-宿命-
「...っ」
城へ入ってきた相手を見て絶句、後ずさる俺。
「暁ちゃん、帰ったわよ」
まるで俺のことが見えてないかのように暁に声をかける白癒。
鉢合わせた瞬間に目は合ったはずだが。
白癒は大袈裟にドレスの裾を翻して、長い金髪をかきあげるとこちらにぐんぐん歩き始めた。目的は暁のところへ行くことのはずだ。俺に用はないはず。ならば何も言わずに横を通り抜けるのが普通だろう。
しかし、白癒は俺をよけなかった。
スピードを落とすことなく俺の方へ歩いてくると、肩をぶつけたのだ。
それこそ、本当に俺のことなんて見えていなかったかのように。
「痛っ...あら?あらあら?零羅くんじゃない。まだ居たの?」
彼女はわざとらしく自分の肩を叩いて埃を落とすような仕草を見せると、嘲笑を浮かべて言った。まだ居たのか。まだ生きていたのか、と。
そして、いつものように皮肉を言い始める。
「生きてて悪かったな」
視線を逸らしながら不機嫌MAXの声で返してやる。
その俺の行動が不愉快だったのか、白癒は眉をひそめて続ける。
「兄妹共々、存在してはいけないモノが、何故こんな所にいるのかしら」
「......」
知らねぇよ。何でも知ってる神様とやらに聞いてくれ。
「そもそも、兄妹かどうかも疑わしいわね。貴方達全然似てないし、精霊と人間じゃない」
...そうだ。俺と聖は性格も似ていないし、容姿も似ていない。俺は銀髪で白と黒の珍しいオッドアイだった。ただ、戦闘中の相性がいいだけ。
ましてや、血がつながった精霊と人間なんて...。
「まぁでも、人間でも精霊でもない、イレギュラーな異種族同士お似合いよ」
人間でも精霊でもない。異種族。
人間で魔法が使える俺には仲間がいない。
精霊で剣術が使える聖には仲間がいない。
皆に怖がられて、恐れられて、嫌われる存在。
「良かったわね。誰にも認められない上に、存在してはいけないなんて、悲劇的で素敵じゃない?」
「......」
「もう、ずっと独りで、寂しく生きていくしかないのよ。ま、精々頑張りなさい」
果たして、本当にそうなのだろうか...?
俺は...俺たちは、本当に...。
俺は無意識に唇を強く噛み締めていた。
強く両手を握りしめて、かすれた声で反論する。
「...黙れよ」
白癒はまだ何か言おうと口を開きかける。
けれど、俺はそれよりも早くに言葉を紡いだ。
彼女が言っていることは正しい。けれど、俺は機械でも道具でもない。そんなことを言われて、何も思わない方がおかしい。
「誰もてめぇの価値観なんぞ聞いてねぇんだよ」
「誰に向かってそんな口をきいているのかしら」
「誰って?俺と妹を好き勝手馬鹿にするどっかの最低なお嬢様だよ!なんでまだ生きてるのかって?!そんなの知らねぇよ!逆に教えてくれよ!俺と聖が似てないから何だ?!精霊と人間だから何だ?!それでも兄妹なんだよ!兄妹でいることに理由なんていらねぇだろ!例え...、例え独りだったとしても、生きていくしかねぇことぐらい分かってんだよ!」
気付けば白癒の胸倉を掴んで、感情に任せて後先考えずに叫んでいた。
それを意識できない俺は、落ち着きを取り戻せない俺は、自分が泣いていることにも気づけない。
「そんなに俺のことが嫌いなら、もういっそのことお前が――っ」
――俺を殺してくれ
なんとかその言葉を飲み込んだ。
急に頭が冷めていく。
胸倉を掴んでいた腕から自然と力が抜ける。
「......悪い」
驚きで目を見張っている白癒になんとかそれだけを伝えると、俺は早足で城を後にした。
普段クールな人が泣いたり怒ったりすることに魅力を感じます←
普段から感情的な人が泣いたり怒ったりするよりも、クールな人がそうする方がその話題に重要性が出るというかなんというか、自分的にその場面が心に残りやすいんです。