初日の出会い
人間誰でも間違える。それが何回も繰り返したり、故意にしているのであればそれはあまり良くはないと思う。
だから、一回ぐらいいいじゃないか。
「アホかっ貴様!」
だが、タイミングが悪かった。
目の前にいるのはいかつい顔をした僕の担任……になった人だ。僕は今日アルト学園に編入してきた。つまり、初日早々遅刻してしまったのだ…
「…すみません。でも、訳があるんです」
僕は俯きながら言った。目を見て話すべきだとは思うが相手が相手だ、相当強靱な精神を持っている人にしか無理だろう。
「そんなことはどうでもいい。さっさと教室行くぞ」
次は無いからな、歩きながら睨まれた。
そうこうしている間に教室に着いた。
新しいクラス、か。叔母が転勤続きだから転入とか転校とか慣れてしまったが、最初にクラスに入るときだけはどうも慣れない。思わず重い溜息が零れる。
「はぁ…」
「初日早々遅刻したお前でも嫌なことがあるんだな」
いかつい顔をした担任がニヤニヤしながら言ってきた。もう脅しているようにしかみえない。
「まあいいさ、入るぞ」
ガラッとドアを開けた。一斉にこちらに視線が集まる。
あぁこれだ…急に胃のあたりがスウーッと冷たくなった。途端に逃げ出したくなる。いかんいかん、これじゃあ何も変わらないではないか。ちょっと遅めの高校生デビューだと思えばいいじゃないか。うん。
嫌な考えを振り切ろうと手に力を入れた。
「今日からアルト学園に転入しました、御影隼斗です。よろしく」
一瞬の静寂…うわー、やっちまった、か?
「「よろしく〜。てか、この時期の転入って珍しくない?」」
良かった、いいクラスだな。
つっかえていた息を吐いた。
「おい、静かにしろよ〜!まあ、仲良くしてやってくれ。で、御影の席だが…この列のうしろだな」
そう言って、一点を指差した。
「譲原の隣だな。じゃ、あそこだから席に座れ」
僕は 言われるままに席に座った。そして驚いた。ぱっと目が惹かれるというのはこういうことなんだと実感する。
譲原と呼ばれたその子は、艶やかな黒髪が腰まで伸びていて誰もが美人と認めざるを負えない顔立ちであった。それ故、独特な雰囲気を醸し出している。
「よろしく。…えっと譲原、何さん?」
「沙有里よ。さゆでいいわ」
そしてまた驚く。遠くからは確認できなかった彼女の左目は薄い緑だった。オッドアイというやつだろう。それにしてもやはり美人だ。こんな美人と巡り会えるなんて、僕は一生分の運を使い果たしたのであろう。
「うん。僕も隼斗でいいよ」
「わかったわ、隼斗」
そう言って彼女は微笑んだ。
これが僕とさゆの出会いだった。あの時彼女は何を考えていたのだろう。何を思ってあの笑顔を浮かべていたのだろうか……