-実験-
数十分後。
俺は街を自分の目で見て回るという計画を断念せざるを得ない状況に遭遇した。
あと数歩で庭を出る、という時に、白癒に呼び止められたのだ。呼び止めた理由を聞けば、銃の練習相手になって欲しいとのこと。俺にはもちろん断る理由があったが、断れば仕事をガンガン回すと言われて引き受けることにした。
そして現在。
練習用の広場に移動して対峙した俺と白癒。
地面は硬い砂。円形の練習場。壁は2メートル程度で、屋根はない。外へ出るためのドアは一応北と南にひとつずつ設置されているが、皆面倒だからと言って壁を乗り越えて練習場に入るようになっていた。
「白癒、具体的に俺は何をすればいい?」
腰のベルトにマガジンや予備のハンドガンを差し込んで準備をしている白癒に問う。適当にやれ、とか本気でやれ、とか言われたら容赦なく吹き飛ばしてしまう自信があるのだけれど。
「貴方は防御に徹してくれればいいわ。弾が魔法にどれだけ通用するか確認したいの」
両手にひとつずつハンドガンを持って準備完了といった様子の白癒。俺は彼女の言葉を聞いて顔をしかめた。
「魔法なら翠に頼んだ方が正確だぞ」
翠は恐らく国内で一番魔力を保有している精霊だ。俺よりも魔法の扱いには慣れているはず。そして、俺はまだ魔力の全回復をさせていなかった。今の俺で試したってあまり意味はないように思える。
「だめよ。翠は忙しいもの」
......なら俺はどうなのだ。これでも一応国王。街の偵察に行こうと思っていたところだし、重大な問題として空を飛ばなければならないし、とにかく暇というわけではない。
「俺も暇してるわけじゃないんだけど...」
「もうここまで来たんだから関係ないでしょ」
ごもっともな意見で。
白癒は弾丸を一つ取り出して、俺の方に見せつけた。日光を反射してキラキラ輝くそれは、確かに何の変哲もない弾丸。俺が白癒の行動を見てその意味を察し頷くと、白癒は手に持っていた弾丸を上に放り投げた。
風の音だけが響く円形の練習場。
弾丸が回転しながらゆっくりと落ちていく。
それは俺と白癒の目線を下回り、やがて...。
砂の地面に無音で着地。
それが俺と白癒の戦闘開始の合図で、俺は取り敢えずオーソドックスな防御魔法を前面に張ってみた。
前にいるのはガンナー。真っ直ぐに飛来する弾丸を撃つ武器を扱っている限り、ガンナーが前にいるのに後ろから弾丸に襲われることはまず有り得ない。
だが、俺は忘れない。相手が白癒であることを。
「なっ...?!」
俺から見れば、白癒は適当に俺に向けて銃を撃ったように見えた。だが、的確に俺の心臓の位置を狙った弾丸が立て続けに防御魔法にぶつかる。少しの狂いもなく、同じ場所に全ての弾丸が引き付けられるように。
防御魔法は最初は簡単に白癒の弾丸を弾いていたが、同じ場所を連続で攻撃されて徐々に耐久力を失いつつあった。このままこれが続けば防御魔法が破壊されてしまうのは確実。
破壊されたあとにもう一度張り直せばいいが、必然的に防御魔法が張られていない時間が生まれてしまう。その隙に弾丸が俺に迫れば。死ぬ。確実に。
もう一つの手としては、今使っている防御魔法を強化すること。しかし、その手はほとんど使ったことがない。失敗すれば死ぬ。確実に。
そこまで考えて、俺がとった行動は...。
「っ......魔法変化」
魔法の詠唱を使うことだった。
今の防御魔法を強化した上、弾丸を跳ね返す仕様にする。
だが、俺は忘れない。自分が苦手なのは継続的な魔法で、この防御魔法はそれに部類されることを。
「うわっちょ、何?!」
次に驚きの声をあげたのは白癒だった。
跳ね返ってくる弾丸を見て目を見開く。しかし、やはり行動は速くて、その弾丸をいとも簡単に撃ち落としてしまった。
「うわ...どんだけ上手いんだよ...」
こっちはそれなりに必死だというのに。
白癒の余裕さはなんだ。
「じゃ、次で最後ね」
と言って白癒が取り出したのはハンドガンではなくマシンガンだった。弾丸の量はさっきの比じゃない。
「殺す気なのか?!」
白癒は俺に抗議の間も与えずにトリガーを引き絞った。だがもちろん弾丸は全て防御魔法で跳ね返ってくる。その軌道さえも読んでいたかのように余裕で避けてしまう。当たり前のように攻撃の手は休めない。
「魔法変化」
防ぎきれないと判断した俺の詠唱はマシンガンの音でかき消された。俺を囲むようにして高さ3メートルほどの石の壁が出来上がる。念のため天井部分も同じ石の壁で塞いでしまう。弾丸が壁に当たるカンカンという乾いた音が響いた。
だが忘れてはならない。これは継続魔法だということを。
しばらくして音が止み、“終わったわよ”という白癒の声が石の壁越しに聞こえてきて防御魔法を解いたわけだが。
その時の俺は生まれたての子鹿状態だった。
文才ないのに更になくなったかも(´д`)
もうすぐ体育祭です。まだ昼間は暑い時もありますが...作者は青組です。え、誰も聞いてない?スミマセン。




