かいるのかっ!?」
……俺は物音をたててしまった。
仕方がないので、姿を現した。
「…弘田…」
長原は、呆然と俺を見ていた。