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戦場で踊れ  作者: 羽鷺終茶
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-待人-

例えば、人間が手のひらに火球を生み出すことが出来たら。

例えば、人間に幻覚を見せることが出来たら。

例えば、人間が意図的に雨を降らすことが出来たら。

そういう有り得ない現象は、この世界の人間にとって「例えば」でしかない。


何故なら、人間には有り得ない現象を引き起こすことが出来ないと知っているからである。

知識として知ってしまっていて、皆がそれを信じているからである。


有り得ない現象を引き起こしている人間を実際に目の当たりにしても、マジックの類だと思ってしまうほどに。


知っていること、一般的に言われていることが、本当のことだとは限らないというのに。


「はぁ……」


俺は公園にあるベンチに腰掛け、ガックリと項垂れていた。

妹と、この公園で会う約束をしていたはずなのだが。


「全然来ない……」


もしかして俺が集合時間を間違えたのか……?

場所が違うとか……?

そうだとしたら大変だ。あいつが怒るなんてことは絶対にありえないと言いきれるが、不機嫌にはなる。そうなると許してもらうのは大変だ。


そうやって俺が焦り始めた頃。


「――誰か助けて!!」


「っ?!」


微かではあったが、俺の耳が捉えたのは確かに悲鳴に似た助けを求めるものだった。

反射的にベンチから立ち上がるが、そこで足がすくむ。

妹と入れ違いになったら……。

そもそも、俺は妹がいない時に誰かと殴り合いになったら何も出来ない。

情けない話だ。


「ああああもうっ!!」


何も無かった事にして妹を待つ選択肢は確かに存在した。選ぶことは可能だった。

けれど、ここであの声を無視してしまったら。

俺が存在する理由が、なくなってしまうから。


そう考えると、俺の足は半ば勝手に進み始めた。妹のことは一瞬で頭から消し飛び、声がした方向へ走る。

しかし、そんな簡単に事が進むわけではなく。

路地裏に入ったのはいいが、分かれ道でどちらへ行けばいいのか分からなくなってしまった。


「くそッ……どっちだ……」


ここに妹がいれば。

いや、あの時すぐに駆け出していれば。

早くも後悔を始める自分に気付いて嫌気が差す。


「仕方ない」


俺は周りに誰もいないことを確認してから手を地面と平行にかざした。

目を閉じて、さっきの声の主を探す“イメージ”をする。路地裏の壁を越え、広く、広く。

路地裏など来たこともなく、道なんて分かるはずもないが、俺の頭の中に路地裏の地図とそこにある物体や生物の情報が流れてくる。


「……発見」


目的の人物らしい人の居場所と、そのすぐ近くに複数人を確認。どうやら路地裏の一角で立ち止まっているらしい。立ち止まっている原因を探してみたが……何かの違和感を含んだ嫌な予感がした。


目を開けると、何重にも重なった消えかけの魔法陣が、かざしていた手に絡みついているのが見えた。魔法陣は、何かしら魔法が使われた時に出現する。

さっき俺が使ったのが探知魔法だ。

探知できるものは、人物、落し物、植物など多種多様であるが、何のヒントもないところから何かを探し出すことは出来ない。

探知できる範囲は術者のイメージ力や、地形をどれだけ把握しているかで変わる。

あとは魔力とか詠唱とか色々複雑なものが関わってくるが。


魔法は、簡単に超常現象を引き起こす。突然雨を降らしたり、一瞬で水を氷にしたり、その種類は様々であるが、これは人間にとってありえない現象だということに変わりはない。

人間にとってこれらは"もし"の世界であり、まさか自分たちに魔法が使えるなんて思いはしない。


俺が目的地にたどり着いて最初に聞いたのは、男の声だった。


「精霊の女か。いい獲物だ。こいつも捕えろ!」


路地裏の角から慎重に顔を出して状況を目で確かめる。


助けて、と叫んだ本人だと思われるのは、身長が高い男に担がれている子供だった。口にはガムテープを貼られている。

男の仲間は四人。その四人は、それぞれ剣や銃を腰に下げていて、子供とは別の女を取り囲んでいた。

囲まれている女は腰近くまである長い赤髪。それだけでも目立っているというのに、背中には羽があった。といっても、天使のような羽ではない。色紙のように薄く、透明度の高い虹色。肩幅よりひと回り大きくて、赤髪よりも長い。神秘的ではあるが、先のほうはボロボロ。

その羽は、彼女が精霊である証だ。

そして、その赤髪と羽こそ、俺がよく知っている精霊なのだと顔を見ずに判断できる材料だった。


その時点で、男たちが何者で何故子供を担いでいるのか、何故精霊の女が囲まれているのか、俺には理解できていた。

けれど、女精霊には理解できていないだろう。男たちが、子供をさらっては必要としている貴族に高値で売りさばいている人売りであるということを。

理由はどうあれ、そんな人達に囲まれているのだということを。


大方、子供を助けようとして喧嘩を売ったんだろう。


人売りたちは子供だけでなく彼女も捕らえることに決めたようだが、残念ながら人売りたちに勝ち目はないだろう。

彼女の力は絶対的なのだ。

しかし。と俺は考える。彼女は俺と同じように一人では何も出来ない。絶対的であるからこそ不自由。不自由だからこそ絶対的。


「悪い人、発見。排除する」


彼女は囲まれているにも関わらず慌てた様子はなく、落ち着いた綺麗な声で、静かに淡々と述べた。

排除する。つまり、殺す、と。


「よく言うぜ。精霊には剣術が使えない。魔法には詠唱とやらが必要。仲間が傍に居ないってのに、どうやって俺らに勝つんだ?」


男が嘲笑う。

けれど、彼らも知らない。目の前にいる羽を持った精霊が、ただの精霊ではないことを。


――しかし、やはり彼女は一人では何も出来ない


「私、一人じゃない」


……っ?!

その一言は、俺を驚かせるには十分なものだった。人売りたちは、女精霊の言葉をただの強がりだと思ったのか余裕の笑みを浮かべている。

それでも彼女は繰り返して言う。


「一人じゃない。仲間……近くにいる」


俺はよく分からない感情に襲われた。この感情はなんだっけ。でも、何だか悪い気はしない。

ゆっくり路地裏の壁に背中を預けると、即座に“イメージだけで”透視魔法を発動させる。探知魔法とは違って効果範囲はとても狭いが、より鮮明に現場が見える。


上手く合わせろよ。


心の中で女精霊に言って、防御魔法を“イメージ”した。


――さあ、ショーの開幕だ

読んでくださってありがとうございます!

ほとんど思いつきで書いてる感じになっちゃってますが(´Д`)

今回は「俺」しか出てきませんでしたが、次からはもっと出てくる予定です。

グダグダやっていくことになると思いますが、今後もよろしくお願いしますm(_ _)m

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