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連投
数日後の、帰り道。
夏希は、目を赤く腫らしていた。
それだけで、結果が慮られる。
きっと、告白に失敗したのだろう、と思った。
そう思うと、俺は、何も言えなかった。
「ねぇ、涼。」
「あたしは、どうして振られたのかなぁ」
夏希の声は泣きそうな声だった。いや、俺に見えていないだけで、きっと、泣いていたんだと思う。
「……何でだろうな」
どうして、長原という男は、夏希を振ったのだろうか。
夏希は、贔屓目なしにしても可愛らしい子であり、俺もしばしば紹介して、など言われる。
それに、俺が遠目で見た限り、長原は、夏希を憎からず思っている風だった。
「あたしが好みじゃないって言うなら、まだ諦めがつくよ。それはしょうがないじゃない。でも」
夏希は堪えきれずに嗚咽をもらす。その泣いている顔も、夏希を魅力的に、綺麗に見せているように見えた。
「『俺は君の愛する人のかわりにはなれないよ』って。どういう…どういうことなのよ。」
夏希は最後の方は声すら出ない様子だった。
俺は首をかしげる。
夏希は間違いなく長原が好きだ。長原のことについて話す夏希は、恋する乙女そのものである。
「ホントにな…」
「あたしは、あたしはこんなに、アイツが好きなのに…どうして。」
俺は聞いていて、胸が苦しかった。
夏希には泣いてほしくなかったからというのもあるが、夏希が長原を心から想っていることが感じられて、なお苦しかったのだ。
夏希をこんなにも好きなのに、それは、叶わぬ恋だと突きつけられているかのようだったから。
俺は、下手に慰めることもできず、ただ静かに泣いている夏希を見つめることしかできない。
「ごめんね、涼。付き合わせて。」
そう言って、夏希は無理矢理笑顔を作った。
無理に笑顔を作ったと分かるような、辛そうな笑顔だった。
「…涼に聞いてもらって、いっぱい泣いて、ちょっとスッキリした。ありがと。」
そう言うと、夏希は踵を返す。
「泣きたいときは、無理に笑ったりしなくていいと思うよ。」
俺は、夏希の背中に、そう投げ掛けた。
「…そんなこと言われたら、涙が止まんなくなっちゃうじゃない、ばか。」
夏希は、最後にそう言うと、家に帰っていった。
そのあとで、考える。
それにしても、俺もスッキリしない。
長原にちょっと待てや、と言いたい。
長原の言う夏希の『愛する人』って一体誰なんだ。
長原から見て、誰が夏希の本当に好きな人に見えるのか。
長原の真意はなんだ?
おれのモヤモヤした感情が晴らされるのは、この数日後のことであった。