-用事-
門番に顔パスで城へ入ると、早速知った顔が目に入った。鎖骨あたりまでの紫色の髪。見た目は身長150センチぐらいの子供だが、実際は100年以上生きている精霊だ。頭から突き出た二本の猫耳と、スカートの下から見え隠れするしっぽ、縦に長い瞳孔がその証である。仕事中には黒いローブを着る。
名前は暁。俺のことは零と呼ぶ。趣味は寝ることと読書で、寝癖がついている所をよく見かける。今はソファーの上に座って分厚い本を膝の上に広げていた。
俺が近くに行っても本に集中しすぎてこちらに気付いていないようで、遠慮気味に肩を叩くとゆっくり顔を上げる。俺を見上げた暁と目が合う。
「暁、王様の居場所を教えてくれないか」
それを聞いた猫精霊は、耳をぴくぴく動かしてこちらをじいっと見つめた。
......まさか、読書の邪魔をされて怒っているのか
「な、なんだ?」
「早かったにゃ。今王様はここには居ないにゃ」
どうやら怒らせてしまったわけではなかったらしい。安堵と共に、早く来すぎたと後悔する。
そうしろと言われれば出直す気ぐらいはあるが...その空白の時間を埋める手段がない。要するに俺は、王様に会えないならすることがない暇人なのだ。
「じゃあ指定された時間にもう一回来るわ」
聖と助けた子供に向けてやったようにひらひらと手を振って踵を返す。
どうも王様の時間感覚は扱いづらい。5分前に行けば、もっと余裕を持てないのかと言われ、30分程度早く来たらこれだ。次は15分前に着くように考えて行動しよう...と密かに計画する俺の背中に、またしても声がかけられた。
「王様にゃら、帰ってくるのは指定時間の1時間後くらいになるにゃ」
「ああ、そうか。ならそれぐらいに......」
それぐらいにまた来る、と言いかけて立ち止まる。どういうことだ。何故王様は、わざわざ自分が居ない時間に俺と聖を呼び出した。
「は......?」
バァァッと凄まじい勢いで振り返り、それ以上の言葉が出せずに口をぱくぱくさせる俺を見た暁は、「にゃんだ、知らにゃかったのか」と表情で訴えてくる。
知らねぇよ?!
「暁が王様からの伝言を預かってるにゃ」
そういうことは早く言え。
帰るところだったじゃないか。
という言葉を飲み込んで、暁に伝言の内容を言うよう促す。
「明日の同時刻にもう一度来てくれ。以上にゃ」
................................................。
さようでございますか。
王様、約束は守りましょうよ。
「零、お前さんは早く帰った方がいいにゃ」
城の奴は俺を呼び出したり帰れと言ったり忙しい連中だな!!というか話題変更が急すぎないか?!
「言われなくても帰るよ。用はなくなったわけだし」
そう言った直後に、ふと疑問に思った。
暁は何の用があって城に入ってすぐのこんな所にいたのだろう。
読書なら自室ですればいいし、暁も普段はそうしているはずだ。
そして、何故俺は早く帰った方がいいのだろうか。俺がここにいてはいけない理由はないはずだ。
「...暁」
「まだ何か用かにゃ?」
読書を再開しようとしていた暁が面倒くさそうに俺を見る。
「お前はどうしてこんな所にいたのか、気になっただけだ」
「暁は人を待ってるにゃ。零はその人が来る前に早く帰った方がいいにゃ」
言われてやっと意味を悟る。
暁が待っているその人は、俺とは気が合わない金髪の女に違いない。名前は白癒とかいったか。
俺は頷くとお礼もバイバイも言うのを忘れて入口へと早足で歩き始めた。
しかし。一歩遅かったのだ。暁がここにいる理由を聞いていなければ間に合ったかもしれないのに。
俺が無駄に大きい入口のドアに辿り着く前に、金髪の彼女は、帰ってきてしまった。
俺が今からくぐろうとしていた目の前のドアを開けて。
さて、続々とメインキャラクターが揃ってきます。自分的にお気に入りなのは暁なのですが(・ω・`*)
ダラダラやっていきますが、楽しんでくれると幸いです。