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戦場で踊れ  作者: 羽鷺終茶
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-兄妹-

太陽には、それ自体が変わっているわけではないのにいくつかの名前がある。一番身近な例が朝日と夕日だ。地動説が立証され、普及される前からずっと、太陽は動いていない。けれど惑星が動くから。周りが動くから。本人は何もしていないのに、いくつもの名前で呼ばれる必要があった。

それは、人も変わらないだろう。

周りが動くから。周りのせいで、俺たちは善人にも悪人にもなれる。なってしまう。どちらにもなりたくなかったとしても、普通人なんていないのだ。結局世界には善人か悪人しかいない。


「おれが城で遊んでいるうちにこんな事になるなんて、予想外でしたけどねぇ」


黒い髪。赤い目。童顔に身長が相まって見下した口調の子供に見える。いつの間にか背後にいたそいつと俺は初対面だった。けれど、関わってはいけないと本能が告げる。無意識に後ずさってしまう。


「誰だ、お前。それに城って……」


嫌な予感がする。勿論、その城が零羅たちが住んでいる城だと限った訳では無いのだが、しかしもしそうだったとしたら。本能的に危険だと察してしまう雰囲気のこいつは誰と何をして遊んだのか。城には翠と白癒が残っているはずだ。


「そうですねぇ、貴方の城です。零羅さま」


「……!」


俺は無意識に隣にいる聖の手を強く握っていた。後になって思えばかなり痛かったはずだが、無表情で優しく握り返してくれていた。


「それで、貴方、誰?」


「ああ、申し遅れました。緋影という者です」


緋影は綺麗すぎるほど狂気的な笑みを浮かべて名乗った。どこかで見たことがある、誰かに似た笑み。


「俺たちに何か用なのか」


正直、ここでこれ以上時間を潰すわけにはいかない。国境の偵察へ行くと決めた時から、帰ってくるまでに一日以上かかることは予想していたし覚悟もしていた。だから一気に国境へ行くのではなく、途中の小さな村を中継ポイントとして考えたのだ。けれど、俺には全く予想していなかったことがある。それは残念なことに今まさに起きようとしていることで、ここで時間を潰してしまうと確実に起きてしまうことだった。


暁なしで夜道を歩くこと。


というか、ここは近道をしようと思って道をそれて来た場所で、既に道らしい道ではない。だからせめて当初の予定通りの道に戻っておきたいのだが。


何せもう太陽が夕日と呼ばれる時間だ。


「勿論、用はありますよぉ」


緋影は目を細めて俺を見た。その目は笑っているようにも、眩しそうにも見えるが、俺を戦慄させるのに十分だった。


「猫精霊はどこに行ったんです?殺したいんですがぁ」


猫精霊を殺す。これが緋影の用で、目的らしい。猫精霊とは暁のことだろう。幸いなことに、暁は今ここにはいない。今頃中継ポイントである村にたどり着いているだろう。

いや、しかし。深く考えていけば、緋影は猫精霊という特徴の対象が俺や聖と共にここまで来たということを知っていて、暁の特徴を知っているということは弱点も知っているということだ。しかも緋影は俺を名前で呼ぶのに暁は猫精霊と呼ぶ。目的達成に関係するもののみを頭に叩き入れているのかもしれない。


「その子、もうここには、いない」


俺が思考していると、それを何て返そうか困っていると捉えたのか、聖が無表情で言った。俺はその言葉を利用することにして、悔しそうな表情と声を作り出す。


「ああ、死んだんだ。ここで、ついさっき」


勿論嘘だ。聖が俺の手を握る力が強くなった。聖にはマイナスの感情がないことが味方になり、それを聞いて聖の表情が変わることは無かった。優しい聖なら、こんな嘘はつけなかっただろう。


「死んだ……?本当ですかぁ?何故急に?」


緋影は俺に疑いの目を向ける。当たり前だ。病気も持っていない若い人が急に死ぬなんて有り得ない。それは精霊も同じだ。暁は確かに100年以上も生きているが、人間の歳に換算すると20歳にも満たない。

紅に殺されたと言えれば楽だったが、緋影が何者か分からない以上、紅のことを話していいかどうか考える必要があった。しかし、俺が答えを出す前に緋影が予想を上回る言葉を続ける。


「もしかして、紅に殺されたんですかぁ?」


「お前、紅と知り合いなのか」


「まあ、そうですねぇ。猫精霊の死体はどこに?」


緋影は紅との関係をはぐらかしたようだった。そこを問い詰めることは出来たが、今は暁のことを怪しまれたくなかったので先に質問に答えておくことにする。と言っても、答えなんて決まっていた。ここでついさっき死んだのに周りを見回しても死体はない。骨もない。ということは。俺は視線を谷底へと向けた。紅によって作り出された激流の川は、紅が川に落ちてもなお勢いを止めずに流れ続けていた。


「……なるほどぉ、流されたってことですかぁ」


緋影はまだ不信な目を俺に向けていたが、一応はそれで納得してくれたようだった。

そして小さなため息をついて俺から目を逸らし、独り言のように早口で言う。


「で、零聖が生きているってことは、紅の負けってことですね」


その表情は、とても不機嫌そうに見えた。


「じゃ、ここにいる理由もありませんねぇ……」


緋影はそう呟くとこちらを向いたまま何歩か後ろに下がった。相手が何を考えているのか分からない俺と聖は、次に攻撃が来てもいいように身構えたのだが、緋影がとった行動は攻撃ではなく逃亡の宣言に近かった。


「……転移」


「っ……?!」


「魔法……?!」


緋影の一言で彼の足元に紫色の魔法陣が展開され、同じ色の光をまき散らした。


「おい!待て!」


俺は反射的に緋影を呼び止めていたが、無意味なことくらい分かっていた。一度発動された魔法は、その魔法を止める強いイメージが出来ない限り役目を終えるまでなくならない。魔法陣が見えた瞬間に、魔法は発動しているのだ。転移魔法なので、魔法陣の上に乗っている人は全員転移してしまう。だから無闇に追いかけて正体の分からない場所に一緒に転移されては困る。


「もし猫精霊が生きていたら、また遊びに行きますねぇ」


緋影は何も出来ない俺たちに笑みを浮かべて言う。


「では、また逢う日まで、どうか生きていますよう」


俺たちが最後に見たのは、優雅に礼をする緋影だった。

緋影が転移した後、その場は紅と会ってから今までの出来事がなかったかのように静かだった。聞こえるのは、やっと勢いが収まってきた川の音だけ。


結局、紅と緋影の関係は分からなかった。二人が何者なのかも、分からなかった。けれど、紅の目的は俺で、緋影の目的は暁だったらしい。両者とも目的の対象以外には大して興味が無いようで、対象がいないと知ったり、対象以外に大幅な被害が出ると分かれば帰ってしまう。


「……零兄」


呆然とその場に突っ立っていると、まだお互い手を握ったままの相棒が俺を見上げる。


「紅と緋影は、精霊?」


「……分からない」


紅と緋影は魔法が使える。しかし、精霊には、精霊だとひと目でわかる特徴があるはずなのだ。聖ならそれは羽だったし、暁なら猫耳や尻尾、更にいうなら縦長の瞳孔。翠は長く尖った耳。紅と緋影の外見は全く人間と同じものだった。


けれど、それは有り得ないことではないのだ。

人間の外見をしたものが魔法を使えることは、有り得ないことではない。

他ならぬ自分が証明している。


「兎に角暁と合流しよう」


既に夕日は沈んでいて、辺りは薄暗かった。

更新停止していてすみませんでしたm(_ _)m

再熱してきたので細々と更新していくと思います。

久々すぎて自分でも思い出しながらなのでどこかおかしいところがあるかもしれません……!


(´-`).。oO(聖ってこんなに動かしにくかったかな……!?)

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