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契約者は侵害する!  作者: るなふぃあ
第四章 夜の魔王はえっちぃことが大好きなのです
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ティグリスの告白

「え、今なんて言った?」

「だから、わたくしが明後日には死ぬと言ったのよ」

「う、嘘だろ……?」

 さすがにそれは冗談きついぞティグリス。

 それに軽々しく死ぬなんて言葉を使うな。俺を困らせて遊びたいからとか、もしそういうつもりで使ったんだったら俺は――

「トノサマ。これは嘘でも冗談でもありません。本当の話です」

 俺の胸中を読み取ったルナが真面目な顔つきでそう言った。それに続けてティグリスが、

「ええ。いきなりこんなこと言っても真志さんは冗談だと思うかもしれないけれど……これは本当のことよ。わたくしは真面目よ」

「そう、なのか」

 嘘であってほしかった。が、どうやらこれは本当のことらしい。

 ルナの真剣な口調、ティグリスの真剣な眼差しが間違いなく真実を告げている。

「ティグリス。それで、いったい何をすればお前は助かるんだ? 『このままだと』と言っていたからには何か方法があるんだろ?」

「さすが真志さんね。ええ、その通りよ。わたくしが生き残る方法は存在するわ。でもその前に……ルナ、一つ訊いてもいいかしら?」

「ええ、構いませんよ」

「あなたは活動エネルギーが十分に残っているわよね。ということは真志さんからきちんと受け取っているということよね?」

「はい。間違いなく受け取っています。紋章が薄れて契約が解除されかけている状態とはいえ、きちんと一日に消費した分を受け取っています」

「そう、それならいいわ。こっちへ来てもそのことは揺るがないということね。さて、真志さん」

 ルナに何かの確認を取ったティグリスが、確証を得たという表情をしてこちらを向いた。

「おう。なんだ」

「今おそらくあなたはわたくしたちが何の話をしているのか、さっぱりわからないと思うから簡単に説明しておくけど。わたくしたちには人間と違って活動エネルギーというものが存在するの。いわば人間の命と同等のものよ」

「命と同等の活動エネルギー?」

「ええ。その活動エネルギーが枯渇すると、それはすなわち『死』を意味するの。そして今、わたくしは活動エネルギーが枯渇しかけている。明後日の午前七時には完全に無くなってしまうわ」

「ということは……明後日の午前七時になると、ティグリスが、死ぬ?」

「そうよ。けれどこれはあくまでもこのまま進めばの話になるわ」

 と、ここで一呼吸。

「そこでわたくしが死なないようにするためには、真志さん。あなたの協力が必要になるのよ」

「俺の協力って、いったい何をすれば?」

 もし俺の力でティグリスが助かるのなら、是非協力したい。それがどんなに困難なことであろうとも関係なく。

 しかし、ティグリスは俺の問いには答えずルナの方を向いた。

「ルナ、あなたは許可してくれるのかしら?」

「ん、この際止むを得ません。構いませんよ、ティグリスなら」

「そう。ありがとう、ルナ」

「いえ。でも忘れてはいけませんよ。私がトノサマの正妻です」

「ええ、それくらいわかっているわよ。同じ立場になったとしても、それだけはあなたに譲るわ」

「それならいいです。私は何も文句を言いません」

 それだけでルナとの話が全て済んだらしく、ティグリスが再びこちらを向いた。

「さて、真志さん。具体的な方法を今から説明していくのだけれど……いいかしら?」

「あ、あぁ」

「そんなに難しいことじゃないわ。緊張しないで。本当に簡単なことよ。ただ一つ、わたくしと契約すればいいだけのことだから」

「契約って……俺は何をすればいいんだ?」

「わたくしを犯せばいいのよ」

「――は?」

「だからわたくしを犯せばいいと言ったのよ。わからないかしら。日本語で言えば不純性交遊。英語で言えば」

「い、言わなくていいから!」

「ふふっ、赤くなっちゃって」

「……ッ」

 と、とにかくティグリスの言いたいことはわかった。俺がティグリスと契約するために、それを行なえばいいのだろう。

 そう。あの行為をすればいいだけ。すればいいだけなんだが――

「さ、さすがにそれはちょっと」

「あら……ということは、真志さんはわたくしを見殺しにするというのね。死んでしまっても構わないと」

「いや、そんなことを言ってるんじゃない。俺はただ」

 この後ティグリスと契約するために、その……にゃ、にゃんにゃんするってことだろ?

「まさか。さすがにティグリスと二人だけでにゃんにゃんさせるわけないじゃないですか。そんなの正妻である私が許しません。私も加わるに決まっています」

 ということは、ルナも加わって三人でにゃんにゃんするってことだろ……?

「はい。そういうことです。トノサマ、私が初めですからね」

 俺の心の声にルナがしっかりと頷いた。それに対してティグリスが頬を膨らませる。

「何を言ってるの。わたくしが最初に決まっているわ」

「いいえ、そこだけは譲れません。正妻は私です」

「愛人だって負けちゃいないわよ?」

「いえ、正妻が最初です」

「愛人よ」

「正妻です」

「愛人!」

「正妻!」

「愛」

「ちょ、ちょっと待てよお前ら! 俺はまだやるとは言ってないぞ。そ、それに」

 さすがにこればっかりはかなり勇気のいることなんだが。

 でも、そうしないとティグリスは助からないし……。

 あぁもう、こうなったら!

「ふふっ。冗談よ真志さん。そんな契約方法があるわけないじゃない。もしそうだったらどうやって女性の契約者を作るというのよ。ちょっと考えればわかるのに、ほんとあなたってからかい甲斐のある人ね」

「……ッ。冗談だったのかよ!」

 俺はティグリスの言葉に顔を真っ赤にした。くそう、俺は真面目に考えていたっていうのに。こんな雰囲気だから真剣に聴いていたのに。

 なんでこんな時に冗談を言うかなあ!

「それはもちろん、雰囲気を軽くするためですよ」

 さも当然かのようにしてルナが答える。軽くするって言われてもな。

「いくらそうしたいからって言っても時と場合があるもんだぞ。だから……いや、やっぱりいいや。それで? ティグリス、本当はどうすればいいんだ」

 説教するのは諦めた。ルナたちに言っても無駄だ。何も変わらない。話を進める方が建設的だろう。

 俺の問いに対してティグリスが淡々と答えた。

「本当の契約方法はわたくしの血を飲めばいいのよ」

「血を……飲む?」

「ええ。真志さんがわたくしの首筋に噛みついて、血を吸えばいいのよ」

「まるで吸血鬼だなおい」

「まぁ、ちょっとこのやり方には疑問を感じるところがあるのだけれど。これが一番手っ取り早いのよ」

「そうなのか?」

「ええ、そうなのよ。指先を切って血をじかに吸ってもらうのと、首筋に噛みついてもらうのではかなり成功確率が変わってくるの。首筋に噛みつく方だと成功率はほぼ一〇〇%なのだけれど、指先の場合は三%あればいい方よ」

「かなり極端だなおい」

 指先から血を吸うのか、それとも首筋から血を吸うのか。

 成功確率から考えると断然後者の方がいいだろう。前者で試みていたら何回失敗するのやら。

「とにかく、何度も痛い思いをするのは嫌だから、首筋から吸ってちょうだい」

「わかった。それじゃあ今すぐにでも――」

「待って。今はダメ」

 俺がその行為を躊躇ってしまわないうちに、すぐさま行動へ移そうとしたら。ティグリスがそう言って、手を前に突出し待ったをかけてきやがった。

「なんでだよ。だってティグリスの活動エネルギーってやつが枯渇しかけているんだろ?」

「ええ、そうなのだけれど。今すぐ契約することはできないわ」

「今すぐはできない?」

 どうしてだよ。そんな躊躇っている場合じゃないだろ。命にかかわることなんだぞ。

「ルナとの契約状態が問題なの。今はまだ真志さんの記憶が完全に戻っていないから、ルナとの契約が解除されかけている。つまり紋章が薄れているわ」

「まあ、確かにそうだな」

 実際に自分で確認したけれど、紋章の全体が薄れかかっているだけじゃない。ところどころ消えかかっていたりもする。

「それで、それの何が問題なんだ?」

「もしその状態のままわたくしと、あるいは他の天使と契約すると。ルナとの契約が解除されてしまうのよ。いくら緊急事態とはいえ、さすがにそれはできないわ」

「じゃあ、俺は」

「ええ。何としても明日の寝る前には記憶をすべて取り戻してほしいの」

「……そうか」

 でもどうやって明日までにすべての記憶を取り戻せばいいのかが問題だ。ただでさえ、今日やって思い出せるはずの出来事はまだ一つも思い出せていない。

 おそらくは寝る、もしくは次の日になれば思い出せるんだろうけど。

「もし、俺が思い出せなかったらその時は――」

「嫌よ。わたくしはたとえそうなったとしても、あなたとは絶対に契約しないわ」

「でもそうなったらティグリスが……死んで、しまうじゃないか。そんなのは絶対に嫌だ」

「そう言ってくれるのは嬉しいけれど、あなた肝心なことを忘れているわ」

「……肝心なこと?」

 俺が首を傾げると、ティグリスは明らかにむっとなった。

「ほらやっぱり忘れてるじゃない。もう一度言っておくけどね、たとえ契約してわたくしを助けたとしても、ルナと契約を解除することになるのよ。まさかそれでいいと思っているの?」

「トノサマ……」

 ティグリスの言葉にルナが不安そうな顔を俺に向けてくる。それを見たティグリスがさらに続ける。

「それにね。ここは地球。天国じゃないの。あなたのような天使と契約できる人間なんてそうそういないのよ。だからルナとの契約を解除するという選択は、ルナを殺すことになるのよ」

 ルナとの契約を解除する。イコールルナを殺す。

 そんなこと、絶対にしたくない。でも他に方法があってもおかしくないはずだ。

 探せ、探すんだ。きっと回避方法があるはずなんだ。

「じゃ、じゃあさ……一度天国へ帰るという選択肢は?」

「それも不可能ね。わたくしには天国へ帰るだけの力、転移を使用できるほどの活動エネルギーは残っていないわ」

「じゃあお父様とやらに連絡を取ってみる方法は?」

「不可能。そういう魔法は残念ながら私にもルナにも使えないわ」

「えっと、それ以外に助かる方法は――」

「ないのよ。しつこいわね真志さん。あなたがしっかりと記憶を取り戻して、その後にわたくしと契約を結ぶ以外の方法しか残っていないのよ。いろいろ方法を考えてはみたけど、どれもこれもダメ。実際にルナから活動エネルギーを分けてもらうという方法も思いついたけど、残念ながらここは地球。天国と同じようにはいかなかったのよ」

「……そうか。じゃあ、何としても俺が記憶を取り戻してティグリスと契約するしかないんだな?」

「ええ。そういうことよ」

「わかった。でも、どうして早めにこのことを言ってくれなかったんだ」

 もう少し早めに教えてくれていれば、もっと余裕を持って解決策を考えることができたかもしれないのに。

 俺の問いにティグリスは気まずそうな顔をした。

「それは……今日丸一日活動してようやく分かったことなのよ。地球へやってきた当日にも薄ら嫌な予感はしたのだけれど、やっぱり予想以上に消耗が激しかったのよ」

 なるほど。そういえば確かにそんな不安を漏らしていたような気がするな。

 あの風呂場での『大丈夫』や『保つはず』っていうのはこのことだったのか。

「ところでルナ。さっき話していた通りだと、ルナは大丈夫なんだよな?」

 一応ルナに確認をしておく。

「ええ、私は毎日トノサマから補充してますからね」

「そうか……え、でもどうやって? 特別なことなんて何もしてないけど」

「一緒に眠ったじゃないですか。同じ布団で」

「……てことは、一緒に寝ると回復するっていうのか?」

「はい、その通りです」

「なるほどな」

 ここにきて漸く契約者がどういうものなのか何となくわかってきたような気がした。

 確かにこればかりは口で説明されるよりも、実際に肌で感じていく方が理解しやすいかもしれない。今ならルナが不安がっていた時に俺の身体が勝手に動いて抱きしめたのもなんとなく頷ける。

 俺が契約者について考えていると、ティグリスが予想外なことを言った。

「それじゃあ今日は寝ましょうか」

「え? でもそんなことしてる時間は」

「あるわよ。明日一日残っているじゃない」

「何言ってんだ。一日しか残っていないんだぞ?」

「だからなに?」

「だからなにってお前、自分の命が危険だというのにそんなのんびりとなんて――」

「真志さん。冷静さを欠いたらおしまいよ? あなた重要なことを忘れているわ」

「……重要なこと?」

「そうよ。記憶を取り戻すには翌日になるか、あなたが眠るかのどちらかであるはず。それをきちんと確認してみないといけないわ。どれだけ徹夜をしてすべきことを行なっても、根本的にその方法が間違っていたらそれこそわたくしはおしまいだわ」

「……な、なるほど。じゃあとりあえず、今日は寝るか」

 そう言いながら時計を見ると、時刻は深夜を過ぎていた。これで次の日になれば記憶が戻るという説は消えてしまったわけだ。残りは眠れば記憶が戻るという説だけになる。

 もし、それが違ったらその時はヤバいな。いや、でも。

 大丈夫、大丈夫だ。きっと眠れば記憶が戻っている。俺はそう信じている。

「さすがトノサマ。こんな時でも前向きですね」

 俺の胸中を読み取ったルナが賞賛してくれた。

「あぁ、こういう時こそ前向きに考えないとな」

 そうじゃないと不安で押しつぶされてしまうだろうし、ネガティブに考えれば考えるほど悪い結果を生み出してしまいそうだし。

 だからこそポジティブに考える。やればできると考える。そうすればきっと物事はうまく進んでくれるはず。

「そうね、前向きに考えた方がいいかもしれないわね。今日やったことでそれに対する記憶が戻ると信じておくわ。それじゃあ、わたくしは借りている部屋に戻って寝ることにするから。おやすみ、二人とも」

 そう言って、ティグリスが部屋から出て行こうとするものだから、

「ちょっと待ってくれ、ティグリス」

 俺は彼女を呼び止めた。

「何かしら?」

「今日は一緒に寝ないか? いや、一緒に寝ようか」

「あら、珍しく積極的ね」

「ま、まぁな」

 ティグリスを引き止めたのは他でもない。彼女の不安を少しでも消し去ってやるためだ。

 先ほどはああ言っていたけれど、やっぱり一人になるとネガティブなことを考えてしまうかもしれないし、不安で押しつぶされてしまうかもしれない。

 だからこそ一緒に寝る。少しでもそばにいてやれば、安心してティグリスが眠ってくれるんじゃないかって思うんだ。

「さすが私の契約者です」

 ぼそりとルナが俺の耳元で呟いた。

 そんな恥ずかしいセリフを、胸中を読み取られたことにカァァっと頬が赤くなった。

「ルナ。頼むから心を読まないでくれ」

「却下です。私がそれをやめてしまったら、私ではなくなりますから」

「はぁ……そう言うと思ったよ、まぁいいや。じゃあ寝るとするか。ティグリスほら、こっちに来いよ。三人は狭いけど我慢してくれ」

 ぽんぽんっとベッドを軽く叩き、ティグリスを促す。

 すると、

「せっかくのお誘いを断るのもアレだし……いいわ。一緒に寝てあげる」

 ツンデレさんが、とてとてとゆっくり歩いてきて――ぼふっ。

 俺のベッドに寝っころがり布団の中に入った。そして俺が電気を消し、布団に入る。次にルナ。

 案の定布団に入った途端、双方からぎゅっと腕に抱きつかれた。

「トノサマ、おやすみなさい」

「真志さん、おやすみ」

「あぁ、おやすみ。二人とも」

 俺が答えると、二人とも安心したように瞼を閉じる。

 やれやれ……どうやら今日も眠れない夜が訪れたようだ。

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