その後とこれから
「まさかこんなことになるとは・・・・」
そう言い視線をテーブルへと向ける男がいた。
椅子に座り水が入ったコップをテーブルに置く。
周りには鳥のさえずりが聞こえておりどこか安らぎを感じさせる。
男の背後には緑生い茂る森の中にぽつんと建つ小屋が一つあった。隣に置かれたもう1つのテーブルにはコケが生えて自然と一体になっている。
小屋も同様にその人工的な造形を森に飲まれつつあった。
周囲にある木々が明らかにこの男の存在がこの森の中でいかに異質なものであることを示す。
圧倒的な存在感の自然が支配する空間の中で男はあたりを見渡し、やがて意を決したかのようにテーブルへと目を動かした。
そこには封のあいた手紙があった。
「まさかこっちの所在地がわかるとは。さすがホトギ家だ。すこし舐めていたな。しかも手紙の内容がこれとは・・・」
ため息を吐きつつも手紙をとり中身を見る。
その行為は1度したはずであったが何度やっても緊張感が走る。
男は手紙の中身が変わらないかと無理な願いを祈願しつつ手紙に目を通した。
目の前の手紙の内容はこうだった。
《レン・・・いやレイルよ。ようやくお前を見つけたぞ。まったく苦労したものだ。すこしはこちらに手紙などくれてもよいのではないか?まあいい。レイルお前に話がある。かなり重要だ。この手紙がお前に届くとも限らない・・。そこで、お前を助けた地で話をしたい。まっているぞ
シン=ホトギ》
レンは死んだこととされ今では前世界の名前であったレイル=スコールと名乗っている。
「シンは俺の秘密を知る数少ない人だからな…断れないじゃないか、はぁ~」
レイルは現在十六歳。世界の各地を3年間旅した。
異世界の世界のほとんどを廻ったレイルは休息と保養を兼ねて商業技術都市の東に位置する人の寄り付かない樹海奥地に家を発見し、自然と一体となった生活をしばらく続けていたある日の事だ。
一匹の鳥が手紙を持ってきたのだが、この手紙が来たことによりレイルの放浪旅にピリオドが打たれた。
「さよなら俺の自由・・・」
レイルは去り行く自分の自由とこれから訪れる過去に置いてきた者との出会いに複雑な心境を持ちながら出発の準備をした。目的地はホトギ家の本拠地が存在する農業都市〈ココノス〉である。
3日の時間を要してレイルは白い花の咲く地へ到着した。
レイルの始まりでもある白い花の園の中心地にシンが以前と変わらぬ風格で立っていた。
レイルが見たところシンは相変わらず変わらない。鍛え抜かれた体と当主が持つ威厳は衰えることなくそこにあった。何もかもが変わらない…ただ左腕がないことを除いては。
「シン。元気そうだな…」
レイルが発した声に反応してシンが振り向く。
レイルを見たシンの反応には成長した息子への喜びの色があった。
「レンか?いや今はレイルだったな、見違える世にいい男になった。実践も相当経験したと見える」
レイルの旅の中での実践は星の数ほどあった。山賊や猛獣、争いなど様々な戦いでレイルの腕や足、体の隅々に勲章ともいえる傷跡があった。
「ははは。そんなこといったって、魔術だけは自分だけじゃ使えないから、いまだに魔術師に対しては弱い男だよ」
レイルは現在も魔力を所持していないため、魔術が使えない。
そのことは未だにレイルに拭えないほどの劣等感を抱かせていた。
「魔術など、個人の力の一部であり全てというものではない。ときには、魔術よりも自身の体が役に立つときがある」
「シンがそういうと、そんな気がしてくるね…それで、話ってなんだ?」
「ああ、そうだな、昔話も今はできんな。レイルこれを受けとってくれ」
差し出されたのは封筒。レイルはそれを手にとり中身を見る。
「これは…冗談か?」
レイルは封筒の中身を疑った。
このようなものは俺にとっては関係の無いものと、長年避けてきて選べなかった人生の1つの形がそこに記されていたからだ。
レイルは受け取ったものを信じられずに、封筒の中身に釘付けになっていた。
「いや本気だ、すまないレイル…もうお前しか頼れないんだ」
「でもどうやって!」
「大丈夫だ。手続きはすませておいた。全て偽装しておいたから大丈夫だ」
「はぁ~手際が良いね…ここで断っても、何か用意してあるんだろ。引き受けるしかないじゃないか」
レイルはため息をつきながら思う。
――あんな手紙、無視していればよかったと。
幾何学模様が描いてある部屋の中心の椅子に、厳かな雰囲気にチクチクしたものを感じながら座るレイルの姿があった。
緊張の様子は皆無。
椅子に座るレイルの前には白いひげを生やした老人がいる。
年相応の柔らかそうな顔と顔に畳まれたシワにどこか安心感を感じるレイルだったが、ふと今いる場所を思い出しすぐさま姿勢を整える。
老人はそんなレイルにゆっくりと口を開いた。
「君はこの学園で何がしたいのだね?」
「魔術論理に関することについてとことん追求したいと思っています」
「君の魔力量では少し厳しいのでは?この学園の平均よりも下回っているがのう?」
「魔力だけがすべてではありません。それにこの学園は実力主義でしょう?だったら、魔術が使えなくても上位に食い込んで見せますよ」
「ふむ、勇ましい発言だの…では最後に、君はこの学園に何を望む?」
「最高の研究が行える研究施設を」
「よろしい」
あらかじめシンに用意された返答を一言一句間違えずに答えたレイルは緊張を解いた。
そして、簡単な入学手続きがおわったこと同時にもう後には引けないとさらに気を引き締めた。
「では、レイル=スコール。貴殿を魔導天道学園高等部への転入を認める。
魔術の最高機関〈天道学園〉にようこそ、レイル君」
そうして老人はレイルと握手を交わし、肩を叩く。まるで、激励しているようだとレイルは感じる。
老人の名前はイザーク=マクルカス。この天道学園の校長である。
「さて、レイル君。君のクラスは高等部1学年の7組じゃ。がんばりたまえ」
「はい。期待に沿えるようにがんばります」
レイルはイザークから学園のカリキュラムから教育方針などを聞き、優しい目つきに見送られ退出する。失礼しましたと言って廊下に出たレイルはようやく終わったと退屈に任せ、緊張で凝り固まった体を伸ばしてほぐし一言。
「…さて、がんばりましょうか」
シンからもらった書類には魔導天道学園への入学届けが入っていた。
そう簡単に入手できるものではないがそこはホトギの力を使ったのだろう。
少し組織の権威に卑怯だと感じつつも自分がなぜ天道学園に来たのかの理由を再度確認した。
現在、九頭竜の勢力争いは激化を極めている。
九頭竜が現在領土争いを繰り広げる農業都市〈ココノス〉は小さな都市なのだが、その鉱山資源と食料輸出量、さらには隣の貿易都市の重要機関にかなり食い込んでいるために各々の権力をもつ家が狙っているのだ。現在はホトギ家が勢力化に置いているが、元々本拠地にしていた商業・技術都市〈マルクベ〉と切り離されしまい弱化の一途をたどっている。
その中、激化した闘争の中で魔術能力の高い者たちがつぶされる事態が発生。
何人もの優秀な者達が九頭竜のどの家にもかかわらず死傷者を出していた。
緊急、護衛などを張り各家々は家の者を殺されないようにしたが、その対処をあざ笑うかのように死傷者が次々とでた。
手段は単純、自爆だ。
どこの所属とも分からない人間が魔力を暴走させ爆発を起こし、付近にいる者を巻き込んで殺すのだ。
そして、魔術師として上位に位置するツキはその緊急事態に巻き込まれていた。
ツキの力は九頭竜上位4家にも引けをとらず、4家の脅威となっているせいで何度も刺客からの襲撃にあっていた。
シンは護衛をつけたが度重なる襲撃で全滅。
シンの左腕もそのとき失った。
限界を感じたシンはレイルを頼ることとしたのだった。
しかし、社会的に死なせてしまったという負い目からツキには正体を知られないようにと条件をつけた。
「まあ、ツキが襲われるっていうなら守ってるべきか…えーと、ここが1年7組だな」
悠然と忽然と突然にクラスへと入るレイル。
そこには、レイルを見て皆一様に緊張した顔でいる新入生がいた。
レイルは天道学院に転入してきたが、天道学院では高等部には中等部からあがってきた生徒と、外部から入ってくる生徒がいるのだが、外部から来る生徒には中学部の者たちは皆緊張してしまう。
なぜなら、外部からの高等部の入学はたいてい魔導レベルの高い者達であることが多いからである。
レイルはそのことをシンから知らされずリラックスした面持ちで自分の席を見つけその席へ座った。
周りの者たちからは、畏怖の対象として見られているのか、誰もレイルに近づかない。
ギクシャクとした空気の中、1年7組の担任が教室に入ってきた。
「おはようございます皆さん。私はこのクラスの担任となりましたミーヤ=ミリヤムです。みなさんは、これからこの年から魔術の本格的な発動をしていただきます。魔術の発動には、危険がつきものです。決して油断のないように日々をすごしましょう。それでは、このクラスが1年間無事全員で過ごせることを祈ります」
ミーヤと呼ばれる教師の話をレイルは話半分に聞いていた。
その後も簡単な話をしてミーヤはクラスから退出してから生徒たちはせわしなく授業の準備を始めた。
そんな中、窓側に座ったレイルは呑気に外を眺めていた。
学生として何をすればいいのかの常識が欠けていたためだ。
前世界の知識が先行し、どうしても授業=筆記となってしまうのだ。
しかし、この学園の制度は実力主義が前提に根付いているために実技のような授業が主で筆記が週に何回としかなかった。
(確か最初の授業は…戦闘模擬演習か。確か魔術あり体術ありの何でもありの実践訓練だったかな?
場所は外の第2演習場だったか…それよりもツキはどこのクラスだったっけ?)
と考えているうちに、レイルはクラスに一人取り残されることとなる。
レイルはそのことに気づくのにかなり遅くに気づき急いで外に飛び出した。
ただいま大改編中。この後の話がかなり食い違っています。
注意して読んでください。