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始原世界の中で  作者: 神原 拓
第1章 世界の始まり
15/30

暴かれた正体

舞踏会爆破事件から、1週間経ち学園は穏やかな日常をとり戻していた。


ツキはすでに実家に戻り魔力の回復に努めている。

レイルは爆破犯の男の魔力解析を気長に待ちながら、思い思いに学園生活を過ごしていた。

舞踏会の会長戦でクラスの生徒から特別視されながらも徐々に人間関係を広げていった。

最初は暗殺者かと思っていたリリアとでさへ、今では話ができるまでになっている。

そして、今ではお互いすっかり打ち解けたガイアレイルは話をしていた。


「なあ、ガイア。その話は本当か?」

「ああ。本当だ。3ヵ月後に一週間の軍事共同訓練がある」


レイルはため息をつく。


「何でそんなのあるんだよ・・・」

「何言ってるんだ。軍人との合同訓練だぞ!強いやつと戦えるんだぞ!」


レイルは短い付き合いながらガイアには少々戦闘狂の気があることを知った。

ガイアは強いやつがいたなら所かまわずにそいつに戦いを挑む。

戦いを行うのは大いに結構と最初レイルは思っていたが、大抵その現場に何故かレイルが居合わせていた。おかげでレイルはガイアとともに教師に怒られるはめとなる。

もともと、学園内での戦闘は禁止であるから当然の事なのだが一緒に怒られるレイルはこの世の理不尽を非常に強く感じていた。


「お前な・・・俺もう目立ちたくないの。分かる?最近は何故かお前の喧嘩の現場に言わせるのが多いけど、そのせいで俺はお前と一緒におこられるの。だから、もっとふさわしい場所で喧嘩しろ」

レイルは特に最近ガイアの喧嘩場面とのエンカウント率が高かった。

最近のレイルを悩ませる大きな疑問の1つだったが、その疑問に対しガイアが答えを出した。


「何言ってるんだ?俺はわざとお前の付近で喧嘩してるんだぞ?」

「はぁ?お前何そんな迷惑なことしてくれてんだ?俺そのおかげで何故かお前と一緒に教師のブラックリストに入ってるんですが?」

「だって、レイルと一緒のほうがレイルがいろいろ弁明してくれて俺に対する説教が短くなるからな」


ははは、と笑うガイアにレイルは殺意が湧いたのを感じた。


「・・・お前、俺を利用してたのか。いい覚悟だ。帰り道後ろに気をつけろ。うっかり俺が後ろから刺すかも知れんぞ」


「ははは。気をつけておくよ」


レイルの言葉にガイアは臆することなく気軽に返事を返す。

レイルはその言葉を聞いて馬鹿らしい気持ちになった。


「もういい・・・それより、軍事訓練て何するんだ?そもそも、それは毎年行ってるのか?」


レイルは軍事共同訓練に話を変えた。ガイアはその話題を待っていたと言わんばかりに笑顔で話し始めた。


「ああ。毎年行ってるぞ。高等部からだけれどな。だけど、2年の1部は参加しないな」

「何でだ?この学園のこれからの主力だろう?」

「どうも、国の学園の代表として他のとこに行って魔術なんかの高さを競うらしいぞ。詳しいことは知らん」

「中途半端に役立たずだな」


ため息をつきレイルは窓の外を見ながらガイアの言葉を受け流しながら違うことを考えていた。


(思ってたより早めにあの男の魔力解析が終わらせられそうだな。今夜、シンのところの使者も来るし・・・黒幕がはっきりして叩き潰したらこの平和な学園ともさよならか。まあ、ツキの成長がすこし見れたから未練はないか・・・)


そう思いながらもレイルの表情が曇る。

ガイアはそれが自分に向けられているものと思い、話を中断した。


「お、おい!役に立たない情報だからってそんな哀れなもの見るような顔はないだろ!」

「ん?ああ、そんな顔してた?ごめんごめん今度は気をつけるよ」


レイルは自分の気持ちをごまかすために今の学園生活を楽しむことにした。

自分の心の闇はうまく隠しとおしながら生きてきたレイルはこのまま平穏な毎日が続くものと思っていた。自分のことを誰にも知られずに学園生活を満喫しながら、シンからの頼みごとを終わらせて学園を出てまた旅に出る。そして、世界を見終えた時までにもとの時代へ返る方法が無いのならば自分をこの世界より抹消しよう。あわよくば転生しまた前世界に生まれるだろうなどという人生設計を立てていた。しかし、レイルのそのプランは学園生活の時点から破綻した。

きっかけは2人の人物。

現在レイルは生徒会室にいる。

理由は簡単、レイルの目の前にいる人物に呼び出されたからだった。

レイルは何故呼び出されたのか分からなかったため、素直に聞いてみることにした。


「火傷はよくなったようですねゼラードさん。しかし、会長、何で俺ここに呼ばれたんでしょうか?」


レイルの質問にコナミは座って笑顔のまま答えない。

隣に立つゼラードは難しい顔をしたままである。

レイルはそんな状況を不気味に思った。

しばらくの沈黙の後、不意にゼラードが口を開きレイルに質問を始めた。


「レイル君。君は舞踏会の爆発のあと犯人を追いかけていたね?」

「ええ、それがどうしましたか?」

「なぜ、犯人確保の現場に駆け付けてこなかったんだい?」


レイルは何故いまさらこの質問を?と思いつつ、以前にいつか質問されると予想していたこの質問の返事を答えた。


「追いかけていましたよ。でも犯人の男が見つからずにかなり先まで走ってしまったんですよ。結局見つからず舞踏会の会場に戻ろうとした途中で犯人確保のことを聞いたんで寮に戻ったんですよ。後で犯人と会えば良いと思いましてね。疲れていたんですよその時は」


レイルはよどみなく答える。


「そうかそうか。では、レイル、君は魔術を使えないというのは本当かい?」

「いきなりなんですか?俺は魔力がないんで魔術は使えませんよ。まあ、道具を使ってそこはカバーしてますけど」


レイルは嘘を言ってはいない。しかし、真実も言っていなかった。

ゼラードは確認するような口調で次の質問を始める。


「君の使っている麒麟機巧の武器は見たことがないものだが、それはどこで手に入れたのかな?」

「これは、友人から譲り受けたものですよ。死に際に俺に渡されたんです」

「ふむ、では君は複合魔術を使っていたね。アレはどうやって習得したんだい?」

「アレはもらった麒麟機巧についてた機能を使っていただけですよ。具体的なことは知りません」


繰り返される問答。レイルは次第にイラついてきた。


「何なんですか。質問攻めするために呼んだんですか?なら俺帰りますよ」


レイルはゼラードとコナミに背を向け生徒会室を出ようとした。

手をドアにかけようとしたところで、黙ったままだったコナミが喋り始めた。


「すこし待ってちょうだい。レイル君。それとも、レンティア君?」


突然のその言葉で衝撃が走ったレイルの体は動きを止める。

動揺していることを悟られぬようにレイルは2人のほうを振り返らずに答える。


「何のことでしょうか?レンティアなんてものに私は遠く及びませんよ。買いかぶりすぎです」

「いいえ。君がレンティア=ハザードだってことは分かっているわ。証拠もそろえたのよ?ほら」


机の上に置かれる書類と魔術烙印が押された金属片を並べるコナミ。


「何ですかそれらは?見たことがありませんね」


レイルは振り返り机の上においてあるものを見るが知らない振りをした。


「これらは何でしょうか?俺には分かりませんね。そっちの書類にも興味が湧きませんね」


書類には遠目から見ても分かるぐらいグラフや専門用語などがびっしりと書かれていた。

レイルはそれを理解できていたが同じく分からない振りをした。

その様子を見ながらコナミが話を続ける。


「それね、氷魔術の魔力の波長を記したものなの。その波長ね何故かレイル君のものと一緒なのよね。魔力ないのにおかしいわね?」

「理由を聞かれても俺にはわかりませんよ」


あくまで知らない振りを突き通すレイル。


「そっか。そっか」


コナミはそう言いながらおもむろにポケットから魔術烙印のおされた金属片を取り出した。おされた烙印の紋様などを見てレイルは心の内で驚愕した。


「それは!」


それは上級魔術が彫られた魔術烙印だった。

発動させるだけで生徒会室内は跡形も無くなる代物である。

コナミはその金属片におもむろに魔力を流しはじめた。


「お前なんてことを!」


レイルは危険と判断しとっさにコナミの手にある金属片を奪いその行為を止めさせた。

コナミはその行動に満足げな顔を一瞬見せ、すぐさま真面目な顔付きになった。


「レイル君。分かってたね?どんな魔術が発動するのか?」


この言葉にレイルは答えずに叱るような口調をコナミに向けた。


「・・・ふざけないでください。あんなものはこんなところで発動させるものじゃない。どうやって、この魔術烙印手に入れたんですか?九頭竜と麒麟機巧の1部にしか渡してないはずですが?」


魔術烙印の押されたものは普通の市場では出回っていない。

それは、攻撃魔術が一般に売られるのをリンクスの望んでいなかったからであったが、あまりの技術革新はまずいとレイルが判断したためでもあった。


「忘れたの?私の名前はコナミ=トウジョウよ。九頭竜家でしょ?それに、これは私がすこし借りてきたの。もちろん許可もいただいているわ。さて、それでレイル君。君はレンティアなのかな?」


レイルは半ば降参した気持ちになった。そこで、レイルは今までの声音とは違う重く低い威厳を持つ口調に変えた。


「・・・もし俺がもしレンティアだったとして、あなた達は何を望むのでしょうか?トウジョウ家とミツルギ家の頭首方よ」


レイルはレンティアとしてコナミたちと話をする。声は低くなり、威圧感が生徒会室を圧迫する。しかし、コナミとゼラードはプレッシャーに臆することなく話を続けた。


「ふふふ。この雰囲気・・・やっぱりあなたがレンティアだったのね。すこし驚きね。レンティアがこんなに若い人だったなんて。ねえ、ゼラード君」

「私としましてはそれよりも私がミツルギ家とばれたほうが驚きです。いままで、誰にも言っておらず知っているのは会長ぐらいのものと思っていましたが・・・」


ミツルギ家はすこし変わった風習を持つ。ミツルギ家の人間は成人するまでミツルギの名をかたることを許さない。名前も成人するまでは名乗れない。さらに、ミツルギ家の存在はあまりよく知られていない。ミツルギ家はトウジョウ家の暗殺兼諜報を担っている。トウジョウ家とは親密な関係で、互いに力量を認め合い九頭竜の中で共存していた。だからこそ、トウジョウ家はミツルギ家の情報を他の家に与えない。


「・・・情報を手に入れることなど俺にとっては造作もない。で、何が目的だ?」


レイルの目はいつもに増し鋭い。今にも黙らせようという戦闘前の表情だった。レイルはこの場でレンティアに関する不利益を被るようならばコナミとゼラードの記憶を消すつもりでいた。


「そうね。目的を話しましょうか。そんなに警戒されてても話は続かないしね。レイル君、いえレンティアあなたに作って欲しいものがあります」

「・・・作って欲しいもの?」

レイルはその言葉に警戒心をすこし解く。

そして、商売の頭にすぐさま切り替えコナミの話を聞いた。

コナミは机の上の書類の中から束の紙を取り出しレイルへ渡す。


「それを作って欲しいの。もちろんタダとは言わない。報酬も払うわ。場所も用意するし、あなたのことも漏らさない。どう?」


レイルは表情を変えずに渡された書類の束に目を通す。しかし、それを見てからレイルの表情は変わった。


「これは・・・・」

「それが何なのか分かるのね?麒麟機巧でも解読できなかったものなのよ?」


レイルに渡した書類はすでに麒麟機巧に製作を頼んでいた。しかし、文字の解読ができずに製作作業は難航し、凍結された。


「・・・これをどこで手に入れた?」

「遺跡の中よ。農業都市ココノスで最近発見されたものよ。古代語らしいけど誰も解読できていないわ」


レイルは自分の内に湧き上がる興奮を押し殺していた。

渡された書類はあるものの設計図。

それは、レイルが見ることのできないはずの前世界の文字で書かれていた。


「この遺跡に行けないのか?」

「残念ながら今は無理よ。九頭竜内での揉め事が大きくなってるからね」


レイルはそのことに落胆したが、気を取り直し考える。


(これは・・・機関銃の設計図。これがあるってことは前世界からこちらの世界に来たものがあるということ。もしかしたら前世界に帰ることが可能かもしれない。そのためには、遺跡のことをもっと多く聞かなければならないな。しかし、この設計図は製作は言うまでもなく大変だがそれ以上にこの世界にとって危険だな・・・この世界にあっていいものではない。設計図どうり作ったと見せかけてなにか別物を作ろう)


「よし。この設計図のものを作ってみよう。しかし、失敗するかもしれないぞ。何せ、構造が複雑だからな」

「それは分かっているわ。失敗しても文句は言わない」

「それと条件がある。俺のことを誰にも喋るなよ。特にツキには絶対」

「何でダメなのかは分からないけど、言いはしないわ」

「そうか、では商談成立だ」


レイルから威圧感がなくなる。圧力から開放された部屋の中でゼラードがおもむろに口を開く。


「レイルがレンティアとは・・・・レンティア=ハザードとは偽名か?」

「うーん、あんたたちに正体知られたんだ。まあ、話しても大丈夫か。レンティア=ハザードって言うのは2人で活動してたときの名前だ。二人の名前からレンティア=ハザードになったんだよ」


レイルはレンの名前からレンティアにしたということは言わなかった。


「2人?君一人ではないのかね?」

「俺ともう1人いたんだ。そいつは病弱だけど天才って呼ばれてたやつでな、そいつから俺は魔術理論なんかを教えてもらっていたんだよ。まあ、いまはもういないけどな」

「そうだったのか。その人の名前はなんというんだ?」

「リンクス、リンクス=ハザードだよ。麒麟機巧のハザード家から勘当を受けた男だよ。さて、俺はもう帰る。その書類の仕事もしなきゃならないからな」


レイルは生徒会室を後にした。

レイルの姿が見えなくなった所でコナミがゼラードに話しかける。


「ねえねえ、ゼラード君。どう思う?」


ゼラードはコナミの真意が分からず聞き返す。


「どうとは?」

「ん~なんていうのかな?レイル君の雰囲気かな?どう思った?」

「レンティアと分かった後のあの威圧感はすごいものでしたね。トウジョウ家の頭領様と同じくらいのものを感じました」

「威圧感ね・・・。ねえ、レイル君にはまだなんか思わない?」

「何かですか。レンティアであること以上にいったい何が?」

「だってレンティアなのよ?そのレンティアがホトギ家の護衛をしてる。ホトギ家はどこでそのつながりを持ったのかしら?」

「それは確かに疑問ですが・・・そう言われれば、関係のない話と思われますがツキさんがホトギ家には実は男の当主候補がいたと話していましたね。名前はレンでしたか」


その男の名前にコナミは興味が出た。ゼラードの話を聞いていくうちにコナミの好奇心はさらに強まる。。


「ホトギ家に男の継承者がいたの?でも、あそこには息子なんていなかったじゃない」

「どうも、領地内にいた怪我だらけの少年を養子にしたとか」

「その少年はどうしたの?まだ、ホトギ家に?」

「いえ、戦争に行って戦死したそうです。私も興味が湧きまして調べてみましたら登場家にその少年レンについての資料がありました。どうも、ホウジョウ家に見つからないようにしていたのが見つかってしまい、軍に所属させてホウジョウ家から遠ざけていたようです。戦死してしまいましたが」

「戦死・・・そうなの。可哀想にね」


コナミはゼラードの話を頭の片隅にとどめた。


「さあ、もう私たちも行きましょうかゼラード。レンティアに書類をわたす目的は達成したんだしね」


コナミは上機嫌に生徒会室を後にした。


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