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始原世界の中で  作者: 神原 拓
第1章 世界の始まり
13/30

レンティアを追う者

レイルとリステリアは研究棟に到着した。

外側の壁が白く光り、少し眩しく感じたレイルだが清潔感漂う圧倒的に巨大な建物を前に開発者としての気持ちが少し揺れていた。


「ここが研究棟よ。私は2階の魔術行使実験場の入室許可を貰ってるからそこへ行くわ」

「分かった」


レイルとリステリアは研究棟2階の実験場に入る。実験室に足を踏み入れたときレイルは目の前に広がる白と銀が織り成す世界に目奪われた。


「真っ白だな」


ただの一言の感想を漏らしたレイルだがその言葉の中には感嘆、驚愕、唖然など様々な感情が込められていた。


「すごいわよね。ここは、いつもこんな感じなの。部屋の中が全部真っ白だから感覚もおかしくなっちゃうわ。窓もないし入り口はここだけよ」

「へぇ~・・・で、あそこにいる人は誰?」


レイルは実験場の中に白衣を着た人物がいることに気づいた。いそいそと忙しそうに機材を運んだり、研究に没頭している様子であった。


「あの人は昨日からここに篭っているミリヤさん。2年の魔術理論上位者よ。なんだか、昨日からずいぶん気分がよさそうに研究しているのよ」


レイルは白衣の服のミリアに見覚えを感じミリヤの作業工程をを見た。ミリヤは氷のよな物を置きそれに魔力を干渉させていた。


(昨日駆け付けていた教職員の中に確かいたな・・・それに、あの右手に持ってる氷は昨日俺が氷漬けにした時のやつだろ・・・調べてるのか?あの方法じゃ、多分個人までは特定できないだろ。まあ、ばれそうもなさそうだし別に気にしなくても良いか。でも一応リステリアに聞いとくか)


「なあリステリア、あの人何してるんだ?」

「たぶん、レンティアの関係者と思われる人物のの氷魔術について調べていると思うわ。あの人レンティアのこと尊敬してるからね。少しでも知りたいんでしょ」

「・・・尊敬ね。お前まさかレンティアは俺だって言ってないよな?」

「あんまり親しくないから言ってないわ。それに、他人にレンティアの事は言わないわよ。それじゃリンクスとの約束破ることになるし」

「そっか」

「話してても何も進まないわ。早速魔術理論のチェックにはいりましょ」

「そうだな。でもリステリア、どんな魔術なんだ?」

「え~と、簡単に言っちゃえば自由に空を飛べる魔術」

「・・・本気?」


空を飛ぶ術は魔術があるこの世界でもまだ開発されていない。理由の一つには空を飛ぶ際の魔術行使に魔力の量が足りないということが挙げられる。魔術は完成しているがそれは大量の魔力があって初めて魔術行使が可能になる。


「本気よ。理論上では可能のはずなの」

「俺は計測とかしていればいいのか?」

「ええ、お願い」

「わかったよ」


レイルとリステリアは機材搬入などの準備をし、計測器具や記録媒介などを揃えた。


「リステリア、こっちは準備できたぞ」

「こっちも大丈夫。はじめるわ」

「わかった」


リステリアが詠唱を開始する。少し長めの複雑な詠唱にレイルは興味をそそられた。


「さて、成功するのかな。空を飛ぶ魔術が成功してない理由の中に空を飛ぶことの維持の困難さもあるんだよな・・・おっ!浮いた」


見るとリステリアの体は浮いていた。

地面から少しずつだが上に上昇している。レイルの目はそのまま計測器へと移った。集中力を上げ、万が一への心構えを持ちながらレイルは計測器からリステリアの方へ向く。


「さてさて、それじゃ飛んだとはいえないぞ。ここからか」


リステリアは広い実験場の天井付近まで体を浮かせている。

そこは、落ちたらただで済む高さではない。

リステリアは意識を集中させ魔力の流れを意識する。

すると、浮いていただけの状態に変化が起きた。

リステリアの体は人間が歩くくらいの速度でゆっくりと研究室の中を壁に沿うように跳び始めた。


「お!ゆっくりだけど、これは確かに飛んでいるな!維持もできている。これなら・・・」

「きゃっ!」


レイルが言葉を言い終える前にリステリアが小さく悲鳴をあげた。

見ると安定そうに飛んでいたリステリアが落下している。


「魔力が尽きたか!?いや、あれは魔術維持に失敗したな!」


リステリアを助けようと動くレイル。しかし、今のレイルには魔術を使うための(パンドラ)を持っていなかった。

あるのは自信の護身用の〈末〉のみ。


「くそっ!」


落下中のリステリアは何とか魔術を再行使しようとするが、落下している浮遊感がリステリアへ違和感を与え集中力を削ぎ落とす。

落下スピードは自然の法則に従い徐々に速度が増していく。

その落下するリステリアを見ながら、レイルは助けるために一つの賭けに出た。


「ナノマシンでやるか」


これはレイルのみが使える裏技。

レイルの前世界では軍事用に開発されたナノマシンを体に注入することで高い身体能力を得ていた。

その副産物で、レイルは電気を体外に出せるようになっている。

いつもは、この電流を使い〈末〉や〈フゾク〉またはR・Hシリーズをつかっていたが、今回は雷術〈勢〉を真似て、自分自身のナノマシンの電気を使い自分自身の体へ高速の電気信号を送り足の筋肉を最大限駆使した。

レイルは落下するリステリアに対し跳躍、本来では跳べないような距離をナノマシンの身体能力強化と雷術〈勢〉の電気信号伝達高速化で可能にした。レイルはリステリアを空中で抱きとめ地上へ着地する事に成功する。


「ふぅ~・・・何とかなったな・・・」


レイルはいままで、体内のナノマシンが流す電流をレイルは自分の意思で操ることをしてこなかったが失敗覚悟で雷術を行使した。冷や汗が止まらなかった。リステリアが無事でいたことに喜びを感じるとともに自分の新たな可能性に胸躍らせていた。


「いや、新発見!俺は〈パンドラ〉なしでも雷術使えたのか」

「何言ってるのよレンティア!早く降ろして!」


リステリアを見ると顔を赤らめていた。レイルにお姫様抱っこされている状況がリステリアにとってはこの上なく恥ずかしいものであった。レイルはリステリアの要求に素直に従いリステリアをおろす。


「・・・ありがとう」


顔を赤らめたまま下を向いて礼を言うリステリア。しかし、礼を言われた本人はリステリアを降ろすと震える足を無理やり立たせながらリステリアに言った。


「大丈夫だったか?怪我はないよな?よし、なら良かった・・・リステリア俺をあの計測台のところへ連れて行ってくれ・・・脚が動かない」

「はっ?なんでよ?さっき、あんな大ジャンプしてたじゃない。大丈夫でしょ?」


リステリアは心底疑問そうな顔でレイルを見る。


「いや・・・雷術もどきで脚力上げたんだけどなんか、脚の限界越えたみたいで」

「雷術で自分の体の限界以上の力出したの?馬鹿!下手したら足の筋肉ズタズタよ!たしかに雷術は体の限界以上の力出してくれるけど、そのリスクも高いのよ!わかってるの!?」

「わ、わかってるって・・・」


レイルはリステリアの説教を聞きながら深く反省する。


(ナノマシンで操った電気量が多すぎた!今度からはもうちょっと電気すくなくしたほうがいいな。雷術のリスクの筋肉痛はやっぱりきついな)


レイルはそんなことを思っていると、ふと足の力が抜けその場に座り込んでしまった。


「ほぇ?」


情けない声とともにレイルは自分におきた異常が理解できない。

足を見てみるとブルブル小刻みに震えていた。


「もう、足の限界が来たのね。ほらレイル立てる?」

「あ、ああ」


リステリアの手を借りながら何とか立つレイル。しかし、歩こうとするとバランスを崩しまた倒れる。何回か倒れたり歩いたりを繰り返し椅子にどうにか座る。


「やば・・・これは本当にまずいな。慣れないことしなきゃよかった」

「どうするのよ・・・まだ飛行魔術の落下の原因も調べなきゃいけないのに」

「原因なら詠唱の詩を見れば分かるだろ」

「そんなことできるのはあなただけよ。でも、今回はやらないで。これは私が完成させたいから」

「分かった。じゃあ、さっきの記録はとってあるからお前に渡せばいいんだな」

「そうね。でも、あなたどうするの?歩けないと、学校にも寮にも帰れないわよ」

「そうだな・・・リステリアなんか魔術で運んでくれないか?」

「運ぶなら風術だけど・・・レイルだと重すぎね。他にもあるけど私その魔術系統使えないし・・・私だとレイルは運べないわね」

「俺は這いつくばって寮までいくのか。なんか惨め」

「それはかわいそうね。じゃあ、あそこにいるミリヤさんに頼みましょうか?」

「忘れてた。ミリヤさんがいたじゃないか!そうだそうしよう!」


リステリアはすこし離れた距離にいるミリヤにわけを話し運んでもらうのを手伝ってもらうことにした。ミリヤに原因を話し協力してもらったレイルは2人の助けにより何とか寮へ帰還した。


「ありがとうございます。ミリヤさん。あなたがいなかったら俺いまごろ泥だらけで、惨めな思いをしてました」

「いえ、こんなのお安い御用よ。それより寮でいいの?まだ、授業あるでしょ?」

「こんな、激痛だらけの足で授業受けるほどの根性はありませんよ」


レイルはそういいながら、ドアを開け寮へ入ろうとするが足がもつれて転倒しそうになる。


「中まで運びましょうか?」


レイルのそんな姿を見ていられずミリヤは提案した。

レイルはその提案に小声でおねがいしますと返事をして、部屋の中まで運んでもらった。

ミリヤはレイルの部屋に入ると、そこにあったものに目を奪われる。


「あ、あれは・・・」


ミリヤの視線はレイルの寮の部屋の机の上にある紋章に向けられていた。


(あ、あれは!レンティア=ハザードの紋章!)


麒麟機巧4家はそれぞれ独自の紋章を持っていた。

どの紋章も幾何学的な模様で、家の誇りを体現しており、その紋章を持つ家は麒麟機巧の庇護の下にある。商業技術都市マサドラでは、この4家に属しているものが多数で4家はマサドラ内で自分たちの派閥を広げようとその技術を研磨していた。彼らは自分たちの技術が1番だと考え、協力して何かを作ることを良しとしなかった。しかし、4年前に現れた1人の旅人がいた。

彼は、魔術烙印という画期的なシステムをもって不可能といわれた4家の合作などを作り上げて見せた。その男はレンティアと名乗り、多くの設計図を持ち込んだ。そのどの設計図も麒麟機巧1家だけでは製作不可能なもので、彼らは協力を余儀なくさせられた。

その男は魔術烙印の技術やその設計図、そして複合魔術論理をEスペックと呼びその秘伝を麒麟機構に話すことなく消えた。

麒麟機巧はEスペックのすべてが記された本を貰っていたが、そこには読解不能な未知の文字が書かれていた。

今現在ではその本はレンティアの魔導書と呼ばれマサドラにその本の解析するための研究施設まである。レンティアはその魔術・機巧技術においての発展に多大な貢献をしたことで麒麟機巧の紋章を貰っていた。


(ここに、この紋章があるって事は、この人はレンティア=ハザードの関係者!?)


ミリヤは心の中で歓喜していた。

レンティアを尊敬しているミリヤはレンティアを知る人物または繋がっている人物を追っていた。なぜなら、レンティアとは素性不明の男だからだ。分かっていることは名前しかない。極力人目を避け、麒麟機巧の家の主にしかその顔を見せたことがないレンティア。その麒麟機巧の主もレンティアのことについては何もしゃべらない。

謎に包まれたその男に魅了され追っている者も少なくない。

ミリヤはその中の1人だった。

ミリヤは歓喜に震えている自身の心を戒め、冷静を取り繕いその紋章のことをレイルに尋ねる。

レイルはその質問に対しただ短く「友のものだ・・・」といった。

そのことを答えるレイルの表情はとてもつらそうにミリアは見えた。

足の痛みを耐えていた時の顔と違い、顔に悲しみが映る。

ミリヤはレイルのその雰囲気にそれ以上の質問が出来なかった。

ミリヤは、すこしレイルの様子を見て程なく部屋から出て行く。


その心のうちにレイルという言葉を刻みつけて。


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