-理想-
何も知らなかった二人が興味本位で触れてしまった世界は、とても残酷なものだった。
美しい景色、綺麗な環境、活気のある街、楽しげに笑う人々、幸せそうな精霊たち。
どれもこれも、自分たちとは全く違う素晴らしい存在たち。
そこに、二人の居場所はなかった。
皆と違った二人は化け物扱いされて生きた。
助けてと願うことは許されず、死のうとすることも許されず。ただ、未来も希望も見れずに、不幸と共に生活した。
そして二人は決心する。
誰も自分たちのことを知らない場所に逃げてそこで暮らそう。もう二度と、自分たちが皆とは違うものだと知られないようにしよう。
だが、出来るはずがなかった。
子供が二人で国を出ることなど不可能だったのだ。国境を整備していた役人に捕まり、国で1番大きくて綺麗な建物まで連行された。
希望を抱いたことのない二人には、自分たちが絶望と生きていることなんて知る由もなかった。
だからこそ、国を出ることが叶わないことだと知っても絶望しなかった。
知らない場所へ無理矢理連れてこられても絶望しなかった。
その建物に住んでいた男は二人を哀れんだ。
希望というものを、幸せというものを、未来というものを教えた。教えてしまった。
だから二人は絶望した。
世界はとても美しく残酷で。
仲間はとても優しいから悲しくて。
結局自分とは何だったのか分からなくなり。
普通でないなら、どこまでも異常でいよう。
この世には、自分なんてどこにもいない。
存在しない存在として。
身を犠牲にし続ける。
生きるために、必要なことだから。
でも。それでも。
俺には辛すぎた。自分が何者であるのかわからないまま、他人の言うことに従って、大した意味もなく傷つきながら生きることが、死ぬことが。
俺には辛すぎた。仲間が、友達が死んでいくことが。それを何とも思っていない振りして自分さえ騙して。大切な人など居ないのだと思い続けることが。聖さえ、利用する材料でしかないと割り切ってしまうことが。
だから...。
――もう、いいだろう?
終わりにしようぜ、こんな世界で生きることなんて。
――それでいいのか?
いいよ。十分頑張っただろ。
――聖を置いていくのか?
聖...?誰だっけ...。
――仲間を悲しませるのか?
仲間なんて居ないさ。
――好きにすればいい
ああ。言われなくても。
「零兄!」
零兄...?俺のことか...?
「零兄はまだ生きてる!」
とても懐かしい声。
誰の声だったか。思い出せない。
「でも、魔力を使い果たしてしまったら...生きていたとしても、もう戦えないわ」
「零羅さんは、戦うことで存在意義を確かめていたんです〜」
「苦しいだけになってしまうにゃ」
「嫌だ!零兄は死なせない!助けて...!その後は私がなんとかするから!」
――それでも生きることを諦めるか
――それでも死のうとするか
――それでも考えが変わらないか
――生きたいと思っていたのは誰だったか
「聖さん、落ち着いてくださいー」
「二人とも殺してしまった方が楽じゃないかにゃ」
殺す。俺と聖を。
急速に感覚が戻っていく。闇しか映さなかった視界が色彩を取り戻す。けれど思考が追いつかない。殺される。嫌だ。俺のせいで聖が死ぬ。絶対に嫌だ。
腕に力を入れる。痛みも苦しみも意識する暇もなく上半身を起こすと同時に、無意識に発動された魔法の衝撃波が白癒、暁、翠をひるませた。
驚いて俺を見る四人。それでも構わずに俺は言う。
「頼む、聖だけは...」
焼けるような痛みが喉を襲った。
「ッ...殺さないでくれ...!」
零羅の本音みたいなものと葛藤みたいなものを書いてみました。
主人公が苦しんでる姿を見るのも結構好きです。作者はとても変人です。




