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翌日の帰り道。
夏希は、好きな人がいるというのに、俺と一緒に帰るのはやめないらしい。
きっと、俺と一緒にいると、誤解されるとすら思われていない。
眼中にないとはまさにこのことだと思う。本当にただの幼馴染、友達である。
それが悲しく、虚しく、そして少しだけ嬉しい。
幼馴染でなければ、きっと、夏希のとなりを歩くことさえ許されないから。
「それでね、」
楽しそうに笑う夏希は、本当に恋する乙女だ。
きっと、いまの俺は長原とやらには叶わないのだろうなと直感してしまった。
夏希は、俺にこんな顔で笑ったことなんて、なかった。
その恋が上手くいかないといい。でも、夏希には傷ついてほしくない、幸せになってほしい。
矛盾する思いが心を占めていた。
「で、ヒロはなんかないの?ねえ。昨日も聞いたけど!」
「だから。なんもないって!」
夏希はジトーッと俺を見る。
「うっそだー!私、お母さんに聞いたんだからね!」
俺の母が夏希の母さんになにか吹き込んだのだろうか。
「『涼くん、恋患いしてるみたいよー』って。」
「えっ」
「で?絢香ちゃん?美貴ちゃん?和江ちゃん?」
俺のクラスの綺麗所をあげてゆく夏希。俺が夏希を好きだなんて、かんがえてすらないはずだ。
「確かにその三人は評判もいいけど、俺はそんな興味ないや」
「えー!勿体ないよー。」
夏希は俺の両手をとる。
「ヒロ、女子から人気じゃん!笑顔が人懐っこそうとか、優しいとか、評判だよ?」
「そうなの?」
「そうだよ!」
と、夏希は言う。
いくら他人に評価されても、好きな人に。他でもない夏希に。そう思ってもらえなきゃ、俺にとっては意味がないのに。
気分が暗くなってきた。
「俺の話はもういいよ…」
この話を続けていると、悲しくなってくる。
「あれ、ヒロ、なんか不機嫌?」
本当の理由なんて。好きな人に、自分以外の誰かと付き合わないのって言われたから、だなんて、夏希には言えなかった。
「まあな。物理の宿題多すぎて死にそうなんだよ」
「そっか…。私にはよくわからんけど……頑張って!…あっ、うちだ!ばいばい!」
「おー、また明日な。」
玄関をあけ、自分の部屋に直行し、部屋の中で考える。
この部屋の中にもたくさん夏希との思い出があって、ひとつひとつを見るたびに、詳細を思い出せる気がする。
笑ったり泣いたりした、俺にとっては何事にも変えがたい、大切な日々だった。
夏希が大好きだ。夏希にはずっと、ずっと、笑っていてほしい。
でも、いまは夏希の幸せだけを純粋に祈ってやることはできなくて。失敗してしまえと思ってしまったり、夏希を幸せにするのは俺でありたいと願っていたりするけど、ちゃんと最後は、夏希の幸せを祈るから。
だから、もう少し、もう少しだけ、気持ちにケリをつける時間がほしい。
そしたらまた、貴女の横で、今日みたいに不機嫌にならずに笑って見せるから。
「…女々しいな…俺。………勉強するか」
俺は、考えていてもらちが明かないので勉強することにした。
物理がヤバイのは事実だ。
それに、勉強していれば、一時的とはいえ、この気持ちを忘れる事が出来たから。
幸せってなんでしょうね?