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契約者は侵害する!  作者: るなふぃあ
第三章 楽しい思い出……だと思いたい
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やっぱり怖かった

「ふぅ、なんとか間に合ったな」

 現在地は映画館の中。当初の予定ではポップコーンか何かを買って入ろうと思っていたのだが、そんな余裕はなかった。

 というのも、あの喫茶店を出たのが上映時間五分前だったからだ。

 急いで走ってきて、すぐにチケットを買って……ギリギリセーフ。幸い、そこまで人が多くなかったため、最後尾に座って落ち着いて見ることができるのはありがたい。

 映画館自体は大きいのだけれど、中でいくつもの部屋が作られているため、このシネマⅤはそこまで大きくない。従って一番後ろの席で見るのがちょうどいい感じ。

 前の席で見るのも悪くはないのだが、気分が悪くなってしまいそうなので却下。

「そうですね、私もこの後ろの席の方が好きですよ」

 またいつものように俺の胸中を読み取ったルナが同意を示した。それに対しティグリスは一度首を傾げてから。

「わたくしはどこでもいいのだけれど……それにしても五分前に気付けてよかったわ」

「あぁそうだな。助かったよ」

 もしティグリスが気付いてくれなかったら次の上映時間まで待つハメになっていた。次の上映時間となれば、昼を回ってしまう。そこまで待つのはさすがに辛い。

 ちなみに喫茶店でのあの後の出来事は鮮明に覚えている。鮮明に覚えているが、話したくない。

大変だった。とにかく大変だった。それだけは言っておこう。

「トノサマ、いったい誰に向けてしゃべっているんですか?」

「え……いや、うん。独り言だ独り言。ルナ、気にしないでくれ」

 そしていちいち俺の心の言葉に対して反応しないでくれ。

「それは却下です。とかなんとか言いながらも、口にせず心の中で言っているんですから、私に読み取ってくださいって言っているようなもんじゃないですか」

「う、うるさいなぁもう。ほら、始まるみたいだぞ」

 薄らあった光が消え、暗闇に包まれる。そして、ブイィィィィンという音が鳴って正面のカーテンが開けられていく。

 それに気付いたルナが俺から視線を外し、真正面を向いた。

「どうやらそのようですね」

「ふふっ、ゾンビ映画ねえ。そんなの見てしまったらまた狩りたくなってくるじゃない」

「あー、確かにティグリスの気持ちはわかります。きっと狩りたくなってきますよね」

「か、狩る!? いったい何を」

「え、それはもちろん……あ、始まりましたね。雑談はここまでにした方がいいですね」

 ルナの言う通り映像が流れ始めた。といっても今はCM段階。俺たちが見たい映画が流れ始めるのはもう少し後だろう。だから多少雑談をしても問題は無い。

 でも、

「おう。そうだな」

 とりあえず俺も静かにしておくことにした。CM段階とはいえ、始まったのは事実だからな。静かにしないと他人に迷惑をかけてしまう。

 それにしても、いったい何を狩るというのだろうか。話の流れからすると『ゾンビを狩る』ということになるのだろうが……いやいやいや、そんなことはないはずだ。この地球上にゾンビなんて架空の生き物は存在しやしない。

 それともなにか。天国にゾンビでもいるっていうのか?

 ――まぁ、いいか。それは置いておこう。とりあえずは映画を楽しむとしようか。


 数時間後。

「めちゃくちゃ怖かったな」

本当に怖ろしい目にあった。そして、散々な目にもあった。

あんな怖ろしい体験をしたのは何年ぶりだろうか。

巷では有名なこのゾンビ映画。相当怖いという評判を散々耳にしていたのだが……。

あまかった。俺は大したことないだろうと思っていたが、あまかった。きちんと覚悟を決めてから見るべきだった。

「そうですね……覚悟を決めてから見るべきでした」

「え、ええ。あれはなかなかよくできていたわ」

 どうやらルナもティグリスも俺と同じみたいで、相当怖ろしい思いをしたようだ。

 思い出したくないから内容には触れないが……そうだな。恐怖の要因と言えば、まずは施設からだな。

 ここの施設、他の映画館とちょっと違うんだ。

 どう違うのかというと、冷たい風が急にシュっと首付近に吹きかかってくるんだ。しかもそのタイミングがなんとも絶妙で恐ろしさが倍増するんだよ。それに3D仕様だったから尚更だ。まさに自分自身が主人公たちになった気分だった。

 まぁ、それらが主に俺が怖ろしい目にあったということ。そして次の散々な目にあったというのが……その、なんというか……うん。本当に悲惨だったんだ。

 施設自体がそういう仕様になっているから、隣で悲鳴が上がるのは普通なんだけど。

 怖いからといって、ぎゅっと手を握ってくるとかだったらまだよかったんだけど。


 ルナが俺に襲いかかってきたんだ。


 襲いかかってきた、つまり主に叩かれた、殴られたということだ。

 よっぽど物語の中に引き込まれていたんだろうけど、せめて現実とそうじゃないものは区別してほしい。頼むから俺を敵、ゾンビだと勘違いして殴らないでくれ。

「し、仕様がないじゃないですか。あれは本当に怖かったんですから」

「いやまぁ怖かったのは事実だけどさぁ」

 ルナの答えに俺はため息をつく。俺にとってはある意味お前の方が怖かったからな。なにせ血走った目で俺に殴り掛かってきたのだから。

「わ、悪かったですよ、それに対しては。それよりもトノサマ。どうですか、何か思い出しましたか?」

「思い出したって?」

「ほら、あの時ルーズリーフに書いたじゃないですか。ゾンビに襲われるような怖い思いをすれば、私と初めて出会った時の記憶が蘇るって」

「あぁ、そういえば……」

 そんなことが書いてあったな。ゾンビに襲われるような怖い体験をすれば思い出せるって。

 いやそれにしてもゾンビに襲われるって……地獄っていったいどんなところなんだよ。

 ルナと初めて出会ったのは確か地獄だったんだろ?

「ええ、そうなんですが……」

「すまん、ルナ。まだそのことについては思い出せていないみたいだ」

「そうですか……」

 俺の答えを聞いてルナがしょんぼりする。

「ま、まぁそんな気に病む必要はないって。だってほら、昨日もそうだっただろ? カレーを食べた瞬間に思い出したわけじゃないし、着ぐるみパジャマを見た瞬間に思い出したわけでもない。両方とも翌日の朝になって思い出したんだから……きっとほら、次の日には思い出せているはずだ」

「そ、そうですよね。それにしてもあのゾンビ映画――ッ」

 ぶるり。ゾンビ映画の記憶が蘇ったのか、ルナが肩を震わす。

 そのセリフを聞いたティグリスも、ぶるり。どうやらティグリスも再びその内容を思い出してしまったのか、肩を震わした。

 そして二人とも、俺の手をキュッと握ってくる。

「とりあえずどこかで昼飯を食べようか。なるべく人のいないところでな。うん、そうしよう、そうしよう」

「そ、そうですね」

「ええ、早く忘れてしまいたいわ」

 俺の提案に文句ひとつも言わずに賛同する二人。おそらく先ほど見たゾンビ映画で、賑やかな飲食店で恐ろしい出来事が起こるというシーンがあったからだろう。

 そう、あの時の演出は本当に怖ろしいもので……うっ。

 どうやら俺も思い出してしまったようだ。

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