ミンティアレース 後編
レイルはガイアと分かれた後に授業に参加。
隣の席にはリリアがいるがツキとの約束したため何も会話はない。
授業が進んでいく中でレイルは昼食後に調べたことについての確認をしていた。
(ガイア=クライシス 学年成績12位。火術と水術を使う。火術と水術では上級魔術の行使が可能。最高魔術は…火術戦略級魔導術〈紅桜〉か。ちなみにツキは1位と…優等生ですか。さてこの情報はたぶんほとんどの生徒が知っているはず…う~ん、情報を流すなら俺のような外部者にすべきか)
深い思考の中に浸っていたレイルは授業終了の合図すらも耳に入らなかった。
気が付くと授業が終わり一人教室に取り残されていたレイルはやれやれと資料をゴミ箱に投げ捨て放課後の日課であるツキの護衛を開始する。
そんな生活が何事も無く2日続き、あっという間にミンティアレース当日となった。
資料の漏洩とミンティアレースのルールの抜け穴も発見し、仕込みも済ませたレイルはガイアとともに第1演習場にいた。ただそこには抜け落ちた重大な情報があった。
「聞いてないぞ、ミンティアレースは学校全体を使っていいなんて!」
「学校全体といっても校舎内はなしだ」
「わかってる」
ミンティアレースの開始場所は主に決められていない。
開始直前に的の名前が書いてある提示版が第1演習場・第2演習場校舎付近に提示されるようだ。
そして、開始の合図は大きな鐘の音のようだ。
提示版は破壊しても反則にならない。
制限時間は3時間。
「提示版が出てきたな」
「ああ、でもこのまま待機だ。極力戦闘は避けたい。追跡者がうじゃうじゃ出てくるからな」
「わかった。しかしレイルそのコートは何だ?」
「秘密だよ…始まったぞ」
鐘の音は鳴っていない。しかし、レイルたちの目の前では提示版が突如、火を吹いた。
「…思っていたより早いな」
「毎年あんなもんだ。まあ、ここで成功しても他のとこはどうだかな」
提示版が燃え落ちて2分後、鐘の音が鳴った。
レイル達はまず別々に行動し第1演習場の人ごみに紛れた。
その場にいる者達が的の情報を求めて第2演習場または校舎へ向かうのに混じって第2演習場の森を目的地にした。
「よし、ガイアとうまく分かれたな。ふ、ガイアの情報はすでに漏洩済み…ガイア、俺のための架け橋となってくれ」
遠くではガイアを追う声が聞こえている。
レイルー!などと雄たけびにも近い声が響くがレイルにとっては愉快痛快に聞こえた。
「ふはははは。ガイア悪く思うなよ。これも戦いだ!」
ガイアを囮にしている間に人ごみに混じって第2演習場へ向かおうとしたその時、いくつ物視線を感じレイルが後ろを振り返ると
「いたぞー!あそこだ!」
「みつけた!」
「あいつにちがいねえ」
などの声が聞こえてくる。
レイルは最初その声をガイアむけられたものと判断した。
人ごみにまぎれる自分が学生程度の目に分かるはずはないだろうと思ったためだ。
(さて、ガイアに群がっているうちに第2演習場へ…)
と油断慢心がピークに達したところで、いざ目的地へ向かおうとしたところで
「あいつがレイルだ!」
「ッ!」
その声にレイルはすぐさま方向転換し第2演習場とは反対の方向への逃亡を図る。
後ろを振り返る余裕は無い。
前を走っているのに魔術が右と左のすれすれを飛んでいくからだ。
「チィ!外した」
「なんて速さなの!」
次第にスピードを上げるレイルについていくことをあきらめ、遠距離戦に切り替えたのか魔術を様々に繰り出す生徒達。そんな嵐のように降る魔術の雨をかろうじにすれすれで避けるレイル。
おかげで生徒達の魔術は1つとして被弾することはなかった。
(くそっ…あの野郎!俺が的だってこと流したな!甘く見ていたか!清純そうな顔して腹黒いやつだ!)
心の中が理不尽な恨みで真っ黒に染まる。
そんなことを考えていても自分が的であることがばれてしまい、なおかつ学園の劣等生であることが知られてしまっているレイルはまさにかっこうの的だった。
逃げる先々に待機していた生徒が飛び掛る。
中には土術で土にもぐっている生徒もおり、その登場シーンはまるでゾンビのようだった。
走りっぱなしで20分は走ったレイルも流石にびっくりアトラクションのように待機している生徒に心労のほうが溜まり、徐々に足の動きがゆっくりとなっていく。
「埒が明かんな。薄離・未立複合機巧〈フゾク〉起動。光術〈明〉を実行せよ!」
〈フゾク〉がレイルの言葉に反応し光術〈明〉を実行。
瞬間光が世界を光が包み込んだ。
――光術〈明〉。虚失魔術のひとつ。激しい光を発し相手の視力を一定時間奪う――
「うぁっ!」「きゃっ!」「クソ、目が!」
追跡者が光で一時的に錯乱し、追跡者同士で魔術合戦を始めた。
その隙に逃げようと第2演習場へ足を向けた。
2時間が経過した頃、レイルは第2演習場の森で土術を使いゾンビを参考にして土の中に隠れた。
あと1時間を土の中で過ごそうかと思っていたのだが、変な振動がするのでノソノソと地上に這い出た。
「ったく…なんだこの振動は」
「なんか、ここら辺に誰かいるんだよな…」
レイルが地面から頭を出した瞬間、確認のために地面を叩いていた足がレイルの頭に乗っかった。
「あっ」
「あっ?」
レイルが首の向きを変えるとそこにはガイアがいた。
「…ガイア。お前まだ生き残っていたのか」
「レイル、それはこちらのセリフだ。それとお前よくもやってくれたな」
「お前こそ姑息な手段をとってくれたものだ…それで残る的は俺たちだけか」
「そのはずだ。さっき、また違うクラスの的が捕まった連絡放送が流れた。俺達以外にもういない」
「そうか…」
「それでレイル?お前いつまで生き埋めごっこしてるつもりだ。でかい頭のしいたけが生えてるように見えて気持ちわるいんだよ」
「ほほぅ…そう思うなら今すぐお前の足をどかせ、さっきからすごく臭いんだ」
「てめぇ…今すぐ土葬に切り替えてやろうか」
口喧嘩がしばらく続き、結果はガイアの勝利に終わった。
レイルは人型きのこと認定されてしまったが、ガイアにも足が臭いと認めさせたので五分五分の戦いだったと言えよう。しかし、その後に勃発した悪口の言い合い合戦でレイルが先に言い尽くしてしまったのだ。
「ば、ばかな…こんな、オツムの足りなさそうな男に悪口の語彙で負けるだと!?」
「はっはぁ!お前の語彙力はそんなもんか!所詮貴様は善人なんだよ!」
「…それって、人格的に負けたって証言してるようなものではありませんか?」
「「ッ!?」」
突然に第3者の発言。しかも、ガイアに反撃の隙を与えない痛恨の一撃だった。(精神的に)
ガイアは首の角度的に声のほうを向くことができずに、生首を続けていた。
一方のガイアはその姿を見て口笛を鳴らした。そして、レイルの頭に載せていた足をどかし突然こんなことを言い出した。
「レイル、今までやってきたことは水に流して同盟を結ばないか?」
「なぜだ?」
「分かるだろう…学年1位とリリアに見つかった。学年1位はまだのようだが、リリアが来てる。あいつら2人は別格だ。ここは協力して…」
「協力しても無駄ですよ」
「「!」」
突然の言葉ににレイルとガイアは言葉を失う。しかし、そんなことにもかまわず声は続いた。
「あなたたち2人で最後です。大人しく捕まってください」
「リリアちゃんか。こんな格好で会いたくなかったなぁ。抜けないんだよ」
「レイルさん、まさかあなたが的だったとは驚きました。その…いまのその状態にも。でも、ツキ様が来るのにはしばらく時間がかかりそうなので、お二人は私が捕らえましょう」
すっと、魔術の糸を放出し魔術構築を始めた。そこに、ガイアが時間を伸ばすために苦し紛れに会話をつなげる。逃げる算段を考えるためだ。
「おいおい、簡単に言ってくれるね。学年2位のリリアさんよ」
「当たり前です。学年12位と学年最下位なんて問題ではありません」
リリアの言葉にはて、誰のことだ?とガイアは考えたが、目の前にいる生首がイヤァとか何とかぬかしているのを聞いてその解答を得た。
「レイル!お前最下位なのか!」
「ん?言ってなかったか?てっきり知っているものと」
「ふざけるな。それを知っていたらお前となんか組まなかったよ!」
「なんだと!成績で人を判断するなよ!人には成績以外に重要なものがあるんだ!」
「学生は成績が命だ。それ以外は社会に出てからでも間に合う!」
「ああ言えばこう言いやがって!さっきの悪口合戦は負けたけどな今度の理論口論では負けねえぞ」
「おうおう、理論で俺ができないとでも思ってんのかい?ハッ!甘いなぁ…甘いよ。口の中がとろとろしちまうぜ」
「憎たらしい口だな。俺がこんな状態じゃなけりゃお前なんぞ…」
「うるさい人達ですね。行きますよ」
ガイアとレイルの言い争いにうんざりし、リリアが魔術の並行構築を始める。
レイルとガイアは言い争いを止め戦闘態勢に移った。
ボコッと土の中から体を出し、レイルの準備が完了。
ガイアも魔術の糸を垂れさせ、いつでも魔術の発動を行えるように待機する。
「おいガイア、リリアの得意な術式系統はなんだ」
「風だ。特に対集団戦が得意だったはずだぞ」
「また厄介な…来るぞ」
構築を終え、風術〈烈〉を発動。暴風がレイルたちを襲った。
――風術〈烈〉攻撃ではなく足止めに特化した魔術。暴風で相手の行動を著しく制限する――
レイルとガイアは反応でできずにまんまと暴風につかまり動きを止められた。
体を斜めにして何とか態勢をくづさないようにするので精一杯のガイアを尻目にレイルはさっき首だけになっていた穴に飛び込む。しかし、行動の制限されたことには変わりない。
「ガイア、なんか魔術出せよ!このままじゃやられるぞ」
「ふざけるな、こんな暴風のなかで集中して構築などできるかお前が何とかしろ!」
「何言っているんだ!ここは…んっ?」
「お前がやれば…はっ?」
言葉が止まった。視線の先、レイルとガイアは暴風の中で竜を見たのだ。正確には水色で透明な竜。
明らかに居てはいけない存在に2人は魔術だと分かったが暴風で体が飛ばされそうになり何も対策ができない。そして、暴風の中でかすり声にも似ている声が遠くから聞こえてくる。
「水術〈青〉…飲み込みなさい」
――水術〈青〉。水の塊を圧縮して高圧で放出。魔力を込めれば込めるほど威力が上がる――
「水術とか聞いてないぞ!チィ!〈フゾク〉全機起動!火術〈紅〉を実行!」
〈フゾク〉は水竜にむかって火術〈紅〉を実行。しかし、その効果は薄く水竜の勢いがすこし弱くなっただけであった。仕方なく首ごと土術で覆い隠し、土の中に逃げ込んだレイルは竜を何とかやり過ごした。土の中から出てみるとガイアは体一つで耐え切っていたようでビショビショに濡れている。風術の暴風のおかげで水気は抜けているようだが、自然乾燥機の中でガイアは凍えた顔をしていた。
視界の端に映るそんな姿をみて単純な賞賛がでたところでリリアが不思議なものを見る目でレイルを見た。
「レイルさんは火術ですか。それに、麒麟機巧4家の武器。おかしいですね、麒麟機巧は4家とも共同して合作なんて作らないはずですけど…」
「いまは関係ないだろ…天欠機巧型銃刀式〈末〉起動」
コート内の刀を銃形態にしてリリアに向かって雷弾を打ち込む。
突然の攻撃にリリアは回避に失敗し、雷弾を左腕に受ける。
直後、電撃がリリアを襲う。その瞬間、魔力の供給が立たれた暴風がそよ風にまで弱まった。
「くぅ、構築しないで…まさか雷術まで…」
苦悶の表情のリリアをみて効果はあったと判断した。
そこで、水術で若干弱っているはずの隣の男にすかさず指示を出す。
「おい、ガイア!今のうちに魔術で戦闘不能にしろ!」
「分かった!」
レイルの言葉に反応し構築を始めるガイア。
かなり早いものでものの30秒もたたずに魔術を完成させた。
一応学園の優等生なので、魔術構築は一般のスピードからすれば非常に早いものだ。
「ほら、完成だ!雷術〈真〉、発動」
声とともにガイアの右手に雷の槍が出現する。
媒体とする金属はないことから基軸と座標構築を目視で設定して、物体構想をイメージしてから魔術として具現化するものだ。転写魔術と呼ばれる比較的メジャーな魔術だが、欠点である具現化したものの強度にはかなりの心配があるものだ。普通、魔力を供給してから魔術を発動するのだがこの転写魔法は魔力を供給するのではなく、魔力そのものを魔術にする魔術なのだ。だから、魔力が少ないとものの数秒で崩れてしまう。だが、ガイアはかなりの自信があるようで
「おら!あたるなよレイル!」
と声をかけると雷の槍をリリスに投擲した。
雷槍はかなりの魔力を注ぎ込んだようで、形を保ったままリリアに飛んでいく。
そして、雷槍がリリアに届く瞬間
「光術〈灯〉」
リリアのものでない魔術の発動で雷槍の魔力そのものが失われ、リリアの前からガラスが割れるかのように破砕し、消滅した。リリアも予想外のようで声のした後ろを振り返った。
「私の友人を手ひどく痛めつけたようね…リリア大丈夫?」
無表情にガイアを見ながらリリアを気遣う声にリリアは安堵を漏らす。
そこには見知った制服の生徒が立っていた。
「はい。ツキ様こちらは大丈夫です。痺れが残っていますがしばらくすれば復帰できます」
「そう、よかった。じゃあリリアの痺れが取れるまでこちらの相手をしていましょう。残り時間も10分を切ったところだしね」
すっぐさま魔術構築を開始するツキ。
一方でいきなりの登場で出足を挫かれたガイアはようやくツキの存在を認知したところだった。
レイルは心に余裕を持っていたのでツキのことも忘れてはいなかったために動きは止まる事はなかったがこれ以上の戦力増加はまずいと思考がフル回転していた。
「学年1位か!」
ガイアがすかさず雷槍を発動させてツキに向かって投擲しようとモーションに入ったのを見たレイルはガイアの前に出てそれを手で制した。
「ガイア、ここは俺に任せろ!お前は今のうちにリリアを叩け。これ以上増えたら厄介だ」
急遽の行為でガイアは雷槍を引っ込めてしまった。そして、指示を聞いてリリアの危険性を感じ取った。追いかけるべく体の向きを変え大きく跳躍した。
「ガイア、絶対リリアちゃんをここまで連れてくるな。向こうで十分間足止めを続けろよ!」
「わ、わかった!」
跳躍に跳躍を重ね姿が見えなくなったことを確認したレイルはツキと対峙した。
ツキはリリアをかなり信頼しているようで心配した様子すら見せない。
「あの人なら今のリリアでも大丈夫でしょう」
「ガイアを甘く見るなよ」
「現実を述べただけです。学年最下位のレイル=スコール」
「調べたのか」
「ええ。そしてさっきも面白いもの見せてもらったわ。魔力がほとんどないあなたが、雷術・火術、さらにはあの麒麟機巧の合作まで使っている。不思議なことね。興味も湧いたわ」
「学年1位をひきつけるものなんか俺にはないよ。〈フゾク〉光術〈明〉実行」
ツキに応対させる間も与えない高速で光術〈明〉が発動。
何もなすすべなく光が世界を包み込む。普通はここで視力が失われ敵を見つけることができなくなるはずだが、ツキは視力を失うことなく平然と立っていた。
「しかも魔術構築無しですか」
「やっぱり、下級魔術じゃ無理か…」
「何をしても無駄です。そこで大人しくしてください」
手から鮮やかに光る糸を出し魔術構築を始めるツキ。
すぐに円陣と術式が空中に浮かび上がり、4つの陣が完成されていく。
ガイアなどの速さが霞むような速さで魔術が出来上がり、平行起動させる段階にまでなっていた。
「アレはまずいな…上級魔術?いや、それよりもっと上…どちらにしろ、ここで叩く!」
〈末〉を刀に変形し、素早い動きでツキの懐へ入り込む。
魔術構築に集中している者への進入はたやすいものですぐさま刀を構え峰打ちでツキを捉える。
(ここなら!)
刀を下から上へ振りあげツキを切った。
刀の速さに反応することは出来ずにツキは刀に対する防御の暇さへなく宙に投げ出された。
あまりに軽い手ごたえにレイルは刀を構えなおし目だけ動かして後ろにあるはずの魔術構築式を見ると
ただの地面が見えるだけだった。
「…まじで?」
急いで上に飛ばしたツキを見ると、出来の悪い映像がそこに転がっていた。
ツキのように見えるホログラフのような映像がノイズ交じりで空中静止している。
ありえない現象に警戒心が高まり、今居る場所から急いで退避した。
だが着地した瞬間、どこからか現れたか分からないツキが目の前から接近してきたのが目に入ると同時、ツキの周りを取り囲む膨大な魔術陣に目を疑った。
「そんな光術に引っかかるなんてまだまだね…水術〈三水〉」
――水術〈三水〉多大な魔力を消費する上級魔術。術者の360度すべての向きに水が高圧で射出される。威力は水術の中で最高のもので相手との一定の距離があれば必ず当たる――
光術でツキとの距離が離れていたレイルに、水術が直撃する。
「ぐっ!」
水が引き、姿が見えたとき、レイルは〈フゾク〉に支えられ立っていた。
「ハァハァ…死ぬかと思った」
「頑丈ですね。手加減したとはいえ生身の体で受けて意識があるとは…予想外です。しかし、ここまでです」
「人間は、あきらめちゃ終わりだよ。〈フゾク〉は…水でダメになったか」
〈フゾク〉は水に弱い。防水機能はあるが、大量の水をかぶると機能保持のために強制終了する。
「黒い玉も使い物にならないようですね。では、そろそろ捕獲しますか。リリアも心配ですし」
「心配はしてないんじゃなかったか?」
「心配しているのは、リリアの男性恐怖症のことです。あなたのとは違います」
「男性恐怖症?それは…」
「あなたには関係ないわ」
そう言い放ち、魔術構築を始めるツキ。
その様子を身ながらレイルは思考をめぐらせていた。
(まあいい。リリアちゃんのことは後で調べればいいだけのこと。それより今はこの場を何とかすべきか。〈フゾク〉は動かないか…〈フゾク〉を再起動させるにはまた触れて電気を流せばいいだけだが、今俺の足元には1つしかないか。後は流されたみたいだな。これひとつで、あいつの魔術ははじき返せるか?いや、無理だな…アレを使うか)
レイルは自分の足元にある〈フゾク〉に電気を流し再起動。そして、腰につけている手袋をつけ〈パンドラ〉を起動させ魔術構築を始める。
「いまさら何をしても無駄よ。魔術量が多いのは認めてあげるけどそれでは無理よ。さよならレイル=スコール…水術〈三水〉」
「魔術は威力がすべてじゃないんだぞツキ。相性を考えろ」
ツキの水術が自分に襲い掛かってくるのに対し、レイルは余裕を持っていた。
「相性なんて、魔術には存在しないわ」
「そうか…氷術〈白虎〉」
レイルが魔術を行使する。すると、レイルに向かっていた水の塊は氷の塊となってすべて動きを止めた。
「そんな!こんなことはありえないわ!」
「現実を受け入れろツキ。でなければ、お前は自分に負ける」
「またそんなこと!そんな言葉は聞き飽きています」
「そうか…ミンティアレースも終了したみたいだな」
終了を告げる鐘の音が聞こえる。ツキは鐘の音とともにその場を去った。
ミンティアレースの結果発表などのためレイルは校庭にいた。
「ガイアは生き残っているのかな?俺としてはポイントのために捕まっていてほしいな」
「ポイントには興味がないんじゃないのか?」
「ん?おお!ガイア!無事だったか!チィ」
「最後のはなんだ!俺だって学年2位に対してかなり粘ったんだぞ!」
「粘らなくてもよかったのに!…で、この後どうなるんだ?」
「試験の結果発表だな。校舎のグラウンドに1学年全員が並び魔術理論成績と実技成績の上位10位までが発表される。まあ、この学校だと魔術理論なんてあんまし成績には関係ないけど」
「今日やったミンティアレースは実技の結果の一部なのか?」
「ああ、あとの実技の試験は2日前にやったやつだ」
「魔術理論の試験は昨日やったやつか」
「そうだ。てか、早くグラウンド行こうぜ」
「そうだな」
レイルとガイアがグラウンドに着いた頃には、すでに全員が並んでいた。
「遅れたな…まあ、後ろに並べばいいか。ガイアここに並ぶぞ」
「おう。わかった。」
列に並び、学園長の長々とした話を聞き終わり成績発表に移った。
「いよいよか…発表しなくてもいいのに」
「何言っているんだレイル。ここで発表された者は後で有利なんだぞ」
「たとえば?」
「まず、生徒会へ入るための第1条件がクリアされる」
生徒会は総合成績上位10位の者たちでなければならないことが条件にある。
「それに、2年にあがるときに上位者は専用の武器を作ることができる」
「武器?」
「ああ。お前みたいなフヨフヨ浮かんだ小さい玉じゃない、自分専用のだ。しかも、うまくいけば麒麟機巧4家からかもしれない」
それを聞きレイルは
(麒麟機巧の武器ならもうありますけど…こいつ、俺の武器のこと本物じゃないって思っているな。まあ、都合がいいから言わないけど)
などと思い、ガイアに話をあわせた。
「へえすごいんだな。おっ!始まったぞ」
校長が魔術実技の成績上位者の名前を読み上げていく。
「1位、ツキ=ホトギ2位リリア=ブラッド3位・・・・・・・9位ガイア=クライシス10位・・・・・」
「お前の名が入っているだと!?…信じられん!」
レイルの悔しそうな表情にガイアは優越感を覚えた。
「レイルどうだ分かったか。俺はお前よりも上なのだ。圧倒的にな」
「くぅ。この自慢げな顔がムカつく」
「ははは。跪きたまえ下郎が」
「くきぃ~…そういえば、魔術理論のほうの1位って誰なんだ?」
レイルは自分のプライドを守るために話を切り替えた。
「くっ!話を切り上げて自分の自尊心を守ったか!なかなかやるな」
「いやそれより、魔術理論の1位ってだれなんだ?」
「それは、もうあいつしかいないだろう…」
「だれ?」
「たぶん、リステリアってやつだ」
「リステリア?」
「俺はあんまり魔術理論の方は興味がないからよく分からんが、たしか毎回1位だったと思う。2位とかなりの差をつけていると聞くが…」
「へえ、そうなんだ。でもな俺は魔術理論には自信があるんだ。1位は無理だが10位以内には入ってみせるさ」
その言葉にガイアは声高らかにに笑った。
「フン。貴様など10位など触れられもせんわ!ふはははははは」
ガイアの笑い声が響く中、魔術理論の成績が発表された。
「1位レイル=スコール」
「あ、俺だ」
「ふはははははは・・・・・は?」
「やったぞガイア!俺は1位らしい!」
レイルはこの結果に手放しで喜んでいた。そんな結果を聞いてガイアは口元に手をやり考えこむ。そして、レイルの方を向いて真剣な顔で言った。
「いや、レイルアレはだな、教師のミスだ。喜ぶな。後で痛い目にあうぞ」
その言葉に喜んでいたレイルの表情は驚きに変わる。
「え?なっ!それ本当か!チクショウ!喜んでしまった自分が情けない」
「ああ、同情するぞレイル」
「くぅ~泣けてくる」
レイルは悔しさで肩を落とす。そんなレイルにガイアは声をかけた。
「さぁ、もう行くぞ。落ち込んでいても始まらない。明日をつかみに行こうじゃないかレイル」
その言葉にレイルは小さく頷く。
「ああ。ありがとうガイア。俺お前がここにいてくれて本当によかったとおもう」
ひどく優しい顔をしたガイアが落ち込んだレイルを慰めながら2人で教室へと戻っていった。
他の作者さんの小説などを見ると自分の小説の文の稚拙さに涙がでそうです。ストーリーも面白いかどうか自分で判断できないので評価や感想などいただけたら助かります。