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契約者は侵害する!  作者: るなふぃあ
第三章 楽しい思い出……だと思いたい
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蘇った記憶

 チチチチチチチチ。

 いつもの時間、午前七時にアラームが鳴り響く。

「もう朝か」

 俺は左腕を上げて枕もとに置いてあった時計を叩き、アラームを止めた。

 あぁ、体が怠い。結局ほとんど眠れなかったんだよな。

 別に大したハプニングが夜中に起こったというわけではない。ティグリスが部屋へ侵入してくることもなければ、ルナの寝相が悪かったり、イビキが酷かったりということもなかった。

 ただ、俺がドキドキして眠れなかっただけ。

 ルナは俺の隣で安心したように眠っていたけれど……その、なんだ。隣から甘ったるい香りがしてくるんだよ。女子特有の香りというかなんというか。とにかくそういう香りが漂ってくるんだ。

 それにほら、右腕が、な。抱き枕かなんかと勘違いされて強く抱しめられているんだよ。胸が控えめとはいえ、あるにはある。だから――

「胸が控えめとは朝から失礼なことを言ってくれますね」

「お、起きてたのかルナ。おはよう」

「おはようございます。トノサマ」

 俺の顔を見て、ニコッとルナが微笑む。もちろんルナは猫の着ぐるみパジャマを着たままだから、なんとも朝から破壊力抜群で――

「当然ですよトノサマ。なにせこのパジャマはトノサマが選んでくれたものですからね」

「あー、そういえばそうだったよな」

 あの時はびっくりしたもんだ。確か天国に来て早々ルナが「パジャマはこの中のどれがいいですか?」なんて言いながら複数枚持ってきたんだよな。

 それで見てみたら全部動物の着ぐるみパジャマだったから……って、あれ? 

 俺、記憶戻ってる?

「戻ってるじゃないですか。確かにその通りです。私がいくつか持ってきてその中から選んでもらったんですよ」

「あぁ、覚えているぞ。あの時の出来事は」

 かなり衝撃的だったからな。

 普通のパジャマを持ってくるのかと思っていたら全然違ったし。まさかそんな出来事を忘れていたなんて……いや、それよりもこれで一つ前進だ。

「他に何か覚えていることはありませんか?」

「んー、そうだなぁ……あ、カレーの件も覚えているぞ。今思えばあれも衝撃的だったよな。ほとんどのものが天国に備わっているのに、カレーだけはなかったもんな」

 あれもびっくりしたんだよなぁ。俺はカレーが好きだったから、相当ショックを受けたんだっけか。懐かしいな、あの時の出来事は。

「ということは全部思い出したんですね?」

「んー、どうだろ。ルナ。試に何か質問してくれ」

「それじゃあ……私の能力についてはどうですか?」

「ルナの能力って、胸中を読み取る能力のことか?」

 あの忌々しい能力のことだよな。

「忌々しいとは何ですか、忌々しいとは」

「いやそりゃそうだろ。何せルナの能力は他人のプライバシーを侵害してくるものなんだから……って、やっぱり思い出してるよな俺。そのことについても」

 ルナに胸中を読み取られて、あれやこれやと何度も注意した記憶があるぞ。

「おぉ、思い出しているじゃないですか。そうですね、それじゃあ次は……地獄での出来事はどうですか? 私と初めて出会った時とか、下級悪魔とチェスで勝負をした時とか」

「地獄での出来事か」

 うーん、地獄での出来事ねえ。ルナの言う通りなら、どうやら俺は地獄で下級悪魔とチェスをしたらしいが……って、悪魔とチェス!?

「そうですよ。やったじゃないですか」

「なんか俺の想像している地獄とは全然違うのだが」

「初めて地獄に来た人は良くそう言いんですよ。トノサマだって地獄へ来た時に、『イメージと全然違うな』って言っていたじゃないですか」

「そうなのか。すまん。全然思い出せねえ」

「そうですか……。それじゃあ天国での任務はどうですか? 短編小説を作るという任務でトノサマと私は議題系小説を作ったんですが」

「議題系小説?」

「ええ。毎日のように議論し合ったじゃないですか。いろいろなテーマを挙げて」

 いろんなテーマを挙げて議論し合った?

「ダメだ。それも思い出せない」

「むー。ということはまだ一部しか思い出せていないようですね」

「そうみたいだな」

 どうやらまだまだ思い出せていないことは多いらしい。全部思い出せていたらよかったんだけどな。

「それでも少し思い出せているということは良いことですよ。この調子で残りのことも思い出していきましょうよ」

「あぁ、そうだな」

 まだ時間はある。二十六日になる前に全部思い出せばいい。とはいっても、だらだらと自分の脳が思い出してくれるのを待つわけにはいかない。こうして思い出したことがあるとはいえ、何もしないというのは却下だ。

 それなら。

「ルナ、俺が今思い出したことに何か共通点はないか? これからいろんなことを思い出していくのにそれを知っていれば役に立つかなと思うんだが……」

 もし思い出す方法の共通点があったとしたら。それを実際に行なうだけで良いのだったら。今後の計画を立てやすくなるはずだ。ただ闇雲に思い出そうとするよりは効率がいいだろう。

「そうですねえ。んー、共通点、共通点ですか」

「そうだ。共通点……共通点」

 二人でつい今しがた蘇った記憶の共通点を考え始める。俺が思い出したことといえば、着ぐるみパジャマのこと、カレーのこと、そしてルナの能力のこと。この三つだけだ。

 着ぐるみパジャマといえば、服だろう。カレーといえば食べ物だし、ルナの胸中を読み取る力といえば――

 ダメだ。この括り方は違うな。

「あ、トノサマ」

「なんだ?」

「トノサマにとってはどれも衝撃的な出来事だったんですよね?」

「まぁ、そうだな。衝撃的な出来事ほど記憶には残りやすいものだし。逆に印象の薄いものは忘れやすいからな」

「ということはですよ、トノサマは衝撃的な出来事を思い出していけばいいんですよ」

「確かに三つの共通点といえば、そうなるだろうが……」

 それがわかったとしてもどうしようもなくねえか? 思い出すことのできる出来事は明確になるだろうけど。

「こうすれば思い出せるってわけじゃないんだよな」

「確かにそうですよね」

 再び二人で共通点を考え始める。衝撃的な出来事以外に共通点はないだろうか。実際に俺がそれをやれば思い出せるみたいな。

 着ぐるみパジャマ、カレー、ルナの能力……あっ。

「そうか。実際にこっちで体験したことだ!」

「実際に体験した、ですか?」

「あぁそうだ。着ぐるみパジャマなら実際に今もルナが着ていて、こうして俺は昨日から目にしているわけだし。カレーは昨日食べた。それにルナの能力も――」

「昨日から常時使っていますね」

「だろ?」

 胸中を読み取られるのは気分のいいものではないが……こればっかりはどうしようもないからな。習慣化されてるし。

「そうです、習慣化されています」

「いやそこは胸を張るところじゃないだろ。ちなみに直す気は……うん、ないよな」

 俺の記憶がそう告げている。どう頑張ってもルナがやめることはない。習慣化されているからという理由以外にも、何かやめない理由があったような気はするのだが……それはまだ思い出せていないようだな。

 ――まぁいいか。これから思い出せばいい。それに、

「これで今後の計画が立てやすくなったな。要は俺がこれから体験していけばいいんだ。どれくらいその状況に近づかなければいけないのかはそこまで気にしなくてもいいんじゃないかな。ほら、カレーなんて食べただけだし」

 これなら意外にも早く思い出せそうだ。

 よし、なんかやる気が出てきたぞ。昨日みたいに闇雲に思い出そうとしなくていいっていうのは気分が良いな。

「そうですね。それじゃあ今日から実際に体験していきましょうか。トノサマにとってそれが衝撃的だったかどうかはわかりませんが……私とティグリスでなるべくそのようなことをピックアップしてみます」

「そうか、それは助かる。俺一人だとそもそも何をすればいいのかすらもわからないからな。じゃあそれについてはルナたちに任せるよ」

「ええ。それでは早速ティグリスと話し合ってきます」

「あぁ、わかった」

 俺が返事をすると、ルナは布団から出てティグリスのいる場所へ向かっていった。

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