ハーレム
唯奈に出かけることを伝えた後、俺たちは映画館付近までやってきた。のだが――
見られている。すごく見られている。
ただただひたすらに、すれ違う人やベンチに座っている人たちに見られている。
もちろん、その理由はわかっている。ルナとティグリスのせいだ。
「私たちのせいだなんて。人のせいにするなんてひどいじゃないですか」
案の定、俺の胸中を読み取ったルナが文句を言った。それに対して俺は曖昧な返事をしておく。
「いやまぁ、うん……だってなぁ」
制服っていうのは別にいいんだ。むしろ映画館で学生証を提示しなくても割引してもらえる可能性が高いから、そういう点においては良い服のチョイスだと思う。
それと、羽が隠せないことも知っているからそれについて文句を言うつもりはない。制服なのに背中から天使の羽が生えているという変わったコスプレになるが……別に構わない。下手にコートを羽織らせて羽を隠そうとしたら変になるし。
でも……それでも、だな。
「いい加減離れてくれないか?」
「えー、嫌ですよ。だってトノサマとのデートですから」
「そうよ、これは真志さんとのデートなのよ。だから手を繋ぐのは当たり前じゃない」
二人とも俺にべったりとくっついて、全く離れる気配がないのだ。
そう。この状況。ルナとティグリスに挟まれ、両手とも握られているこの状況。
いわゆる両手に花。つまり周りの男子どもから嫉妬心丸出しで睨まれている。
別に手を握っていることで男子どもから嫉妬の眼差しを向けられることには耐えられるんだ。いくら嫉妬されようが無視すればいいだけ。どうせ知らない奴らだし、どう思われようが構わない。
だが問題は……手を握る以上なんだよ! 腕を絡み付けてきてんだよ、二人とも!
だから、
「ふよふよした感覚が気持ちいい、ですか?」
「そう、そうなんだ。ふよふよした感覚が気持ちいい……って、心を読むなよルナ!」
「何を今さら無駄なことを」
「わかってるよそんなことは! お前がやめないのは知っているし、諦めてもいる! ていうか、それがわかってるんだったらいい加減腕に絡みつくのだけは」
「止めませんよ」
「止めないわよ、だってほら、真志さんがドキドキしている姿をずっと見ていられるんだもの」
「くっ……」
ティ、ティグリスこいつ……俺の慌てふためく姿を見て楽しんでいやがる!
すると、何を思ったのかティグリスは、
「真志さん、わたくしの胸の方が気持ちいいわよね?」
むにゅんっ。
より身体を密着してきやがった。大きくて柔らかな双丘が俺の左腕を包み込む。
「なっ!? ティ、ティグリスおまえ……」
「いえいえ、私の方が気持ちいいに決まっています」
その一方で俺のうろたえた姿を無視したルナがティグリスの言葉に対抗心を燃やし――
ごつり。
「って、トノサマ! その表現はあんまりじゃないですか! ごつりって、ごつりって! 今私の胸の感触を『ごつり』って言いましたね!?」
「い、いやそんなことは」
「だってルナの胸はないのだから当然のことじゃない。そう、真志さんは『ごつり』と感じたのね。ふふっ、それならわたくしの方が『ふよふよ』していて気持ちいいはずね」
「むっ、ティグリス。……いえ、そんなことはありません。たとえ『ごつり』と表現されても、きっと私の方が」
ぎゅぅぅぅ。双方からより強く腕を絡みつけられる。
周りからの視線がものすごく痛い。というかそれ以前に!
「だからやめろお前ら! ここどこだと思ってんだ!? 街中だぞ街中! 家じゃないんだぞ!?」
「ええ、そんなことわかっていますよ」
「ルナ、お前は痴女か!?」
なんで堂々と頷いてんだよ。いくらなんでも恥じらいがなさすぎるぞ!
「何を今さら。ずっとそうじゃありませんか」
「それにわたくしたちをそうさせたのは真志さん、あなた自身なのよ?」
補足説明と言わんばかりにティグリスが会話に割り込み、俺のせいだと主張してきやがった。くそう、天国での記憶がないことを良いように扱いやがって。
俺はこれ以上自分の状況を悪化させないためにこほんと咳払いをする。
「と、とにかく! 手は繋いでやるから腕を絡めてくるのは止めろ。やめてくれないと喫茶店で奢らないぞ」
「むむ、そこでそういう条件を出すのは卑怯だと思います」
「そうね。そんなのは最低だわ」
「ぐっ……」
こ、こいつら……。
「ということで私は離しませんからね」
「わたくしも同じよ」
そう言いながら二人ともぎゅっと俺の腕に絡みついてきやがった。
なんてこった。俺がよく読むライトノベルではこういう状況下の時、主人公がさっきみたいなセリフを言えばヒロインたちはすごすごと引き下がってくれるのに。
まったくもって効果がない。なんて手強いやつらなんだ。
「まぁ、私たちは天使ですからね。そこら辺にある小説のヒロインたちと一緒にしてもらっては困ります」
「ええ。わたくしたちは天使よ。そこら辺にいる一般人とは違うの。それよりも真志さん。早く入らないの? 喫茶店ってあれのことでしょう?」
俺の胸中を読み取ったルナの言葉にティグリスが頷きながら右手に見える建物を指さす。
おっと、もうこんなところまで来ていたのか。腕に集中力がいって気付かなかった……って、ダメだダメだ。考えちゃいかん。
「あぁそうだな。入ろうか」
また胸中を読み取られてなんか言われたら堪らない、そう思った俺はすぐさま答えて二人を喫茶店へと促した。




