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戦場で踊れ  作者: 羽鷺終茶
13/33

-同類-

「ひとつだけ訊いていいか?」


「はい?」


「どうしてお前はここで待ってた」


「零羅さまがここに来ると知っていたからで御座います」


答えると同時に、一歩で俺との距離を詰めて長剣を振りかざす紅。

俺は超高速で思考する。あの長剣を魔法と見るか、剣と見るか。魔法であるなら物理防御は難しい。剣であるなら魔法防御は難しい。どちらにせよ、剣の形状をした武器を、いつも使っている自分の周りに張る結界のような防御魔法で防ぐのは大変だ。

つまり、防御をするなら同じ形状の武器を俺も具現化させる必要があり...そしてそれは、長い間具現化させておかなければならない継続的な魔法だった。


ということで。

完全に首を狙ったような斬撃をしゃがんで躱す。

紅に向かって高速で降りかかる複数の氷の刃をイメージ。強度を普通より強めに設定。

俺の周りに氷の結晶が形成され、細長い槍に変わっていくのが想像の中で見える。現実ではとても一瞬のこととして処理されるため、突然槍が出てきたように見えるだろう。

しかし自由奔放な暁や気が合わない白癒と違って、協調性の塊みたいな翠なら。その一瞬が見えなくとも、しっかり合わせてくれるだろう。


「翠ッ!!強化と加速!!」


「は〜い。万物の理を超える力、支援せよ」


氷の槍が結成され、紅に降りかかるその直前。俺の予想通り、翠の魔法が槍を更に強化して加速を促した。

俺と翠によって出来上がった複数の槍は、紅を貫かんと飛翔する。剣で防御すれば、その剣は大幅に耐久値を減らすだろう。回避をしても、しばらくは次の槍が紅を追いかけ続ける。紅が槍に注意を奪われたその隙に後方にいる翠の近くまで距離を取る。


そして、俺が見たものは。


紅が手を頭上にかざして。


その手前で槍が蒸発していく様だった。


「そんな...っ」


翠が小さく喘ぐ。俺だけならまだしも、翠も強化に加わって出来た槍なのだ。そんな簡単に溶けて、しかも蒸発してしまうはずが......!


――ない、か?


本当にそう言いきれるのか。

人間は魔法を使えないと決めつけたから魔法を使えなくなった。

精霊は剣術を扱えないと決めつけたから扱えなくなった。

人間にも魔法が使えると信じ続けた俺には魔法が使える。

精霊にも剣術が扱えると信じ続けた聖には剣術が扱える。


一般論を超えた力が――予想を超えた力が、この世には存在するのだ。他ならぬ自分たちがそうであったように。


さて、翠と俺が強化した槍が、紅という人間1人によっていとも簡単に蒸発させられてしまう。これは有り得ないことか?


――有り得ることだ


「分かって頂けましたでしょうか。零羅さまはわたくしには勝てません。大人しくしていただけると嬉しゅうございます」


氷の槍を全て蒸発させた紅は余裕の笑みで言う。

そして絶句する俺たちに思い出したかのように付け足した。


「ああ、それと。あれが氷でなくて鉄だったとしても、簡単に蒸発していました」


強い。俺が知っている全てより。

桁違いの強さを持っている。

そのことが、何よりも、


悲しかった。


「おや?まだ力のある目をしていらっしゃいますね。なんて素晴らしい。それではまず、戦う気力を削いでさしあげることに致しましょう」


その言葉がなにを意味するのか。

瞬時に理解できなかった俺と翠には身構えることしか出来なかった。

紅が手のひらに生み出した小さな光球。それに対する防御魔法を二人で何重にも張る。けれど、それだけでは足りないと直感が告げる。


どうせ勝てない戦いだったなら。

常に相手に主導権を握られるショーだったなら。

翠を逃しておいた方が得策だったのではないか。


「それでは、さようなら」


紅の手のひらから押し出された小さな小さな光球は、俺と翠の防御魔法にぶつかると太陽よりも強く眩しく輝き、一気に膨張して何重もの防御魔法を全て“予想通り”簡単に突き破り、俺たちを包み込もうとした。


例え小さな光球だったとしても、それだけで高濃度のエネルギー球。


「させない」


例えばイメージが完璧であったなら。

消費するよりも多くの魔力を生み出すことが可能。

1秒を、0.1秒として見ることも可能。

誰かを守ることだって容易い。


迫ってくる光が、魔法によってとても、とても遅く感じられる。

俺は存在してはいけないもの。

既に死んでいることが普通であるもの。

紅が何故俺を殺そうとしたのかは分からないが、その行動は正しい。

しかし、翠まで巻き込んでしまうわけには。


俺の意思は明確なイメージとなって、魔力量を大幅に回復させる。しかし次の瞬間には、認識できるほど高速で魔力が消費されていくのを感じる。回復した魔力を、一気に使い果たす覚悟で。


「零羅さん?!ダメです!!」


状況を把握した翠が叫ぶ。が、もう遅い。徐々に力を失っていく光球。そうさせているのは俺の防御魔法。


「...っ翠。逃げろ」


喉から声を絞り出す。頼む。頼むから、俺に従ってくれ。

今にも泣き出してしまいそうな顔をする翠に、笑いかけてあげることは出来ない。笑うって、なんだっけ。


「嫌です...!」


「やっぱ馬鹿だな......翠は」


光が完全に輝きを失う。恐らく紅がこの一撃で終わらせようと放った攻撃に耐えたのだ。

魔力を使い果たした。もう何かを完璧にイメージする力もない。足に力が入らず、重力に任せてその場に倒れる。


「零羅さん!」


翠が俺を抱きしめるようにして抱き起こす。

逃げろって、二回も言ったのに。


「防いだ......?」


遠くの方で紅が言ったのがわかる。

そちらの方に顔を向けると、霞んだ視界に初めて笑みを消した紅の姿が映った。

ざまぁ。舐めすぎなんだよ。


紅は何をするつもりなのか、ゆっくりとこちらに歩いてくる。右手には変わらず長剣。その表情はとても真剣なものだった。

翠が息を詰めるのが分かる。俺を抱き起こしている腕に力が入る。


「そちらの緑色のお嬢さん」


一歩手前で立ち止まった紅が翠に視線を向けて言う。翠は何も言わないで紅を見返した。


「名前を教えていただけます?」


「...翠ですー」


相変わらず間延びした話し方。紅は最初と同じように微笑み。


「では翠さま。零羅さまを刺そうと思いますので、退いて頂けないでしょうか?」


あくまでも目的は俺。

しかし翠の意見が変わることはない。


「嫌で〜す。ボクはここから退きません」


「そうですか。では、二人揃って死んでください」


「っ...」


俺のことは放っておけ。そう言いたいのに声が出ない。翠まで死んでしまったら。生きていなければならない存在まで消えてしまったら。


紅が長剣を水平に構える。ひと薙ぎで俺と翠の命を吹き飛ばせる。


ここで、終わりなのか。


――俺は一人では何も出来ないから


...聖。やっぱり1秒でも離れるべきではなかった。ずっとずっと、一緒に居るべきだった。俺らは、二人で一人だから。二人で零聖だから。


ごめんな、聖。

きっと怒られちゃうな。


俺が覚悟から目を閉じ。翠が恐怖から目を閉じた。次の瞬間。

耳元で乾いた破裂音が響く。


「騒がしいと思って来てみれば...他人ひとの家の庭で派手に遊ばないでくれるかしら」


目を開けると、はっきりとした驚きを表情に出した紅。そして数メートル先に落ちている長剣。

俺が大嫌いなはずの、ハンドガンを持った金髪の女。


「読書の邪魔をしにゃいで欲しいにゃ」


どこからかそんな声も聞こえる。

翠が顔を綻ばせる。


そして、黒く塗り潰されていく視界で、確かに俺は見た。

俺と翠を守るかのように、こちらに背を向けて紅と対峙する、大切な大切な......。


何よりも綺麗な赤い色を。

滅茶苦茶急いで書いたので誤字脱字や変なところがあるかもしれません。後で見つけたら修正します。

急いで書きましたが、ここの話は1番書いてて楽しかったです(*'ω'*)

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