舞踏会の出来事 前編
レイルは教室にいた。
頭の中ではツキの悲愴な表情が浮かんでいる。
すこし、罪悪感に襲われていると教室のドアが開いた。
「おう、レイル!こんなとこで何してんだ?」
「馬鹿が来た・・・」
「馬鹿とは何だ!それが友に対して言う言葉か!」
「俺たち友達だったんだ・・・」
ガイアの登場に遠い目をして外の景色を見るレイル。
「おまえ!なんてひどい奴なんだ!くぅ、泣けてきた」
「用がないなら帰れよ」
「用事はある!お前どうやって学年1位を泣かせたんだ?あの冷酷な女がなくなんてはじめてみたぜ。それにお前と学年1位が話しているとこを見たって奴もいる。だから、聞きに来たんだ!」
ガイアの言葉を後半無視しレイルは考える。
「泣いてた?・・・そうか、あいつまだ・・・」
「なんだ?やはりお前が泣かせたのか。なら、気をつけろよ」
「気をつける?何にだ?」
「知らんのか?学年1位には隠れファンなどがかなりいるぞ。そいつらにツキが泣いたと知られてみろ・・・お前に明日は来ない」
「何だそりゃ?なんでツキにファンなんか?」
「あの容姿にあの家柄さらには魔術の天才だ。憧れない奴のほうがいないだろ。しかも、学年1位はファンからツキ様と呼ばれているそうだ」
「ツキ様・・・ああ、あの子そうだったのか」
頭の中にはリリアの姿が浮かび上がった。
「ツキ・・・意外とすごいんだな」
「ああ、そうだな。それよりお前は着替えたりしないのか?舞踏会はそろそろだろう?」
「そういうお前こそ制服のままじゃないか」
「俺はこの後着替えるんだ」
「そうか・・・なあ、舞踏会って制服じゃダメかな?」
「わからんが正装はすべきじゃないか?」
「やっぱり?」
肩を落として困った顔でガイアの顔を見る。
「なんだ?お前もしかして服ないのか?」
「服なんてこの制服ぐらいしかないよ(仕事用の服ならあるけど)」
「そうか・・・だがしかし、すまんな。俺も服はそんなに持っているわけではない。貸すことはできんぞ。それより、レイルお前は大変だな・・・」
「なんでだ?」
「舞踏会は高等部1年から3年までが参加する。その中では部の熾烈な勧誘合戦が繰り広げられる。特に力のある奴はな」
「それなら大丈夫だ。俺は弱い!」
胸を張り自信満々の様子で答える。が、それを見ているガイアの表情はおもしろいものが見れるぞといったような笑い顔が張り付いていた。
「会長相手に5分以上戦ってるんだ。そんなのが通じると思うなよ」
「・・・そうなの?」
「そうだ」
「どうしよ・・・」
ガイアの言葉にレイルの自信は吹っ飛んだ。そんなレイルにガイアは冷たく突き放す言葉を放つ。
「知らんな。それじゃ俺は着替えていくからな。存分に悩め。ふはははは」
笑い声とともにガイアは教室を出た。途端に教室は静寂に包まれる。
「・・・仕事用の服着てくか・・・」
レイルは寮に戻り、いつもツキを護衛する際の服装に着替えた。
「〈クサビ〉起動」
クサビを起動させるレイル。しかし、〈クサビ〉はステルスにならず舞踏会の服装に変わる。
「まあ、こんな感じでいいか。後は触られなきゃ騙せるだろう。いや~応用が利くな〈クサビ〉は」
レイルはその服装のまま舞踏会へ向かった。
舞踏会が開かれるのは校舎の裏にある広い建物。
本来は室内実験棟だったが、現在では室内の魔術実験は危険と判断され使われていない。毎年、舞踏会などに使われる程度である。
「始まってたか」
「おう!レイル遅かったな!結局、正装はあったのか」
「ああ、なんとかな。それよりガイア・・・なんで隣にリリアちゃんがいるんだ?」
ガイアの隣にはリリアがいた。レイルがガイアから話しかけられる前、ガイアはリリアと親しそうに話していたように見えた。
「え!・・・あ~いやこれはだね・・・」
「まあいい。今は舞踏会なんだからな。相手くらい見つけなきゃいけないもんな」
「そういうことだ!ああ!そうなんだ!」
「・・・まあ、そういうことにしておこう。じゃあな」
ガイアに背を向けその場を立ち去ろうとする。ガイアはその様子を見て慌てて声をかけた。
「おい?どこ行くんだ?」
「いや・・・なんか、落ち着いた雰囲気の場所に居たいんだよ」
レイルはこう言うものの、半分は建前で本当は舞踏会中での勧誘に巻き込まれたくない気持ちがあった。
「それなら、2階でおくつろぎになればよろしいのでは?レイル君」
そんなレイルにガイアの隣にいたリリアが笑顔で言う。レイルははじめてみた表情だと内心驚きつつその場所のことについて聞いた。
「2階?そこなら落ち着けるのか?」
「はい。ゆっくりしたい人などはそこにいます。あと、すこし休憩したい人も」
「そうか。ありがとな、リリアちゃん。じゃあ行くか」
レイルはリリアに薦められた2階に行こうとする途中、さまざまな勧誘を受けた。
当たり障りのない返事で何とか切り抜けるレイル。あと少しで階段というところで男に声をかけられた。
「おい、レイル=スコール」
「はい?」
レイルはこの男に見覚えがあった。
(たしか・・・生徒会の人でツキが笑顔で話してた相手だったけか・・・)
「コナミがお前を呼んでいる。俺と一緒に来い」
「すいません。今はすこし落ち着きたいんで後にしてください」
「そのために2階へ行こうとしているのか。それなら心配ない。コナミもこちらにむかっているからな」
「なんで、会長が?あの人は落ち着きたいって感じはなかったけどな・・・」
「コナミにだっていろいろとあるんだ」
レイルは疑問に思う。
(会長はいろんな産業、または軍事関係の方から引っ張りだこ。この舞踏会にだって新入生との親睦をはかるとか言って何人か軍事関係の奴らがめぼしい奴らをスカウトしている・・・なら会長はそんなスカウトマンたちにとってはのどから手が出るほど欲しいはずだ。まあ、一人になりたいとか落ち着きたいなんて気持ちは理解できるが、それでも会長は肩書き上そいつらの相手をしなきゃいけないはず・・・そういや、俺はスカウトは受けてないな。まあ実技落ちこぼれだ仕方ないか・・・)
などなどと思いながらレイルは会長の用事について尋ねた。
「会長の話って何ですか?」
「ようやくその気になったか。しかし、残念ながら詳しいことは聞いていない」
「なんですかそれ・・・まあ、2階で待ってればいいんですよね」
「そうだ」
「ところで、あなたのお名前は?」
気になっていたことを男に聞く。
「これは失礼したな。私はミリティウス=ゼラード。生徒会書記だ」
礼儀正しく振る舞い、気品を漂わせるゼラード。そんな男にレイルは少し感心しながら名前を言った。
「1年7組のレイル=スコールです。まあ、そんなに会うことはないでしょうから覚えなくて結構ですよ。用件は終わりですか?」
「ああそうだ。では、私も仕事が終わったんだ。これで、失礼させていただこう」
「わかりました」
ゼラードと分かれてレイルは2階でただただ思った。
(会長の話・・・なんかいいことなさそう)
そんな不安が心に残りながら、レイルは渋い顔で会長の参上を待つ。