嫉妬する神
数日前より、アース神族の主神オーディンの息子バルドル悪夢を見ていた………
バルドルは眠ると、決まって戦場のど真ん中に放り出される。
そして抵抗もできないまま自らの体を切り刻まれ、死の直前に現実の世界に引き戻される………
目覚める度に大量の汗をかき、バルドルは精神的な疲労から、みるみるうちに衰弱していった。
毎晩のようにうなされ、衰弱していく息子を見ていられなかったバルドルの母でありオーディンの妻であるフォルセティは、これ以上バルドルが悪夢を見ないように、この世に存在するあらゆる精霊と契約を結んだ。
アース神族・人間・巨人族、そして全ての物質がバルドルを傷つけないという契約を……
フォルセティと精霊の契約により、バルドルはいかなる物でも傷つかない体となった。
主神オーディンの雷槍・【グングニール】、雷神トールのウォーハンマー・【ミョルニル】でさえも、バルドルの体を傷つけることが出来なくなっていた。
バルドルは悪夢から解放され、悪夢を見る前の優しく明るい笑顔を見せられるまでに回復する。
その穏やかな笑顔に神々は癒され、容姿端麗で性格も良いバルドルの回復に特に女性は心から喜んだ。
さらにオーディンとフォルセティの結婚記念日も近く、アースガルズでは盛大な宴を開催することとなり、アース神族の全ての神が集まってきた。
宴では、酒を酌み交わす者、談笑する者、踊り回る者………
大勢の神々によって活気づき、正に佳境を迎えていた。
そんな中、この宴の輪の外から宴を眺める男がいた……
彼の名は【ヘズ】
主神オーディンの息子にしてバルドルの弟である。
彼は生まれつき盲目で、兄・バルドルと違い控えめな性格だった。
常に多くの神々に好かれている兄を尊敬しているが、その反面バルドルに嫉妬感を抱いていた。
盲目でなければ兄のように自分も両親や他の神々にも認めてもらえたのではないかと……
「兄さんはいいな……」
ヘズはそんな事を思う自分に嫌悪感を抱いていた。
ヘズの他にもう1人離れた場所で宴を眺める男がいる。
男の名は【ロキ】
ロキはふと、自分の腰にかけてある一振りの剣に視線を落とす。
彼の視線の先にあるのは木製の剣で、見た目は軽そうだが剣先は鋭く、まるで何者も貫き通すような矢にも似ている。
さらにその刀身にはルーン文字が刻まれ神秘的な存在感をかもしだしていた。
ロキは剣から視線を外すと、傍らに座っているヘズにゆっくりと歩み寄った。
そしてヘズに話しかける。
「バルドルはどんな物でも傷付かない体になったそうだな」
ロキの気配を感じ、ヘズは少し体をズラした。
ロキは義兄弟であるが頭が切れ冷徹である為、ヘズは少し苦手である。
「兄さんは父や母、他の神々からも愛されてる。悪夢を見ただけで心配される……けど、オレは違うから……」
そう言うとヘズは歓声が聞こえる方に顔を向けた。
彼の表情は先程は違い、嫉妬の念を含んだものに変わっている。
そんなヘズにロキは囁きかけた。
「お前の兄、バルドルは傷つかない体になったんだ。あちらでは他の神々が今、正にそれを証明している。お前もやってみろ、今日は宴だ。その位許されるだろ?」
ロキはそう言うと自分の腰から剣を抜くとヘズに手渡した。
バルドル、ヘズは兄弟で、北欧神話の主神、オーディンの息子達です。
そして謎多き神、ロキもオーディンに認められて養子になり、ヘズとは義兄弟のい間がらです。
そしてヘズに渡された剣は・・・?