遭遇
扉を開けると、女性が倒れてた。
なにこれ、凄い怖い。
さっきまで雪が降ってたというのに女性の格好は黒っぽいTシャツにGパンというラフな格好。
しかもダイイングメッセージなのか、雪に「とさ犬」と書かれている。
何だろう、この状況。
扉の前で10秒ほど女性を眺めていた僕は我に返った。
いけない、こんなこと考えてる場合じゃない。
そして僕は走り出した。友達との待ち合わせ場所に。女性を放置して。
「ちょっと待ったー!」
肩を掴まれる。
いや、そんなことされてもと困惑しつつ後ろを向くと、倒れてた女性がいつの間にか起き上がり僕の肩に手を置いていた。
地味に痛い。無視した仕返しか。
仕方なく僕は相手をすることにする。
「えっと、風邪引きますよ?」
僕の思いやり溢れる言葉に女性は感動したのか、顔を俯かせる。
そして
「痛い痛い痛い」
肩を今まで以上にギュッと握ってきた。
これ女性の出せる握力じゃない。
「さっきまで無視しようとしてたくせに何心配した風を装ってるんだー!」
わめきつつ、女性が顔を上げる。
テンション高いなこの人。人生楽しそう。
そんなくだらないことを考えながら、僕は上げられた女性の顔を見つめた。
パッチリ開かれた目に、意思の強そうな少し太めの眉。
少し高めの鼻に少し焼けた肌。口は少々ニヤついている、
さっき転んだ時に乱れたのか、黒くて長い髪の毛は少々ボサボサだ。
いや、これが元々なのだろうか?
お世辞抜きに美人なその顔を眺めつつ、僕は
「いやだって元気じゃん」
とポツリと呟いた。
その言葉は意外に大きく響き、女性は手を振り回しながら怒り始めた。
「元気だろうが何だろうが人が倒れてたら普通助けるだろ!それが義理だろ人情だろ!」
笑いながら怒るって怖いよね。
そんなどうでもいいことを考えながら、女性の理不尽な言い分を流していく。
そして、ひと段落ついた所で
「それで、貴方は誰?」
ようやく気になってたことを切り出した。
「あれれ~?わかんないかな~?」
茶目っ気たっぷりに返す彼女。
もう一度頭の中で検索してみたけど、該当する人物は見つからず。
記憶力はそこそこいいほうだと自負してる。
しかし、この人の顔は出てこなかった。
この返し方からすると以前会ったことのある人っぽいが、全然思い出せない。
「ヒントをお願いします」
「テレフォンとオーディエンスが使えますがどうする?」
懐かしい選択肢が出た。
「ちなみにテレフォンを選ぶと?」
「私と60秒話せます!」
「オーディエンスで答えてくれる人は?」
「私です!」
「そもそも名前の選択肢は?」
「ありません!」
意味ないじゃん。
少し期待してしまったじゃないか。
またしてもウンウン考える僕に対し、彼女はポーズをつけて
「まだわからないの!君と私は表裏一体!君は私で私は君なんだよ!
さぁ、内なる声を解き放ちなさい!」
等とのたまいだした。
厨二病かな?
見た感じ10代後半~20代前半っぽいけど、卒業できなかったのかな?
彼女を見る目が若干優しくなる。
そんな、平和なんだかよくわからない押し問答を30分ほど繰り広げる羽目になった。