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僕の美少女モンスター  作者: 秋保嵐馬
Ⅰ.僕のボディガードは美少女モンスター
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1.美少女モンスター現る

 僕の名前は掛橋絆かけはしきずな

 普通の中学二年生だったはずの僕は、ある日を境に、とんでもないことに巻き込まれることになってしまったのだった。

 物語の始まりは、初夏の頃。

 学校帰りのときのことだった。

 辺りが薄暗くなり、人気もまばらな帰り道。

 道の向こうに、たたずむ人影が一つ。

 女の子だった。

 年の頃は僕と同じくらいか。

 初夏だというのに、何だか、黒っぽいマントのようなものを羽織っている。

 髪は黒髪のツインテール。

 僕のことをじっと見ている。

 というより、にらみつけていた。

 なんだか、僕に対して、すごく攻撃的な雰囲気を放っている。

 僕は立ち止まってしまった。

 どうしよう?

 ここから引き返そうか。

 でも、ただ、立っているだけの普通の女の子にびびって引き帰すのもしゃくだ。

 それに、この子が僕に対して、良くない感情をもっているらしいというのは、単なる僕の気のせいかもしれないじゃないか。

 うん、いや、そうだよ。

 きっと、そうだ。

 多分、そうだ。

 確実に、そうだ。

 僕は根拠の無い判断を下すと、女の子の方を見ないようにして、その横を通り抜けた。

 ……。

 ほ。

 良かった、何も起こらない。

 僕が胸を撫で下ろそうとした、その時。

 背後から声がした。

「掛橋……、絆だな?」

 その女の子の声だった。

 声はかわいいのに、ものすごい敵意が込められているのが、ビンビンに伝わってくる。

 僕は立ち止まり、振り向いた。

 女の子は僕に背を向けて立ったままだ。

「あ、あの……、そうだけど……。

 僕に……、何か……、用……、なのかな……?」

 僕は、恐る恐る問いかけた。

 女の子は振り向いた。

 さっきは、見ないようにして通り過ぎたからよく分からなかったけど、とても綺麗な顔立ちの美少女だった。

 ややつり上がった感じのキツい目つきに、通った鼻筋、小さな口。

 その口が開いた。

 口の中に、八重歯というには少し大きい、まるで牙のような歯があった。

 このかわいい顔にはちょっと不似合いだな。

 などとぼんやり考えていたんだけど……。

 その口が開いて放った言葉に、僕は腰を抜かすほど驚いてしまった。

「おまえの……、命をもらう!」

 えええーー?

 一体、何を言ってるのこの子は?

 僕の命をもらうだって?

 何の冗談だ。

 こんな子に命をねらわれる覚えは無い。

 それに――。

 まあ、確かに僕は勉強も運動もパッとしないとはいえ、女の子とケンカして負けるとは思えない。

 この子はどうやって、僕の命をとる気なんだ?

 い、いや待て……?

 もしかして、あの黒マントの下に、刃物でも隠し持っているのかな?

 僕のこの心の問いが聞こえたわけでもあるまいが、女の子は、バサッとマントを開いた。

 女の子の着ている服は、いわゆるゴスロリというやつだった。

 黒ずくめのフリフリ。

 パッと見、武器は持っていないようだ。

 うん、これなら素手の戦いになるだろう。

 いくらなんでも女の子には負けないぞ!

 女の子は僕にスタスタと足早に歩み寄ってきた。

 僕は、身構えようとしたが、女の子があまりにも自然な感じで近づいてくるものだから、何もできない内に、あっという間に至近距離まで来るのを許してしまった。

「あ、あの……」

 僕の言葉を無視し、女の子は黙って僕の目の前に自分の顔を近づけた。

 身長は……、僕よりちょっと低いくらいか?

 なんだか、二人とも真っ直ぐ立って至近距離で見つめ合うという、変な状態になってしまった。

 間近で見ると……、ホント、かわいいなこの子。

 女の子は、爪先立った。

 目の高さはこれでほぼ同じ。

 そして、女の子は、自分の両腕を、僕の首の後ろに回してきた。

 え、なに、この体勢……?

 ま、まさか、この子、いきなり僕にキスしようっての?

 会ったばかりの子といきなり、そんな、キスだなんて……。

 まともなら、こんなの拒否するのが当然の反応だ。

 だけど、逆らえなかった。

 こんな魅力的な状況に逆らえる男子がいるだろうか?

 ――というか、そう思ったのも事実だけど、なんだか体が何かの力で押さえつけられているようで動けなかったのだ。

 女の子の顔がどんどん近づいてくる。

 そして、女の子の唇が、僕の唇に……。

 う、うわああああ!

 どーーしよーー!!

 ……。

 あれ?

 女の子の唇は、僕の唇にこなかった。

 女の子の唇は、僕の唇ではなく、僕の首筋に向かっていったのだ。

 え、なんで?

 まずは、首筋にキスなのかな?

 なんてことを思っていたら――。

「あぶなーーーい!!」

 ものすごい大声が背後からした。

 この時、僕を動けないように押さえつけていた何らかの力が解かれた。

 反射的に振り向く僕。

 後ろから、土煙を上げながら猛スピードで走ってくる人影があった。

 誰、あれ……?

 こっちも女の子だった。

 制服を……、しかも、うちの中学の制服を着ている。

 でも、見たことの無い顔だぞ。

 制服の女の子は僕の近くまで走ってくると、高く跳躍した。

 え……?

 トランポリンも無しで、なんでこんなに高く跳べるの?

 制服の女の子は空中で一回転すると、右足を突き出して急降下してきた。

 そのねらいは僕?

 ――じゃない。

 微妙に角度がずれている。

 制服の女の子の蹴りの標的は、黒マントの女の子だった。

 僕の首筋間近にまで唇を近づけていた黒マントの女の子は、すごい速さで僕から離れた。

 こちらもすごい跳躍力。

 五メートルは後ろに跳んだぞ。

 しかも、黒マントを羽みたいに広げて。

 いったい何なんだ、この二人?

 僕の眼前に着地した制服の女の子が僕の方を振り返って言った。

「絆君、ケガは無い?」

 ぱっちりとした目の整った顔立ち。

 黒マントの子とはタイプが違うけど、こちらも美少女だ。

 ショートカットがよく似合っている。

 髪は艶々のこげ茶色で……、例えるなら……、ちょっとヘンな例えだけど、競走馬のサラブレッドの毛並みのような輝きだった。

 それにしても、この、僕と同じ中学の制服を着ている子も、僕の名前を知っているとは。

 一体、どういうこと?

 見ず知らずの女の子が二人も、僕の名前を知っているなんて……。

 僕って、そんなにもてたっけかなあ?

「あ、うん、特に無いけど……」

「咬み付かれなかったわね?」

 制服の子は念を押すように聞いてきた。

 言われて僕は自分の首筋に手を回す。

 さっき、黒マントの子の唇がもう少しで触れそうになっていた首筋だ。

 でも、咬み付かれるどころか、唇が触れてもいなかった。

「だいじょうぶ……だよ?」

「そ、良かった。

 じゃ、離れてて」

 制服の子は、片手で僕を後ろを押しやるようにすると、僕の前に立ちはだかって、黒マントの子と対峙した。

 一方、五メートルほど向こうに跳んだ黒マントの子は、いまいましげな表情で僕らをにらんでいた。

「あの……、君は……、君たちは一体……?」

「説明は後でするから。

 あいつに近づかれないよう気をつけてよ」

 僕の方を振り返らず、顔は黒マントの子に向けたまま、制服の子は言った。

 黒マントの子が、マントを広げ、こちらに飛んできた。

 そう、文字通り、飛・ん・で・き・たのだ。

 マントを翼のようにして。

 そして、右手を、制服の子を殴りつけるように振り下ろしてきた。

 いや、正確には殴りつけるためではない。

 引っ掻くためだ。

 僕は見た。

 黒マントの子の5本の指に、長い爪が生えているのを。

 あんなので引っかかれたら、引っかき傷どころか、内臓まで切り裂かれてしまうだろう。

 制服の子は、右足を蹴り上げた。

 黒マントの子の右腕に、制服の子の強烈な右キックが炸裂した。

 なぜ、強烈って分かったかって?

 それは、右キックの勢いもさることながら、僕にははっきり聞こえたからだ。

 ゴキッていう、骨が折れる音が。

 洒落にならない!

 何なんだ、この状況!

 黒マントの子は、横の塀に叩きつけられた。

 制服の子に蹴られた腕が、変な方向に曲がっている。

「貴様……」

 黒マントの子の美しい顔が怒りに歪んだ。

 構えた両手の十本の指には、十本の長い爪が生えていた。

 さっき僕の首の後ろに手を回した時には無かったのに、いったいいつの間に生やしたのだろう?

 黒マントの子が、両手の爪を振り回して猛烈な勢いで襲ってきたーー!

 えーー、腕、折れてるんじゃないのーー?

 それに対し、制服の子が左右の脚を交互に負けじと猛スピードで蹴り上げて応戦する。

 すごい戦いだ!

 人間業じゃない!

「つ……!」

 制服の子がうめいた。

 あ、制服の子の右足から血が出てる!

 黒マントの子の爪でやられたみたいだ。

「フ、フ、フ……。

 血を流したな……。

 いい匂いだ。

 まず、お前の体の血を一滴残らず吸い取ってやる」

 黒マントの子が両手の爪を構え、凶悪な笑顔で言った。

 あれ?

 いつの間にか、変な方向に曲がったはずの腕は真っ直ぐになっている。

 笑った小さな口の中には、やっぱり不釣合いなほど大きな牙が見えた。 

 いったいこの子たち、何者?

 それより、制服の子、ケガの具合は?

 再開された黒マントの子の猛攻が止まらない。

 制服の子は足技で応戦するけど、だんだん押されてきている。

 だ、大丈夫なのかな。

「く……、しょうがない、こうなったら!」

 制服の子は、そう言うと、くるっと後ろを――つまり、僕の方を――振り向いた。

「正体隠しておきたかったんだけど、しょうがないわね」

 ボワンと煙が出た。

 な、なに?

 その煙の中にいたのは……、制服の子……なのだけど、ちょっと違っている。

 制服を着ていないのだ。

 どころか、何も着ていないのだ。

 上半身は裸だった。

 さっきまでショートだった髪は長く伸び、その何も身に着けていない胸元を隠している。

 そして、下半身は――なんと馬だった!

 これは――知ってる!

 ギリシャ神話に出てくるケンタウロスという怪物だ。

 こげ茶色の見事な馬体。

 毛並の色は……、彼女の頭髪の色と同じだった。

 どちらも艶々と輝いている。

 彼女の背中に長く伸びた髪は、まるでサラブレッドのたてがみのように力強くなびいていた。

「正体を現したからといって、どうだというんだい!」

 黒マントの子が襲い掛かってきた。

 それを――。

 制服の子――だった、今はケンタウロスとなった子が、後ろの両足で蹴り飛ばした。

「うわ~~~~~~~っ!」

 蹴り飛ばされた黒マントの子は、悲鳴と共に空の彼方へ消えた。

 僕は尻餅をついていた。

 ケンタウロスの女の子が僕を見おろしている。

「な、な、な、君は一体……」

 体が震えている。

 ろれつがうまく回らない。

 再びボワンと煙が出た。

 煙の中に立っていたのは、元の通りの、うちの中学の制服を来た女の子だった。

「いろいろ驚かせてしまったわね、掛橋絆君」

 制服の子が僕に手を差し出した。

 その表情から分かった。

 この子は、少なくとも僕への敵意は無さそうだ。

 差し出された手をつかむと、制服の子は僕を引き上げて立たせてくれた。

「私は、陸守りくもりケイ。

 さっき見て分かったと思うけど人間じゃないわ。

 正体はケンタウロス。

 君のボディーガードよ」

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