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幸せ  作者: はるな
1/7

俺は今まで、それこそ、高校も一緒だった夏希を横目で、ちらりと見ながら、帰路につく。


幼い頃は、互いの家を行き来して、それこそ、家族ぐるみの付き合いだったのに、歳を重ねるごとに少しずつ、少しずつ。疎遠になっていった。


高校がバス通で、帰る時間が似かようから、疎遠になっても、帰りは一緒だった。それだけは。変わらなかった。



夏希のクラスの話、俺の友達の話。

バス停から家までの10分で、今日あったことを話す。


……いつの間にか、それが。

その短い時間が、幸せだと、そう感じるようになっていた。


いつからだろうか。

俺が夏希を、好きだと自覚したのは。


その横顔を、ずっと隣で眺めていたい、と感じるようになったのは。


夏希は、そんな俺に気づいていないようで、屈託なく俺に笑いかける。


「ねえ、ヒロ、きいてる?」


「あ、おう」


昔は夏希も下の名前で呼んでくれていたのに、高校に入ってから、みんなと同じようにアダ名で呼ぶようになった。弘田涼という名の名字からとったアダ名だ。それが、なんとなく悲しい。


『あたしにとっての涼は涼だけだよ?でも、ややこしいっていわれちゃってね』

なんて。夏希は、あのとき、笑っていた。

俺はあのとき、どんな顔をしていたのだろう。


どんな顔で、それを受け入れたのだろうか。


「それでね、長原がね、」


最近、夏希の話によく出てくる男、『長原』。俺は長原をよく知らない。が、夏希が言うには。『まあイケメン』らしい。俺は長原を知らないはずなのに、夏希のせいかお陰か、随分長原に詳しくなった。


「なぁ。」


「なに?ヒロ。」


「…夏希は、長原、が好き、なのか?」


俺は、意を決して聞いた。


「何言ってんの、そんなわけないじゃん!」


と、言ってくれるのを期待していた。何でもないようにまた、話を続けてくれるのを期待していた。けれども。


「えっ?…ん、ううん」


口では否定の言葉を述べているが、夏希は元来、嘘をつくのが苦手だ。


頬を赤らめて。そんなあからさまな態度で否定されたら、分かってしまうじゃないか。


貴女がその人を好きだってことが。


「あっ、あたしのことはどうでもいいじゃない!ヒロは?ヒロは好きな人居ないの?」


あたふたする貴女に、『夏希だよ』と言えたら、どれだけ幸せだろうか。


でも、あんな顔を見てからじゃ、どうにも、言えない。

きっと、夏希にとって俺は近すぎて、恋愛対象ですら、無かったのだろう。


「んー、居ればいいんだけどなぁ」


と、冗談めかして言う。


俺は、いま、上手く笑えているだろうか。


「ホントはヒロの恋バナ聞きたかったけど、もう着いちゃったね!また明日ね!」


夏希は、くもりひとつない笑顔で、手を振っていた。


「おう、また、な。」



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