モテ期到来
幼女の名前「神田ちひろ」ちゃんは未緒里 様に提供していただきました。
柊 純 様提供の「近藤 杏」ちゃんは、後ほど登場します。
御二方とも、素敵すぎる名前を本当にありがとうございました…!!
「……た!…おきた!起きた!!」
一定のリズムで朝を知らせる目覚まし時計。
それにしても最近の目覚まし時計は著しい進化を遂げたんだなぁ。
腹にすごく重みがかかる。しかもそれは、一定のリズムで内臓を押し潰す。
だが、俺はまだ寝ていたい。心の内でそう呟き、いつものように遠くへ投げ……。
「〜〜〜ったぁぁぁ!!!」
グキッと腕から嫌な音が鳴った。そのあまりの痛みに顔をしかめ、腕を抑えてうずくまる。
しかも目覚ましは遠くにいくはずもなく、数センチ浮いただけだった。
つまり、だ。それが着地した瞬間には、本気で内臓が潰れるんじゃないかと思うほどの衝撃がきた。
「う……っ」
痛めた腕で口を抑え、胃からくる逆流を堪える。
なぜ、こんなにも目覚まし時計が重いのか。
そもそも無機物なはずなのに、何故柔らかく温かかったのか。
おそるおそるもう一度、手を伸ばしてみる。
ぎゅ……。
人差し指に圧迫感。
(……!?)
ぱっと目を開け、飛び起きる。まさに字の如く、驚きのあまり数センチ飛びつつ飛び起きた。
「ひぎゃっ!?」
腹の上で寝っ転がっていた目覚まし時計はそう悲鳴を上げて、
数秒前の俺と同じように飛び起き、俺の膝の上に着地した。
起き上げた顔に朝の元気な日差しをまっすぐ浴びる。
日夜、カーテンの開かない薄暗い部屋で生活していたから、ひっさしぶりの感覚。
…って、んん?何故カーテンが開いている?
「うわ!」
窓の向こうの懐かしい景色を映していた視界が、突然、幼女の顔でいっぱいになった。
「だだだだれ!?」
「おはよう、にーちゃ!」
不法侵入したであろう幼女は俺の膝の上でそう言うと、自慢げな表情で舌とちょっと出す。
目覚まし時計だと思っていたソレは、幼女だったのか。
通りで色々おかしな部分があると思ってた。
でも、今日は機嫌が良いんだな。昨日はあんなに泣いていたのに。
「………!!」
思い出した。
不法侵入なんかじゃない。俺が連れてきたんだ。
全て、思い出した。昨日の出来事が走馬灯のように蘇る。
昨日、欲しかったゲームを手に入れ、電源を入れた。
そのあと、なぜか画面の向こう側にいるルリカを助けることが出来て、
なぜか俺自身も二次元にくることができて。
怪しい森の途中で幼女を拾い、着いたのは懐かしい故郷だったんだ。
突っかかっていたものが取れ、スッキリする。
寝ても、世界は戻らなかった。
三次元が恋しいという訳ではないが、なんだか寂しい。
一夜越しの念願、幼女のふわふわな髪を撫でながら挨拶を返す。
「おう、おはよう。」
きゃっきゃっと喜ぶ幼女。誘拐という件は許されたか、はたまた忘れられたか。
「良かったな、ちひろ。ただ、にーちゃ、じゃなくて、にーちゃん、だけど。」
「う?にーちゃ…ん?」
「そうそう!上手いな!」
「にーちゃ!にーちゃ!」
ドア近くで寝ていたルリカがいつのまにか近くに来ていて、少し困ったように眉を下げている。
俺の起きる前に二人で練習していたのだろうか。
ふと、そのルリカの姿に胸が高鳴った。
撫でるために前かがみになったことにより、巨乳がますます強調される。
さらりと落ちる髪からは、温泉特有のふんわりとした優しく安心する香りが漂い、
幼女を見つめるその横顔は母性愛に溢れていた。
かわいい、この上なく可愛い。美しい。
「ルリカ、好きだ。」
溢れ出す気持ちが口からこぼれ落ちる。
幼女と戯れていたルリカはビクッと硬直し、髪の間から見える耳を真っ赤に染めた。
「ななななななんだ、急にっ!」
バッと振り返った顔は、沸騰しているんじゃないかと思わせるほどで。
ルリカは見るからに落ち着かない様子で、手のひらでパタパタと仰いでみたり、
口元を隠したりする。
やがて、顔の赤みが幾分かひくと、一つ深呼吸したあと、
再び顔を真っ赤に染めて、何かに急かされるように、慌ただしく口を開いた。
「私も…好…うぐっ!?」
少女漫画なんかだと、こんなとき男キャラが唇を塞ぐ。
というのを、だいぶ前に咲に聞いたことがある。
それを期待した読者には申し訳ないが、あいにく俺はそんな小っ恥ずかしいことなんか出来ない。
つまり…。前回はクラッカーで、今回は幼女。
なんで毎回、こう良い時に、ルリカと俺の邪魔をするかな。
幼女は小さな両手で必死にルリカの口を抑えている。
「ちひろも…!ちひろもおにーちゃが好きだもん!!」
何をしでかすかと思えば、告白か。って、うぇ!?告白!?
でも本人は至って真剣、真顔だ。
「いや、そんな、困るって…」
「困るの…〜?」
そりゃそうだ。俺にロリコン趣味など…。
でも、出かかった言葉は幼女の表情によって引っ込められる。
俺の顔を見上げ、頬を染めつつ、瞳に涙をいっぱいためていた。
胸のどこかのストッパーがストンと落ちた。
「俺も大好きだ、ちひろー!!!」
そう叫んでガバッと幼女に抱きつく。
やったやった、と、小さな腕を懸命に俺の身体に回す幼女にますます惚れる。
俺はなにを迷っていたのだろう。こんなに可愛い幼女が目の前にいたというのに。
「ばかっあほっどじっまぬけぇぇええええええ!!!!!!」
そんなルリカの蔑みにも、心が痛むことなく。
いつの間にか曇り始めた空でも、
これからの冒険という名の"散歩"が怖くなったりなんかしなかった。
「そういえば、ちひろっていうんだな。」
今更だけど、と、抱きつく幼女の髪を撫でつつ、そうぼやく。
俺の腹に顔をうずめていた幼女は、勢いよく立ち上がると、
「うん、そー! 神田 ちひろってゆーの!」
そう自己紹介を終え、ぺこりと頭を下げる。
なんだこの可愛い生物は!!!
「ちひろおおお!」
頭を戻してピースを向けるちひろに抱きつく。
二人のいちゃいちゃは、ルリカが無駄に力をいれ開け閉めするせいで
激しく音をたてつつ、着替え終え、
「早く準備しろ!遅い!のろま!」と罵られるまで続いたのだった。
真彦がどんどん悪者になっていく…。
わざとではないです、断じて!(笑)
次作では真彦を追った咲が迷い込んだ世界での話となります。
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