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僕の美少女モンスター  作者: 秋保嵐馬
Ⅰ.僕のボディガードは美少女モンスター
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2.僕の出生の秘密

 中学二年生だけど僕は一人暮らしだ。

 両親は仕事の都合で外国。

 我が両親ながら、何の仕事をしているのか詳しく知らない。

 父はどうやら考古学関係の仕事についているらしい。

 発掘だとか調査だとか言いながら、僕が幼い頃から世界中を飛び歩いていた。

 だから、僕には父と過ごした覚えがあまりない。

 ただ、顔も体も大きい豪快な性格の父は、日本にいるときは、寸暇を惜しむように僕と豪快に遊んでくれた。

 父と過ごした時間は短いけれど、その分、濃密な時間を過ごせたと思っている。

 父がほとんど家にいなかったため、僕は母と二人暮らしの、ほぼ母子家庭状態だった。

 豪快な父と違い、母は繊細な感じの人だった。

 体格も華奢で、物静かな性格。

 僕は幼い頃、父のことは

「父ちゃん」

と呼び、母のことは

「マミー」

と呼んでいた。

 「名は体を表す」ではないが、父と母、それぞれによく合った呼び方だと我ながら思う。

 父と母は仕事の関係で知り合ったと聞いている。

 詳しいいきさつは教えてもらってないので分からないのだけれど……。

 僕が中学に上がるに当たり、母は父の仕事を手伝うために、やむなく僕を置いて外国へ行った。

 僕を置いていくことについては、母は散々に迷ったらしいのだが、父の強い説得があったらしい。

 そして父は、小学六年生だった僕も説得したのだ。

 詳しい事情は話してくれなかったけれど、両親が僕を大切に思ってくれていること、そしてやむにやまれぬ事情で、どうしても僕を連れていくことはできないことを、僕は父から聞かされた。

 だだをこねちゃいけないと思い、僕は両親と離れて一人で暮らすことを了承した。

 今の僕は、一人で暮らすには広すぎる戸建に住んでいる。

 週に一回、両親が雇ってくれたホームヘルパーさんが来て家事をしていってくれているから、そう不便は無い。

 掃除や洗濯の他、何日か分の料理も作っていってくれる。

 中学に入ってから一人暮らしを始めたので、中学二年生の今、僕の一人暮らし歴は一年以上。

 今ではまあ一通りの家事はできるようになったけど……。

 ちょっと寂しい……。

 ヘルパーさんは来てくれるけど、その人は別に僕の家族でも友達でもない。

 中年の女性で、とてもいい人だけど。

 ヘルパーさんが来てくれるのは、僕が家事に時間をとられて勉強する時間が無くならないようにとの両親の配慮からだ。

 そんな僕のこの住まいに、お客が来た。

 この家に来客は滅多に無い。

 僕は友達が少ないのだ。

 あんまり社交的じゃない性格が原因だろう。

 そんな僕の家に、お客さんが来てくれたのだ。

 しかも女の子。

 それも人間じゃない。

 何なんだ、この状況!

 陸守ケイと名乗った女の子の足の怪我は、幸い大したことなかった。

 自宅の救急箱の中の物で用が足りた。

「ありがとう、絆君」

 僕が足を手当てしてあげると、陸守ケイはにっこりと微笑んだ。

 その笑顔にちょっとドキッとする。

 僕は、紅茶を二つ入れ、一つを陸守ケイの前に置き、もう一つを自分のところに置いた。

 僕らはリビングのテーブルで向かい合って座っていた。

「それで、その……、陸守……さん?」

「ケイでいいよ」

「じゃあ、ケイ……さん。

 その……、僕のボディガードってどういうことなのかな?

 人間じゃないことも含めて、聞きたいことがいっぱいあるんだけど……」

「まあ、無理もないよね。

 いきなりあんなことに出くわしたんじゃ」

「うん……。

 あの、黒マントの子は何なんだい?」

「順を追って話すけど……、あの黒マントの子は吸血鬼。

 ヴァンパイヤよ」

 そうか、吸血鬼か。

 まあ、一連の展開からして、そうだろうなとは思ってた。

 ケイに蹴り折られた腕が直ぐ復元したのを目の当たりにしたし。

 ヴァンパイヤの再生能力って凄いって、映画やアニメで見て知っているから納得だ。

 目の前の女の子、陸守ケイだって、ギリシャ神話に出てくるケンタウロスなんだから、もう何だってありだな、こりゃ。

 あの黒マントの子は僕にキスしようとしてたんじゃなくて、僕の血を吸おうとしてたのか。

 なんて、さらっと言っている場合じゃないよ、これは。

 吸血鬼に血を吸われた者は、吸血鬼になってしまうというのが定番。

 僕、ケイが来てくれなかったら、ホント、あぶなかったんだな~~。

「掛橋絆君、君は世界中のモンスターたちから命をねらわれているわ」

 おおっとーー、さらにすごいのキタぞ、コレ!

「世界中のモンスターからって……。

 いったい、なんで?」

 とにかくすごいことになっているのだけは分かる。

 自分の声が震えていた。

「絆君、君は人間とモンスターのハーフなの」

「ぼ、僕が人間とモンスターのハーフだって……。

 ――ってことは、僕の両親のどっちかがモンスターってこと?」

「ええ」

「ちなみにどっち?」

 僕の予想では、父さんかな。

 あのゴツイ顔、人間離れしているなと幼い頃から思っていたし。

「あなたのお母さんよ」

 予想ハズレターー!

「か、母さんがモンスター……。

 それで……、何の……?」

「あなたのマミー(お母さん)は……、マミー(ミイラ女)よ」

「……」

「……」

「や、やだなあ、いきなりダジャレ!

 じょうだんキツいよ、ケイちゃん」

 思わぬダジャレに親しみを感じ、僕は彼女を「ケイさん」から「ケイちゃん」と呼んでいた。

「ま、まあ、確かにマミーとマミーをかけたのはちょっとねらったんだけど……」

 陸守ケイは、少し顔を赤らめ、目をそらしながらもごもごと言った。

 か、かわいい!

 一応、恥ずかしかったんだな。

「で、でも、信じられない。

 母さんがミイラ女だったなんて……」

「思い当たることはないの?」

 思い当たること……そうだなあ。

 そういえば、母さんは包帯をしていることが多かった。

 怪我しやすいとかいう理由で、華奢なその体中によく包帯を巻いていたっけ。

 顔も片目しか出ていないことが多くて、僕は自分の母親ながら、母さんの顔をよく知らないのだ。

 映っている写真も、顔のどこかが必ず包帯で隠れているものばかりだったし。

 だからって、それで母さんがミイラ女だなんて普通思わないだろう。

 いや、思うものなのかな?

「この写真……」

 陸守ケイは、部屋に飾ってあるいくつかの家族写真を見た。

 豪快な風貌の父と、顔や腕に包帯を巻いている華奢な母。

 そして、今よりちょっと幼い僕が笑顔で映っている。

 母は片目しか出ていないけど、その目は優しく笑っているのが分かる。

「この写真を見れば、絆君も何かおかしいってうすうす感じていたんじゃないの?」

 ええ?

 そういうものなのか?

 うすうすどころか、全く何にも感じてなかった。

 僕って変なの?

 鈍感過ぎ?

「うすうすも何も……。

 僕は自分の家は、よくある普通の家庭だとばかり思っていたから……」

 陸守ケイは紅茶を一口飲んだ。

「美味しい。

 絆君、紅茶入れるの上手だね」

 陸守ケイは、僕の目を見てニコッとすると言った。

 黒マントの吸血鬼の子も美少女だったけど、陸守ケイも負けず劣らずの容姿だよなあ。

 ケンタウロスに変身した時はロングヘアになったけど、人間の姿の時のショートカットがまた、ボーイッシュな美貌によく似合う。

「絆君、君のお父さんとお母さんは、人間とモンスターでありながら愛し合ってしまったの。

 そして君が生まれた。

 君は世界でたった一人の、人間とモンスターのハーフなのよ」

「僕が……、世界でたった一人の、人間とモンスターのハーフ」

「モンスター界には今、二つの勢力があるわ。

 一つは今まで通り人間とひっそりと共存していこうという勢力。

 もう一つは人間を滅ぼしモンスターが世界の表舞台に躍り出られるようにしようという勢力。

 絆君、あなたの命をねらっているのは後者の勢力なのよ」

「人間を滅ぼし、モンスターが世界の表舞台に躍り出るっていう……?」

「ええ。

 彼らは人間とモンスターは絶対に相容れない者同士と言う考え方なの。

 相容れない相手ならば滅ぼすしかない。

 それが、人間を滅ぼそうという彼らの根拠。

 それなのに、人間とモンスターの愛の結晶であるあなたが存在してしまっている。

 あなたの存在は、彼らの行動の根拠を覆すことになるわ。

 彼らにとって、あなたは絶対に存在してはいけない存在なのよ」

 なんだかややこしな。

 要するに、モンスターとのハーフの僕を、邪魔に思うモンスターたちがいるということか。

「僕は……、どうすればいいのかな?」

「何もしなくていい」

「え?」

「絆君は、二十四時間、私たちが守るから」

「そんな……、女の子に」

 女の子に男が守ってもらうなんてわけにはいかないよ――と言おうとして僕はやめた。

 外見は普通の女の子だけど、今、目の前に座っている陸守ケイは、ギリシャ神話に出てくるモンスター、ケンタウロスなのだ。

 その戦闘力はさっき見た通り。

「うん……、じゃあ、お願いする……しかないんだよね……。

 またさっきのドラキュラみたいな子が襲ってきたら、ただの人間の僕には何もできないし……」

と言って、はたと気付いた。

 僕だってただの人間じゃない。

 人間とモンスターのハーフなのだ。

 僕には何か特殊な力は無いのかな?

 さっき陸守ケイが変身したみたいな。

「ね、ねえ、ケイ……」

 僕は「さん」も「ちゃん」も付けずにケイを呼んでみた。

「なに?」

 ケイは普通に返事する。

 よかった。

 別に「さん」や「ちゃん」を付けなくても気にしないみたいだ。

 じゃあ、これからは「ケイ」と呼ぼうっと。

 あ、そうそう、聞きたいことがあったのだ。

「ねえ、ケイ。

 僕にはその……。

 超能力みたいなの、無いのかな?

 だって、僕、人間とモンスターとのハーフなんでしょ?

 僕もケイみたいに変身とかできないの?」

 ケイは紅茶をまた一口飲むと言った。

「それは私には分からないわ。

 むしろ、こっちが聞きたいくらい」

「へ?」

「絆君自身の体のことだもの。

 私には分からない。

 それに、人間とモンスターとの間に生まれた者の記録って、現代にはほとんど残っていないのよね。

 太古の昔にはあったらしいんだけど……。

 また、人間とどのモンスターとの間に生まれたかってことでも違うし……。

 だから、絆君のことについては私は分からないわ」

 そうか。

 そりゃ、そうだよな。

 そういえば、母さんはどうだったんだろう?

 母さんは何か特殊能力を持っていたのだろうか?

 記憶の限りでは、そんな覚えは無い。

 でも、僕の前で能力を隠していただけで、本当はすごい能力を秘めていたのかも……。

「まあ、いろいろあるけど、絆君は心配しないで、これまで通りの中学校生活を送って」

「そ、そうなの」

「今日から私、この家に住むし、一緒の学校にも通う」

「そ、そうなんだ……って、ええーー?」

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