-計画-
と、言うことで。
「文句がある貴族はコテンパンにしてやれ」
バルコニーで言いたいことを言い終え、清々した俺が、聖、暁、白癒、翠を前に言う。ついでに、これから皆を一気に呼ぶのが面倒なため、暁、白癒、翠の三人をまとめて幹部と呼ぶことにした。
「政策はほとんど変えなくていい。ただ、国境の守りを固める」
王様はこの時をずっと前から予期していたのではないか。そう思えるほどに、今まで適応されてきた政策は俺にとって都合のいいものばかりだった。
もともとこの国には人売りは居ない。だからこそ、奴隷という身分は存在しない。国内で発見された人売りは国外から来た者で、人売りから人を買った貴族は国外に逃亡した。それを防ぐための国境強化。
「んで、取り敢えず最初はここを落とす」
言いながら地図を指さす。南東にある帝都。どちらかというと工業都市で、帝王は友好的。上手くいけば話し合いで何とかなるかもしれない、という期待があったりなかったり。
「どうやって帝王様に会うんです〜?」
翠の最もな質問。帝王がいるのは真ん中の都市。そこまで行くには、少なくとも敵国の街を一つは経由しなくてはならない。
さて、簡単に通してくれるだろうか。
答えは否だ。今や一国の王様となった零聖という脅威を、すぐに通してくれる筈がない。いくら友好的な帝王とはいえ、俺たちは一度顔を合わせたぐらいで話したこともないわけだし。
「問題はそれなんだが...」
「空、飛べばいい。街を、経由しなくて済む」
とかいうとても無茶な聖の意見がある。確かに空を飛べば国境とか人の目とか関係なく帝王がいる都市へ行くことができるが、現段階で空を飛べるのは聖だけだ。さすがに聖だけで帝王のところへ行かせようとは思わない。
「どう頑張っても暁は空を飛べないにゃ」
「私もよ。零羅くんと違って魔法は使えないから」
「ボクにもそんな長距離を飛べるとは思えませんー」
もちろん予想済み。
俺は疲れた気分になりながら考えていた案を口にする。
「飛ぶのは俺と聖の二人でいい」
「零羅くん、飛べるの?」
飛べるわけ無いだろ!!と、思いっきり白癒に突っ込みたいのを何とか堪える。
「イメージさえ出来れば飛べる。ただ、長距離になるから大量の魔力が欲しい」
言ってから翠に目を向けると、彼女はとても真剣な表情で唸っていた。魔力の用意が出来るかどうか考えているのだろう。ただの移動だけで俺自身の魔力を使うことは極力避けたい。チョーカーの魔力もいざという時のために残しておきたい。だから別の方法で俺に魔力を提供する必要があるのだが、翠の返事は...。
「取り敢えずやってみます〜」
という、出来るのか出来ないのかハッキリしないものだった。出来なかった場合は別のことを考えるとしよう。
「頼んだ。俺と聖が飛んでる間、残りの三人は普通に街を経由してくれ」
幹部の三人なら、相手にはそれほどの脅威として捉えられないはず。というか、この三人は帝王に会ったことがない。一般市民として国境を超えることは可能であるはずだ。
王様が帝王と会ったのは、国同士の会議のためだった。その際、俺はボディーガードとして連れていかれて、その先で帝王と顔を合わせたのだが...今となっては、王様はこうなることを予想してボディーガードに俺を選んだのではないか、とさえ思えてくる。
「そうなると暁たちより零と聖の方が早く目的地に着くことになるにゃ」
「ああ。俺たちには幹部が到着するまで身をひそめることができない」
身をひそめている間に、誰かに見つかったとしたら。その瞬間、零聖が自分の国に侵入しているのだということを相手国に知られてしまう。だからといって、幹部が来るまで飛び続けるのは俺がキツい。
「だから俺と聖は休まずに帝王と会って交渉を始める」
「簡単に受理してもらえずに戦闘になったらどうするのよ」
白癒が心配そうに問う。
確かに、敵国には万を超える兵士がいるのだ。いくら零聖でもそれを相手にするとなると苦しい。だが。
「大丈夫。そうなる前には、お前らが都市に到着してるだろ?」
このメンバーなら出来るはずだ。俺と聖の交渉が終わる前に全員が都市に揃い、戦闘になれば全員で戦う。例え敵の数が万であろうと億であろうと、全員が揃っているのであればそんなことは関係ない。
自信満々に問う俺を見て、俺を除く全員が苦笑した。
「やってやろうじゃないの」
「燃えてきました〜」
「悪くないにゃ」
よし。取り敢えず大まかなことはこれでいい。あとは魔力問題と、俺が飛べるかどうかにかかっている。
俺の仲間はこんなにも優秀だ。
「じゃあ解散!また何かあったらよろしくな」
その俺の一言で皆はバラバラになっていく。
暁は持ってきていた本を読みながらテレポート魔法で姿を消し、白癒は銃の練習をするのか練習場の方向へ歩き始め、翠は欠伸をしながら仕事に戻る。
聖だけが俺の隣に残った。
「...聖?」
どうしたんだろう。そういえば、話し合いの途中からずっと黙っていたような。
「零兄、死んだら、零聖も、死ぬ」
ああ、その通りだ。
「私、死んだら、零聖も、死ぬ」
今更確認するようなことじゃないだろう。
「零兄は、生きたい?」
俺を見上げて言う聖にはいつも通り表情がなかった。
彼女には笑うという表情しか作ることができない。だから無表情であるときは、悲しいとか、苦しいとか、辛いとか、とても真剣であるとか、怒っているとか、そういう時である。
俺には笑うという表情を作ることができない。
楽しいとか、嬉しいとか、幸せだとか、そういうことを感じられない。
でも、それでも俺は言う。
「生きたいよ。“死ぬほど生きたい”」
「じゃあ、最後までずっと一緒。約束、だよ」
最後。世界統一して、悪を叩き潰し終えた時。
その日は必ず来る。
何故なら零聖は最強だから。
どんなことだって成し遂げられるから。
「おう。約束だ」
俺はずっと独りではなかったのだと。
ついに気づくことはないまま...。
仲間とか友達っていいですよね...(*'ω'*)
やっとその素晴らしさに気付きはじめた零羅ですが、独りではないことには気付けません。私の考えでは、
仲間がいる=独りではない
ということにはならないのです。




