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戦場で踊れ  作者: 羽鷺終茶
14/33

-理想-

何も知らなかった二人が興味本位で触れてしまった世界は、とても残酷なものだった。


美しい景色、綺麗な環境、活気のある街、楽しげに笑う人々、幸せそうな精霊たち。

どれもこれも、自分たちとは全く違う素晴らしい存在たち。


そこに、二人の居場所はなかった。


皆と違った二人は化け物扱いされて生きた。

助けてと願うことは許されず、死のうとすることも許されず。ただ、未来も希望も見れずに、不幸と共に生活した。


そして二人は決心する。

誰も自分たちのことを知らない場所に逃げてそこで暮らそう。もう二度と、自分たちが皆とは違うものだと知られないようにしよう。


だが、出来るはずがなかった。

子供が二人で国を出ることなど不可能だったのだ。国境を整備していた役人に捕まり、国で1番大きくて綺麗な建物まで連行された。

希望を抱いたことのない二人には、自分たちが絶望と生きていることなんて知る由もなかった。

だからこそ、国を出ることが叶わないことだと知っても絶望しなかった。

知らない場所へ無理矢理連れてこられても絶望しなかった。


その建物に住んでいた男は二人を哀れんだ。

希望というものを、幸せというものを、未来というものを教えた。教えてしまった。

だから二人は絶望した。


世界はとても美しく残酷で。


仲間はとても優しいから悲しくて。


結局自分とは何だったのか分からなくなり。


普通でないなら、どこまでも異常でいよう。


この世には、自分なんてどこにもいない。


存在しない存在として。


身を犠牲にし続ける。


生きるために、必要なことだから。


でも。それでも。

俺には辛すぎた。自分が何者であるのかわからないまま、他人の言うことに従って、大した意味もなく傷つきながら生きることが、死ぬことが。

俺には辛すぎた。仲間が、友達が死んでいくことが。それを何とも思っていない振りして自分さえ騙して。大切な人など居ないのだと思い続けることが。聖さえ、利用する材料でしかないと割り切ってしまうことが。


だから...。


――もう、いいだろう?


終わりにしようぜ、こんな世界で生きることなんて。


――それでいいのか?


いいよ。十分頑張っただろ。


――聖を置いていくのか?


聖...?誰だっけ...。


――仲間を悲しませるのか?


仲間なんて居ないさ。


――好きにすればいい


ああ。言われなくても。


「零兄!」


零兄...?俺のことか...?


「零兄はまだ生きてる!」


とても懐かしい声。

誰の声だったか。思い出せない。


「でも、魔力を使い果たしてしまったら...生きていたとしても、もう戦えないわ」


「零羅さんは、戦うことで存在意義を確かめていたんです〜」


「苦しいだけになってしまうにゃ」


「嫌だ!零兄は死なせない!助けて...!その後は私がなんとかするから!」


――それでも生きることを諦めるか


――それでも死のうとするか


――それでも考えが変わらないか


――生きたいと思っていたのは誰だったか


「聖さん、落ち着いてくださいー」


「二人とも殺してしまった方が楽じゃないかにゃ」


殺す。俺と聖を。

急速に感覚が戻っていく。闇しか映さなかった視界が色彩を取り戻す。けれど思考が追いつかない。殺される。嫌だ。俺のせいで聖が死ぬ。絶対に嫌だ。


腕に力を入れる。痛みも苦しみも意識する暇もなく上半身を起こすと同時に、無意識に発動された魔法の衝撃波が白癒、暁、翠をひるませた。

驚いて俺を見る四人。それでも構わずに俺は言う。


「頼む、聖だけは...」


焼けるような痛みが喉を襲った。


「ッ...殺さないでくれ...!」

零羅の本音みたいなものと葛藤みたいなものを書いてみました。

主人公が苦しんでる姿を見るのも結構好きです。作者はとても変人です。

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