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夜桜  作者: kazuha
5/12

第5“減るもの”

 この光景を窓の外から明日香が覗いていた。不思議そうに。

「どうした?」

 ガザガザする声で明日香に聞く。

「おにいちゃんだれ?」

 桃の体がビクッと動いた。そんなことは気にしないで、

「忘れたのか? 亀山だよ」

 すると明日香は亀山と何回も呟いた。

「いっしょにあそぼ」

「いいよ、」

「ダメよ!」

 桃が怒鳴る。オレもおろか明日香まで驚いた。桃はすぐにオレの背中から離れ、窓から外に出た。

「明日香ちゃん。これからゴハンの時間よ。おなか空いたでしょ?」

「おなかすいた。もどる」

 オレがキョトンとしていると、明日香は明るい声で窓から消えた。

 溜め息をついて部屋に戻ってくる桃。

「喋るなっつったでしょ」

「いいだろ別に。減るもんじゃねぇし」

「減るのよ。明日香ちゃんは」

 驚愕しないでいられるか。

「どういう意味だよ」

 桃は口を開けたが、すぐに閉じて、目をつむり、また見開くと、

「守秘義務があるから言えないわ。とにかく、明日香ちゃんに関わらないで」

 舌打ちを打つ。桃も舌打ちを打ち返す。

「悪いけどそう言うことなの。化粧直してくるわ。アンタのせいで顔グジャグジャよ」

「いつもだろ」

「うるさいわね! すぐに戻ってくるから大人しくしてなさいよ」

 オレは適当に返事をし、足早に部屋から出ていく桃を見送った。

 話すと減るもの。時間か? 空気か? オレには想像がつかない。考えても良知が明かない。聞き出すしかないのだが、守秘義務、大きな壁だ。いつものオレだったら、ムリだから諦めるんだろうな。諦めよう。それが一番だ。

 なんだかんだ考えていたら、化粧を直した桃が戻ってきた。今時の女は化粧をしないと生きられないのか。男のオレにはわからないことだ。

「なぁ、守秘義務ってなんだよ」

 オレは自分でも思わないことを聞いた。諦めたはずなのに。

「アンタバカ? 守秘義務って言葉知ってる? しゅ、ひ、ぎ、む」

 オレは溜め息をつき、ベットに寝そべった。

「知ってるよ。別に聞きたいわけでもないからいいよ」

 眠ろうとした。昔、レギュラーに入れなかった時のように。

 あの時は確か三日くらい部屋に籠ってたっけか。さすがにお腹が空いて、ダイニングに恐る恐る行くと、母さんが笑顔で、座ってとか言ってたっけか。その後出てきたポトフ、美味しかったな。

「ポトフ食いてぇ」

 ポロッと口から溢れた。ほとんど息だったが。

「作ってあげようか?」

 その言葉で一気に目が覚めた。勢いよく起き上がり、

「いらねぇよ、別に! オマエのなんて!」

 桃が起き上がってきたオレに驚いたようで、目をまんまるく開いていた。その表情もすぐに変わり、にやけやがる。

「へぇ、そぅ。じゃぁ、今晩の食事にでも、」

「いらねぇって!」

 声をあらげるオレを見て、腹抱えて笑いやがる。頭に血が上って熱い。

「さ、そうなれば作ってこよう」

 そう言ってそそくさと逃げていきやがった。オレは溜め息をついた。看護師長に胃腸薬でも頼まないと。

 ガダ。窓から音が鳴り、条件反射のようにそちらを向く。ただの風だ。なに窓の外、気にしてんだろ。スリッパを足で探し当て、立ち上がり、点滴の台を引きずって窓辺に立つ。

 あの桜の木の蕾が開き始めていた。はぁ、もう一年になるな。自殺して、病院に閉じ込められて、今か。なんか、変な気分だ。オレは何歳だ? あれ? 思い出せない。どうでもいいか。どうせ、どうせ。オレは本当に死にたいのか?

 わからない。死にたい。でも、今が楽しい。楽しいのに死にたいのか?

 楽しい訳がない。そうだ。そうだ。そうだ。死にたいんだ。

 死にたいのに、なんで泣いてんだろう。あぁ、泣きたくなんかねぇのに。チクショウ。

 オレはまっ平らなベットに顔を埋めた。

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