-和解-
「零兄!!」
必死な表情だった聖が一気に顔を輝かせるとドタバタと走ってきて俺に抱きついた。
何度も俺の名前を呼びながら、嬉しさから涙を流し始める。
その姿を見て安堵した。聖は泣くこと自体を忘れてしまったわけではないのだと。
「零羅さぁんっ、良かったです〜」
「全く、迷惑な兄妹ね」
「さっきの衝撃波は...魔法にゃのか...?!」
泣き笑いの翠。
いつも通り俺と聖に悪態をつく白癒。
純粋に驚いている様子の暁。魔力を使い果たしてしまった精霊が魔力を回復させたという前例はない。それを知識として知っているが故の驚きだろう。
しかし、よもや忘れてしまったわけではないだろう。俺と聖が普通ではないということを。
...紅。魔法を使える人間。俺以外にそんな人がいるわけがないと決め付けることは出来ない。ただ明確なのは、俺と翠では勝てないということ。ここにいる俺を含めた5人が生きているのを見ると、紅は結局あれで帰ったのだろうか。
俺を殺しに来たと言った。俺が異種族でこの世に存在してはならないから、という理由ではないだろう。紅も異種族であるはずだから。
一体、紅は何者なのだろうか。
「零兄、今日は休んで」
そういうわけにもいかない。さっきのことは早く王様に知らせておいた方が...というか、俺はどれくらいの間眠っていたのだろうか。
王様は帰ってきたのか。
「私が必要なことは伝えておくわ。他の3人には仕事があるでしょう」
白癒が一同を見回しながら言った。
聖が単独で仕事...?
それ以前にこれは、白癒と二人きりになってしまうパターンなのでは...。
緊張と恐怖で体を強ばらせる俺をよそに、聖、暁、翠は白癒に後のことを任せるとさっさと部屋を出ていってしまった。
「.........」
.....................。
沈黙。白癒と二人では余計に気まずく感じてしまう。
何か言うべきか迷っていると、白癒は怒っているのか真剣なのか分からない表情で近づいて来て拳を振り上げ――俺の頬を叩いた。パチンッといい音が響く。
「いっ...」
普段なら全く痛くないはずだったのに、今は痛みを訴えてくる。
普段ならやり返すところなのに、その気力も湧かない。
何故か。身体的に弱っているからだけではないだろう。
「零羅くん、貴方...死にたいの?」
そんなこと、あるわけないだろう。死にたくないから、生きたいから紅の魔法を防いだ。
......本当に、そうだったか。
あの時の俺は、本当にそんな善の塊みたいなもので動いていたか。
違う。違ったはずだ。死にたくないなんて、生きたいなんて、少しも思わなかった。
――誰かを守って死ねるなら、それで良かった
「どうして逃げなかったのよ」
――相手の目的が俺だったから
「貴方は確かに存在してはいけない。それでも、ちゃんとここに居るのよ。その意味を理解した方がいいわ」
「何が...」
何が言いたい。
「聖ちゃんは嬉しくないって連呼してた。翠ちゃんは何もできなかったって泣いてた。暁ちゃんは必死で貴方を助けようとした。私は、悔しかった...!」
俺が死ぬだけで。
悲しんでくれる人が...。
「っ...!」
無意識に両手を強く握り締める。
その上に白癒が手を重ねた。
「でも、翠を守ったのは貴方よ。零羅くん」
白癒がこんなに優しく微笑むところなんて、見たことがなかった。目の奥が熱くなる。唇を噛み締め、溢れてくる感情に必死で耐えた。
「何も言わなくていいから聞きなさい。貴方が気を失ったあと、多くの犠牲を出してしまうのは気が引けるからと言って紅は撤退した」
どうやら非人道的な人ではないらしい。
「王城自体に被害はなし。庭が抉れたくらいね」
あれほどの高密度エネルギー球を防いだのだ。たったそれだけの被害だったなら良すぎるだろう。
「貴方が寝ていたのは、たったの2時間くらいよ」
感覚的には1週間以上寝ていたような気がしたが、そうでもなかったらしい。部屋が明るいため気づかなかったが、カーテンの向こうに見える景色は暗闇に包まれようとしていた。家々や電灯には灯りがともっている。
「そしてここは王城の空き部屋」
そのことには気付いていた。俺の家ではなかったし、病室らしさもない。考えられるのは王城くらいだったから。
「唯一、最悪だったのは...」
白癒はそこで続きを言うか言わないか迷っているようだった。しかし、数秒で決心をつけたのか口を開く。
「王様が、亡くなったことよ」
「なん、だと...」
俺の声は、聞き取ることが難しいほどに掠れたものだった。
王様が死んだ?何故だ。紅と戦っていたときに王様はここには居なかったはず。何か別の理由があると考えるのが妥当だが...。続いた白癒の言葉は、その予想を大きく覆すものだった。
「紅が、殺したのよ」
どうして...。
「どうして守らなかったッ!お前ら...お前ら側近だろ!認められてたんだろ!なんで...なんで...!っく...ぁ...」
思わず身を乗り出して叫んだ。それに比例した痛みが喉と身体を襲う。すっかり勢いをなくして痛みに呻く俺を、白癒はどこか寂しげな表情で見ていた。
「詳しいことは、明日皆で話すわ。聖ちゃんが言った通り、今日は休みなさい」
白癒は静かに言うと、俺に背を向け、スタスタとドアへ歩き始めた。それを追うことも止めることも出来ず、ただ目で追う。
「零羅くんのこと、ちゃんと認めるわ。貴方のこと信じるし頼りにする。これからは仲間として、同じ種族として。だから...」
――貴方も私を頼りなさい
背を向けたまま最後にそう言って、金髪姿はドアの向こうに消えた。
王様の生死についてはとても迷いました。
白癒をいい人にするかどうかもとても迷いました。これが迷った結果です\( 'ω')/バッ
読んでくださってありがとうございます!




