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夜桜  作者: kazuha
4/12

第4“見えたもの”

 光が眩しかった。無数の暖かな光の珠がゆっくりと空に向かって上がっていく。

 その光をこの桜の木が出しているような気がした。頭の葉っぱがついた枝を、悲しそうに風でなびかせていた。

 葉っぱしかついていない木を、なんで桜の木と思ったのか。オレはよっぽど桜の木が嫌いなようだ。

 なんか情けなくなって笑う。

 なんで、桜の木を、嫌いに、なったん、だっけ。いきる、意味を、失ったのは、いつ、だっけ。オレは、いつ、自分が、嫌いに、なったん、だっけ。

「なぁ、桜。お前知ってるか?」

 木は沈黙を保ったまま、寂しそうになびいてるだけだった。

 喋らないなんて知ってる。なにも答えてくれないのも知ってる。

 オレは、なにかが欲しかった。

「桃井さん。あなたが一番わかっているでしょう」

 体が気だるい。夢だったのか? まだ目の前は真っ暗だから寝てるのか? むしろ体が動かない。金縛り! この声は幽霊! オレは死んだのか!?

「すみません」

 桃の声。あいつも死んだのか? は! いい気味だ。

「彼は一時的な記憶障害で、何時、真実を思い出すかわからないの。厳重な見張りと介護をしなさいといったはずよ」

「はい」

 よく聞けば看護師長。また桃が叱られてんのか。

「またなにかあることがないように、お願いよ」

「はい」

 ガラガラ、とイスが動く音がして、カツカツと歩く音がして、ガチャと扉が開く音がして、ガタンと扉が閉まる音がした。

 そして桃の溜め息。

「ダメだな、私」

「そうだな、ダメだな」

 看護師長の呪いが解け、体の自由が聞くようになったオレは、ちゃかしをいれた。目を開けると、目の前には点滴の袋があり、チューブをたどると、体に刺さってた。

 ついでに桃の顔を見ると、蒼白でバカみたいに口を開けてオレを凝視していた。

「どうした? バカ。オレがカッコいいって、今さら気がついたのか?」

「どこから聞いてたの?」

 焦る桃。ただならぬ気配を感じた。

「最後ら辺だよ」

「いいからどこまでよ!?」

 今にも襲いかかってきそうな勢いで怒鳴ってきた。オレは舌打ちを打つ。

「あんたがわかってるとか、記憶障害だとか、クビされるとか、裸になるなとか、」

 桃は頭を抱えた。ジョークで言ったヤツは実はホントだったのか?

「なにか思い出した?」

「いや」

 なんなんだこいつ。昨日の対応といい、今日もおかしいでやがる。

「昨日、なにがあったか言って貰える?」

 昨日? なんの事だ?

「覚えてないならいいんだ」

「ちょっと待てよ。なんの話だよ?」

「いいの。わからないならわからないで」

 オレは起き上がる。

「よくねぇよ。昨日、オレがなにかしたのか?」

 桃はうつむく。

「点滴痛むから大人しくしてて」

 桃の胸ぐらをつかむ。

「いいから教えろよ」

「やめ、て、い、いたい」

 我に帰る。苦しそうにオレの腕を掴んで引きはなそうと頑張ってる。

 手を離した。

「すまん」

 地面に倒れ込んで咳き込んでいる。

「すまん」

 最悪感がオレを桃のいる反対サイドに向かせた。そこには単四電池が一つだけ転がっていた。

 頭のなかにあれがよみがえった。

 苦しい。怖い。嫌だ。

「大丈夫?」

 桃に背中をさすられてオレは落ち着いた。

「思い出した」

 桃の手が止まった。

「天井に赤い影が広がった。なんかわかんないけど怖くなってベットから離れて、はぁ、はぁ」

 話していけばいくほど苦しくなっていく。

「無理しないで」

 オレは深く息を吸う。

「そしたら、ベットに中年の男が包丁かなんかわかんないけど、それっぽいのもって近付いてきたからドアから逃げようとしたら、閉まってて、はぁ、そいつに、肩さわられて、はぁ、」

「もう、いいわ。ごめんね」

 オレの腕に水が滴った。点滴って、目から出るのかな。始めてだからわかんないけど。

「ごめんね」

 桃の体が背中にあたり、意外に細い腕が脇の下を通り胸の前で交差していた。

 スゴく温かい。なんだろう。懐かしい感じがする。

 この光景を窓の外から明日香が覗いているのを見つけた。

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