喜びの色彩
ミリヤは生徒会つながりでツキと連絡を取り、レイルとシンの密会の大まかな場所を把握することに成功した。そして、現在ツキの家に見舞いという名目で参上していた。
技術・商業都市から、農業都市までは普通1日かかるがミリヤはリステリアの飛行魔術のテスト運転を引き受けることで午前中にツキの家に到着した。
布団に寝て魔力の回復を待つツキの隣でミリヤはツキと話をしていた。
「ミリヤさん。その父の密会の話は本当なんですね?」
「ええ。〈白泉〉で密会するみたいよ」
「・・・私も行きます。今まで私も最近の父の行動に疑問を感じていました」
「別に行けど、魔力は大丈夫なの?」
「心配しないでください。ほとんど回復しています」
「わかったわ。それじゃあ、私は外で時間を潰してるわね。夜になったら〈白園〉に集合よ」
「分かりました」
ミリヤはレイルたちの密会は夜に行われているとツキの話を聞いて推測していた。
一方のツキはシンは以前にも夜突然いなくなり、突然帰ってきたのだということを女待から聞いていた。両者はお互いにシンの行動に不審を抱いていた。
ツキはミリヤが部屋から退出した後一人考えを巡らす。
(私とシキとレンの思い出の場所〈白泉〉。そこに、私の父が直々に会いに行くなんて・・・仮面の男とどんな繋がりがあるというの?しかも、護衛すらつけない・・・今日の夜行けば分かるかしら?)
ツキは結論を夜に先送りにし、体力を温存するため眠ることに専念した。
そして夜になりツキは家を抜け出し〈白園〉で待つミリヤと合流する。
「ツキちゃん。それじゃ、道案内をお願い」
「分かりました」
ミリヤとツキは距離が離れている密会場所であろう〈白泉〉へ飛行魔術を使い到着した。近くの茂みに隠れ人が来るのを待つ。
「この飛行魔術使えるわね。こんどリステリアさんに構造とか教えてもらおうかな」
「ミリヤさん静かにしてください。誰か入っていきます」
茂みに覆われた比較的広い幅の滝の間を誰かが入っていく。
ツキは滝の裏側には穴が開いていることを幼少の頃から遊んでいたため知っていたが、ミリヤは人が滝のところで消えたことに最初驚いた。
「あれ、仮面つけてる。レイル君じゃない?じゃあ、あの仮面がもしかして!」
「ミリヤさんここからでは中の事が分かりません。近づきます」
ミリヤとツキは滝の周囲にある茂みに隠れ中の様子を伺う。
「ここからだと、声は聞こえるけど中が見えませんね」
「大丈夫よ。魔術で中の様子が探れるわ。詠唱は短いから簡単よ」
ツキはミリヤから魔術を教えてもらい、詠唱・行使する。
「水術〈水鏡〉・・・本当ですね。見えます」
「〈水鏡〉は水に魔力を与えて自分の目を擬似的に作りだすの。遠隔操作が可能よ。光術が使える人はもっと色鮮やかに見ることができるわ」
「これは、面白い魔術ですね。魔力の消費量も少ない」
「ふふふ。感心してないで中の様子を見てみましょう」
ツキとミリヤは意識を集中し擬似眼球を操り滝の裏の状況を見た。
そこでは、仮面の男と岩に腰降ろしているシンが話をしていた。
「封書はトウジョウ家・サイジョウ家・ナンジョウ家が今回の暗殺にはかかわっていないとの事が書いてあった。ちゃんと裏づけも取れてる。さらに、上位3家はどうもホウジョウ家を快く思っていないらしいな。最近ホウジョウ家は上位4家の中でその勢力を増やしている。それが、危険だと判断されたんだろう」
「そうか・・・」
シンの言葉にツキは心当たりがあった。
暗殺とはここ最近はめっきり減ったが以前はかなりのものだった。
ツキはこの会話に神経を尖らせ集中する。
「では、俺からも報告がある。あの男の魔力の解析が終わった。名はロク=カムイ、2年だ。記憶から見るとカムイ家の問題児らしいな。そして奴の記憶を見たところ、カムイ家が動いているわけではないらしい。どうもホウジョウ家に奴が利用されただけらしいな。気をつけろ、魔術を無詠唱で行使する術をホウジョウ家は持っている」
「無詠唱とは・・・魔術烙印という奴か」
「ああ、たぶんホウジョウ家にはかなりの魔術烙印を持ったものがあるな。上位4家だから麒麟機巧から買い取っているのだろう」
「厄介な・・・やつら魔術烙印で勢力を広げたな。まったく、最近嫌に手練が増えたなと思っていたがそれが理由か」
ツキはこの会話が自分が聞くべきものではないと感じていた。
ここで話されている内容は本来自分のようなものが聴くべきことではないと思ったが好奇心がそれに勝り、この話を聞くことを中断することを良しとしなかった。
「そうみたいだな・・・さて報告は終了だ。他に何かあるか?」
「ツキを襲ったロク=カムイという男はどうした?」
「氷漬けにした。記憶も一部壊したから問題はない」
ミリヤはこのことを聞き、この仮面が氷魔術の男だと確信する。
「そうか・・・一つ聞いてもいいか?」
「なんだ」
「お前はもし今回の護衛の件が終了したらどうするんだ?」
「俺はまた気楽に旅をしようと思っている」
「・・・・この家に戻っては来ないのか?」
シンの言葉に仮面は黙った。そしてしばらく沈黙は続いた後、仮面が答える。
「・・・俺はすでにこの家では死んだ身だ。いまさら帰れるはずがないだろう」
この言葉にツキは大きく動揺することとなった。目は見開き、息も自然と荒くなる。
心拍数も上がり汗が頬ををつたう。さらに耳を澄まし会話に意識を集中する。ツキには不思議にもいつも聞いていたはずのシンの声が随分と昔のような懐かしいものに聞こえてきた。
「そうか・・・。すまなかった。私はお前の事が守れなかった。不甲斐ない親だ」
「気にするな。俺はもともとこの世界に住んでいたわけじゃない。それに、いまも帰る方法は探している。心配するな。それに、俺はシンには感謝してるよ」
「すまない。お前には苦労かけてばかりだな」
「ははは。シンのほうが苦労してるだろ。よく、ツキとシキに隠し通せたもんだ。辛かっただろうに」
「気にするな当然の事をしているに過ぎない。・・・そろそろ、時間だな」
「ああ。それじゃ次会うのはこの後の仕事の後になるな」
そう言うと仮面の男は谷の裏から出て森の中へ姿を消した。
そのすぐ後にシンが出てきて、家のほうへ歩いていく。
ミリヤはシンが立ち去ったのを確認した後、動揺と混乱の中にいるツキに声をかけた。
「ツキちゃん・・・だいじょう・・・」
ミリヤが声をかけようとした時ツキは何回も呟いていた。
「生きてた。レンが・・・・レンが生きてた。生きてる・・・生きてる!」
ツキは顔を上げ涙を流しながら、しかし輝く笑顔で仮面の男が消えた森を見ていた。
ミリヤはそんなツキに何も言えなくなった。普段の性格から今のような表情をしたツキを想像することができなかった。普段は冷静沈着で何事に対しても動揺せず、気高く気品のある孤高の存在のようだと思っていた。しかし、目の前にいるツキはそんなことなど微塵も感じさせないほどに年相応の女の子だった。ミリヤはそんなツキにツキが言ったレンというひとについて聞けなかった。
「帰りましょう」
ミリヤはかろうじでこの言葉を発した。しかし、その言葉はツキの喜びの前ではないものに等しくツキの喜々とした態度に何の変化も与えられなかった。
その後、ミリヤはは飛行術を使いなんとかツキを連れてツキの家へと戻ることができた。
ツキはミリヤと別れ家に着き次の日を迎えた。
ミリヤは学園のため、すでに商業・技術都市マクルべに帰ってしまった。
ツキは昨日のシンと仮面の会話を聞いて、レンと思われる仮面の居場所を探ろうとシンの最近の行動を調査することにした。
「父は何を考えているの?私に何故レンが生きていることを隠していたの?」
現在シンの姿はない。
ホウジョウ家に呼び出しをかけられたらしく慌てた様子でホウジョウ家に行ったことをチャンスとばかりにツキはシンの部屋を物色し始めていた。
「ここに何かレンへの手掛かりがあると思うんだけど・・・」
朝シンがいないことを確認しこっそりと忍び込み仮面とレンについての情報を探す。
「ここにはないわね。・・・じゃあ、こっちかな」
ツキはシンの部屋の押入れを開けて漁り目的の物がなければ山積みになって部屋の脇においてある書類を漁っていた。時間がたつにつれ思ったように情報が見つからないことに苛立ちを感じはじめてきた。
「ない・・・ない。もう!いったいどこ!?」
「お姉ちゃん。何探してるの?」
「えっ!」
突然の声に身を強張らせながらも声がする部屋の引き戸の所へ振り向く。そこには道着を着たショートカットのツキと同じ白い髪の女の子が立っていた。右手には木刀を携えている。ここ最近はよく目にしている妹の道着姿にツキは安堵しつつ作業を続行する。
「シキ。なんで、こんなところにいるの?今日の稽古はどうしたの?」
「今日は父様がいないから自主練習です!」
元気にはきはきと答えるシキ。シキは現在14歳。シンに剣術と礼儀症を習っている。シキはツキと違い学園などには通わずシンの補佐役としてホトギ家に留まっていた。
「シキ。今私がしていることは忘れなさい。いいわね?」
「え~お姉ちゃんシキを仲間はずれにするの?折角家に帰ってきたんだから一緒に稽古しましょ!」
「いま、やることがあるから後でね」
シキから視線を外し部屋の物色を始める。その様子を眺めていたシキは突然思いついたように声をあげた。
「それって、レン兄についてでしょ!それならそこに資料になんか無いよ!」
いきなり核心を突かれツキは動きが止まった。
「シキなんでそれを?」
「ぶぅ~。私一応お父さんの補佐ですよ!レン兄のことについてはお姉ちゃんよりよく知ってますよ~だ!」
「補佐・・・そう。なんかの資料見たのね。その資料はどこにあるの?」
「お姉ちゃんが私と稽古するって約束したら、教えてあげる!」
この言葉にツキは少し考える。
「・・・いいわよ。後で稽古に付き合うわ。さあ、どこにあるの?」
「えっとね!この部屋の隠し通路の先!」
元気よく答えるシキ。
「隠し通路?それはどこ?」
「えーと!そこの今踏んでる畳の下!だけど、お父さんの魔力でしか開かないよ?」
「父の魔力でしか開かない?・・・困ったわね」
「うん!でも、いつも重要な書類はそこにしまう前に押入れの中の箱に入れてるよ!」
「押入れの箱?どの箱にも資料が入ったものなんかなかっったわよ」
「白紙がたくさん入った箱はなかった?」
「白紙・・・あったわね」
ツキは白い紙が大量に入っていた箱を思い出す。
白い紙しか入っていなかったために重要度は低いと考え放置したものだった。
「その白い紙に水の魔力を流した後に火の魔力を流すの!そうすると文字が浮かび上がるよ!」
ツキはその言葉を聞きさっそく大量の白い紙が詰まった箱を引っ張り出し水の魔力を流す。
「私には火の魔力はないからシキお願い」
シキは火と風と土の魔術が使えたため、シキはツキにいわれたとうりに火の魔力を紙に流す。すると文字が紙に浮かび上がってきた。
「この資料は・・・レンのものじゃないわね。次!」
レンとシキはレンに関する資料が出るまでこの動作を何度も繰り返した。
1時間同じことを繰り返した末にツキはようやくレンの資料を大量に見つけた。
その資料をツキは矢継ぎ早に読む。
「レン=ホトギ調査資料。現在は北の孤島火山島の麓の村に滞在。・・・いまから、半年前のものね。こんな古い資料じゃダメ。こっちの資料は・・・・」
「お姉ちゃんこっちの資料も意味無いのばっかりだよ」
シキもツキを手伝い資料の検分をする。レンの存在に期待を膨らませながら資料を読んでいくツキはついに決定的な資料を発見した。
「レン=ホトギ・・・・天道学園高等部1年に入学・・・っ!?」
ツキはこのことに大きくショックを受けた。今までの人間関係の中にレンがいたかもしれないことにすがるような期待と見抜けない自分への責めるような気持ちが並列した。
「レン・・・私と同じ学年にいるのね」
「お姉ちゃん良かったね!でも、どうするの?」
「探し出すわ」
「探してどうするの?」
「・・・・」
「また昔みたいに遊べたらいいね!」
「そうね」
小さく返事を返して、明日には学園に向かいレンを探そうとツキは決意した。
そろそろツキがレイルに近づいていきます。
物語としてはここから結構ハイスピードで進んでいく予定です。
しかし、今回は少し読んでみて心理描写をかいていくべきだったかと後悔しています。近々、納得する形になるまで編集していこうかと思っています。