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契約者は侵害する!  作者: るなふぃあ
第二章 隠しきれない不安
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契約者

「ふぅ、やっと安心できる」

 現在俺は自分の部屋にいる。別にもう寝なきゃいけない時間でもないのだが、何となく布団に入っている。

 結局あの後、俺はすぐに風呂場から飛び出した。そしてティグリスが風呂から上がってきた後、すぐさま入り直し、現在に至るわけだ。

 その後、特にトラブルはない。

 またティグリスが入ってくるんじゃ……と構えていたのだがそんなことはなかった。妙に気を張り詰めていたせいか、あまり風呂を堪能できなかったのが心残りだが。

 まぁいい。これで俺はゆっくり休むことができ――


 コンコンコン。


 誰だよおい。せっかくゆっくりできると思ってたのに。

 そうだな、ここはあえて寝たふりを――

「トノサマ、寝たふりなんてひどいです」

「ぐっ、ルナ、か?」

「はい。入ってもいいですか?」

「あぁ、ちょっと待ってろ。今開けるから」

 布団から出て照明を点ける。そしてドアを開けると――


 猫天使がそこにいた。


「にゃぁ」

「にゃぁっておい。ど、どうしてそんな服を?」

 ルナは白色の猫の着ぐるみパジャマを着ていた。もちろん首から上の部分はフードを被るようになっているため、顔が見えるからすぐにルナだとわかる。

 俺の質問に対してルナは、

「にゃぁ、にゃあにゃあにゃあ……です」

「いや、猫語で言われても意味わかんないから」

「トノサマは萌えませんでしたか?」

「何にだ」

「にゃぁ」

 と言って、ルナが右手首をくいっと内側に曲げる。た、確かにそれは破壊力抜群だが。

「そうですか。破壊力抜群ですか。それじゃあトノサマ。一緒に寝ましょうか」

「お、おう……って、一緒に寝る!?」

「はい。だって約束したじゃありませんか」

「約束!?」

 いつそんな約束をした、俺? 

 いやいやいや、そんな約束をした覚えはないぞ。

「いえ、きちんと約束しましたよ。指切りしたじゃないですか」

「指切りって、あれのことか?」

 あの『アーッ』なんていう変な言葉を使った指切りのこと、だよな?

「そうです、それですよ。もし約束を破ったら『アーッ』ですよ」

「『アーッ』ってお前、それ意味わかって言ってんのか!?」

 それにあの指切りは一緒に寝るという約束じゃなかったはずだ。

「そんな細かいことはどうでもいいんですよ。それにちゃんと意味は分かっていますよ? 私はいつでも準備オッケーですから」

「……っ」

 こ、こいつには恥じらいというものがないのか!? そんなこと言って恥ずかしいとは思わないのか!?

「恥じらい、ですか。そんなものは地獄に置いてきましたね」

「それも置いてきたのかよ!」

 恥じらいに向上心。どっちも重要なものなのに。

 いったいどれだけ大事なもんを地獄に置いてきたというんだ。

「そうですねぇ、大事なものは全部置いてきたと言っても過言じゃありません」

「いやさすがにそれは言い過ぎだろ」

「まあもちろん冗談ですよ、冗談。さて、トノサマ」

「な、なんだ?」

 急にルナの雰囲気が真面目なものに変わった。もしかして今後のことについて話でもするのだろうか。

「――まあいいか。とりあえず中に入れよ。こんなところじゃあれだし」

「そうですね。じゃあ失礼します」

 と言って、ルナが俺の部屋に入ってくる。俺が先ほどまで寝ころんでいたベッドの上に座ると、ルナは俺の部屋を見渡しながら、ひとこと。

「面白くない部屋ですね」

「酷くない!? いくらなんでも酷くないか!?」

 確かに俺の部屋はそんな趣味全開といったような部屋じゃない。だからインテリとかに凝っているわけではないし、アニメのポスターとかフィギュアとかそういうものがあるわけでもない。

 唯一目立つとしたら小説の数だろうか。ざっと見ただけでも一〇〇冊くらいはある。が、小説と言っても全部ライトノベルだから難しい本なんて一冊もないんだけど。

「ほら、座れよ」

 ぽんぽんっと俺は自分が座っているベッドの隣を叩く。うぅ、寒いな。ルナが来るんだったら暖房でもつけとけばよかった。

「暖房つけますか?」

「あぁそうだな。寒いだろルナ」

「ええ、まぁ……あっ、でもちょっと待ってください」

「なんだ?」

「今から暖房をつけても暖かくなるのには時間がかかりますよね?」

「そりゃあな」

 一瞬で部屋の中を適温にしてくれる暖房なんてないからな。今からつけたとしても、早くてもあと一〇分はかかるだろう。

「そうです。一〇分もかかるんです。つまりトノサマ。一〇分も寒い中でいたら風邪を引く可能性があるわけですよ」

「その可能性がないとは言い切れないが……」

 なんかやけに回りくどい言い方だな。はっきり言えばいいのに。

「でははっきり言わせてもらいます。暖房をつけるのは止めにしましょう」

「なんでそうなる!? そんなことしたら余計に風邪を引くだろうが」

「いえいえ。ここでこうやって話をするからいけないんですよ」

 ここでこうやって話をするからいけない?

 てことは、

「今から居間へ行って話をしようってか? 確かにこたつがあるから居間へ行けば寒くないだろうけど」

「違いますよ。居間へ行けばまだ唯奈さんもいますし、ティグリスもいます」

「じゃあどうしろっていうんだよ……」

 他にどんな方法があるっていうんだ。もったいぶらずにさっさと答えろよ。

ったく、面倒くさいやつだな。

「やっと気付きましたか。そうですよ、面倒くさいやつですよ。今わざと面倒くさいキャラを演じてますからね」

「わざとなのかよ! そんなに俺をうんざりさせたいのか!?」

「いえいえ、先ほど恥じらいという言葉が出てきましたから。わざわざこうして恥じらいのあるキャラを演じてですね」

「全然違うからな!? それは恥じらいのあるキャラじゃなくて、ただの面倒くさいキャラだからな!?」

 一体今までの会話のどこに恥じらいがあったというんだ。ルナの中では面倒くさいイコール恥じらいだと思っているんじゃねえだろうな。

「え? イコール恥じらいじゃなかったんですか?」

「だから違うって」

「じゃあ恥じらいって何だというんですか」

「えーっとそれはだな……」

 恥じらい、恥じらいだろ?

 恥じらいっつうのは――

「例えばの話だが、見られて恥ずかしいからといって頬を染めながらある部分を隠したりとか。まぁなんだ、そんなのが恥じらいだ」

「ふーん、なるほど。ちなみにトノサマは恥じらいのある女性が好きなんですか?」

「ん……まぁ、恥じらいのない女性よりはいいと思うけど」

 初めから、『私はオープンですよ、どこを見られても恥ずかしくありませんよ』なんていうのもあれだからな。やっぱり恥じらいはあった方がいいと思うぞ。

「そうですか。と言われても私は面倒なので恥じらいのあるキャラなんて演じませんけどね。ていうわけでトノサマ。面倒くさいキャラはおしまいなのでズバリ言わせてもらいます。寒いです!」

「だろうな! 俺も寒いよ!」

 初めから暖房をつけておけば今頃は少しでも暖かくなっていただろうに。このままだと本当に風邪を引いちまうじゃねえか。

「そうです。このままだと風邪を引いてしまいます。だから一緒に布団に入りましょう」

「おう、そうだな……って、だからなんでそうなる!?」

 それ間接的に一緒に寝ましょうってことを言っているじゃねえか。

「ええ。だから一緒に寝てください、トノサマ」

「冗談じゃねえよ。なんで一緒に寝なきゃならんのだ」

「ならば……一緒に寝なさい、トノサマ」

「なんで命令口調!? 言い方を変えてもダメだからな!?」

「むむむ、それならば……い、一緒に寝てくれないと、ゆ、許さないんだからね!?」

「今度はツンデレ!? だからダメなもんはダメだと言って」


 ぽふんっ。


「――え?」

 急に、急に抱きつかれた。背中に手を回され、ルナがギュッと抱きしめてくる。

「お、おい。いきなり何して」

「トノサマ。お願いですから、お願いですから一緒に寝てください。じゃないと……私、私は」

「ル、ルナ?」

 いったいどうしたというのか。先ほどまでの様子とは打って変わって、ルナは今にも泣きだしてしまいそうだ。

「正直不安なんです。突然トノサマが私との思い出をすべて忘れてしまいますし、それにもしこのまま思い出せなかったら契約が解除されてしまって……本当にそうなってしまったら、私、私は」

 ぎゅぅぅぅぅ。と、さらに強く抱きしめてくる。

 俺がここにちゃんと存在していることを、ルナの目の前にいることを確かめているかのように、しっかり、しっかりと抱きしめてくる。

「ルナ」

 俺はその不安を感じとってそいつを打ち消してあげるかのように、しっかりとルナを抱きしめてやった。

 恥ずかしさや躊躇いといったものは一切なかった。気付いたら勝手に身体が動いていた。

「安心しろ。俺はちゃんと思い出すから。絶対に思い出すから。だから、な? そんな泣きそうな顔、しないでくれ」

「じゃあ、一緒に寝てくれますか?」

「おう。一緒に寝てやるよ」

 ここでルナを突き放す、なんてことは考えられなかった。もし、ここで断って突き放すようなことをしたら後悔するような出来事が起きてしまう、そんな気がしたから。

「とりあえず布団に入れよ。寒いだろ?」

「ん……」

 こくりと頷き、ルナが布団に入る。俺は電気を消し、少し緊張しながらルナと同じ布団に入る。

「トノサマ。思い出話は明日でもいいですか?」

「あぁ、別にいいぞ」

「今はこうして……何も考えずにトノサマを感じていたいんです。だから」

 ぎゅっと腕に抱きついてきた。

 俺は一瞬ドキッとしたが、もちろん振りほどくようなことはしない。

「おやすみなさい、トノサマ」

「あぁ、おやすみ」

 そして俺の眠れない夜が始まった。

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