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戦場で踊れ  作者: 羽鷺終茶
20/33

-飛行-

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛具体的に何をすれば...?!」


話し合いでは俺が飛ぶと勢い良く言ったものの、何をすればいいのか全くわからなかった。

不可能を可能にする魔法にはイメージが大事。空を飛ぶイメージ。

さて、空を飛んだことがない人が、空を飛ぶイメージをする。これは可能だろうか。可能である。不可能と決めつけない限り可能である。だが現状では不可能。可能にするにはどうすればいいか。

簡単な話だ。一度飛んでみて、イメージしやすくすればいい。ではどうやって飛ぶか。...不可能である。

というような考えが俺の頭の中をぐるぐると回っていた。


どこかの神話で見た飛行機とか飛空船とかいう幻の物体は残念ながら存在しない。


「あんな機械の塊が飛ぶことこそ不可能だろ...」


...機械の塊が飛べるのに、人間はなぜ飛べない。

断然人間の方が軽そうなのに。


「なぁー聖ー」


俺は椅子に座って頭を抱えたままの姿勢で声をかける。テレビを観て流れている情報をチェックしていた聖は俺の方を振り返ったはずだが、頭を抱えている俺には見えない。


「聖は飛んでるときにどんな景色を見てるんだ...?」


そういえば聖は、数日前に俺に足りないものは飛べないことだと言った。ここで飛べたら、その欠点を補うことが可能に...いや。どちらにせよ飛ぶには大量の魔力が必要になる。補えるほどぽんぽん飛べるわけではないだろう。


「景色...?んー、全部小さく見える」


いや、まぁ、そりゃあそうだろうな。遠くから見たら何でも小さく見えるだろうな。


「他になんかないのか?飛んでる聖にしか分からないこと」


「私、飛べるの普通。だから、何も考えない」


つまり、何も考えずに飛んでるから景色なんて思い出せないと言いたいのか...。ますます飛び方が分からない。俺には何も考えずに飛ぶということが出来ないだろう。何度も言うが、イメージが大事なのだ。


「それじゃ困るんだよな...」


「どうして?零兄、こーしょきょーふしょー?」


高所恐怖症。まだスラスラ人類語が話せない聖がたどたどしく言った。というか、俺は高所恐怖症じゃないし、それが問題なわけでもない。


「あのな聖、そうじゃなくてだな...」


俺は顔をあげて、なんとかこの状況を説明してあげようとした。

しかし。無表情の聖に何と説明すればいいだろう。彼女は飛べるのだ。それが普通なのだ。

説明の言葉が見つからなかった俺は、代わりに盛大なため息を吐き出して再び頭を抱えた。


「お城のてっぺんから、飛んでみる?」


いやいやいやいや。何をおっしゃる。そんなことしたら俺の身体は命もろとも死後の世界へまっしぐらじゃないか。


「俺は死にたいわけじゃないぞー」


「大丈夫。私がいる」


だからといって何が変わるというのだ...。

と、考えた直後にひらめく。一度高いところからジャンプでもなんでも飛べば、一応景色は見える。浮遊感の体験もできる。ただ、落下していく恐怖がトラウマになりさえしなければ。そして落ちてきた俺を聖が受け止めてくれれば。女の子一人の腕で俺が受け止められてしまうというのは普通なら可笑しいというか、些か失礼のような気もしないでもなかったが、それを無視してしまえばオールオッケー。


「よし!やろう!」


急にガバッと顔をあげて言った俺を見て、聖は嬉しそうに笑った。


取り敢えず二人で城の最上階のバルコニーに出ると、屋根に登ってちょうどよさそうな場所を発見する。そこから先に聖が飛び降りて真下に上手く着地。俺が同じことをしたら骨を折ったかもしれない...。


「聖ー!行くぞー!」


俺は下からこちらを見上げる聖に向かって声を張り上げた。聖が承諾の返事の代わりに大きく両手を振る。

それを見てから、改めて周りを見渡してみた。いつもと違った視点。街全体が見渡せる。透視魔法を使わずにこんなに多くの、しかも遠くの人や精霊を一度に見るのは初めてだ。

...聖が普通に見ている世界。

同じものを見ることは出来ない。

けれど、それを分かった上で見たいと思う。


見慣れた自分の国と、今見ている自分の国。

地上から見た景色と、高所から見た景色。

いつも見ている景色が、今見ている視点で流れるように動くところをイメージする。背中に魔力が集まるのが分かった。

自分は飛べないのだということを完全に忘れる。


最後に聖を見据えると、俺は思い切って城の屋根から足を離し、見事に空中に浮いて――


――墜落した。

人生、上手くいかないことばかりです。

ましてや人間が単独で空を飛ぶなんて...。

考えてみれば、飛行機とか本当に不思議ですね。

というか、現代技術は全て不思議です。

人間が裸族だった頃から比べると、想像もつかない時代です。

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