-国王-
そしてまた翌日。
「零羅くん、聖ちゃん、貴族からの反感が強いわ。どうするつもり?」
「急に零聖が王ににゃって皆が混乱してるにゃ」
「二人とも大変です〜っ、街で盗賊からの被害が増大していてー」
嗚呼...なんてことだ...。
貴族身分の撤廃なんて言われればそりゃあ貴族は黙っちゃいないだろう。
急に王様が死んだと思えば、次の王は零聖。想定外過ぎてそりゃあ人々は混乱するだろう。
この騒ぎに紛れて、盗賊や人売りからの被害が増大しても可笑しくない。
しかし、この慌ただしさは...。
「あーもう、うるせぇ!!翠!今すぐ演説の準備をしろ!俺と聖でバルコニーに立つ!」
とにかく混乱を大きくしないで欲しい。
まずは俺たち零聖の意思を明らかにしてあげようじゃないか。
零聖とお前らの差を見せつけてやるよ。
急いで城のバルコニーにマイクを持っていき、門の前に国民を集めるように指示する翠を視界の端で捉えながら隣にいる聖に話しかける。
「聖、俺らが演説で何を言うべきか、分かってるよな」
「うん。零兄のことなら、何でも分かるから」
それはそれで怖いような。しかし、その理解能力に今まで何度も助けられたことは言うまでもない。
「聖の力、頼りにしてるぜ」
「任せて。私も、零兄を信じる」
聖と一緒なら、どこまでも行けるような気がした。
どんなに無謀な目的でも、達成できるような気がした。
零聖は二人で一人。お互いが離れてしまえば、この世には存在しない者。
けれどきっと、存在していられるなら、誰よりも強い人間と精霊。
最強でいられる自信のある二人。
「零羅さーん!準備完了です〜」
「分かった、今行く!」
俺は聖の手を取ると、バルコニーに向かって歩き始めた。
事実を、真実を、そのまま伝えるだけ。
どれだけ愚かでもいい。
人の頂点に立つ者が、皆威厳を放っていなければならないなんて誰が決めた。
「零!聖!」
「待ちなさい!」
バルコニーに続く最後のドアを開けようとしたところで、後ろから追ってきた暁と白癒に呼び止められた。
折角この勢いでドアを開け放って格好よく登場しようと思っていたのに。
「せめて、これは付けておいた方がいいにゃ」
と言って暁から差し出されたのは二つの王冠。俺はそれを見て顔を歪めた。
「...いらない」
無表情な聖も俺と同じ気持ちだったらしく、俺が言おうとしたことを代弁したみたいな形になる。
暁は深いため息を吐き出してから口を開く。
「これがにゃいと、零聖が国王だと信じてくれにゃいかもしれないにゃ」
「あー、でも俺ら、そういう“形”とか称号とか名誉とかいらないんで」
そう。ただ、大人数を動かす力さえあれば、その力が何だろうと関係ない。国王でも悪役でも何だってやってやる。
「仕方ないわね。そう言うと思って、これも持ってきてあげたわよ」
次に白癒から差し出されたのは、白地にピンクの水玉模様のシュシュと、銀色に輝く十字架のついた大きめのチョーカーだった。どちらにも国王だということを示す紋章が入っている。
「聖ちゃんは剣を使うから、髪をまとめておいた方がいいでしょ?このチョーカーには魔力が溜まるような魔法をかけて作ってあるわ」
それを聞いた俺と聖は同時に顔を見合わせた。数秒後に聖は微笑んで見せると、白癒と暁に笑いかけた。
「ありがとう」
お礼を言われた二人は嬉しそうに微笑み返した。
聖はシュシュを手に取ると早速戦闘時邪魔になりそうな左右の横の髪を取り、後ろでひとつにまとめた。
俺はチョーカーを手に取ると早速首に通す。魔力が溜まるなんて俺得すぎる。
「暁たちは二人に期待してるにゃ」
「あなたたちの目的はとてつもなく大きいものだけれど、二人ならきっと出来る」
――人間なんて、私利私欲の塊
「サンキュ。んじゃ、行ってくるわ」
「期待して見てて」
俺と聖は二人にそう言ってから背を向けた。
合わせたわけでもないのに、同時に足を踏み出す。
合わせたわけでもないのに、同時にドアに手を掛ける。
――仲間って、こんなに暖かいものだっけ
暖かいってなんだっけ。
俺と聖は、強い緊張感に見舞われていた。
強くドアを開け踏み出した先には、全国民が集まっていた。多くの視線を受け止めて竦みそうになった足を、聖と繋いだ手からくる不思議な感覚が動かせる。
二人でバルコニーの前の端まで進み、俺が用意されていたマイクを手にとった。それを数回コンコンと叩いてスイッチのオンオフを確認する。
場は完全に静まり返った。
「えー...っと...取り敢えず、何も言わずに聞いて欲しい」
何から話すか決めていなかったことに今更気付いて内心焦っていた俺の話はじめはそんなものだった。
「皆、急に状況が進みすぎて混乱していると思う。だが、確かにこの通り、これからの国王は俺たちだ。俺らは、今までのように緩い政治をするつもりはない!悪は叩き潰す」
「私たちの目で見て、悪と判断されたものは悪。ただちに、削除する。これから、貴方達の世界は、目まぐるしく変化していく。けれど、現実に目を向け、理解することが、大事」
勢いに乗った俺たちが止まることはなかった。ここにいる全員の気持ちを一つにさせる。俺らこそが自分たちの王であり最強なのだと思い知らせる。
「この国はこれから、全員が働く。食って寝て過ごすだけの奴はさっさとくたばれ。そんな奴はこの国には必要ない。不幸を知れ。知った上で前に進め」
「私たちは、何があっても全力でこの国を守る。そんな私たちを支えるのは、皆。他でもない、国民ひとりひとり。そして、私たちの目的は、他の二ヶ国を降伏させ、取り込むこと」
「つまり世界征服だ。でも征服という言葉を使えば聞こえが悪くなるから敢えてこう言おう。俺たちの目的は世界統一であると。...そんなこと不可能だと、誰もがそう考えるだろう」
「そう、その考えは正しい。普通なら、不可能。出来ることなら、既に誰かがやってるはず。でも、私たちは普通ではない」
「お忘れではないだろうか。ここにいる俺たちは。諸君らの王である俺たちは。全世界に名を轟かせた、零聖であるということをッ!」
この時の俺と聖には明確に見えていた。
門の前に集まった人々が、徐々に自分に期待を寄せていく様子が。
「戦争のない、平和な世界。それを、貴方たちにあげること、約束する。文句があるならかかって来い。こんな国嫌なら、出て行って」
「世界一、協調性のある国にしようぜ!俺たちは、最強で最凶で最恐の零聖である!」
言いたいことを言い終えた俺と聖がマイクを置いて一歩下がると、一呼吸後に歓声が沸きあがった。どの部分に俺たちへの信頼性というか期待っぽいものを感じたのかは分からないが。
けれど大成功。
やっぱりよく分からない感情に満たされて国民を見つめる俺。
達成感に満たされて国民を見つめる聖。
どちらからともなく、もう幾度となく言ってきた言葉が漏れる。
「「さあ、ショーの開幕だ」」
...とまぁ、こんな感じに偉そうなことを偉そうに――実際偉いのだが――言ってみたが...。
本当にその目的を成し遂げたら。
零聖は消えなければならない。
このことはまだ、二人だけの秘密にしておこう。
目的を持ったことがなかった零羅が初めて持った目的は、なんと、世界征ふk((ゲフンゲフン。世界統一でした。二人はどのようにして三つにバラバラになってしまっている世界を一つにするのでしょうか。楽しみにしていてください!




