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戦場で踊れ  作者: 羽鷺終茶
29/33

-連鎖-

今3つに分かれている国を統一する。つまり世界征服を達成する。歴史上、目指しはすれど誰も成し遂げたことがなかったこと。そのためには国の隔たりをなくす必要がある。物理的な隔たりではなく、長年の歴史によって積み上げられてきた因縁とか、国同士の関係とか。話し合いで全てが解決するわけではない。そんな簡単なことで解決することなら、既に誰かが成し遂げていただろう。

今、敵国同士はお互いがお互いを悪として見ている。あるいは悪役として見ている。人間も精霊も変わらず、敵がいなければ団結することができない。

世界征服と言えばなんだかその悪役がやるように聞こえるし、規模だってとてつもないことのように思える。けれどつまりところ、お互いから見た悪をなくしてしまえばいいのだ。


とまあ、これが俺と聖の考えだったりする。

誰も成し遂げたことがないことをやろうとしている。

何せ俺らは零聖だ。


「...零」


暁は急に立ち止まって俺の名前を呼ぶと、左腕を横にあげて俺と聖を停止させた。状況的にはさっき近道をするかどうか訊かれたときとあまり変わらないが、確実に暁の雰囲気が違った。


「どうした?」


聖も暁の様子に気づいたのか、小さく首をかしげた。俺はなんとなく嫌な予感を覚えながら訊く。


「何かおかしいにゃ」


「何かって...例えばどんな?」


「誰かがここで上級魔法を使ったみたいにゃ...」


暁は凄く真面目な顔でそう言うが、俺にはそんな感じは全く感じられない。上級魔法を使うと、その場所には使った残骸のように大量の魔力がしばらくそこに留まる。恐らく暁はその魔力を感知したのだろう。魔法とか魔力のことを存在しか知らない聖には感知出来ないものかもしれないが、俺にも出来ないということは、それほど微量であるということなのだろうか。


「でも、変なところは、ない」


そう、別にこの辺におかしな所はない。本当に誰かが上級魔法を使ったのであれば、一体なんのために、何をしようとして、どんな魔法を使ったのだろうか。


「零には何も感じられにゃいのか?」


と、少し不安そうな暁。と言われても、もしかすると元が人間の俺には分からないことなのかもしれないし...。とにかくおかしな所はないように思えたため、そう言おうと口を開くけたとき。俺はある一つの可能性にたどり着いてしまった。気づいてしまった。


「暁、俺には留まっている微量の魔力を感知することができない。この辺に魔法を使ったような形跡もない。けれど暁は異変を感じ取った」


それはつまり...。ここで言葉を切って、俺言いたいことを頭の中で纏めていると、聖が代役をするように口を開く。


「魔法が使われたのは、ここじゃなくて、この近く。暁が感知したのは、そこから流れてきた魔力」


「にゃ...?じゃあ一体どこでそんな魔法を...?」


「崖はこの近くなのか?」


なおも不思議そうにしていた暁に、俺は不安と焦りで早口になりながら言った。その瞬間に場が静まる。誰もが理解した。自分たちが渡ろうとしていた崖で何かあったかもしれないということを。そしてそれは、上級魔法による何かであるということを。


「引き返すかにゃ...?」


暁が最もな意見を出した。今は厄介事に手をつけるより国境にたどり着くことを優先した方がいい。引き返して遠回りをすることは可能だ。普通ならそちらを選ぶべきだ。

しかし。聖が呟く。


「上級魔法を使える精霊、強い」


行けば鉢合わせることになるかもしれない。その精霊は、俺たちの敵かもしれない。味方ならそれほど心強いものはないが、敵だという可能性が捨てきれない以上。行くしかない。いつか戦うことになったとき、相手の顔を知っていれば、その人が上級魔法を使えると最初から確信を持って戦えるのだから。せめて確認しておく必要はあると言える。


「行くぞ」


「零聖は相変わらずだにゃ」


俺と聖の決定に呆れたように肩をすくめる暁。

俺たち三人は、もう近くにあるらしい崖へと周りに注意しながら歩き始めた。

しかし、その注意は無駄だったようで。道中にはやはり全く変わったところはなかった。


「見えたにゃ」


言われて前を見てみると、確かに大きく割れた地面が目に入る。普通ならその壮大さにすぐ駆け寄っただろうが、俺にそんな余裕はなかった。

轟々と響く、水が勢いよく流れるような音。近くに水が流れるような場所は、勿論のこと、崖の下にしかない。しかし俺たちはその崖の下を歩いて渡ろうとしていた。


「なんで、川が...?」


聖が無表情で首を傾げる。本来なら、川なんて流れていなかったのだろう。

脳裏に上級魔法という言葉が甦る。


「渡れない...いや、それより誰がどうしてこんなことを...」


俺がちょっとした絶望感を抱きながら呟いた言葉は、とても震えたものだった。誰も俺の問いに答えることはできない。むしろ皆が聞きたいことだろう。どうしてこうなったのか、と。


しかし、数秒間の沈黙後、俺が呟いた疑問に答える声があった。それは、つい最近聞いたようで、とっくの昔に聞いたような、しかし聞きたくはない女の声。


「お待ちしておりました、零羅さま」


という、とても楽しそうな声。

はっとして顔をあげると、彼女はそこにいた。宙に浮いていた。文字通り、飛ぶというより浮いていた。薄く透明がかったピンク色のツインテール。無地の白いワンピース。丁寧な言葉使い。


「紅」


俺が睨みつけて言うと、紅は微笑を浮かべた。


「覚えてくださっていたなんて光栄です。では勿論、わたくしの目的も分かっていらっしゃるでしょう?」


紅の目的は俺を殺すこと。

元々存在してはいけない俺を殺すことは間違いではない。正しい行い。

そんな彼女に抵抗しようとする俺は悪役か?


いや...目的は俺?

では、何故彼女は王様を...。


「わたくしは零羅さまにしか用がありませんので、そちらのお二人はさっさと引き返してくださいませ」


俺にしか用がないなら、どうしてこの世に王様がいないのか。


引き返せと言われて引き返すはずがない聖と暁は、無言で紅を見つめた。

俺は無意識のうちに聖の手を握り締める。


――二人で一人だから


「まぁ、死に急いでいるのでしょうか。それとも友情でしょうか。とても滑稽なことでございますね」


俺たちの様子を見た紅は、相変わらず楽しそうに言った。

...忘れてはいないだろうか。今の状況は前回とは違うということを。ここには零羅ではなく零聖がいるのだということを。


「引き返すのはそっちみたいだな」


俺は浮いている紅に向かって声を張り上げた。

まぁ、紅だってわざわざ近道となる崖の方で待ち伏せていたくらいだから、俺の他に聖と暁がいることは知っていただろう。知っていて待ち伏せをしたということは、聖と暁が引き返さなくても俺を殺すつもりだと、そういうことなのだろう。


「悪いな、こんなことに付き合わせて」


前回と同じように剣を具現化させる紅を見た俺は、二人に聞こえる程度の声量で謝罪した。暁は微笑を返してきて、聖は俺の手を強く握り直す。


――零聖の限界を試してみようじゃないか


「「さぁ、ショーの開幕だ」」


俺と聖の声が重なった。


2

翠と白癒は城を出て、今まさしく蒼と藍に会おうとしているところだった。確かに庭を挟んだ向こう側にある門の前で立っているそれらしい人がいる。水色のローブと緑色のローブを着た二人が翠と白癒に向けて手を振ると同時に、翠は早足で二人のところへ向かった。白癒は慌ててその後を追う。


「「こんにちは!翠おねーちゃん!」」


と、声を揃える双子。まだ小学生くらいで、体格差がほぼないため見分けるのは難しい。


「瓜二つね」


藍と蒼と初めて会った白癒の感想は、きっと誰もが思うであろうことだった。

双子は白癒に視線を向け、顔を見上げて子供らしい笑顔を見せ、


「はじめまして!あたし、藍っていいます!」


「はじめまして!蒼です!」


と、簡単な自己紹介をした。白癒の中でのイメージでは、子供なんて生意気で扱いづらいだけだというのが強かったが、どうやらこの二人はそうでもないらしい。


「初めまして。白癒よ」


白癒が思わず微笑んで自己紹介を返すと、藍と蒼はドタバタと寄ってきて片方ずつ白癒の手を掴み、ブンブンと縦に振って「よろしく!」と声を揃えた。


「よ、よろしく...」


子供の元気さにはついていけない。


「それで二人とも、何か用事があるんじゃないんですか〜?」


白癒と双子のやりとりを微笑ましく見つめていた翠は、双子に目を向けながら話を戻した。

藍と蒼はハッとして白癒から離れると次は翠の前に集まる。


「そうなの!あたしたち、王様に会いたいの!」


「王様ですか〜?」


「翠おねーちゃんがお世話になってますって挨拶しないと」


と、冗談めかして言ったのは蒼。

二人は昔零羅に会ったことがあるのに、今更挨拶するということに変な感じがしないわけでもなかったが、会ったのは二人が小さかった頃のため、きっと零羅のことを忘れてしまっているのだろう。


と、たまたま零羅と同じような推測をした翠。


「今は王様には会えませんよ〜」


零羅も聖も城にはいない。今頃は国境への道を半分くらい進んだところだろうか。


「「えーなんでー」」


揃って残念そうにする藍と蒼。

困ったように二人の頭を撫でる翠を見て、白癒が代わりに言う。


「また別の機会に来ればいいわよ。急用じゃないんでしょう?」


「むー...仕方ないなぁー」


「じゃあ、また来るね!」


それでも少しの間悩んでいた二人は、やはり今日は諦めるという結論を出して帰ることになり、そうと決まれば行動するのは早かった。翠と白癒に手を大きく振って別れを告げると、バタバタ走って去っていく。

翠と白癒は二人を見送って、城の中へ戻ろうと身を翻した。そう、城に戻ろうとした。けれど...


「そこの緑色と金髪のお二人さん」


という知らない男の声が翠と白癒を呼び止めた。

二人が反射的に身構えるようにしてそちらに体ごと振り返ると、いつの間に現れたのか門の前に男の子が立っていた。黒髪、赤い目、双子と白癒の間くらいの身長。


「キミは...」


「誰よ」


「おれ...いえ、わたしは緋影ひかげといいます。あなた方を、殺しに来ましたぁ」


決して翠や白癒より年上には見えない急に現れた彼は、自分のことを緋影と名乗り、見下した口調で率直に目的を告げたのだった。

おはこんばんにちわ!

やっと藍と蒼を出せました...!これから零羅たちは大変な事になりそうですねー(遠い目)←

作者は本日模試でしたが、壊滅的でした。

そしてそして、ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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