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始原世界の中で  作者: 神原 拓
第1章 世界の始まり
21/30

リリア=ブラッド

一方のレイルはリリアと医務室へと向かっていた。

リリアに受けた傷が思っていた以上に深く傷がふさがらなかったためだった。


(コマクとの戦いでナノマシンの治癒能力の限界が来るとは思わなかった…少し舐めてたな)


レイルは自分のなかにあった油断・傲慢に強い嫌悪感を覚えた。


(多分ナノマシンの本来の使い方じゃないからすぐに限界が来たんだろう。電流を神経にまで作用させたことは無かったからな。俺のナノマシンは自己進化型だから何回か使えば勝手に適応してくれるだろう…それにしても)


「あの、リリアちゃん?少し手伝ってくれない?俺結構血流しちゃって頭がくらくらするんだけど」

「すいません。無理です」

演習場からここまでリリアはレイルに触れることをせず魔術も使用しなかった。

おかげでレイルは自力で無理やり体を動かすハメになり激痛を我慢しながら歩いていた。


「・・・リリアちゃん手伝って。そろそろ限界なんですが」


演習場から医務室までは約一キロだった。

怪我人を歩かせるには長すぎる道のり。

レイルはその距離の約8割を一人で歩いた。


もうすぐ念願の医務室へ!


この考えが500mを過ぎたあたりでレイルの中で芽吹いたが800mも歩くとその考え今では夢のようだった。


(軋む!痛む!ねじ切れそう!リリアちゃん。いやリリア様!どうかあなたのご慈悲で私めを救済してください!お願いします!)


レイルは期待してリリアの返答を待つ。しかし、レイルが聞いた言葉は、


「すいません。無理です」


(鬼!悪魔!俺をいじめて何が楽しいんだ!)


思いつく限りの罵詈罵声がレイルの頭に浮かんだが直後に襲った怪我からの痛みが襲った。


(痛った!これは本当に手を貸してほしい!)


レイルは自分の限界が近いことを悟った。これは本当にまずい。直感ともいえるこの感覚に危機感を抱きどうにかしてリリアに助けを求めた。


「頼む!肩貸すぐらいは!」

「ダメです」

「鬼!」

「…何ですって?よく聞こえませんでした。もう一度言ってください」

「鬼!悪魔!鬼畜!」


鬼といった瞬間からリリアの顔に怒りが浮き出たのは目に見えていた。

レイルはそのことを見逃していた。

そこに重なる更なる言葉の数々にリリアの表情は怒りを通り越したのか晴れやかな笑顔に変わっていく。


「覚悟はできていますか?いえ、できていますよね。そんな暴言女の子に吐けるぐらいですもの…」


リリアは直後に詠唱を始めた。


「嘘です!ごめんなさい!許してください!」


しまったとレイルが気付くのには遅すぎた。激痛から精神がおかしくなっていたとはいえ女の子にこの言葉は…とレイルは反省したが事態はもうあとの祭り。リリアの詠唱は滑らかに進む。レイルは死刑宣告を待つ囚人のごとく人生の未練を数えていた。


(詠唱はもう後半…この魔術なら俺の命なんか風の前の塵だな。…さあ、俺はいったいどこで間違えたんだろう?)


ははは、と内心で笑ってみるが体は正直なものでどうにかして生きようと防御姿勢をとっていた。そしてついにくるべき時が来た。


「風術…〈安息〉」


(もうダメだ!終わった!)


南無阿弥陀仏。どうか天国へ連れて行って。


襲い掛かる死の恐怖の中、レイルは実に不思議な考えに至った。

リリアが行使した風術はレイルの周りに渦巻く。

これからどうなってしまうのかと死を達観したような仕草で見ていた。


バラバラ?

それとも肉塊?

ふっ…今の俺にはそんな言葉もちょこざいなものさ。

さあ、何でも来い!


反省の念はどこへ入ったのか。

さっきまで生きようともがいていたレイルの体は自然体だった。

風の中心にいるレイルは直立不動。

さっきまでは怪我による激痛で背筋すらも伸ばせずにいたというのに…


(あれ、痛みがいつの間にか無い?周りの風もこれ以上の動き無し。どういうこと?)


死を達観していたがために起きた軽いショック。何故何も起きない?とレイルは悩んだ。


「それで、痛みは和らぐでしょう。さあ、歩けますね。行きましょう」


すたすたと前を歩くリリア。レイルは呆然としていたがはっとして後を追った。


痛みが消え軽い足取りで医務室へ着いたがそこは誰も居らず無人であった。


「誰も居ないって・・・自分でやるか」


レイルは包帯や塗り薬などを探しだす。そして、自分の怪我の応急処置を始めた。


「こんなもんか」


慣れた手つきで自分の体に包帯を巻いていく。

しばらく見ていたリリアだったがその速さに驚いた。


「慣れてるんですね」

「まあね・・・そこの小瓶とってくれる?」


リリアは指定されたものをレイルに渡す。


「ありがとね。・・・これで完璧」


応急処置が終わりレイルは医務室のベッドに寝転んだ。


「何をしているんですか?」

「ん~?寝るの」

「授業がまだありますよ」

「こんな怪我してるのに参加なんかできないでしょ。それにもう少しで終りそうだからね」

「それも一理ありますね」


リリアはそういいレイルが寝転がるベッドの反対側にある椅子に座る。


「あれ、リリアちゃん授業に戻らないの?てっきり戻るんだと思ってた」

「私にだってサボる勇気ぐらいはあります」

「サボりに勇気は必要ないけど思うけど…」


少しの間沈黙が医務室を包み込む。だが、沈黙に耐え切れなくなったレイルがリリアに質問を始めた。


「さっきはありがと」

「礼を言われるほどではありません。そもそも怪我人に一人で歩かせていた私がいけませんでした。おかげで私は鬼だの悪魔だの言われましたし」

「うっ…それはすいませんでした。あの時は痛みで少しおかしかったからね」

「いいんですよ。気にしてませんから。話してなかった私もいけないんですし…」

「話してないって何を?」


何か重要な話はあったか?と思案にふけるがそんな情報を見つけることはできなかった。レイルはリリアの顔を見た。少しためらいの表情が浮かび深呼吸を何度かしている。

そんなに重要な話なのかとレイルは真剣に聞くため集中した。そして、落ち着いたいつもの口調でリリアが言った。


「私は男性恐怖症です」

「…目の前に性別上男性と分類されている人がいますが?」


どういうことだ?と思う。見るからにそのような兆候はリリアに見られない。

かなり前にそのようなことを聞いたことがあるなとレイルは思い出そうとするが思い出せなかった。リリアが話を続ける。


「目の前にいるのなら問題はありません。ただ、触られたりすると」

「触ったらどうなるの?」

「魔術で吹き飛ばします」

「魔術!?」

「できるだけ遠くに」

「遠く!?」

「しかも無意識です」

「無意識!?ちょっと待て!魔術で人を吹き飛ばすのはやりすぎだろう」

「仕方ありません。無意識ですから。試してみますか?今ならきっと記録に残る距離が出ると思いますよ?」

「いやいや遠慮します」

その後にまたしても訪れる沈黙。レイルは沈黙が大の苦手だった。


人生楽しむべき。


この言葉がこの異世界に来てからもレイルの座右の銘となっていた。

前世界にいた頃と変わらないレイルは基本楽しく、時に悲しく、時に怒る。

そんな大雑把な性格であった。

レイルは何事も進んでいなければ気がすまない。

例えば時であったり物事であったり会話であったり…さまざまな事柄・事象が進むことに意義を感じる。

悲しいことがあってもまた笑って過ごせる。

傲慢だったおじさんが結婚して優しくなったり、ひょろっとした人間が突如筋肉だらけのマッチョになる。

そんな人間の移り変わりに笑ったり泣いたりとさまざまな感情が浮かぶことが人生の醍醐味だと感じていた。

そのため、沈黙という止まった事象に満足できず、物事を進めるために会話を再開させようとなんとかレイルは口を開いた。


「男姓恐怖症っていってたよね?」

「はい。いいました」

「それってどうして?」

「・・・デリカシーが無い質問です。女性の過去を暴くような真似は居ない方が良いですよ」


リリアは若干憤怒が混じった声で脅しを掛けるような口調だった。

会話の選択を間違えた!と感じ取りまたしてもレイルは自分の身の危険を感じたが、先の学習ですぐさま謝る。


「すいません!許してください!」


角度45度。背筋は伸びその姿勢に美のすべてが収束していた。


「・・・まあいいでしょう。もうあのことにも区切りをつけるいい機

会ですしね・・・今から3年前くらいでしょうか。私は両親を事故で亡くしナンジョウ家と呼ばれる家に引き取られました」

「ナンジョウ家とはまた・・・」


ナンジョウ家のことはどの家でもあまり良く知られていない。

知っているのは異常なまでの個人の戦闘能力の高さだった。


「ナンジョウ家では代々女は強く気高く凛としたものではなくてはいけないという古い考えのようなものが存在します。

その中で私は英才教育・・・つまりは武術と勉強などの詰め込みをさせられました。ナンジョウ家に対しては絶対遵守。そんな思想を毎日のように刷り込まれながら生きる日々です。とてもつらい毎日でした」


レイルはこの話を聞きそれがどんなにつらいことなのかを肌で感じていた。

絶対遵守・・・前世界では耳にたこができるほど聞いていた懐かしい言葉がレイルに共感をもたせた。


「礼儀よくいなければお目付け役の男性から叩かれ武術をサボればまた叩かれる。それが13年間続きました。私には姉と弟がいるんですがその2人は魔術の才能に秀でていて私のような扱いはありませんでした。私はその生活に限界を感じお目付け役の目を盗んで家出することにしたんです。途中でサイジョウ家の人間に見つかって魔術を浴びてしまいました。しかし命からがら逃げ出す事ができたんです」

「家出って・・・リリアちゃんは案外と行動的だね」


レイルの言葉にむっとした顔になるリリアだったがレイルの言葉を無視して話を続ける。


「それで家出したは良いんですけど行くあてが私にはありませんでした。持ってきた食料はすぐにそこをつき私はある家の前で倒れこんだんです。その家がホトギ家だったということです。私はホトギ家当主になんとかホトギ家で侍女として働くことを許してもらい半年過ごしました」

「大体の流れは分かった。けど、男性恐怖症の事はないね?」

「話を急ぐ人間はろくなことになりませんよ」

「うっ・・はい。反省します」

「男性恐怖症・・・それはホトギ家で1年くらい過ごした時にいきなり発祥したんです」

「いきなり?もしかして魔術?」

「鋭いですね。その通りです。私にはある魔術がすでにかかっていました。その魔術はある条件を満たすと自動的に精神に関わる魔術を発動するようです。おかげで私は男の人に触れられると反射的にその人に加減無しの魔術を放ってしまうんです」

「・・・それをツキは知ってるのか?」

「いえ、ツキ様は私の事については一切聞いてきたことはございません」

「リリア=ブラッドって名前だよね?リリア=ホトギじゃないの?」

「その名前にしようと最近まで話し合っていたのですが迷惑をかけるわけにはいきませんから断りました。今思えばツキ様の滅多に見れない不満げな顔が見れたので結果オーライです」

「結果オーライって…」


その話を聞きレイルは楽しい毎日を過ごせていたんだなと感じつつもふと思う。


ツキは拠り所としてリリアに頼ったのでは・・・


いやそんなことはないだろうとレイルは首を横に振りベッドに寝転ぶ。そしてそのまま眠気に襲われた。


「リリアちゃん俺寝るわ。グレイシア先生にはなんかいい訳つくっといて・・・・おやすみ」

「何を言ってるんですかこの男は…」


リリアが言葉を続けようとした時レイルはすでに寝いた。


「早いですね…もう寝ましたか」


爽やかな風が吹きぬける医務室の中、リリアは目の前の男の顔を見る。


「変な男ですレイルさんは・・・・」


小さくか細い声で言ったその言葉は何もない虚空に霧散した。



自分の目標と定めていた2日に1回の投稿はここで敗れました。

最近はなんだかんだと大忙し。

暑さも加わりこのまま熱中症で倒れるのでは?などと感じたことも…

小説の話の先の展開はかなり出来てきましたがそれをまとめる時間がありません。創作意欲が湧いているのに時間が無いとは何てことだ!

これから先も時間が出来次第投稿して行こうと思います。

今後は4日に1度の投稿ペースを守ることを目標にします。

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