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お姫さまのお目覚め


ああ、懐かしい。


その故郷に身を任せると、今まで忘れていた幼少期の頃の記憶が次々と思い出される。

畑でトマトを盗んだのがばれて怖いおじさんに怒られて、泣きべそかきながらあの道を通ったっけ。

初恋の女の子に彼氏がいたことを知った時も、あんな風に蝉が鳴いていたっけ。

大学に入るためにこの街を出て行くときも、あの優しい風が背中を押してくれていたっけ。


思い出すのは、嬉しかった思い出よりも思い出したくないような思い出だけど

無意識に顔がほころぶ。




「ご主人様?」

思い出に浸っていたせいで、突然のルリカの声に肩をビクリと揺らす。

「ごめ……」

ルリカに振り返って謝ろうとした時、また例の声が頭に響く。


『Continueー続くー』


この声を届けるのに、他の方法はないのだろうか。

ズキズキと痛む頭を抱えつつ、そう思う。


しかし、取りあえず今日のゲームは終わったらしい。

エロゲーの世界もなかなかに大変だ。いや、このゲームだけかもしれない。

三次元に戻ったら、このゲームを作る会社に電話をしよう。

これはエロゲーではなく冒険ゲームだ、と。


でも彼が電話をする必要などないのだ。

真彦が勝手にエロゲーと勘違いしているだけで、元々このゲームは冒険ゲームなのだから。

だけど、それを知るのはもう少し後のこと。


だって、とりあえず今は。

「宿は用意してある。二人用。だから、その…。」

「じゃあ、俺が野宿する。」

「……!なんでそうなるんだ!!」


真彦の腕の中で眠る幼女を睨んでむくれている、

このツンデレルリカの相手をしなければならないのだから。




結局、女将さんも許してくれたので二人用の宿に三人で泊まることになった。

実家から近い所なのに、こんな立派な旅館があるなんて全く知らなかった。


お屋敷を思い起こさせるような外観。

庭や池やもちろん、温泉もあるらしい。

ちなみにルリカはその温泉という単語に顔を輝かせ、

その場に荷物をほっぽり出して駆け出していった。


いや……、こんなに大きな旅館があれば嫌でも気がついただろう。

最近できたか、あるいはゲーム内だけなのかもしれない。



その上、女将さんの胸はデカかった。

旅の疲れを一瞬で吹き飛ばしてくれた。

着物姿の巨乳…次のエロゲーはそういうやつにしよう。


女将さんの巨乳を思い出しつつ、

敷いた布団の上で寝ている幼女の横にごろりと寝転がる。

それにしても、いい拾い物をしたもんだ。

ふわふわの髪に指を絡ませながら、しみじみとそう思う。



「んぅ……」

突然髪が手からするりと逃げて、思わず触っていた手を引っ込めた。

否、髪が逃げたのではなく、幼女の頭が動いた。


──お姫さまのお目覚めだ。

小さく可愛らしい両手で目を忙しくこすり、

長いまつ毛に縁取られた青色がかる潤んだ瞳が姿を現した。

その大きな瞳が不思議そうに部屋を見渡し、徐々に潤みを増してくる。


ふと、冷たい現実が頭浮かぶ。

冷静に考えれば、寝ていた幼女を勝手に連れてきたという、

この状況は、もしかして………。


「う…うわあああああああああんっ!」

誘拐。その言葉を漏らすのとほぼ同時に、

幼女の瞳から、一粒涙が零れ落ち、そしてそれが皮切りになったかのように

次々と大粒の涙が溢れ、柔らかそうな頬を滑ってゆく。


誘拐という現実や響きわたる泣き声にあたふたしつつ、

とにかく幼女を泣き止ませねば、と抱き上げてみる。

だが、その泣き声は小さくなるどころか、ますます大きくなり、

そして俺もますます慌てる。

首を左右に動かしたり、変顔をしてみたり。

それでも幼女の涙は止まらない。


だから、お風呂から帰ってきたルリカの姿に安堵して。

「はぁ…。その子、ちょっと貸しな。」

それに一つの返事で了承し。

その幼女を、ルリカが自分の胸の間に挟む行為に嫉妬なんかせず。

あんなに泣き止まなかった幼女の泣き声がだんだんと小さくなっていくにつれ、

ルリカに対して尊敬の感情が沸いた。


そんなことをしている内に太陽は沈み、外は闇に包まれる。

この旅館以外に灯りがついている所はなくて、

少し前までいた森も闇に支配され一層不気味さが増していた。

あの中で彷徨っていた可能性も大いにあったことを思うと、この状況に安堵しつつ、身震いを抑えられない。



「ご主人様ー!夕御飯が来たー!!」

ルリカの声に、窓から外を眺めていた真彦は顔を引っ込め、席につく。


夕飯の準備を進める女将さんが、ご主人様、と呼ぶ声に別段驚くこともない様子からすると、やはりこの旅館はゲーム内だけのものなのだろう。


幼女はルリカの腕の中。

真彦の顔を目に映すと、あからさまにその表情を歪ませる。

俺が助けたんだぞ!!!

でもまた泣かれては困るので、引き攣った笑みだけ返して料理を食べ始めた。


「美味しい…!」

あまりの美味しさに思わず目を見開き声を漏らすと、

「ふふ、ありがとうございます。」

女将さんが優しい笑顔で小さく礼をする。


ゲームプレイヤーの時は食事のシーンなんてなかったから、こんな美味しいものを食べているだなんて思いもよらなかった。

美味しい!美味しい!

優しく、どこか懐かしいその味に箸が止まるはずもなく、

あっというまに豪勢な料理を食べ尽くした。



それからほんの少しだけ時計が進むと、

少し満足気なルリカと、不安気な幼女と、疲れ果てた真彦が

優しく見守る月の下で川の字になって寝ていた。





こうして、激動の一日が終わりを告げる。

だが、これはまだ旅の序章に過ぎなかった。



突然ですが、この幼女の名付け親をゆるく募集します。

もし優しい方がいらっしゃいましたら、この小説の感想欄でも活動報告のコメント欄でもTwitterでも、幼女の名前を提案していただけたら嬉しいです。

締め切りは次話投稿されるまででお願いします。

不定期更新ですが…(ぇ

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました(*´ω`*)

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