-会議-
「それじゃ、始めるにゃ」
そう言って切り出したのは、今からこの場を仕切ることになるのであろう暁。
昨日あれから眠りに落ちてしまった俺が起きることはなかったらしく、今朝白癒に怒鳴られるようにして起こされ、聖に引きずられるようにして食堂へ向かい、翠に急かされながら会議室へ来て、慌ただしく席につき、今に至る。
どうやら昨日起こったことを踏まえて、これからに関する詳しい話をするらしい。
「まず紅について話そうと思うにゃ」
暁には物事を客観的に見るくせがあり、人の気持ちなんて考えないで行動する。だから俺が気絶しているとき、俺と聖を殺してしまったほうが早いと判断したのだろう。けれど、だからこそ、暁は場を仕切ることには適していた。
「紅はこの国の人間じゃないにゃ。他の国にも手を回して正体を探ってるけどさっぱりにゃ」
慣れた手つきで――実際慣れているのだろう――話を進め始める。
「王様は出かけた先で殺されたにゃ。紅が、自分の口で“わたくしが殺しました”と言ったにゃ。......本当に、王様は亡くにゃった」
ということは、しかし。紅が王様を殺したという確証はないわけか。紅が独断で俺を殺そうとしたのであれば、俺には紅に標的にされる何らかの理由があるはず。今のところ身に覚えはないけれど。
だが、誰も紅が独断で動いているとは言っていない。紅の仲間が王様を殺した可能性もある。それが紅やその仲間の意思とも限らない。もっと大きな、何かの意思だったなら...。
「王様が亡くにゃったことは皆に公開したにゃ。でも暴動とか反乱が起こらずに留まってるのは...」
と、白癒に視線を向ける暁。
白癒は暁に向けて困ったように苦笑を返して口を開く。
「すぐに対処するから大人しくしてなさい、大きな問題を起こせば死刑にする、って私が皆に言っておいたからよ」
表情から察するに、白癒の本心ではないだろう。仕方ないからそういうことにした、みたいな感じか。確かに事は急過ぎた。ここまでしなければ国なんてあっという間に滅びてしまうのだろう。
「そこで、暁たちは早急に新しい王様を決める必要があるにゃ」
この国の王様は、子孫が受け継ぐ地位ではない。王様が指名した者が次の王様となるのだ。しかし、本来なら指名するはずの王様が亡くなってしまったのではどうしようも...。
暁の次の発言は、そんな俺の考えをあっさり覆してしまうようなものだった。
「王様の遺書があるにゃ」
そう言って、テーブルの上に置いてあった封筒を俺の前まで滑らせてくる。何故俺のところへ持ってくるのか。皆はもうこの手紙を読んだのだろうか。
「......?」
「零兄、読んで...」
聖が俺から目を逸らしながら言った。そんなにまずい内容だったのだろうか。暁、白癒、翠の表情も確認したが、三人とも不安そうにしている。
よく分からない雰囲気の中封筒を開け、中に入っていた紙を取り出す。
それを広げて、書かれていた文字に目を通す。今までに何度か見たことがある王様の字。王様のサイン。確かに王様が書いたものらしい。
が。内容は俺を驚愕させるには十分なものだった。
「なんだ...これ...。どういうことだよ...!」
「零羅さん...」
“紅という女が城を訪ねてきた日に、私は亡くなるだろう。きっと誰かがこれを読む時に私はこの世にいない。よって、これを遺書と名付けよう”
王様は紅の存在を知っていた。しかも紅に殺されることまで知っていたかのような書き方。
“情報漏洩の危険があるため、紅のことを詳しく書くことはできない。けれど、これだけは言いたい。彼女は敵である”
情報漏洩の危険ということは...あまり知られたくない話なのだろうか。
“私と城の財産は暁と白癒に任せる。彼らのサポートは翠に。そして、次の国王は...”
「次の国王...っどうして...」
“誰よりも優しくて残酷である彼ら...零聖に任せる”
「俺に...俺らに王様をやれだって...?!」
無理だ。どうして俺が汚い人間なんかの頂点に立たなければならないのだ。どうして俺が汚い人間の憧れでいなきゃいけないのか。
俺には、人の頂点に立つような資格も、覚悟も、力もない。
「零兄、続き読んで」
聖に促されて残りの文を読む。
“次の国王が、私のように皆を導く存在である必要はない。次の国王は二人。彼らは皆を支配する存在となるのだ”
「支配...」
俺は顔を上げると、ここにいる面々を見回した。
相変わらず無表情の聖。
どこか期待した様子の翠。
全て分かっているとでもいうように謎めいた笑みを浮かべる暁。
一人不安そうな白癒。
俺はどこからきたかもわからない優越感に浸ってふっと笑った。
「ははっ成程。やっと王様の意図がわかったよ...。なんだ...何だよこれ...」
――最ッッ高じゃないか!!!
「いいぜ。やってやる。全員零聖に協力しろ」
自然といつもより低い声が出た。
他人から見れば、その姿は完璧に民を支配する国王だっただろう。
俺の言葉を聞いた聖は不敵に笑み。
俺の言葉を聞いた翠は期待通りで嬉しそうに笑顔を作り。
俺の言葉を聞いた暁は俺に強く頷き。
俺の言葉を聞いた白癒は楽しさと呆れの混ざった顔をした。
「じゃあ国王様。まず最初に私たちは何をすればいいのかしら」
白癒が俺と聖を交互に見て問う。
聖は俺を見ると笑って頷いた。
「まず最初に、貴族身分の撤廃を命じるッ!」
俺が命じたのは、紅のことでも、政治に直結することでもない。貴族をなくすことだった。
王様って、どんな気分なんでしょうか。零羅と聖の二人は結構楽しんで王様をやることになりそうです。それについてくるメインキャラクターも強者ぞろいで...。紅の強さはそれを踏まえた上で設定しています。
今後もこの作品を宜しくお願いしますm(_ _)m




