-選択-
その言葉に、子供が肩を強ばらせた。
......ような気がした。
聖は不思議そうに俺を見上げて言う。
「零兄、この子助けに来た。違うの...?」
「聖、まさか俺らが存在できる理由を忘れたわけじゃないだろう?」
俺は子供を助ける為ではなく、酷いことをする大人を殺しに来た。それが俺の存在意義だったから。
本来なら死ぬはずだった二人。
出会って数分で、共に死ぬ運命だった二人。
存在してはいけないはずの二人。
それでも、存在を許されているたった一つの理由が...。
聖は俯いて黙り込んでしまった。
人間の年齢にして17歳の、慈しみや愛を感じることができる彼女には難しい選択だったかもしれない。
そんな残酷な選択をするために、正の感情を失った俺がいるのだが...。
「零兄、私はこの子を助けに来た」
「...それで?」
聖が次に言う言葉は明確に予想できていたが、一応訊いてみる。
誰がどこで死のうと、俺には関係ない。
きっと、その時が来たら聖のことも簡単に捨ててしまうのだろう。
人間は、何よりも自分のことが大切だ。
そして俺は人間だ。
「殺させない」
きっぱりと言い張った彼女を、少し羨ましいと思った。命を奪って全てを解決しようとする俺に平然と反対できるなんて。...それがどれだけ素晴らしいことかは忘れてしまったが、羨ましいと思った。
「でもこいつは俺らの素顔を見た。このまま生かしておくのは危険だ」
存在しないはずの俺たちは、必要以上に知られてはならない。出来るだけ、情報漏洩の可能性があるものは潰しておかなければ。聖もそれはちゃんと理解しているはずだ。
「まだ子供。殺すのだめ」
理解していた上で、譲らないということか。
俺は盛大にため息を吐き出して首を振った。
「分かった。好きにしろ。俺は先に王様の所へ行ってくるから」
聖と子供の顔が輝くのが分かる。
俺は最後に呆れた顔を向けると、二人に背を向けて歩き始めた。
「零兄、気をつけて」
「はいはい。お前も遅れないように来いよー」
背中にかけられた聖の言葉に適当に返して、ひらひらと手を振る。
今の王様はとてもいい人だと思う。
経済状況は比較的安定しているようだし、大きな貧富の差はない。
王族は一般市民より大変な仕事を任される代わりに地位を与えられている。
一番やっかいなのは貴族だ。ずっと昔からある身分で、ロクに働きもせず金をもらって贅沢な暮らしをしている。王様がなんとかしようとして策を講じたことは何回かあったが、貴族からの反発が強く、暗殺計画まで立てるような人が出てきて中止となった。
俺と聖を助けてくれたのも王様である。
存在してはいけない俺たちに、生きる理由を与えてくれた。もちろん、それなりのリスクを背負うものではあったが。
今日聖と待ち合わせをしていたのは、その王様に城まで呼ばれたからである。一応、兄妹で同じ家に住んではいるが、今回はお昼まで自由に街で過ごして、近くにある公園で待ち合わせることにしていた。
城へは大通りをひたすら真っ直ぐ北に行けば自然と着く。特に街の様子に変わったところはなく、予想以上に早く着いてしまった。
「いつ見てもでけぇな...」
指定された時間までまだ余裕はあったが...。
「.........暑い」
太陽の力に負けて、城へ入ることにした。
王様がいい人って、あまり見ない設定だと思うんです。
次回では新キャラも出てくる予定です。どんなキャラにしようか今考え中です←