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戦場で踊れ  作者: 羽鷺終茶
32/33

-協力-

発動すら出来なかった魔法を発動させることができるようになったといっても、それが新しい魔法を使いこなせるようになったということを意味しているわけではない。

見たところ俺の背中には羽が生えているというわけでもなさそうだし、どうやって飛行能力を得ているのか全くの不明で、つまりどうすれば上手く飛べるのかも不明、そうなると俺は自分の思うように飛べない。これは推測ではなく列記とした事実で、俺の頭の中は空中に停滞し続けることでいっぱいだった。


...移動なんてする余裕がない。

一緒に空を舞うという聖からの誘いを果たせる日はまだ遠そうだ。そう思いながら、聖の手を借りて暁のとなりに着地する。同時に魔力消費が収まる。


紅は俺の様子を見ても特に怖気づいた様子を見せずにこちらを見据えた。確かに紅からしてみれば自分が宙に浮いている時点で、魔法が使える人間が飛ぶことくらい驚くことでもないのだろう。それどころか、皮肉まで言う余裕があるようで。


「おやおや、また人間とは遠い存在になってしまわれたので御座いますか」


人間のくせに強力な光魔法を使ったり浮いたり出来る紅には言われたくない。そう言い返してやろうかと考えたが、頭の隅にあった本来の目的を思い出して呑み込む。


「紅、まだ退いてくれないのか」


退いてくれるとは思わないが、念のため訊いておく。このままでは日が暮れる前に中継地点となる村へもたどり着けないかもしれない。


「わたくしの目的をお忘れになられたわけではないでしょう?」


俺を殺すまで退かないということか。

何故紅はそこまで俺に執着するのだろう。前回、俺以外の人への被害が大きくなるからといって撤退したことを考えると、本当に俺にしか用事がないらしいが。


俺はしばらくここから動けなくなることを予想して、隣の暁に声をかける。


「暁、お前は先に国境へ向かってくれ」


その言葉に少し驚いた様子の暁だったが、こちらにちらりと視線を向けただけで反論は返ってこない。渋々了承してやる、ということだろうか。


「ここを突破できたら追いかける。明日の朝になっても俺と聖が中継地点の村に居なかった場合は一人で進んでくれ」


「暁は身の危険を感じたらすぐに撤退するからにゃ」


「それでいい」


話がまとまると、再び紅に視線を向ける。心なしか彼女は焦っているように見えた。別に笑みを消しているわけでも、佇まいが変わったわけでもないのに。


「...?」


けれど、彼女がそこを退く気がないことも変わらない。俺は違和感を振り切って聖の手を握った。完璧に飛べない俺は、聖にリードを任せるしかない。


「じゃ、第2ラウンド行きますか」


その言葉を合図に、聖が猛スピードで文字通り飛び立つ。もちろん、俺の手を握ったままだ。視界の端にアクアマリン色が映った。自分が飛んでいるのだということを意識する暇もなく紅に急接近すると、握っていた手を離される。次に俺が捉えたのは、腰から剣を抜いて紅に迫る聖の赤髪、聖に手のひらを向ける紅、広い空と大地。


「我に力の加護を...!」


慣れない感覚に、思わず詠唱を使って防御魔法を紅と聖の間に展開させた。そのオレンジ色の魔法陣を見た聖は身を翻して1メートルほど後退する。その直後、紅の手のひらから発射されたいくつもの光線が魔法陣にぶつかって黒い煙を巻き上げた。


その間にも、俺は慌てて次の行動を取る。魔力消費の激しい飛行魔法を停止させ、風魔法で自分の身体を上空に巻き上げ、黒煙で聖の視界が悪くならないよう、彼女に透視魔法をかける。さっき防ぎきれなかった光線が聖の横から迫るのを確認して、次はイメージによる防御魔法を展開させる。


それでもやはり余裕らしい紅は、創り出した光の剣で聖の長剣を受け止めていた。


「炎よ」


それだけの詠唱で両手のひらに数十個の火の玉を生み出す。同時にイメージでその火の玉を強化。

俺が防御に徹しているだけではいけない。

聖がこの火の玉を完璧に躱してくれることを確信して、その背中に向けて火の玉を発射させる。俺の予想通り、聖は紅との接近戦をやめてこちらに舞い戻ってきた。火の玉は聖の向こう側にいた紅の剣に吸い込まれるようにして飛来、突撃、爆発、黒煙を巻き上げる。


「零兄!」


聖が俺の体を支え、最初と同じように紅の近くまで連れていく。すぐさま俺自身にも透視魔法をかけ、黒煙の中でも視界が普段と変わらないようにする。


「終わりだ」


そこで俺が展開させたのは、封印魔法。文字通り相手の魔法を封印する魔法。精霊に対してしか使わないと思っていたが、更に言うと使う機会などないと思っていたが、まさかここで使うことになるとは。


魔法を封印された紅は、空中に停滞することができない。そのまま、為すすべもなく氾濫した川へ落ちていく。角度的に、彼女の表情を見ることは出来なかった。


「自分で氾濫させた川に落ちることになるなんて、思ってもみなかっただろうな」


「助けなくて、いい?」


聖は優しい。零聖は悪を滅ぼす悪役であるというのに。


「聞きたいことはあったけど、こんな強敵、殺しておいた方が安心だ」


言いながら崖に沿って地上を見てみる。暁の姿はない。ちゃんと中継地点へと向かってくれたのだろう。


「聖、地上へ戻してくれ。暁を追いかけないと」


「わかった」


それから無事に地上へ足をつけた俺だったが、何故だが久しぶりに地面を歩いたように感じられた。飛んでいた時間なんて、地上を歩いた時間と比べれば米粒に等しいのに。


再び悲劇が戻ってきたのは、俺と聖が夕日を見ながら出発しようとした時だった。出発といっても、最初に越えようとしていた崖は諦め(その崖も今や渓谷のようになっている)、正規の道へと戻ろうとした。


「ダメですねぇ。最後まで気を抜いちゃ」


そんな声が投げかけられたのは。

お待たせしました!やっと最新話を投稿できました。どんどんバラバラの別行動となってしまっている零羅たちですが、白癒は一体どこに転移したのでしょうか。それについて明かされるのは、もう少し先になりそうです。最後のセリフが誰のものであるかは、大体の方が気づくと思います!ほら、あの人ですよ、あの人!←

本当に、長い間お待たせしてしまってすみませんでしたm(_ _)m

もうすぐクリスマスと冬休みですが、課題で押しつぶされそうです。

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