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始原世界の中で  作者: 神原 拓
第1章 世界の始まり
14/30

過去の片鱗

レイルはミリヤがいなくなった部屋で虚空を見つめポツリと無表情で呟いた。


「リンクス・・・」


それは、レイルがレンティアと名乗っていた頃に、自分にできたこの世界で心を許せた病弱で天才だった男の名前だった。レイルに魔術理論を教えた先生であり、レイルとともにEスペックというものを作りだした。しかし、今その人物はもうこの世にいない。


「卑怯だよな、先に逝くなんて・・・いや、わかってたけど」


レイルは一人乾いた笑い声をあげたがぐにその声はやんだ。


「フェリル・・・グランツ・・・バード・・・ヨネハ・・・キリア・・・―――」


レイルは前世界の自分の小隊でともに仕事をしてきたもう会えない者達の名前を挙げていく。


「―――・・・・クルツ・・・・そして、この世界でリンクスか」

「みんな、いなくなったな・・・」


頭の中では昔懐かしき記憶が蘇る。懐かしい思い出にレイルの胸には穴が空いたかのような虚しさがあった。


「前世界へ帰るための方法は無し・・・か」


レイルは軍に所属していた時や旅に出ていた時も前世界に帰る方法を探していた。オーバーテクノロジーの塊である遺跡に忍び込んだりもしたがそこに期待したものは何もなかった。


「遺跡・・・何にもなかったな。遺跡内部のものは研究のために持ち運び去られてたし・・・しかし、あの遺跡の中は前世界のものに似てたな。まあ、1箇所しか行ってないから今度機会があったら行くか・・・ふぁ・・・眠い」

レイルは気持ちを切り替えと無理をした体を休めるために昼寝をすることにした。

日に照らされたレイルの寝顔は穏やかなものだった。



ミリヤ=ハテナキはレイルを運んだ後、研究所に帰るのではなく生徒会室に来ていた。


「レイル・・・レイル・・・あった」


ミリヤは生徒個人情報と書かれている本を開きレイルの個人記録を見ていた。


「体力判定はA魔術理論はS魔術はE住所は・・・農業都市ココノスの東、両親はすでに死亡。資格などは特になし。特技も特になし。趣味もなし・・・」

ミリヤはレイルの個人情報に違和感を持った。


「たしかに魔術理論はできてるけど・・・魔術がE?あんなに使えてるのに?それに、農業都市ココノスの東って・・・ホトギ家の領地でしょ。認められた人しか住めない所なのに・・・・それに、資格を持ってないって、この学園では1個や2個は持ってるはずよ・・・・」


レイルに対する疑問を口にすることで自分の考えを確認しているミリヤ。精神を集中し疑問の解答を組み立てている最中ミリヤは突然、声をかけられた。


「何してるの?ミリヤちゃん」

「か、会長!?何でここに?い、今は授業中ですよ!」

「何言ってるの?今は昼休みよ?」

「えっ?あ、本当だ。・・・時間見てませんでした」

「なんか珍しいわね。ミリヤちゃんがここに来ることなんてあんまりないのに。」

「すこし調べ事がしたくて」


ミリヤは突然の会長の登場に動揺したがなんとか動揺を押し殺す。


「調べごと?その本だね。見せて」


コナミが本に興味を持ちミリヤから鮮やかにそれを奪う。

ミリヤの緊張は急激に高まった。


「か、会長!返してください!」

「え~と・・・ミリヤちゃん、レイル君に興味があるのかな?本当に珍しいね。ミリヤちゃんが男の子に興味持つなんて。でも、勝手に個人情報なんか見ちゃいけませんよ」

「勝手に閲覧したのは謝ります。でも、私はレイル君のことにはあまり興味はありません」

「興味ないの?てっきり、好きなのかなって思ったのになんか残念」

「好きということはありません。私にはすでにいますから」

「そうだったね。ミリヤちゃんはレンティア一筋だもんね。ん?てことはレイル君調べてたのはレイル君がレンティアの関係者なの?」

「多分そうだと思います。寮の部屋の中にレンティアの紋章がありました」

「紋章?・・・その時のことと前後のこと詳しく聞かせて」


コナミの顔が急に真剣なものとなったことにミリヤはさらに緊張しつつも話し始めた。

ミリヤはレイルが雷術のリスクである筋肉痛で歩けなくなってしまったこと。そのまま寮に運んできたこと。その寮の中で紋章を見たこと。その紋章についてレイルに聞いたらレイルの表情がひどく悲しそうになったことをコナミに大雑把に話した。


「紋章の事を聞いたときレイル君が悲しそうだった?」

「はい。質問したら友達のだって言ってましたけど」

「友達・・・。うん、ありがとうねミリヤちゃん」

「いえ。お礼には及びませんよ。こんな話に興味を持っていただけるなんて私は驚いていますよ。それじゃ、私は研究所に戻ります」

「あの氷魔術解析できそう?」

「なんともいえません。魔術の波長にプロテクトがかかっていて・・・」

「そうなの・・・まあ、がんばってね」

「はい」


小走りで生徒会室から出て行くミリヤ。コナミは1人残された生徒会室でさっきの話について考えていた。


「レイル君の持っている見たことない麒麟機巧。レベルの高い魔術理論。それにあの氷術・・・レンティアのEスペックよね・・・てことはレンティアの関係者?それとも・・・」


考えていくうちにコナミは1つの仮説を立てる。


「これなら、納得がいくわね。後は裏づけね」


コナミは眩しいくらいの明るい笑顔である計画を考えた。


「ふふふ。覚悟してねレイル君!」


一人残された生徒会室でコナミの策略は始まる。




空に何万もの星が見える。

夜になってから起きたレイルは寮の外に出ていた。


「R・Hシリーズ〈ガンマ〉起動」


鳥の形をした金属の機械が起動する。


「この手紙をシンのところまで運んでくれ・・・ああ、あとこの封筒も」


レイルはコナミから受け取った封筒を〈ガンマ〉に渡す。

〈ガンマ〉は二本の足で器用に手紙と封筒を掴み夜の空を飛んでいった。


「さて、結果が分かるまでまだ12日必要か・・・」


男の情報が分かるまであと12日。

それは、レイルにとって永遠のように思えた。


(確か、ツキは明日から実家に行くんだっけ・・・シン喜ぶだろうな。俺もこの護衛の仕事をぱっぱと終わらせてまた旅に出るか。その前に、今回の件の黒幕は叩くけど・・・)


レイルはそう思いながら空に輝く星から目を逸らした。




星を見つめていたのはレイルだけではなかった。

医務室の病室から空に広がる無限の星を見る女性が一人。


「綺麗ね・・・」

「ツキさんがそんなことを言うとは、そんなに綺麗なのか」


ツキの寝ている医務室のベッドの隣にいるカーテン1枚で隔たれていたゼラードから声をかけられる。


「ええ、ゼラードさん。今日の星はとても綺麗です」


レイルに見せる表情とは違う安心と信頼でできた穏やかの表情と声音でゼラードに返事をした。


「綺麗か。まだ休養中だから見ることができないのが残念だ。しかし、ツキさんもう起きてて大丈夫なのですか?」


「はい。毒は完全に抜けています。後は魔力を回復させるために・・・・・家に帰るだけです」


ツキの声に元気がなくなった。

さっきまでとは違い悲しみの雰囲気が漂う。


「どうしましたツキさん?家に帰るのが嫌なのですか?」


ゼラードはそのことに少し心配し尋ねた。


「いえ、帰るのは嫌ではありません。あのことを思い出すから嫌なんです」

「思い出す?何をですか?」


その質問にツキはしばらく黙ったままになった。

しばらくしてツキはゆっくりと口を開く。


「これを話すのはゼラードさんで2人目です。聞いてください」

「わかりました」


ツキの声から彼女にとって重要なことであるとゼラールは感じ、真剣になってツキの話を聞いた。


「私は今ホトギ家の次期当主候補としてこの学園に来ています。それは知っていますか?」

「それは知っている」


ゼラードはツキが次期当主になることを知っていた。しかし、学園の生徒でその事を汁知る者は数少ない。


「そうですか。では、話を続けます。本来なら男がホトギ家の当主になるはずでした。しかし、今代は男が生まれなかった」

「はい」

「だから、私が3年前に次期当主になることが決定しました。でもこれは表向きの話です」

「どういうことですか?表向きの話だって?」


ゼラードはツキの言ったことの理解ができなかった。そんなゼラードを置いていき話は進む。


「はい。本当はホトギ家には男の次期当主がいたんです」

「何ですって?そんな話は聞いたことがありませんよ?」


ゼラードにとっては寝耳に水だった。

ゼラードの認識ではホトギ家は男が生まれなかったからツキを次期当主にしたのだと思い込んでいた。


「当たり前です。本来ならホトギ家の人ではないのですから」

「ホトギ家の者ではない?どこかの養子ですか?」


困惑の表情を浮かべながら布1枚で隔たれた向こうの住人に質問するゼラード。向こうからは少し迷ったよう口調で返事が来た。


「養子・・・そうですね養子です。私が6歳の頃に家に来ました。12歳になって時期当主の話が出てくるほどに剣術と格闘センスに恵まれていました。学問にも秀でていましたし、教えたことはすぐに吸収して応用していました」


ツキはレンが魔力を持たなかったことを知らない。

レンが魔術を使わなかったのはまだ習う時ではなかったのだと思っていた。


「それは、完璧ですね。養子を次期当主にしたくなる気持ちが分かります。しかし、その人はどこで引き取られたのですか?孤児院ですか?」


この世界で養子を次期当主にすることは珍しいことでない。

力あるものに家を継いでもらい家の名を後世まで残せるのなら養子でも何でも当主にする。もちろん、そのために学問も学ばせた。

ゼラードはその男の話に興味を持った。

養子から次期当主に成り上がるには相当の才能がなくてはならないからである。ゼラードはその男のことを知りたくなり男の出生を聞いた。

孤児院と思いこんでいたゼラードだが、この後のツキの話でますますその男に興味を引かれていく。


「いいえ。彼は私たちが〈白園〉と呼ぶ白い花が一面に咲く花の中で血だらけで倒れていました。私は父とともにその子を治療して何とかその少年は一命を取りとめました」

「血だらけで倒れていた?何からか逃げてきたのですか?」

「多分それはありません。私もそれを疑問に思い言葉が話せるようになってから同じ質問をしましたが彼は違うと言っていました」

「言葉が話せないほどの怪我をしていたのですか?」

「怪我のことに関しては私には教えてくれませんでした。あと、言葉がしゃべれないほどというのには語弊があります。言葉は初めから喋れませんでした。いえ、喋れていましたがこの国ではない国の言葉でした」

「この国ではない言葉?異国の人だったんですか」

「分かりません。彼は自分の過去を話しませんでした。父には話したようですがわつぃには極力その話を避けているようでした」


ゼラードとツキはいくつか問答を繰り返しながら話を進めた。

ツキとの問答を繰り返す中でゼラードはその男はなぜ次期当主でないのかを聞いた。その質問にツキは低い声で返答した。


「彼は死にました。父から聞いた話では戦死だそうです。私が天道学院に入ってから軍に所属して戦場に行って死んでしまったそうです。私のもとに返ってきたのは彼の髪の毛だけでした」

「・・・そうですか」


ゼラードは男が軍に所属したのは養子である息子に戦場を体験させてから次期当主にしようとしたのだろうと考えた。

九頭竜の上位4家に認めさせるために戦場へいかせ、経験を積ませると同時に次期党首の風格を戦場で培う。戦いに触れて九頭竜の中を生き残るための精神力をつけようとしたのだろうと。

そして、そう考えたゼラールはツキのその男の名を聞いた。


「レン・・・レン=ホトギです」


抑揚のない声でツキがポツリと言う。


「ツキさんはそのレンさんが好きだったのですか?」

「好き・・・そうですね。今思えば好きでしたね。だから、最初は父の言葉は信じられませんでした。あのレンが軍に所属していたなんて信じませんでしたし、まして死んだなんて・・・でも現実なんですよね。今では泣くことはありませんが、父に対する怒りはまだ残っています。何故レンを戦場へ行かせたのかって。だから、家に帰るたびに父に対する怒りからレンを思い出してしまうんです」


ゼラードはこの話を聞きツキに対しての評価を変えていた。

以前は完璧な人なのかと思っていた。しかし、この話を聞きツキも普通と変わらない女性なのだと思った。

同時にまだツキはレンにいまだ恋していると悟る。

ゼラードはレンという男に嫉妬すら感じていた。

この後ゼラードとレンの話は昔話でいろいろ語り合った。


お互いにいつも見せない違った一面を見れて信頼が深まっていたようにゼラードは感じた。


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