表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

咲の行き着く先



◇─◇─◇



薄く開いた目蓋の隙間から見えたのは、闇だった。

真っ暗な、真っ暗な、闇。その闇はわずかな希望や期待までも吸い込んでいく。


咲はもうとっくに気絶から目覚めていた。

真彦を追ってねじり込んだ身体は、

抵抗の音をあげる暇もなく、下へ下へと落ちて行った。


咲の意識は身体が何処かへ着地するまで持たなかった。



「意識戻ってるぞ、アイツ。」

不意に響いた声に、身体を強張らせる。

漏れそうになった叫び声を慌てて飲み込み、目蓋を固く閉じた。

「しっ!黙って。怖がっちゃうだろ?」

「ははっ、今更そんなこと。」


話し声は二人分。それにしても目覚めてからは、

目蓋をほんの少し動かしただけだというのに、何故ばれてしまったのだろう。



「お目覚めになられました?」

すぐ耳元で声がして、咲は今度こそ短い悲鳴を上げる。

「ほらみろ、起きてるじゃねーか。ケッケッ。」


「怖がらないで?何もしないから。」

馬鹿にするような言い方のしわがれた声と、男性としては少し高い透き通る声。


後者の声は不思議と安心感を持たせた。

それに、もうばれてしまっているからこのまま振りを続けていても仕方がない。

おそるおそる、その瞳に闇を映した。



闇の中では目を開けていても、閉じていても景色は変わらないはず。

だけど、瞳が映す闇に優しい笑顔が見えた気がした。


「良かった、無事で。痛む所はない?」

「は、い…。」

何故、彼には目を開けたのがわかったのだろうか。


「そりゃそうだろーが。

お前が抱きとめたのに怪我をしていたらある意味才能だろ。」

その言葉を伝え、それっきり震えなくなった空気に、"それ"が短く息を呑み込む。



抱き、とめ、た…?

不覚にも熱を持つ頬を不思議に思う。

あたしが好きなのは、まさくんなのに。

「ありゃ、もしかして言っちゃいけないことだっ…ゔげっ」


「ごめんね、気にしないでね。」

謝る声に力がこもっているのを思うと、

どうやら力尽くで"それ"を押さえつけているようだった。


漫才のような2人の姿に思わず笑みを漏らす。

良かった、悪い人達ではなくて。




「うぎゃああああっ!」


だけどその安心しきった身体に、突然ひやりとしたものが触れた。

あたしのバカ。なんでこんなことだけで二人を信用してるの。


「だ、大丈夫っ!?」

カタッと何かが落ちた音がして、

それと共に慌てたような声が近づき、身体が温かいものに包まれる。


「やだ……っ!」

優しい声の彼に抱きしめられている状況を理解すると、

瞬時に温もりから離れようと腕の中でもがく。


だけど、男の人の力は強くて。

バスケの時に男子とユニフォームを取り合えば大抵、私がもぎ取っていた。

だから、自分の力には自身があったのに。

奴らは力を加減していたのだろうか。



「…や…だって…言ってる…でしょ…!!」

言葉を発することがかなりの重労働。


喉の奥から、風船から空気の抜けるような変な音がする。

酸素が。吸っても吸っても。酸素が足りない。

目の前がぐにゃっと曲がって、身体の力が抜ける。



「え、うそ、大丈夫!?」

私のことを抱きしめている力が強まる。

「ただの過呼吸じゃろ。ビニール袋でその子の口を覆え。」


「でも!ここにはそんなもの…!」

朦朧とした意識の中、抱きしめている男性の顔が近付いてくる気配が感じられた。

「ごめんね…。」

少し申し訳なさそうにそう言うと、唇を合わせようとしてくる。



その距離が無くなる寸前に、最後の力を振り絞って渾身の力で

やみくもに手を伸ばして触れたものを押した。


運良くその人の腹当たりを押せたらしく、

二人分の驚きの声が耳に届くと同時に身体は宙に浮く。


喜ぶ間もなく、背中から思いっきり地面に打ちつけられ、

ギリギリを保っていた意識を手放した。




咲が意識を手放した少し後、

ただ静寂だけが支配する"室内"を抱きかかえていた男性が破った。


「良かった、静かに息してる。」

「ああ、どっちにしろ過呼吸によって死ぬことはない。

意識を手放したことによって、焦って吸いまくることもなくなったから

余計早く治ったんだろう。」



ところで、としわがれた声が言う。

「早く俺を拾いあげろ。全く、お前とは二千年以上も一緒にいたというのに、

女の一つの叫び声に負けるだなんて。」


ごめんごめん、と優しい声が返す。

そしてぶつくさと漏れる小言を上手くかわしつつ、

温かいしわがれた声を拾い上げた。


冷たい手との温度差もあってか、余計にしわがれた声の頼りある形が

強調される気がする。



気でできた細長い胴体に不自然についている蛇の顔。

全てが木製だというのにも関わらず、蛇の顔は動くし、言葉を喋る。

その上、この杖に触れると全体が温かく、

トクトクと一定のリズムの鼓動を感じた。


それに対して、優しい声の主は、

まるで人形のような端整な顔立ちをしており、

それが比喩に収まり切らないほど、生命を感じさせない。

肌の温度は夏であったとしても驚くほどに冷たい。

最も、彼らの生活範囲には季節を感じる場所などないのだが。




真っ暗な、真っ暗な闇。

その闇の中でただ一つ、煌々と光を放つものがあった。


ポトン、ポトンと鍾乳洞を作る音。

そんな音の中で、煌々と光を放つそれは、

見るからにインドア派な男と小さな女の子と機嫌の悪い女を映し出していた。




◇─◇─◇









場面転換、難しい…。

分かりにくかったらすいません。

感想欄などにてアドバイスをいただけると非常に助かります…!

マイペースすぎる更新に付き合って下さっている方々には

心からの抱えきれないほどの感謝を。

ここまでありがとうございました(*´ω`*)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ