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戦場で踊れ  作者: 羽鷺終茶
12/33

-敵対-

「あれは...誰でしょう?」


最初にその人を発見したのは翠だった。

視線の先には城の門。それ自体はいつも通りで、特に変わったところはない。

けれど問題なのは門ではなく、門の前にたっている人の方だ。

薄く透明がかったピンク色の短いツインテール。

真っ白で無地のワンピースにサンダルといった、今からビーチへ行くかのような格好。

何を見ているのか、はたまた何がしたいのか、庭を挟んだ向こう側にある、城への入口のドアをじいっと見つめている。


「見ない顔だな」


「変わったお客さんが来るという連絡は届いていませんが...」


俺と翠は謎の人と距離を置いて立ち止まり、顔を見合わせる。

城へ来る人は大体限られていた。ひとつは王様に認められて城の中に自室を設けてもらい、そこで生活している者。俺が把握している限りでは、それに該当するのは暁、白癒、翠の三人だけだ。もうひとつは王様に仕えている者。けれど彼らは、ひと目で部外者でないと分かるようにするために、決まって同じ腕輪をしていた。

それ以外の人が城へ来る際には、必ず俺と聖、暁、白癒、翠に連絡がいくようになっていた。


今、門の前にいる謎の人は腕輪をしていない。来客の連絡も来てない。


「とにかく、お前が帰るにはあそこを通る必要があるだろ」


俺がそう言うと、翠は結構真剣な表情で頷いた。未だにドアを見続けている謎の人物を警戒しながら歩き始める。別に誰だかわからない人と接触する必要はないのだ。横を素通りすればいい。

俺のその簡単で単純かつ有りがちな考えは、自分の身を滅ぼすことになるのだが...。予知能力のない俺には、まだそんなことには気付けない。


俺は翠の手を引いて謎の人の横を何事もなく通り、門をくぐった――かのように思えた。


「お待ちくださいませ」


とても丁寧であるのに、何故か恐ろしく感じる声が俺と翠の背中に投げかけられた。最初は無視しようと思った。ほぼ俺たちに向けての言葉だっただろうが、その確証はなかったことだし。


だが、続いた言葉で無視することは不可能となる。


「零羅さまの大切な大切なパートナーさまはいらっしゃらないご様子で御座いますね」


「っ?!」


.........なんの、ことだ。

ここで何か口に出してはならない。

立ち止まってはならない。

普通を装って異常であれ。

思考しろ。相手より速く。


けれど、俺の足は地面に凍りついてしまったかのように動かない。

ただ、いつもより冴えた頭で考える。さっきの言葉は俺に向けられたものか。パートナーというのは聖のことか。なぜ妹と表現しなかったのか。こいつは何者なのか。俺のことを知っているのか。


恐る恐る振り返る。ピンク色の髪の彼女と目が合った。不自然なほどに綺麗な微笑を浮かべている。さっきから言葉遣いも丁寧なもので、単純に見れば危険人物とは思えない。けれど何かが俺に告げる。関わってはならないと。


「お初にお目にかかります。わたくし、くれないと言うものでございます」


紅と名乗った彼女は、優雅に一礼してみせる。


「あの〜、何か御用でしょうか〜?」


何も言えずに黙っている俺に代わって、翠が話す。こんな性格でも、王様に認められて城に住んでいる精霊なのだ。頼りなくても信用は出来る。


「はい。わたくし、そこの零羅さまにお会いしたくてここまで参った所存でございます」


俺に会いたくて...?

俺は城に住んでいるわけではない。来るかもわからないのにここで待っていたというのか。


「俺に何の用だ」


やっと発することができた声は、とても冷たい色を帯びていた。完全に相手を警戒してしまっているのだと、改めて認識する。


「いえ、それほど大した用事でもないのですが...」


紅は言う。

とても楽しそうに。

満面の笑みで。

表も裏もない自分の目的を。


「貴方に、死んでいただこうと思いまして」


場が凍りついた。マイペースな翠でさえ、言葉を発することができない。臨機応変さには長けていた俺でさえ、行動を起こすことができない。


死ねと頼まれて、素直に死ぬやつがあるか。

そもそも、この人は...紅は、本気で言ったのだろうか。口ぶりから、俺のことを前から知っていたかのようにも感じられるが...。


「.........紅、といったか。俺には冗談に付き合っている暇はないんだけど」


「わたくしは本気で御座います。ですから、動かないで大人しくしていて下さいね」


紅は笑顔を崩さずに言いながら虚空に手をかざす。

何をするつもりだ...。

紅はどこからどう見ても人間。精霊らしい部分は見られない。だから、何もない場所から何かをすることは不可能のはずだ。


「剣よ、具現化せよ」


その一言で、紅の手のひらに光の粒が集まり始める。それらはやがて細長く収縮すると、長剣の形を作っていく。


――まさか

そこで一つの予想が頭に浮かぶ。いや、だが、有り得ない。あってはならない。あるはずがない。絶対にないと思っていた。だから自分の予想が信じられない。信じたくない。明確な拒否反応。


――彼女も、俺と同じ異種族だなんて


「...翠」


隣にいる翠に、出来るだけ冷静さを保って告げる。


「お前は逃げろ」


魔法で創り出した長剣を手にした紅から視線を外さないようにしながら告げる。


「あいつの目的は俺だ」


俺には魔法が使える。だが、その事実はひた隠しにしてきた。それが王様の命令であったから。それが俺の望みであったから。何より、自分を守るために必要だったから。


紅が何故俺を狙うのかも、どれほどの力を持っているのかも分からない。けれど、彼女は本気で俺を殺そうとしている。

しかも王城の前で。俺にとって運がよければ、まだ中には暁や白癒がいるはずだ。騒ぎを聞いて駆けつけてくれれば助かるかもしれない。紅は、俺の増援が来ることを予測していないのか。それとも、増援が来ようと俺を殺せる気でいるのか。


――俺は。仮にも零聖だ


守るために魔法を隠してきたなら。

守るために魔法を使うのが普通だろう?


「零羅さん」


真剣な声が返ってくる。紅はこちらの話が終わるまで待っていてくれるのか。

俺が無言でいると、翠は勝手に続ける。


「キミは、魔力を大量に消耗していますね?」


「っ......翠...?」


バレていたのか。

魔法関係のことで精霊を騙すのは難しかったかもしれない。聖も精霊ではあるが、魔法を一切使えないために魔力は皆無。従って俺の魔力量をズバズバ把握できるものではない。


「一人にするのは危険だと感じますー。なので、逃げろという提案はお断りさせていただきますね〜?」


幸い、王城は目の前だ。

逃げる逃げないで言い争うつもりはなかったし、翠が決めたことなら口は出さない。


「分かった。援護頼む」


承諾の言葉に翠が満足そうに頷き、いつでも詠唱を開始できる体勢に移る。

それを見た紅が、相変わらず楽しそうに笑顔で言った。


「お話は終わりましたか?それでは、わたくしの目的を果たさせていただきますね」


――俺は。仮にも零聖だ


――けれど、零聖とは俺と聖を合わせてやっと出来上がる存在


――俺一人では、単なる個々人であり


――最大限の力を出せないのだと


――全て分かった上で言おう


――さあ、ショーの開幕だ


とても悲痛で、悲惨で、悲劇的で、それでいて喜劇的な。そんなショーが開幕した。

思いつきで書きすぎて大変な事になってきました(´Д`)もう少し計画性を持とうと思います。

新キャラの紅が、主に零羅と聖の敵役をすることになると思います。暁の次に紅が好きです←

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